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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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80話

 ブロロロロというエンジン音が小さくなったかと思えば、ピタッとエンジン音が止まる。今まで信号待ちと思われる停車はあったものの、エンジン音がなくなったのは初めてだ。

「降りるぞ」

 杏がすくっと立ち上がって、壁に手を掛ける。ガチャガチャと何やら作業をしたかと思えば、キイーと甲高い金属音を立てて扉が開く。おお、本当にトラックの荷台にいたんだなあ。

「よっと」

 へんに感動している気持ちをさっと切り替えて、トラックの荷台から降りる。ずっと薄暗いところにいたから、外との光の差で目がちかちかする......かと思いきや、別にそんなことはなかった。なぜなら、到着した場所も薄暗かったから。

「全員いるみたいだな」

 そう言って運転席から降りてきたのは肩甲骨程度まで届く桃色の髪の毛が特徴的な女性、桃だ。

「え、運転してたのって桃だったの?」

「そうだ。惚れ直したか?」

「いや、惚れてなかったから惚れ直せないよ」

「じゃあ惚れたか?」

「正直惚れたね」

「ふふん」

 なんだこの会話。栞奈さんを誘拐した組織と闘う前にする会話じゃないよね。

 さて、気持ちを切り替えようか。改めて本題を尋ねる。

「それで、栞奈さんはどこに連れていかれたの?」

 言いながら辺りを軽く見回す。路地裏、というほど狭い道ではない。ただ、明らかに人通りが少なく、建物の陰に隠れて薄暗い場所だ。裏道、っていう感じかな? 耳を澄ませば遠くからガヤガヤとした人ごみの音が聞こえてくる。

「この道をしばらく進んだところにある建物だ。そこに通信が待機している」

「通信が待機してる? なにその言い方」

「ああ、語弊があったな。俺の人形だ。栞奈様に目的地に着いたら適当な場所に置いておくように頼んでおいたのだ」

「なるほどね、じゃあ早速行こうよ」

 ここで4人で集まっていたら目立つことこの上ない。さっさと行動した方が吉という話だ。

 他の人たちも当然異論はないらしい。道が分かる杏を先頭にぞろぞろと歩き出す。

「ところでさ。僕が殺し屋の対策っていうのはどういうこと?」

 道中ずっと黙っているのも気まずいし、変な緊張をしてしまう。そういうわけで他愛もない話というわけではないけれど、その場の面子に話を振ってみる。もちろん気になっている話なので正確な情報を教えてほしいところなのだけれど。

「そうですね。敵の組織は「蔵介、敵は栞奈様への忠誠心を利用しているんだ」

 胡桃が説明しようとしたのをずいっと押しのけて説明してくれる桃。......言いたいことは色々あるけれど、一先ず話を聞こう。

「ええと、どういうこと?」

「栞奈様は確実に捕まっている。それも能力を無効かされた状態で。だから、私たちは助けに行く」

「ふむふむ」

 ここまでは聞いた話だ。ただ、『助けに行く』ではなく『組織を潰す』らしいのだけれど、その辺りはどうなのだろうか?

「まあ慌てるな。がっつく男はモテる時とモテない時があるぞ」

「参考にならないトリビアを言わないでよ。それで?」

「敵の考えとしてはだな、「私たち三人、栞奈御庭番は助けに行く。これは相手の組織も分かっていることでしょう。そして私たちの能力は百パーセント敵に知られている」

「ならば罠を張って我々を処理することなど造作もない、というわけだ」

 先ほどの仕返しのつもりだろうか、胡桃と杏が桃の言葉を遮って僕に説明してくれる。この三人は仲がいいのやら悪いのやら。

 そして、さらにその言葉の続きは聞かなくても分かる。僕は別に栞奈さんに対して忠誠心があるわけではない。というかそもそも友達であるかどうかすらも怪しいのだ。そんな僕がわざわざ栞奈さんを助けに行くのは本来おかしい話だ。

 なのだけれど、

「でもさ。僕って今まで君たちと行動してきたじゃない? 正直僕がいても不思議じゃないよね?」

 僕の質問でやんややんやと言いあっていた三人がこちらを向く。そして、ふっと表情を緩める。

「貴様の能力はすでに把握している。忍者を舐めるなよ」

「え。僕が『二重人格』なんてことは相手も知っているよね?」

「......ふむ。どう思います、桃」

「私に聞くな。ただ蔵介は本来の能力で自分にすら本当の能力を隠しているようだな」

「??」

 本当の能力? それを考えると......ちょっと頭が痛くなる。物理的に。あんまり考えない方がいいのだろう。

「ただ、蔵介の本来の能力は相手の組織は知らない。お前の二重人格が大分気を付けて行動していたからな。恐らく相手の組織も気が付いていないだろう」

「ふうん。まあそれで何とかなるなら何とかしてもらおっか。でも痛いのは嫌だよ?」

「それは貴様次第だ。あともう一つ、お前が奴らの対策になる理由だが「静かにしろ、杏。もう目の前だ」

 え、気になる情報があったんだけど。......ま、まあ。僕がいるだけで『対策』は機能しているみたいだし、深く考えなくていいか。

 それより。目的の建物にたどり着いたようだ。駅が近いのもあってか周りはビルやマンションなどの高い建物がそびえ立っている。その影がこの裏路地なわけだけれど、目の前にある建物も他と変わらず高い建物だ。黒を基調とした建物で、出入り口の横に書いてある案内によれば七階まであるようだ。ただ、階層ごとの説明を見てみると、買い物をするような場所はどこにもない。代わりに○○社という感じで色々な会社の名前が書いてある。言ってしまえば、会社がこのビルの階を借りて仕事をしているのだろう。

「ここ、ただのオフィスビルじゃないの?」

 僕が杏に尋ねると、杏は懐からスマホを取り出してGPSを確認する。

「いいや、間違いなく栞奈様はここに捕らえられている」

「GPSって今も位置を教えてくれてるの?」

「いや、今は機能していない。恐らく電波が届かない場所に捕らえられているのだろう。通信が途切れたのがこの建物ということだ」

「そっか。なら間違いないね」

 それじゃあ目的の建物も見つかったことだし、早く栞奈さんを助けよう。他の三人もその思いは強いようで、我先にと建物へと入っていく。

 僕も遅れないようにと三人の歩幅に合わせて建物の中に入る。

 自動ドアを潜り抜けて、スーツ姿の男性が待っている受付の場所までいくーーーのだけれど。僕は誰かに腕を掴まれる。

「?」

 振り返ると、小柄な女の子が立っていた。髪の毛の色は青でショートカット。表情は微笑んでいて、頬の赤さが目立つほど肌白い。

 こんな可愛い子が僕になんの用事だろうか? その疑問を口にするよりも早く、頭に痛みが奔る。

「うあっ......!」

 思わずうめいてしまうほどの痛み。僕を掴んでいる腕を振りほどいて、両手で頭を抱えてその場にうずくまる。ぼ、僕はーーーいや、俺はこの子を知っている。なんとなくだが、覚えている。

「その様子だと、私のこと覚えているんですね」

 クスリ、と笑い声が聞こえてきたと思ったら、何かが俺に向かって振り下ろされる。

「ーーー!」

 そう、覚えている! この子は、雪音を狙っていた奴らの中にいた一人の男。そいつの娘だ。

 そしてこの子の父親は、俺が殺した。それを思い出した。

 彼女に敵意がある。そう思い出した瞬間、体の硬度を上げてその場から大きく飛び退く。その俺の胸の部分を彼女が持っていたナイフが通り過ぎる。体の硬度を上げているので、そのナイフは何の意味もないーーーはずだった。

「っぐあ!」

 鋭い痛み。そこまで深くはないが、俺の体が斬られた証である血が胸元から溢れ、服を汚す。

「ふふふ。さあ、蔵介さん。やりあいましょうよ」

「......言われなくても」

 俺は拳を構えた。

過去の恨みを晴らしに来たか?

※新年二回目の投稿からいきなりこんなに遅れて申し訳ございません。今は調子がもどりましたが、忙しいのには変わりありません。

 なので、次の投稿は恐らくですが二週間後になってしまうと思います。もし執筆する時間がとれそうなら来週投稿します。その辺りはまた来週の土曜日(1月29日)におしらせから報告させていただきます。

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