76話
「それでは。初めに君たちにしてもらうゲームは、ポーカーだ」
カードを配りながらおじいさんが説明をする。
「カードを変えてもよい回数は一回。まあ運がほとんどのゲームだ、気軽にやってくれよ。三本勝負で、先に二回勝った方が勝ちだ」
胡桃とか図書館にいた人たちの安否がかかっているんだ、気軽にできるもんか。
心の中で文句を言いながら配られた五枚のカードを確認する。ふむふむ。出来上がっているのはワンペア、か。
正直言って、一回の交換でファイブカードを出したりするのはほぼ出来ない。僕がやるべきなのは確実に作れる手を作っていくこと。とりあえず、ツーペアかスリーカードが出来ればいいけれど。
祈りながらいらない三枚のカードを山札の横において、代わりに山札から三枚トランプを引く。......お、スリーカードだ。悪くない手だぞ。
一方同じようにカードを入れ替えている堂次郎の様子を見ると、......うーん、どうにも考えていることが読めない。見た感じ堂次郎も操られている様子だけれど、さっきの袖を引く動作。ここから推察すると、堂次郎は操られていないという結論にいたる。至るのだけれど、それにしても意識がないように見えるというか。
まあ考えていてもどうしようもない。やるべきことをやって終わらせる。それだけだ。
「それでは、二人ともカードをオープンだ」
おじいさんに促されるまま、堂次郎と僕がカードをオープンする。僕は先ほども言った通りスリーカード。堂次郎はというと、ツーペアだ。う、意外と強い手。
「うわ、惜しいねえ。よかったね、君。まずは一勝だ」
「さっさと次に行こうよ」
特に勝利を喜ぶこともなく淡々と次の試合を進めていくふりをする僕。ただ、実際の心中は穏やかではない。
というのも、堂次郎が先ほど変えたカードの枚数は一枚。もし元々ツーペアが出来上がっている手札だったとしたら、さらにフルハウスを目指したということになる。そうなると、堂次郎は操られているわけではない......のかな? もしかしたらおじいさんの目をごまかすためにそういう行動をしているのかもしれないけれど。
なんにせよ。結局は運が大切なゲームだ。とにかく確率だけを信じてカードを捨てていかないと。焦りを感じながら山札からカードを五枚引いていく。
今回のゲームでは捨てたカードを山札に戻すことなく、そのまま山札からカードを引いて進められる。要するに、一度出たカードはもう出てこない。段々役を作るのが難しくなるというわけだ。
嫌な手汗を搔きながら引いたカードを見る。どうかいいカードであってくれ!
~~堂次郎サイド~~
あ、あぶねえあぶねえ。あと一歩で勝っちまうところだった。
俺はこのじいさんに操られていない。というのも、このじいさんの人を操る能力の発動にはある条件があって、それに気が付いていたからだ。蔵介も操られていないのは......案外、二重人格なのが関係しているのかもな。
それはさておき。操られていないと言っても解放されるためには操られているふりをする必要がある。理由は簡単で、コイツが蔵介の言っていた『殺し屋』である可能性が高いからだ。もし殺し屋なら蔵介が話していたように拳銃を持っている可能性がある。俺の能力は『五感を鋭敏にする』能力、流石に拳銃には勝てない。
というわけで、何とか蔵介に勝ってもらいたいのだが......ここで『操られているふり』というのが厄介になってくる。
例えば。俺に配られたカードの役が一つもなかったとする。その後にカードを一枚も変えなかったら、俺のことを操れているか怪しむのが自然というものだ。そしてもし操られていないことがバレたら、下手したら拳銃で撃たれる可能性も......想像したくないな。
なので、俺は自然と確率が低くなる戦法を使っている。例えば、先ほど。俺に配られたカードはワンペアが出来ていて、他のカードは特に役に関係なかった。ただ、これを全部変えてしまうと、ワンペアがもう一枚来てしまったり、スリーカードが出来てしまったりする。最悪、フルハウスが出来てしまうかもしれない。
そこで、一枚だけ変える。こうすることによって、ワンペア以上の役になる確率も薄くなるし、役が来たとしてもスリーカードかツーペアにしかならないのだ。さらに言えば、変える一枚も考えている。蔵介が先に捨てたカード。これを手札に残すようにして、違う一枚を捨てる。こうすることによって、俺が一枚持っているのと捨てた一枚がすでに明らかになっているので、山札には二枚しか同じカードがない。他のカードよりも同じ数字が来る確率が低いというわけだ。
まあごちゃごちゃ言ったが。要するに、先ほどはペアができる確率が低くなるようにカードを切ったのに同じカードが来てしまい、予期せぬツーペアになったというわけだ。
まあ勝ってくれたのなら問題はない。蔵介は俺を怪しむような眼で見ているが、どちらにせよ運が重要なゲーム。むしろ俺が操られていると思って頭をフルに回転させて高い確率を狙ってくれた方が助かる。俺はそれをこっそりサポートするだけだ。
考えている間に蔵介が山札からカードを引き終わる。それに続いて俺もカードを引く。......げ、またワンペア出来てやがる。参ったな......。
俺が何を捨てようか悩んでいると、蔵介がじいさんに向かって尋ねる。
「あのさ。これ、もしお互いに役がなかったらどうなるの?」
「そうだねえ......一番弱い数字を持っている方が勝ちにしようか。あ、もちろんワンペア同士で戦うときは数字が大きい方が勝ちだよ。ちなみに、一が一番強いとかはないからね。一が一番弱くて、十三(K)が一番強いから」
......なんだ、蔵介、お前のその質問。それを一回目で言わなかったってことは......
「それにしてもこのタイミングでそんな質問をするなんて、役がないって言っているみたいだよ」
俺の考えていることをじいさんが代弁してくれる。う、嘘だよな、蔵介?
「どうだろうね。たまたま今思っただけだけど」
肩をすくめて表情を崩さない蔵介。ただ、能力を使った俺は蔵介の額に浮かび上がった冷や汗を見逃さない。マジかよ!
お、落ち着け。やはりここでワンペアを崩すことは出来ない。やっぱり俺ができることはカードを一枚変えるというもの。これしか出来ない。
次に先に捨てるのは俺だ。焦りで震えそうになる手を無理やり抑えて静かにカードを置く。それから山札に手をのせて、カードを一枚引く。......うげぇ! スリーカードになっちまった!
おち、おちおちおち落ち着けって。焦るな。流石に蔵介もワンペアぐらいは出来ているはず。
焦りからか震える体で蔵介の捨てるカードを見守る。蔵介が捨てたカードの枚数は......五枚。やっぱり役がなかったんじゃねえか! あ、というかまだ一回も出てきていない数字のカードを捨てるな! ペアになる確率が高い奴だろうが!
「それでは、二回戦だな。カードを開いてくれ」
お互いにカードを見せ合う。俺はスリーカード。一方蔵介は、役なし。
「おお、今回は君の勝ちだよ。ただ、運が強い人が勝つゲームだ、最後まで油断するなよ」
「「......」」
というか、やっぱりさっき捨てたカードが手札に来てるじゃねえか。何やってんだ、らしくねえ。
若干の非難を込めて蔵介を見ると、どうにも落ち着かない様子だ。誰かに気づかれないように視線を揺らしたり、瞬きを増やしたり、体を忙しなく動かしている。能力を使っている俺にははっきりとその様子が分かる。......そうか。そりゃあ焦るよな。
実際、俺はこうして高い役を出してしまっている。これでは操られているのは確実だと思ってしまうだろう。そして、このゲームで負けてしまったら俺は操られたままなんだ。
ったく、照れるぜ。そこまで蔵介に大切に思われていたなんてな。まあ俺はイケメンだし、しょうがねえか......。
~~蔵介サイド~~
しゅ、集中できない......! なんで胡桃がここにいるんだ1
本棚の陰に隠れて僕たちを遠目から観察している胡桃。いいからどっか行ってよ! その思いを込めてアイコンタクトを飛ばしたり、おじいさんに見えないようにジェスチャーを出す。けれど、胡桃は何のことか分かっていないようで、その場で固まったままだ。いや、君が狙われているんだよ?
......あ、もしかして、胡桃は不意打ちでおじいさんを倒そうとしているのか? 確かに、能力者は意識がなくなると『糸』を失くす。理屈としては正しいかもしれない。
ただ、この場にいるのは僕と堂次郎とおじいさんだけではない。操られている司書さんがいるのだ。恐らく、この人はおじいさんが襲われたときに身代わりになるように操られている可能性がある。そうなると、胡桃が一瞬でおじいさんを倒すというのは能力を使ったとしても難しいだろう。そして、胡桃に気が付いたおじいさんは操っている人たちを人ぢ地にして胡桃を連れ去る......まさにバッドエンドだ。
そうならないためにもどこかへ行ってほしいところだけれど......。
~~堂次郎サイド~~
こうなったら、ガチで負けに行くしかないな。俺の本気、見せてやるぜ!
「泣いても笑っても最後だね。さあ、カードを引いてくれ」
蔵介がカードを引いてから、俺も続いてカードを引く。そこに揃っている役は......うおあああ!!? す、ストレートだと!? そんな簡単に揃うものなのか!?
一方の蔵介は相変わらず暗い表情を見せる。クソ、こんなに俺のことを思ってくれているのに俺は何も出来ねえのか!?
いや、よく考えろ。俺にもできることがあるはずだ。蔵介ばっかに負担させられるか!
穴が開くほど自分の手札を見つめる。......あ! こ、これは! 俺の手札は確かにストレートが揃っている。ただそれと同時にフラッシュがあと一枚で揃う!
ただ。ここでストレートという揃っている役を簡単に手放すのも怪しまれるだろう。これよりもいい手にする理由を考えなければ
いけない、のだが。それに関しては簡単だ。蔵介が微笑む。これだけでいいんだ。この状況で笑うということは、相手よりもいい手が揃っている自信があるからという理由になる。
頼む蔵介、笑ってくれ! 笑ってくれええ!
そんな俺の思いが届いたのか、蔵介の表情が変わる。
(良かった、ようやく胡桃がどこかに行った)
蔵介が、表情をふっと緩めたのだ。よ、よく微笑んでくれた! それを待っていたんだ!
それを確認した俺が、山札の横に向かって唯一図柄が揃っていないカードを置こうと手を伸ばす......が、その手を誰かにつかまれる。
「ストレートが揃っているから、捨てない方がいいぞ」
蔵介に聞こえないように囁いてくるじいさん。く、クソ。流石に蔵介が微笑んだという理由だけで揃っている役を変えるのは許されないか!
一方蔵介はカードを変える。あー! ヤバい! カードを変えた時点で俺より低い手であることは確実! そして蔵介は手札を残している。これは訳はあるけれど、出来れば高めにしたいという考えのはず! ということは役が出来ていたとしてもせいぜいスリーカードだ。
蔵介が手札を交換し終わり、いよいよオープンの時間になる。ああ、終わった......。
「それではカードをオープンしたまえ」
二人同時に手札を公開する。俺はもちろんストレート。一方蔵介はというと、
「ほう......フルハウスか」
なんだと!? 思わず出そうになる声を無理やり抑えて蔵介の手札を見る。するとそこには確かにフルハウスが出来ていた。
「よかったあ......さあ、約束通り」
「ああ、この子は解放しよう」
なんだか良く分からんが、蔵介の豪運が勝ったというわけか。よかったよかった。
じいさんが俺の耳元で何かを呟く。......えーっと。俺はもう動いていいのか?
「これで解放されたぞ」
改めて宣言されて体の自由を取り戻す。いやあ、操られたふりも楽じゃねえぜ。
「よくやったな、蔵介!」
「あ、記憶はあるんだ」
「......」
「え?」
あ、そうだ。俺、記憶があっていいのか?
「わしに操られた人間は操られている間の記憶をなくすはず......まさか、君。操られていなかったのか?」
......やっちまったみたいだ。
まあ、そこまでは警戒出来ないよね。
※投稿遅れ申し訳ございません! なんとかウイルスを駆除しました! とりあえず、消えてしまったデータとかを戻さないといけませんねえ......。皆さんもお気をつけて。




