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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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78話

「へ? のうりょく?」

 ここに来てまさかの能力というワード。司書さんはどちらも無能力者だと思っていたけれど、能力者だったのか?

 率直に尋ねると、堂次郎は首を振って否定する。

「違う。こいつらは無能力者だろう」

「じゃあ能力って」

「ああ。そこにいるじいさんの能力が関係しているんだ」

 おじいさんの能力。それはいまこうして図書館を占領できるほど大規模に人を操ることができるという能力だと思っていたのだけれど。堂次郎のか考えでは違うようだ。

「っていうことは、この人の能力は人を操るものじゃないのか。それとも、二人目の能力者の存在?」

「いいや、こいつらをこんな風にしたのも、さっきのダウトで相手が意思疎通できたのもそこの爺さんの仕業さ」

 能力者に備わる能力は一つ。これは絶対のルール。それを知らない堂次郎ではないだろう。

「もったいぶらないでよ。この人の能力は何?」

「俺の仮説だが、『催眠』関係の能力だ」

 仮説と言いながらもこれが正解だろうという表情で答える堂次郎。一方で僕はそれを聞いてもあんまり納得できていない。『催眠』について詳しく知らないからなのかもしれないけれど、もう少し詳しい説明を求めるーーーが、そんなおしゃべりの時間は許してくれないようだ。

「あー、君たち。最後のゲームに行きたいんだがね」

「......」

 堂次郎が怪訝な面持ちを見せる。なにか思うところがあるのだろうか? それを尋ねる前におじいさんが説明を進める。

「最後のゲームは単純な『ババ抜き』だ。今回指定する君たちの対戦相手はーーー」

「っと、ババ抜きは駄目だ。別のゲームにしろ」

 いきなりそんなことを言う堂次郎。ひょっとして、

「ババ抜きのルールを知らないの?」

「ぶっ飛ばすぞ」

「冗談だよ」

 軽口を叩いたけれども。ひょっとしなくてもこれは相手の能力によってババ抜きというゲームがかなり有利になってしまうからだろう。堂次郎にはどうにか説明をしてもらいたいのだけれど。

「そうだな、ブラックジャックとかどうだ?」

「......まあ、いいだろう。相手するのがわしでよければな」

 一瞬考えてから応えるおじいさん。要求が通ったことに対して堂次郎は表情を緩めるかと思いきや、

「決まりだな」

 そう言いながら眉間にしわを寄せておじいさんを睨みつける。うーん、考えが読めない。

 完全に蚊帳の外な状態の僕はトランプの山札をシャッフルしながらディーラーのように話を進める。

「それで、親はどっち?」

「わしだ。いいよな?」

「ああ、構わないさ」

 どちらも真剣な表情でお互いをにらみ合っている。なんていうか、ゲームに集中するっていう感じじゃなくて、お互いの考えていることを読みあおうとしているような。

 でも、今の状況だと僕は何も分からない。とりあえず、堂次郎を信じてカードを配ろう。

 ちなみに。ブラックジャックというゲームのルールを説明しよう。初めにお互い二枚のカードを配られる。そのカードの数字を足して21、『ブラックジャック』に近づけていくゲームだ。

 と言っても。二枚のカードでブラックジャックになることはほとんどない。というのは、10以上のカードは12でも13でもすべて等しく10として扱うから。それなら二枚のカードだけでブラックジャックになるのは『ほとんど』ではなく無理なのではないか。そう思うかもしれないけれど、もう一つ特別な扱いをするカードがある。それはAというカード。これは1としても11としても扱えるのだ。まあ来たらラッキーなカードだよねって感じで。

 そしてルール。まずは親と子に分かれる。最初に子からスタート。最初に配られた二枚のカードを見る。そして、まだ21に近づけられると判断したら、カードをさらにもらうことができる。これを限界まで続けるのだ。そして、親もこれを行う。お互いにカードをもらい終わったときに21に近い方が勝ちというわけだ。

 最後に大切なルール。カードをもらった時に、手札のカードが21を超えた場合。これは『バースト』と言って問答無用で負けが確定するのだ。ただカードを受け取るだけでは勝てないというわけだね。

 とまあ改めてルールを説明したのだけれど。僕はある考えがふと浮かんでトランプに細工をする。さてさて、どうなるかな......?

「それじゃあカードを配るね」

 さあ始めよう。まずはおじいさんにカードを二枚配る。出てきたカードはJとQ。これでおじいさんの手札は20だ。

「マジかよ!」

 堂次郎が驚く。僕も当然驚いた......ふりをする。

「おお、いきなり良いカードを配ってくれるね」

 心底嬉しそうな表情を見せるおじいさん。一方で堂次郎は汗を流しながら僕を睨む。

「おいおい蔵介、何やってんだよ」

「しょうがないでしょ、このゲームは運がすべてなんだから」

 そう。ブラックジャックは欲しいカードが来るかどうかの運が主体のゲーム。もちろん引き際を見極めるのも大切だけどね。

 ただ。今回のゲームは運も何もない。堂次郎と言いあいながら堂次郎にもカードを渡す。

 堂次郎に渡されたカードは、AとJ。数字にすれば21、つまりブラックジャックだ。

「な、なんだと!?」

「さて、堂次郎?」

「ああ。俺はストップだ」

 当然、堂次郎はそのまま勝負に出る。おじいさんは脂汗を流しながら僕にカードを要求する。配られたカードはAじゃなきゃ負けが確定なのだけれど、配られたカードは7。バーストだ。

 結果は堂次郎の勝ち。おじいさんは悔しそうな表情を見せながらも負けを認めた。

「それじゃあ、堂次郎の勝ちなので図書館の人を解放してください」

「......ああ、約束だからな」

 おじいさんがスーツのジャケットに手を入れて何かを探しながら応える。まさか、人を操っていたのは何かの装置だったとか? それの電源を切ろうとしているとか。

 そんな僕の考えが違っていたことがあっけなく証明される。一瞬、キン、という何か金属を弾いたような音がした後に、

「それじゃあ、ごきげんよう」

「「!!!」」

 目の前に小さな黒い金属の筒が放り投げられる。これもしかして、爆だーーー

 ズドン!! と耳をつんざくような大きな音と共に閃光が場を支配して目を眩ませる。僕と堂次郎は相手が逃げ出すのを警戒していたので余計にしっかり閃光を視界に入れてしまう。

 しばらくの間、キーーンという高い音が耳と脳を支配する。その後で徐々に体の感覚が戻ってくる。ふらつく頭を押さえながら目を開けると、視界が相変わらず真っ白だ。それになんだか煙たい。そんな感想を抱いた瞬間図書館内にジリリリリ! とベルの音が鳴り響く。もしかして、爆発の衝撃で本に火がついて火災報知器が鳴っているとか? 

「おいおい、なんだこれ!」

「どうなってんだ!?」

「み、皆さん、一旦落ち着いてください!」

 辺りからは慌てふためいた人たちの戸惑う声。この様子だとみんな意識が戻ったようだ。......っていうか、僕の体、どこも痛くないぞ?

 もう訳が分からない。唯一この状況を共にした堂次郎と話を共有しよう。そう考えて堂次郎に声を掛けようと堂次郎のいた方へ振り向く。

「これ、なにがーーーー堂次郎!?」

 煙たい視界の中でもほとんど隣にいた堂次郎は見える。その堂次郎が、倒れていた。

「ちょっと、どうしたのさ! 堂次郎、堂次郎ってば!」

 すぐに堂次郎の肩を揺さぶって意識を戻そうとする。ただ、一切返事をしない。

 相変わらずなり続けるベルの音。晴れない視界。慌てふためく周りの人の不安の声。こんな環境でも冷静になれ......! そ、そうだ! 心臓! そう考えて胸に耳を当てると、ドクンドクンと心臓が鼓動している音が聞こえてくる。それで一安心。

「皆さん落ち着いてください! ゆっくりと案内に従って出口へ向かってください!」

 ここで誰かが慌ただしくやってくる。よかった、これで事態は収拾がつきそうだ。ただ、一刻も早く堂次郎を医務室へ運びたい。そう考えて、堂次郎を何とか引きずり煙の中から抜け出す。そこでタイミングよく救助に来てくれた人と鉢合わせる。

「お前は、上木と高見か」

「あ、えっと......学さん?」

 いつも清木教授と一緒にいるスキンヘッドの屈強な男性。確か学さんと始さんの二人だったはず。そう考えて出入り口をちらりと見るともうひとりのスキンヘッドの男性が見える。あちらが始さんだろう。

 って、そんなことは今はどうでもいいんだ! とにかく学さんにざっと事情を話す。

「えっと、能力者と闘っていたら敵がグレネード? を投げてきて、それで堂次郎が意識を失くしちゃって、それで」

「落ち着け上木。一先ず、俺が高見を医務室へ運ぶ。お前も後遺症があるかもしれないからついてくるんだ。その道中でゆっくり話せ」

 学さんの冷静な対応が心を落ち着かせてくれる。なんていうか、不安や恐怖が一気になくなっていく感じだ。僕の頭もつられて冷静になる。

「そうですね。まずはーーー」

 学さんの一歩後ろを歩きながら図書館を出て、経緯を話すために口を開く。すると、僕の口と目が同時に自由を失う。な、なになになに!?

「むぐ!」

 反射的に声を出したのとほぼ同時に体を浮遊感が襲う。そしてどこかへと運ばれる感覚。こんな感覚、最近あったような......。

 しばらくジタバタしながらもされるがまま運ばれていく。そしてどこかでいきなり解放される。

「っぷはああ! はあ、はあ」

 そんなに長い時間ではないけれど、鼻で呼吸ができるとはいえ口を押えられて息がしづらい状態だった。

 息を荒げて呼吸をしながら状況を確認すると、薄暗い部屋だ。そこには僕を運んだと思われる胡桃と、もう一人見知らぬ男がいた。

「く、胡桃。これはいったいどういう「上木さん。緊急事態です」

 僕の言葉を遮って、胡桃が話す。

「栞奈さまが、誘拐されました」


トランプで遊んでいたら一体なにが。

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