表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
75/151

72話

 まず前提条件として、俺の能力を使うわけにはいかない。というのも相手が単独で襲ってきたのか、それともなんらかの組織の依頼でやって来たのかが分からないからだ。前者なら問題ないのだが後者の場合は逃げられてしまった時に能力の対策をされてしまう。そうなると再び襲われたときに対処が難航するので非常によろしくない。

 そういうわけで俺の本来の能力は伏せながら闘うことになるのだが、

「合わせろ、蔵介!」

「言われなくても」

 桃の身体能力の高さがとにかく頼りになる。もちろんそもそもの打撃が強いというのもあるが、繰り出す攻撃の範囲が広さが目についた。足技を主に用いていて、その長い脚は軽々と相手の頭を攻撃する。かと思えば足払いなども交えていて、相手にとって闘い辛い攻撃を繰り出している。

「......ふん!」

 ただ、相手も一筋縄ではいかない。桃の攻撃のタイミングに合わせて壁を張る。流石に桃と言えどその壁を能力なしで破ることは出来ないようだ、攻撃の手が止まる。

 そこで俺の出番というわけだ。敵の背後に回ってその背中に拳を繰り出す。守る術がないのか、男は素直に攻撃を喰らってくれる。

「うぐ!」

「もう一発!」

 今の殴りは本命の攻撃ではなかった。背中に壁が貼られているかどうかの確認と、もし貼られていなかったとしたら壁を張るかどうかの確認。

 まず素直に背中を殴られたということは、この壁を張る能力はこの男の能力だということだ。第三者が壁を張るのならば今の俺の攻撃からこの男を守るはず。

 そして、もう一つの壁を張ることができるかというのは、何枚独立した壁を張れるのかを確認するため。今のところ雪音を邪魔する壁と桃の攻撃を防ぐ壁の二枚が貼られている。もしこれを防いだとしたら三枚は壁を張ることができるという結論になるが、果たして。

 結論を吐き出させるようにその場で飛び上がってドロップキックを繰り出す。すると、明らかに人体ではない感触が返ってくる。これは、壁を張られたのか!

 俺のキックが空中で静止しているのが視界に入ってきながらも、焦らずに体勢を整える。この間も桃が攻撃を絶えず続けてくれるおかげで難なく次の行動を構えることができた。

 これで三枚。壁はこれ以上張れないのか、それとも無限に張れてしまうのか。もし後者だとしたらこいつを倒すのは難しくなってしまう。難しくなるだけで倒せなくはないと思うのだが......今は前者の可能性を見つける。

「桃! 虎に脇からの攻撃をさせろ!」

「了解!」

 俺は改めて男に襲い掛かりながら桃に指示を出す。すると、先ほどまで動かなかった三匹の虎が男の正面と両わき腹を狙って動き出す。桃は指示を出しながら攻撃をすることができないようで、一歩離れた場所で固まっている。

 今度は桃ではなく虎と動きを合わせる。さあ、この四か所からの攻撃を防げるか? 防げないのなら、別の手段を講じるが......。

 どうやら、別の手段は必要ないようだ。俺と、一匹の虎の攻撃が命中する。ということは、透明な壁を張れるのは三枚までか。これなら押せる!

「そのまま続けてくれ!」

 言いながら攻撃の手を緩めない。能力で生み出された虎は男の腕や足に噛みつく。が、流石に外見通りの強さがある。防がれたり、カウンターを仕掛けてきたりと簡単に攻撃を受けてはくれない。が、間違いなくチャンスはこちらのものだ。

 とにかく攻撃をしのぐことに必死な男は、壁を張った側にだんだんと押されていく。俺たちの攻撃をいなすには後ろに避けるという手段も欲しいのだろう。壁を張り直しながらじりじりと下がっていく。が、こちらが有利なのは変わらない。このまま押し切りたいところだが......!

 と、そこで男がその場に一瞬屈む。攻撃を喰らい続けてスタミナが切れたか、膝の力が抜けたか。なんにせよ、攻撃が効いている証拠だ!

 そんな俺のポジティブな考えが一瞬で吹き飛ぶものが視界に入る。まずい、けんじゅ

 ダアン!! ーーーーー銃声が響いた。

「......コフッ」

 激痛が全身を駆け巡る。撃たれたのは胸だ。心臓を貫くように、胸の真ん中を銃弾が通った。

 立っているのも辛い状況。俺は膝を地面に付いて、胸から、そして口から流れる液体を呆然と眺める。

 ......最初に雪音が弾いた拳銃。あれを拾うために位置を確認してそちらに動いていたのか。目元まで伸びている髪のせいで視線の移動が分からなかった。

 そんな思考をする俺の意識を現実に戻すように、銃声が三度鳴る。無理やり顔を上げて状況を確認すると、周りにいた虎を排除したようだ。

「「蔵介!」」

 二人の叫びが聞こえてくる。瞬間、墨で描かれた蛇やイノシシが男に向かって一直線に向かっていく。が、見えない壁に弾かれて右往左往している。辺りを素早く見回す。これは、男と俺を外界から遮断するために二枚の壁を張ったようだ。一直線な道路の左右の壁と同じ配置。この壁の長さが分からないので何とも言えないが、回り込むことができるかどうかわからない。

 これなら誰にも邪魔されず、避けることも出来ない一直線上の相手を撃ちぬくだけでいい。完全に能力を上手く扱えている厄介な敵だ。

「......囮になってもらおうと思ったが、貴様はいらなくなった。同じような手段であの女も捕らえられる」

 あの女、って雪音のことか? 一瞬全身の毛が逆立つ。そうだとしたら、こいつはここで殺さなくちゃいけない!

 だが、どうする? 俺には今選択肢が二つある。一つは、『自分と、触れた物の硬度を変えることができる』という能力を発揮して目の前にいる男をぶちのめす。これは俺が百パーセント生き残れる選択肢だ。

 ただ、問題がある。それは俺の能力が敵の組織に伝わってしまうということ。いくら俺の能力が強くても、能力で作られた壁の硬度は変えられない。そして、俺の拳と男の銃弾。どちらが先に命中するかは自明の理。俺に銃弾が当たっても銃弾が弾かれるようなら、男はすぐに退却するだろう。その時に壁を活かすのは言うまでもない。つまり、ここで俺の体を硬くしたら絶対に逃げられる。

 そして、もう一つの選択肢はーーーって、考えている場合じゃないか!

 俺は急いでたちあがって叫ぶ。

「雪音! 俺ごとやっちま」

 俺のセリフを、銃声が遮った。余計なことを言わせないようにするためだろう。再び命中したのは腹。顔に当たらなかったのはしゃがんでいた状態の時の頭を狙っていたからか。

 俺は立ち上がった勢いと銃弾を喰らった勢いを殺さずに足を動かして、男から少し離れた位置まで距離を取る。そして、やられたふりをするために倒れてから、重たい動きで傍に立っている木に背中を預けて、全身の力を抜き目を閉じる。この位置は、雪音からの視界を木が防いでくれる位置。先ほど辺りを見回した時に確認した木だ。ここに来れたのなら上々。これで何とか準備は整った。

 こんな余裕な思考をしているが、実際は死んでしまうほど痛い。ショック死をするようなら神経を遮断する必要もある。

 ポロポロと勝手に涙がこぼれる。止血をするわけにはいかない。血が流れていないと怪しまれる。これが第二の選択肢だ。一応今は追撃の対策で全身の硬度を上げているが、もし追撃されたら俺の能力がバレて相手は逃げる。くらう必要がない銃弾を喰らっただけになってしまう。

 雪音、頼む。あとは壁を破壊する威力で、こいつを吹き飛ばしてくれ。

「く、蔵介......」

 悲嘆にくれる桃の声が聞こえてくる。戦意を失ってしまったのだろう。もう頼れるのは雪音しかいない。頼む、頼む......!

「......う、うあああああああああ!」

 そんな雪音の叫び声が聞こえてくる。それと同時に大地が揺れ、辺りの木が折れて倒れる音がする。その少し後に少しの衝撃が来る。これは透明な壁を破るための能力か。

 そして、次の衝撃が来る。

「サイコキネシス!!!」

 辺りの木が吹き飛んでいくのが目を閉じていても分かる。そして、俺の背中越しにとんでもなく強い衝撃が加わる。木の硬度は上げているし、俺の硬度も相当上がっている。なのに感じるこの衝撃力。例えるなら、電柱に電柱を思いきり振るっているような感じだ。それが背中越しに行われているのだから能力がなかったら間違いなく吹き飛ばされているだろう。あとはこの木が雪音の攻撃を耐えてくれればいいのだが。

「死んじゃえ! 死んじゃえ死んじゃえ!!」

 雪音の猛攻は止まることなく、辺りをズシン! ズシン! と揺らしている。揺らしている場所は俺のいる場所から離れている。これは襲撃者が吹き飛んでいった方を攻撃しているのか? と、とりあえずそろそろ止めないとまずい。

 俺は痛む体に鞭打って起き上がり、雪音の方へ近づく。クソ、体が重いな......。

 それでも何とか足を動かして、泣きながら能力を使う雪音に横から声を掛ける。

「雪音」

「な”に”!?」

 きっと振り返ったその表情は正に鬼気迫るもの。涙を流しながらも怒りをあらわにしていた表情が、俺の顔を見て一気に変わっていく。

「く、蔵介?」

「ああ。おかげで助かっーーー」

 俺がお礼を言い切る前に雪音が抱き着いてくる。そのまま泣きじゃくりながら俺の胸で声を挙げる。

「よ、良かった。良かったよぉ」

 俺は雪音をなだめながら辺りを見回す。そこには大分離れた場所で地面に座り込んでいる桃の姿と、無残にもなぎ倒された木々があるだけで、先ほどまで襲ってきていた男はいない。

「ふー」

 思わず大きく息を吐く。何とかなったか。恐らくだが、これで俺の能力もバレていないはず。

 あの壁を破って、かつダメージを与えるには雪音の能力しかない。ただ、雪音は俺を巻き込まないために能力を抑えてしまうだろう。だから、死んだふりをする必要があったのだ。もちろん、ちょうどいい位置に木があったので、雪音の能力をやり過ごすことができるというのを確認したから決行した作戦だ。しかし、それにしても運が良くないと生き残れなかった。ラッキーだな、俺。

 まあ何はともあれ、俺の出番はここまで見たいだ。あとは適当にやってもらおう。

 能力を使って、二重人格の俺は眠りについた。


拳銃の方が能力より強いこともある。

※投稿再開します! 大体一週間に一回ペースです。もちろん、早く筆が進めばもっと早く投稿することもあると思いますが、基本的には週一更新なのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ