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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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84話

 私たちは出生は違うけれど出身は一緒。とある孤児院で育てられていた。

 その孤児院では、小学生未満でかつ、既に能力が発現している子供たちのみ受け入れていた。言ってしまえば商品を集めている場所。最終的に子供たちは、最低限の教養を身に着けてから色々な組織に買い取られていくのだ。

 ただ、腐っても子供たちは商品。無意味に痛めつけられるなどということは滅多になく、いい意味でも悪い意味でもほったらかされて過ごしてきた。

 そこで一番仲が良かったのは、私と幸助だ。いつだって私たちは一緒にいた。朝起きてから、ご飯を食べて、勉強をして、遊んで、眠るまでの間。ずうっとだ。

「栞奈! みてみてこの本!」

「なにこれ?」

 ある日の昼下がり。絵本を読んでいた私のところへ幸助が持ってきた一冊の本は、子供向けの簡単な時代劇の本だった。殿様がいて、それに仕えている忍者がいて。そして悪さをしている人がいる。

「ここみてよ! 忍者ってかっこいいなあ!」

 そこでは、殿様を守りながら悪者の相手をしている黒装束の男が描かれていた。物語も佳境。切った張ったの大立ち回りとはこのことだとでも言わんばかりの場面に、私も夢中になっていた。

「本当にかっこいいね」

「そうだな! ......いや、そうでござるね!」

「あはは! かっこいいかっこいい!」

 二人で同じ本を眺めて、二人で笑いあう。そんな幸せな思い出が、ふと脳によぎった。


 

 

「着いたぞ、降りろ」

「いやいやいや! 絶対今答え変えたでしょ!」

「いいや、最初からビックバーガーが答えだった」

「おかしいよ! それ僕の『朝ご飯に食べますか?』っていう質問の答えと違うもん!」

「俺はビックバーガーを朝から食べる」

「こういうのは一般的な話でしょ!」

「早く降りろ!」

 車内で正と言い合いをしていると、痺れを切らした様子の始さんが車の後部座席のドアを勢いよく開ける。ちなみに、今やっていたのは相手の考えを当てるゲーム。適当なお題(今回なら食べ物)を相手に考えてもらい、そのお題をあてるというもの。当てる側は数回の質問が許されるので、それで相手のお題を推理するのだ。なにも道具が必要ないので、暇な時間が出来たら是非。

 さて、着いた場所は......えっと、超巨大なステージとでも言えばいいんだろうか。よくミュージシャンが利用している大型公共ホール。その外で栞奈御庭番と、ある人が僕たちを待っていた。

「やあ、上木君。今回も頑張ってもらってごめんね」

「出来れば巻き込まないでほしいですけどね。それで、僕を呼んだ理由を聞いてもいいですか?」

 ニコニコと微笑みながら僕を迎え入れる清木教授。この人と話していたら時間がかかってしょうがない。さっさと本題を切り出そう。

「俺も随分信頼がなくなったもんだなあ」

「心を読まないでください。それで?」

「今から、殺し屋との決着をつける」

 そこまで微笑んでいた清木教授の表情が一気に引き締まる。それに合わせて僕や正、そしてすでに清木教授と合流していた栞奈御庭番の雰囲気が変わる。そうか、ついにか。それにしてもなんていうか......。

「清木教授は雰囲気作りが上手ですね。僕も関係ないのに思わず身構えちゃいましたよ」

 一気に心臓が引き締まるようなこの感覚が苦手で、茶化すようにそんなことを口に出す。すると、清木教授と栞奈御庭番の面々がきょとんとする。

「関係ない? いやいやまさか。これからの作戦は君も関わるんだよ」

「へ?」

 なんで僕? その説明を始めるのは清木教授ではなく栞奈さんだ。

「こほん。えっとね。実は幸助は囮としてこのホールの中にすでに潜んでいるんだ」

 幸助、って言うと朝倉君のことか。もう囮として潜んでいるって、

「それ、結構急いだほうがいいんじゃないですか!?」

「うん。だから私たちで本命の襲撃をかけるの」

 本命の襲撃。その言葉でまた一つつながった。栞奈さんがわざと捕まって、それをただでさえ少ない栞奈御庭番で奪還しに行く作戦。しかも、相手の本当の狙いは朝倉君だと分かっているのに。

 もちろん清木教授たちが守ってくれているという信頼があったといえばそこまでだけれど、実際は違ったと。わざと朝倉君を一人にして、相手を釣ったわけだ。これで今度こそ敵はこの建物のどこかに潜んでいるので、確実に決着をつけられる。

「で、なんで僕が必要なんですか?」

 この襲撃について聞くことはもうない。あとは僕の必要性だ。これを聞いておきたい、のだが。

「? だって、さっきの襲撃で相手が対策を練ってきたのは、上木君に対してだけだよね? それだけ相手にとって嫌なカードなんだよ、君は」

「......はい、そうですね」

 それしか言えない。まあそれはそうだよね。杏とかに対しては何も対策してこなかった。これはあのビルで足止めする必要がなかった。それだけだ。

 ......あれ、そう考えると、敵は朝倉君を囮に誘き出されているということを知っているのか。それでいて僕以外の対策をしなかったということは、僕以外の面子はなんとかできると考えているということだろう。逆に言えば僕の対策は難しい、と。ふむふむ。

「過大評価な気もするけどなあ」

 率直な感想を呟いた僕を無視して、僕の手を取って歩き出す栞奈さん。あれ?

「えっと、他の人はいいんですか?」

「うん。相手の組織のメンバーは分かっているんだけれど、今回襲ってきた人たちはあくまで組織の一部。幸助を狙っている人たちはもっと大勢いるからね。そんな人たちが援軍に来たとき、私たちが挟み込まれないように残ってもらってるんだ」

 そこで少し寒気が奔る。地面の形状を変えられる女性。見えない壁を作り出せる男性。図書館にいた全員を操れるおじいさん。全員と闘ったから分かるけれど、全員強い。あのレベルの人がもっと大勢いて、その組織の狙いが朝倉君一人だなんて。

 朝倉君。君は一体何者なんだ? そんな疑問を抱えた僕を、栞奈さんがステージの中へと引っ張っていく。これは、一筋縄ではいかなさそうだ。




 あれから10年ほど経って。ついに私たちの番だ。能力があることは最初から知られていたし、いつかこの日が来ることも知っていた。

 だから、覚悟はしていたつもりだ。能力者の『悪名』を広げる覚悟も、人を殺す覚悟も。

 我ながら、人一倍その覚悟が強いと思っていた。もちろん少しは疑問に思っていたけれど、結局は生まれ持った『性格』だと勝手に納得していた。

 そして、引き取られる時。孤児院にやって来たスーツ姿の男たちが、孤児院の先生に次々と話しかける。「おすすめの子供は?」「値段は?」そんな黒い思惑を含んだ会話が耳に入ってくる。孤児院の先生が最初におすすめしたのは、私だ。

 早速スーツ姿の男たちが群がってくる。

「君の能力は?」

「『影から影へ、物や人を移動させる』能力です」

 能力を教えることに躊躇はない。これから主人になるであろう人たちに自分を知ってもらうのは当然だから。

 そんな私に、まったく想定していなかった言葉が投げかけられる。

「なんだ。超能力者の成り損ないか」

「......え?」

 頭が真っ白になったというのが一番当てはまる。そんなことを言われるなんて、夢にも思わなかった。

「まあ、成り損ないでも使いようだろうな。当然、超能力者よりも安いんだろう? 買わせてもらおうか」

「物好きもいたものだ。おい、他の子どもを紹介しろ」

 興味を失ったようで、周りの大人は次々といなくなっていく。私を買い取る人も、手続きを進めるために先生の元へと歩いていく。

「............」

「......仕える主人は決まったようでござるな」

 ボーっとしていると、幸助が声を掛けてくる。首だけでそちらに振り向き、力なく頷く。

 今の私がこれからの生活へ絶望していると勘違いしたのか、それ以上声を掛けることもなく幸助は去っていった。

 ......私が、成り損ない? ......ありえない。

「ありえない」

 決して大きな声ではない。むしろ呟いたような小さな声。

 ただ、この言葉は心にしっかりと刻み込まれた。


 歓声ではなく、ざわめきが聞こえてくる。ステージが始まっていないからだろう。

 僕は今コンサート会場と化した公共ホールの中にいる。中と言っても、観客席ではなく、裏通路だ。そこを栞奈さんと二人で黙々と歩いている。

 ただ、雪音と一緒にいる時とは違って、黙っているととても気まずい。なんていうか、居心地が悪い。

「......えっと。ここまで朝倉君のことを考えているなんて、栞奈さんの大切な人なんですね、朝倉君は」

 ちょっと唐突だけれど、そんなことを話す。これで思い出話の一つでも始めてくれれば時間は稼げる。いや、時間を稼ぐっていうのも変だけどね。

「うーん、そうだねえ.......。幸助はーーー」

 困った様子というわけではない。ちょっと考え事をするように、頬に人差し指を当てて考える栞奈さん。

 二人の関係は大事な友達? 思い出を共有している同郷の士とか? あるいは、まさかーーーす、好きな人、とか?

 少しドキドキしながら栞奈さんの答えを待つ。そんな僕に、表情を変えずに答える栞奈さん。

「ーーー大嫌いな男、かな」

「......へ?」

 だ、大嫌い? 思わず耳を疑い、足を止めてしまう。会場のざわめきがどこか遠くの出来事のように耳から消えていく。あ、ありえない。だって、

「だって、僕たちは今から朝倉君を助けに行くんですよ?」

 声が震えているのが分かる。僕たちは朝倉君が襲われているから、助けるためにこうして動いている。

 正直に言おう。僕は結構薄情だ。例えば、知らない人が街中でカバンをひったくられたとしよう。僕は絶対に犯人を追いかけない。無視すると思う。そのまま自分の用事だけを済ませる。それだけ。

 大分前の話になるけれど、雪音がA大学に残るかを決めるためのトーナメントが行われたときのこと。あの時僕は他の能力者から疎まれていた。そして僕も、他の能力者を避けていた。相手が僕のことを嫌っていたら、僕もその相手を嫌いになる。嫌った相手ならなおさら、僕は絶対に人助けなんかしない。

 僕が今朝倉君を助けに行くのは、朝倉君は友達だから。お互いにある程度の信頼関係があるからだ(朝倉君はどう思っているか知らないけれど)。

 そんな僕に対して、栞奈さんは大嫌いな相手を助けに行こうとしている、ってことなのか!? そんなの、そんなの......!

「女神様みたいじゃないですか.......!」

「は、はあ?」

 僕が足を止めてからもずっと表情を変えなかった栞奈さんが、ここに来て困ったように眉を寄せる。でも、僕の言葉通りだと思う。大嫌いな人だろうと分け隔てなく手を差し伸べる姿勢。僕も見習わなくちゃいけないなあ。

感動しながら再び足を動かそうとすると、少しだけ先にいた栞奈さんがこちらを振り返る。

「変なんだね、上木君って」

「む。変なんかじゃな「私、今から幸助を襲うの」

 僕の言葉を遮って栞奈さんが宣言する。

 今度こそ完全に足が止まる僕。理由を聞こうとする前に、栞奈さんが微笑みながら口を開く。

「私が言ったこと、忘れないでね?」

「あ、ちょっと!」

 そして、瞬きの一瞬で栞奈さんが消える。この通路は天井に照明がついているので、足元に影ができる。そこからいなくなったのだろう。

 いや、そんな分かり切った推理はどうでもいい! 今分かっていることを整理しろ......!

 とりあえず、立ち止まっている場合ではないのだ。僕がどこかにいる朝倉君を探すために走り出そうとすると、背後から声がかかる。

「上木って、お前能力者だろ!? なあ、なあ!」

 まためんどくさそうなやつが声を掛けてきた。それどころじゃないのに。

 焦りながら振り向くと、僕に向かって何かが飛んできていた。野球ボールだ。

 突然のこと過ぎて避けられない。そのまま僕にぶつかると思った瞬間、ボールが光った。そして、

 ドオン! と腹に響く音と共に爆発した。

「木っ端みじんになったか!? なったらなったで次は朝倉幸助の番だ! 行くぜ行くぜ!」

「おいおい、ちょっとやんちゃ過ぎないか?」

 俺は衝撃を受け止めながらも襲撃者へと足を動かし、男を一発ぶん殴った。

「ぐえあ!」

 当然、能力を使って拳は硬化させている。男は口から白い歯を飛ばしながら、その場に倒れる。

「こんなもんじゃ終わらないだろ?」

 キイーンと甲高く鳴っていた耳鳴りも収まり、会場からの観客の大歓声が聞こえてくる。さて、裏方は裏方らしく、ひっそりと終わらせようか。


これは、裏方の闘いだ。

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