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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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82話

「一旦どいてもらおうか」

 為す術がない俺を助けてくれたのは杏だ。刀を持った人形が柳に攻撃を仕掛けている。単調な動きながらも無視は出来ないのだろう、柳の意識が一瞬逸れる。

「もう、蔵介さんとの時間を邪魔しないでください!」

 スパスパと人形を切り裂くが、痛みを訴えず、体の損傷を一切気にしない人形の動きに慣れていないのだろう、どうにも処理に手間取っている。

 一先ず何とかなりそうだ。俺は安堵しながら杏に礼を言う。

「助かったぜ。それで、栞奈は見つかったのか?」

「敬称をつけろ馬鹿者。それが、栞奈様が見つからないのだ」

「へえ。それで、何か俺に案を出せとでも?」

 若干とげのある言い方になってしまうが、杏は特に気にせず話を続ける。

「いいや、案はもう出ている。このビルのブレーカーを落とす」

「なるほどな。それでいきなり俺が不利にならないよう教えに来てくれたわけか」

 なんでビルのブレーカーを落とすだけで栞奈が助かるか。もうここまできたら隠す必要はないだろう。栞奈は『影から影へ移動できる』能力なのだ。

 思い返せばおかしいところはいくつもあった。始めに杏と闘った時は分からなかったが、胡桃と闘った時。胡桃が堂次郎の背中を攻撃すると思っていたら、堂次郎の正面に瞬間移動したというものだ。あの時胡桃本人も『読まれるなんて』と言っていたことから、俺の行動を読んで移動したわけではないことが分かる。

 その後初めて殺し屋の女と出会った時。あの時も女は『どこにいるのかは分かる』などと言っていた。これは影を使って瞬間移動するという能力を知っているからだろう。影がある場所はすべて栞奈がいる場所の候補になっていたのだ。

 そして、今回栞奈が捕まっていて逃げ出せないのは。恐らく影が出来ないように一面明かりが灯っている部屋に監禁されているからだということが予想できる。そこで、ブレーカーを落として部屋を暗くすれば、栞奈は自分の能力で逃げ出すことができると考えたのだろう。

「オーケーだ。それで、伝えたいことはそれだけか?」

 俺が尋ねると、一瞬考え込んでから杏が答える。

「......まあな。それと、俺たちは先にここを出る」

「はあ? 敵は?」

「いなかったのだ。なんとなく検討はついているから安心しろ」

「検討はついてるって、今回は敵に人形を持たせられたわけじゃないんだろ? なんで場所が分かるんだ。それに安心しろって言っても目の前の敵は」

「これで伝えることは伝えた。それではな」

「あ、おい!」

 本当に伝えに来ただけだったようで、杏が再び階段を上ってどこかへと消えていく。クソ、なんなんだよ一体!

 杏がいなくなってすぐに、先ほどまで柳の気を引いていた人形が消えて、柳と一対一の状況が再開する。さあどうやって退けようか。

「......いや、っていうか」

 思わず口から言葉が零れる。そもそも、俺がこれ以上頑張る必要はあるか? 良く分からんことに付き合わされて命の危険に晒されているのは、はっきり言って不愉快だ。現金かもしれないが、特に借りがあるわけでも報酬があるわけでもないからな。

 と、いうわけで。

「あー、柳。俺はもうこれ以上邪魔しない。家に帰るから見逃してくれないか?」

「逃げるんですか?」

 煽るような表情で尋ねてくる柳。が、そんな安い挑発に乗るつもりはない。

「まあそうだな。今の状況じゃ柳には勝てないからな」

「......そう、ですね。今の『上木蔵介』じゃ私には勝てないですよね」

「? なんだ、その遠回しな言い方ーー」

 と、そこで辺りが一気に暗くなる。入ってくるのは透明な自動ドアから入ってくる日光のみ。全く見えないほどではないが、そこそこの暗さになる。

 さあ、改めて脱出するか。俺が柳に背を向けてビルから出ていこうとすると、後ろから柳も付いてくる。な、なんだ?

「少し話したいことがありまして。あ、出来れば蔵介さんはそのままの人格でいてくださいね」

「俺が二重人格って知っているのか?」

「ええ。もう大分有名な話ですよ。上木蔵介が帰って来たって」

「いや、どこかに隠れていたわけでもないんだがな」

 雪音を守っていた過去はあるが、途中から雪音が日本中を飛び回り始めて、遂には追えなくなってしまったのだ。なので普通の生活をしていたわけだが。

「それで、話したいことっていうのは?」

 別にどこかの店に入って話すようなことでもないだろう。あくまで警戒は解かずに柳の話に耳を傾ける。

「私はあくまであなたの時間を稼ぐのが役目ですので。特に殺し屋に所属しているわけでもないですし」

「......。報酬とかはないっていうことか?」

「報酬なら今もらっていますよ。あなたと話しているということです」

 つくづく良く分からない女だ。特に何をしたというわけでもないのだがな。

 そのことを率直に伝えると、柳は首を振って俺の言葉を否定する。

「私の母親は私を産んでからすぐに他界してしまって。そこから父親はギャンブルやらお酒やらにおぼれていました。そして、白川雪音に掛かっている懸賞金に目がくらんで人殺しまでしようとしてました。そんな私の父親を殺して止めてくれたのが、あなたなんですよ」

「いや、いい話風に言っているが、俺はそんな環境は知らなかったぜ? ただの人殺しと変わらないんだが」

「理由なんてどうでもいいんですよ。あなたが私を救ってくれたのは変わりないんですから」

 目を閉じて、大切な思い出だとでも言わんばかりに大切に言葉を紡いでいく。流石にそこまで思われているのなら悪い気はしない。

「それで、実際に会ってみた俺はどうだ?」

 照れてしまった俺は茶化すようにそんなことを聞いてみると、柳はうっとりとした表情で答える。

「素敵です。心臓をホルマリン漬けにして飾っておきたいです」

「いうことが一々物騒だな」

「本気ですよ?」

「......比喩とか、冗談じゃなくてか?」

「はい」

 おっと、流れが変わって来たな。柳が改めてナイフを構えてきた。

「もう逃がさないです。やっと会えたんですから。あなたの目玉を抜き取れば、あなたはずっと私を見ていてくれるでしょうし、手を持って帰ればいつでも恋人繋ぎができますよね?」

「いや、そのー。あのだな」

「問題ありますか? ないですよね?」

 問題しかないと思うが。それを口に出したら殺されそうな勢いだ。こういう時は相手を刺激せず、逃げ出すのが一番だ。

「それじゃ俺は帰るからな。あばよ!」

 一言残して、通って来た道を駆け抜ける。チラリと後ろを振り向くと、

「逃がしません......!」

 なんと、駐車場からエンジン音と共にバイクに乗ってやって来た。うそだろ、免許持ちかよ!

「あなたが死んでいても関係ないんですよ......!」

「さっきまで恩人とか言っていたじゃねえか!」

 文句を言いながらも必死に足を動かす。このままだとすぐに追いつかれてしまう!  なんとか曲がり角を利用して逃げ切らねえと!

 というか、もう四の五の言ってられない! 表通りに出て人目にさらされれば、流石にもう柳もおってこないだろう。

 そう考えて大通りに飛び出る。激しい車通りに、広い歩道ではたくさんの人がいる。よかった、これだけ人がいれば柳も追いかけてはーーー

「逃がさないって言ってるんです!」

「うえぇ!?」

 なんと、膝が付きそうなほどのドリフトで、歩道に突っ込んできた。流石にやりすぎだろ!

 周囲の人の悲鳴が上がるなか、とにかく逃げる俺。だめだ、直線的に走るな。どこかの建物に隠れたりしてやり過ごせ。

 大分切れてきた呼吸を無理やり整えながら、目についた適当な店に飛び込む。ええい、ままよ!

 飛び込んだお店には待合用の椅子が2つと、ミュージックビデオが流れているモニターがある。ここは、カラオケ店か。

 一先ず、適当な個室に飛び込むか。そう考えて受付を通り過ぎようとすると、会計している客に目が付く。

「......んあ? 蔵介か。何してるんだ?」

「た、正!」

 オールバックで目つきが悪い男、正。趣味はカラオケみたいで、色々なカラオケ店を回っているようだ。まさかこんなところで出会うなんて、運がいいのやら悪いのやら......。

救世主登場、なのかな?

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