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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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81話

「蔵介!」

「こっちに来るな!」

 突然敵から攻撃を受けた俺を助けようと駆け寄ってくる桃を片手で制す。俺の存在が敵の組織に対する対策だとしたら、目の前にいる少女こそが組織から俺への対策ということなのだろう。

「いいからお前らは栞奈を助けろ!」

「だが「桃、行きましょう」

 杏が先行して走り出し、それに続いて胡桃と桃が受付の横を通り過ぎていく。それを見て慌てて三人を追いかける受付の男。この場には俺と少女だけが残った。

「ところで、私の名前、知ってます?」

 俺が栞奈を助けにいかせたにも関わらず、そちらに一切興味を示さず、さらには名前の確認などをしてくる。

「いや、正直覚えていない、というか知らないな」

 時間が稼げる分には歓迎だ。俺は警戒を保ったまま話をする。

「やっぱりそうですよね。それじゃあ自己紹介をさせてもらいますね。『木山柳きやまやなぎ』です。ぜひぜひ、柳って呼んでください」

「......お、おう」

 どうにも調子が狂うな。なんというか、今まで味わったことがない感覚だ。

 相手の行動や雰囲気から、なんとなく自分に対してどういう感情を抱いているか。相手が自分に対してそれを隠そうとしていない限り、それは結構分かるものだ。それは俺も例外ではない、どころか今の状態ではそういう感情を機敏に察知できる。

 だからこそ、柳から溢れてくる感情に戸惑う。一つは敵意。俺に武器を構えている様子からも間違いないし、疑っていない。

 そしてもう一つは、俺に対する好意だ。表情が敵意があるものに向けるものではない。常に微笑を湛えて緩んでいる口元と、とろけたように潤んだ瞳。これが演技だとしたらとんでもない女優だ。

「それで、柳。なんでお前は俺たちを狙っているんだ? 金か?」

「お金、ですか。まあいらないと言えば噓になりますけれど、今はお金よりもほしいものがあるんです」

 少しの間顎にひとさし指をあてて考えたと思えば、その指をこちらに向けてくる。

「というわけで、あなたの心臓をくれませんか?」

「......それは可愛い乙女心から出るお茶目な表現、ということでいいか?」

「お茶目かどうかは知りませんけれど。あなたの胸をバラして、そこから心臓を鷲掴みにしたいんです」

 マジかよおい。頭のおかしい奴じゃねえか。これはさっさと拘束しないとな。

「ああ、その敵意を持った目つき......! たまりません!」

 拳を構えて戦闘に集中しようとするが、どうにも気が散る。やりづらいったらありゃしないな。

 そうは言いつつも、時間稼ぎはするつもりだ。辺りを軽く見回して気が付くが、物が少ない。申し訳程度に木製の椅子と机が置いてあるくらい。そうなってくると、物がありそうなのはさっきまで受付の男がいたところか。

 そう考えた俺が足を動かそうとすると、柳が道を阻む。そこから考えうるに、遠くからの攻撃は嫌なのだろう。ということは、拳銃とかは持っていないと考えて良さそうだ。

「なら、申し訳ないが......!」

 俺は先ほど確認した椅子に目標を変えて、椅子を手に取る。スチール製の足が4本と木製の座板に背もたれ。至って一般的な椅子だ。その椅子の足の根元の硬度を変えて、力の限りへし折る。これで簡易的ではあるが、近接武器を手に入れることができた。

「さあ、ちょっと痛くするぜ?」

「それはもう、滅茶苦茶にしてください!」

「既に発言が滅茶苦茶だろ」

 呆れたようにツッコミながらも攻撃は手を抜かない。手に握られている椅子の足の硬度を上げて、軽量ながらも凶悪な武器を完成させる。言ってしまえば、折れないパイプだ。このパイプで狙うのは柳の頭だ。

「喰らえ!」

 力を込めた一振り。それは、柳の手に握られたナイフの一振りでいともたやすく防がれる。なんと、硬度を上げたパイプが、豆腐のようにすっぱりと切れたのだ。

「な!?」

「っふ!」

 そして、軽やかに俺の首を狙ってナイフを振るう柳。間一髪、本当に何とかだが体を反らしてナイフを躱した。

 後ろに移動した重心に逆らわず、よろけながらも後退する俺。そして、姿勢を戻して柳の方に改めて身構えると、柳はすでに攻撃を仕掛けてきていた。

「マジかよおい!」

 俺は反射的にパイプでナイフを防ごうとする......が、それは無駄に終わった。ナイフはあっさりとパイプを切り裂き、そのまま何事もなかったかのように俺へその刃を振り下ろしたのだ。

「ーーー!!」

 反射的に動いた体は、ナイフではなく柳本体に向かって足を突きのばしていた。それが功を奏したようで、柳が後ろによろめく。ようやく何とか体勢を整えることができそうだ。

「! っつ......!」

 一旦落ち着いて危機を脱したことを理解すると、胸が痛みを訴えていることに気が付く。パッと体を見てみると、胸からみぞおちにかけて縦の赤い線が出来ていた。おいおい、体の硬度は上げていたんだが.......。

 お互いが体勢を立て直し、じりじりとにらみ合う展開。この短い時間で、俺は柳の能力を考える。

 まず、硬度を上げたパイプと硬度を上げた俺の体がどちらもあっさり斬られたことから、あのナイフに付加価値を与える能力であると考えられる。そして、その付加価値は言うまでもなく、『なんでも切れる』というものだろう。

 そして警戒するべきは、その切れ味。最初に柳がパイプを切ったとき、俺の手には何の違和感も伝わってこなかった。棒を片手で持って、なんらかの刃物で棒を切ったとき、必ず棒を支えている手に衝撃が来るだろう。それが一切なかったのだ。

 さらに、パイプを切ってから俺の首元を狙って攻撃をするまでの速さ。そこからさらに俺を縦に斬ろうとする攻撃の速さ。これは体重をほとんど乗せていないことが理由として考えられる。普通は殴る時でも棒で叩くときでも、威力を出そうと思ったら体重を乗せて攻撃をするだろう。その分、次に行動するのは体重を乗せていない時と比べて少し遅れるはずだ。そこから考えると、体重を乗せずに攻撃をしている。そして、体重を乗せなくても硬度を上げたパイプや俺の体を斬ることができている。

 まあ長々と語ったが、柳の能力は『刃物になんでも切れる付加価値を付けられる』能力なのだろう。クールタイムももちろんない。唯一デメリットがあるかもしれないと考えられるのは、刃渡りの制限だろうか。柳が持っているナイフはどれだけ長く見積もっても20cmほど。この能力なら、ほとんど触れただけで相手を斬ることができる。ならば刃渡りが長いものを使うのが一番良いだろうに、刃渡りが短いナイフを持っている。もしかしたら扱いやすさなどがあるかもしれないので、デメリットかどうかは判断できないが。

 嫌な汗が思わず額からにじみ出る。俺の攻撃手段は近接が主。そんな俺の対策がぬかりなく取れている柳の能力。言ってしまえば、柳は俺に向かって適当にナイフを振っているだけで勝てるのだ。この状況、どうすれば......?



蔵介がここまでうかつに手を出せない(物理的に)相手も珍しい。


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