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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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83話

「とりあえず、こっちに来てくれ!」

 状況を説明しようにも時間がなさすぎる。俺は財布に手を掛けていた正の腕を引っ張って、店の奥へ足を運ぶ。

「あ、おい! まだ会計中でーーー」

 流石に状況が分かっていない正が抗議してくるが、その声はガラスの破砕音でかき消される。

「ここですか? 蔵介さん!」

「よし、一旦奥の部屋に行くぞ!」

 ガシャアアアン! と甲高い音を立てながらバイクごと店内に入ってくる柳。ドッドッドと低いエンジン音を聞きながら適当な個室に飛び込む。

 とりあえず、入った部屋には人がいない。これならとりあえず、他の人を巻き込むことはなさそうだ。

「それで、今回はどんなことに巻き込まれてるんだ?」

 すぐに正が話を切り出す。無駄話をしている時間はない。軽く話を頭の中でまとめてから口を開く。

「正は栞奈御庭番を知っているのか?」

「ああ。知っているぞ。そいつらの目的もな」

「じゃあ話は早いな。栞奈を狙っている組織に襲撃をかけたんだが、敵が俺への対策として用意したやつに今俺が追われているんだ」

「それまた思い切ったことをしたな。で、その結果がこれか」

 若干呆れたようにため息を吐く正。言いたいことは分かるが、出会ってしまったのなら手伝ってもらわないとな。

「それで敵の情報だが、『持っている刃物をなんでも斬れるようにする』という能力だ。持っている刃物はフルーツナイフ位の大きさだったな」

「ふむふむ......。ところで、相手の女は俺のことを知っているのか?」

「いや、知らないと思うが」

 ここでその質問の意図を尋ねている時間はない。率直に知っていることを答える。

 俺が答えると、正が辺りを見回す。? なにか探しているようだが......?

「どうしたんだ、正」

「いや、何か武器になるものはないかと思ってな。棒状のものでできれば長い方がいいんだが」

 棒状のものを探すというのなら、別に話は早い。俺は室内にある机に手をかけて、机の足を折る。もちろん、能力を使ったのだ。

「これでいいか?」

 手に入れたそこそこ長い棒を正に渡すと、正が棒を地面において、それの先端の方を思いきり踏みつけた。

「これでなんとかできるはずだ。あとは、「ここですか!?」

 ドアが勢いよく開いた。当然そこにいるのは柳。一つ一つ個室を回っていたらしい。

「うわあ! なんだお前は!?」

 正がわざとらしく驚いたかと思えば、俺たちから距離を取る。クソ、まだ何も分かっていないぞ。

 ただ、やるしかない。俺は正が踏みつけた机の足を拾い上げて、柳に向かって構える。

「へえ、まだ私と接近戦をするんですね......!」

 スッと構えられるナイフ。軽く振るっただけで俺が硬化させたものをあっさりと切り裂くそれに、少しだけ冷や汗が流れる。

 ただ。俺の持っている椅子の足はフルーツナイフよりも長い。こちらの方がリーチという点では有利なのだ。あとは正を信じて何とかするしかない。

 一瞬の沈黙。柳とにらみ合っているヒリついた空間で先に動いたのは俺だ。

「先手必勝!」

「......甘いです!」

 俺は柳の頭に向かって机の足を振り下ろすと、当然それに合わせて柳が動く。今まで何度も闘ってきた俺には分かる。机の足は間違いなくナイフで斬られる。そしてこれだけの力を掛けた俺は、次の柳のナイフを避けることができない。くそ、万事休すか......!

 ナイフがパイプに触れて、棒を切り裂く瞬間ーーー

「セカンドインパクト」

 そんな声が聞こえてきた。瞬間、グンと棒が加速して、柳の頭にクリーンヒットした。一方で棒が切れなかったナイフは、ちょうど俺の眼の前をヒュンと通り過ぎた。あぶねえ!

「うぐぅ.......」

 ナイフを手放し、頭を押さえながらその場にゆっくりと腰を下ろす柳。病弱そうな見た目も相まってとんでもない罪悪感だ。えっと。

「だ、大丈夫か?」

「......随分、優しいんですね」

 額から血を流しながらこちらを睨んでくる柳。人を気遣ってこんなに睨まれるのは初めてだ。

 ただ、睨まれはしても流石に気遣ってしまう。そんな俺を正が止める。

「おい、蔵介。こいつは拘束しておいた方がいいんじゃないか?」

「......そうですか、あなたは蔵介さんの仲間だったんですね......」

 柳はふらふらと立ち上がって、俺を鬼の形相で睨む。

「もうあの頃の蔵介さんはいないのでしょうか」

「あの頃の」

「蔵介?」

 思わず正と俺で首を傾げる。すると、柳は呆れたようにため息を吐いた。

「もういいです。せっかくあの蔵介さんに会えたと思ったのに」

「なんだ、こいつはお前のファンか? 随分重い愛を持っているようだが」

「ファンというか、なんというか。まあ知り合いだ」

 柳がゆらゆらと個室から出ていく。流石に拘束しないとまずいか。そう考えた俺と正が柳に近づくと、柳はこちらをチラリとも見ずに呟く。

「能力の『気づき』すらも失っているなんて思ってもいませんでしたよ」

「『気づき』?」

 俺が知らない単語だ。チラリと正の方を見ると、正も良く分からないといった表情で首を横に振った。

 そして、改めて視線を柳のいた位置に移すと、柳はそこからいなくなっていた。

「!? 正!」

「いや、俺も見てねえ!」

 見てねえ、とはもちろん柳が消える瞬間を見ていないという意味だ。二人で個室から飛び出して、辺りを見回す。しかし、どこにもいない。

「この能力は......栞奈か?」

 思わず疑う俺。そんな俺の考えを否定するようにポケットの中の携帯電話が震える。同時になる着信音は、『防人』への連絡が来たときに鳴るものだ。

 周囲を警戒しながらも携帯電話を確認すると、清木教授からの連絡だった。そこには、『栞奈と合流した。そちらの状況を伝えてほしい』という旨が書いてあった。

「清木教授からか? なんて書いてあるんだ?」

「栞奈を保護できた、みたいな感じか?」

「はあ?」

 まったく納得がいっていない様子の正が俺からスマートフォンを奪い取って、メールの内容を確認する。そして、思ってもいなかったことを口にする。

「んだよ。朝倉の護衛体制が整ったっていう話じゃねえか」

「......あさ、くら?」

 なんで今その名前が。それを聞く前に俺の携帯電話が着信音を鳴らす。次はメールではなく電話だ。

「もしもし」

 俺は正からスマートフォンを返してもらい電話に応じる。っと、もう元に戻った方がいいのか。

「上木君、そっちは大丈夫?」

「あ、はい。正の助けもあってなんとか」

 電話の相手は清木教授。外にいるのだろうか、若干電話口から風の音が聞こえる。

「えっと、君にも助けに来てほしいからそっちに始を向かわせてるんだ。できれば来てほしいんだけど」

「それはいいですけど。僕の居場所が分かるんですか?」

「それだけ大きな事件を起こしちゃったらね」

 言われて近くの喧騒に意識が行く。ちらりとカラオケ店の入り口を見れば、粉々に破壊された自動ドアと、いまだにエンジン音を吹かしながら待機しているバイク。よく考えれば、というか考えなくてもとんでもないことをしちゃっている。

 ......バイクがある。しかも、栞奈さんも遠くにいる。なら柳はどうやってここから立ち去ったんだ? 

「それじゃあ、もう迎えが来ていると思うから、始に案内してもらってね」

「はあ」

 そんなことを考えている間にも話は進んでいく。清木教授の言葉に適当に相槌を打つと、電話が切れる。

 そして電話が切れたのと同時に、スキンヘッドとスーツ、そして何よりも大きな体格が目立つ男の人が店内に入ってきた。始さんだろう。

 始さんが店員さんに何かを伝えたかと思えば、僕の方へ顔を向ける。

「上木、行くぞ」

 僕の姿を見た始さんが顎で外の車を示す。特に反抗せずに従う僕。

「随分早い到着ですね?」

 この辺りは大学から車で30分程度かかる場所のはずだけれど。正と一緒に、外に停めてある黒いセダンに乗り込みながら尋ねる。

「お前の居場所はGPSで分かっているからな。そしていつも通り連れまわされているから、念のためついてきたんだ」

「え”」

 僕、普段から監視されているの? そんな考えを読み取ったように、ため息を吐きながら始さんが答える。

「言っておくが、普段は監視していないぞ。今日は一区切りをつける日だからな」

 意味深なことを言いながら車を発進させる始さん。そろそろ色々な種明かしをしていってほしい。そう考えた僕は隣にいる正に尋ねる。

「あのさ。さっきから正と話がかみ合わないから色々確認していい?」

「ん? なんだ?」

「うーん、と。正は栞奈御庭番についてどこで知ったの?」

「ほら、ちょっと前にレポート提出に遅れそうだったと気があっただろう?」

「ああ。あの正午に提出の実験レポートのときか」

 そして、僕と栞奈さんが初めて一緒に話した時のことでもあるだろう。

「そうだ。その時に俺と蔵介にメールが来たんだ。栞奈御庭番が蔵介を襲うため、助けられそうなら助けてやれって」

「え? それって、どういうこと?」

「そりゃあ、一応栞奈御庭番がお前を倒せばA大学が保護してくれる。ただ、お前は『二重人格』の能力だろう? それで次から次へと襲ってくる刺客をいなすのは厳しいだろうから、まあ護衛というか助っ人というか、そんな感じだな」

「ふうん。護衛ならちゃんと僕を守ってくれなきゃ」

「お姫様気取りか、お前は」

 冗談を言い合いながらも頭の中で情報を整理する。『栞奈御庭番はA大学に保護してもらうために実力を示す。その示し方が僕を倒すというもの』。ここまでは僕の情報と食い違いはない。

 となると、違ってくるのはここからか。

「それじゃあ、殺し屋について知っていることは?」

「ああ。今は栞奈を狙っているらしいな」

 ここも一緒。ただ、引っかかる言葉がある。

「『今は』ってどういうこと?」

「? だって栞奈が狙われている理由は『人質として』だろ?」

 その一言で、今までのことがじわじわと繋がりはじめる。

 栞奈さんは保護される対象なのに、自分から殺し屋という組織に襲撃を仕掛けた。これは自分が本命じゃないと分かっているからだったのか。

「人質としてっていうことは、正は殺し屋の本当の狙いを知っているの?」

「なんだ、知らなかったのか。殺し屋は朝倉を狙っているんだとよ」

 『そうでござるね、ちょうど半年前位でござろうか。このA大学から連絡が来たんでござるよ』。『『朝倉幸助の命が何者かから狙われているので、保護する』って、書かれた手紙を受け取ったんでござるよ』。そんな朝倉君の言葉がふっと頭に浮かぶ。そうか、殺し屋は初めから朝倉君を狙っていたのか。ただ、予想以上にA大学の保護が強かったから、朝倉君と同じ村の出身の人たちを人質にしようと考えたのだろう。それが、栞奈さんだったというわけだ。

「なるほどね。それで、清木教授は僕を連れてきてどうしてほしいんだろう」

「殺し屋を捕らえるようだ」

 返事をしたのは運転している始さん。険しい表情で話を続ける。

「このまま殺し屋を野放しにしていたらまた朝倉が狙われる。栞奈御庭番も集まり、敵の能力も分かっている今がチャンスだと踏んだんだ」

「僕、いります?」

「本当に念のために連れてこいとのことだ。次はお前を人質にしようと動くかもしれない。今回の事件に関わった奴らは全員油断できない状況というわけだ」

 なるほど、そういう考えなら納得だ。これから僕は適当に清木教授の傍をうろついていればいいんだろう。

 あとはこの事件が解決するのを待つだけか。僕は車の窓から外の景色をぼんやりと見ながら楽観的に考える。これ以上僕の出番はないだろう。


まだ解決したわけじゃないのに、随分楽観的だなあ。

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