6話
「......いや、正直、覚えているよ。能力が使えるようになってから雪音がいじめられ始めたんだ。だから、雪音より僕の方が強い能力があるって。でもそれを使っちゃうと、みんなやっつけちゃうから、使わないだけ。だから雪音をいじめたら僕がその能力でいじめた奴をやっつけるって」
「ほう、いい話じゃないか」
「まあね。それで、いじめがなくなったころに本当は能力がないってことを打ち明けようと思っていたんだけど、その前に雪音が学校からいなくなっちゃったんだ」
「なるほどな。まあ、こればっかりは誰も悪くない、と俺は思うけどな」
正の簡素な部屋で僕は雪音との関係を打ち明ける。あーあ、こんなことになっちゃうなんて。
「ところで、どうする? 清木教授は雪音をこの学校にとどまらせたいようだが......」
「うーん、どうなんだろ。まずは雪音がこの学校にいることが雪音にとって良いことなのかが分からないから。多分、最強の能力者を抱えている学校は一目置かれるだろうから」
「そうだな。この学校にとっては利益しかないだろうが、本人にとっていいことかどうか判断できないと、何とも言えないな」
「そうそう。雪音を保護するのなんかどこの学校でもいえるからね。もっとこの学校にしかできないことがいいよね」
「たしかにな。ま、それを見つけるのは俺たちの役目じゃない」
「違いないね。どう? 僕の部屋でゲームでも」
「いいぞ。もう明日から授業だ、今日くらい遊んでも罰は当たらんだろ」
「立花学長」
「? 雪音。どうしたの?」
「あの、その、わたし、とんでもないことをしてしまったような気がするの」
「......どう、紅茶でも。ゆっくり話そう?」
「......頂く」
「それで、どうしたの?」
「じつはーーー」
「---なるほど」
「私の、信じていた人が、裏切ったの」
「私はそうは思わないけど。上木、だったっけ? いい人だと思う」
「どうして?」
「だって、嘘を吐いてまで雪音をいじめから守ってくれたんでしょ?」
「それは、そうだけど」
「少し臆病になりすぎなのかも。ゆっくり休める場所が早く見つかるといいね」
「私も早く見つけたいけど」
「......少し、上木と話してくる」
「え」
「なに?」
「......いや、なんでも、ない」
「それじゃあ、行ってくる」
「うおおおおお!」
「待て、蔵介!」
「待たないね!」
僕と正は今画面に向かってコントローラーを振っていた。2分割された画面にはそれぞれ一人称視点でグローブと相手キャラ、リングにゲーム上の観客が映っていた。
「くそ、気絶状態だ! レフェリー、早く相手を止めろ!」
「馬鹿め、レフェリーは既に賄賂で買収している!」
「クソ、助っ人キャラのジョンでお前の右ストレートを受け止める!」
「無駄さ! 喰らえ、ボブの右ストレ「二人とも、何しているの?」
「「へ?」」
僕と正が声に振り開けると、黒髪の女性が立っていた。
「どちらさまですか?」
僕が恐る恐る尋ねると、女性が返事をする。
「私は立花穂乃果。この学校の学長」
「「学長!?」」
僕と正の声が重なる。だが、その反応は想定済み......というか慣れているようだ。
「あなたちも清木を学長と思っていたでしょう? あれは私の秘書」
「秘書? 立場が逆じゃないですか?」
「全く同じ意見だ」
「私も秘書の方がいいし、彼が学長の方がいいと思うけど、色々あるの。ところで、あなた達の叫び声が扉の前までうっすらと聞こえていた。ゲームをするのは構わないけど、もう少し静かに」
「はあ」
「すんません」
僕と正はコントローラーから手を放し、ゲームの電源を切る。
「ところで、僕に何か用事ですか?」
僕の部屋の前までやって来たということは僕に何か用事があるのだろう。
学長じゃなさそうって結構失礼。