70話
か、栞奈? っていうことはもしかしてだけれど、
「あの、栞奈御庭番と関係があったり?」
「関係も何も、私がその栞奈だよ」
なんと、まさかの本人登場。どうしよう、色々文句が言いたい......ところだけれど、まずは出方を伺おう。
「ええと、僕に話があるっていうことでいいんですかね?」
「そうだね。まずは、私の友達が君を襲い掛かってごめんね」
「友達って、栞奈御庭番のことですか?」
「うん、そうだけど」
と、友達。それにしては随分重たい友達を持っているように思ってしまう。というのも、栞奈御庭番が襲ってきた理由を聞くと、『栞奈様の幸せのため』などと言っていた。そこから想像するに、栞奈さんと栞奈御庭番の面子は主従関係にあると思っていた。言っちゃえば、ご主人様と部下、手下みたいなイメージがあったのだけれど、どうやら違ったようだ。
「ま、まあ、襲撃についてはあんまり怒っていないですよ。何か事情があって襲ってきているんだろうなって思っていましたので」
「そう言ってくれると気持ちが楽になるよ。ええっと、それで......どこから話せばいいのかな?」
「あ、それじゃあなんで僕が襲われていたのか教えてください」
話すことに困っていた栞奈さんに助け舟、というわけではなく。純粋に僕が聞きたかったことだ。今まで栞奈御庭番が襲ってきた理由は栞奈さんの幸せにつながる。それはどういうことなのだろうか。
「んー、そうだね、話しちゃってもいいかな」
「うむ。それでは拙者から」
「へ?」
な、なんと。全く関係ないと思っていた朝倉君が手を挙げる。そもそもなんでここにいるのかも分かっていなかったのだけれど、まさか栞奈御庭番と関係があったとは。
「それでは栞奈殿と拙者の関係から。実は、お互いに出身の村が一緒なのでござる」
「へえ。それにしては恰好とか話し方とか違うね?」
言いながらちらりと栞奈さんに目を向ける。丸襟で長袖の薄い黒シャツと紺色のジーパンという動きやすそうなシンプルな格好。シンプルだからこそスタイルの良さが目立つ。
一方、朝倉君はいつも通りの和服。口調もこの服装も出身地が関係しているのかな、なんて考えたりもしたんだけど。
「まあそれはそうでござろう。これは拙者の趣味みたいなものでござるし」
「へえ。あ、話の腰を折っちゃってごめんね」
「いやいやなんの。それで、ここだけの話。能力者を狙う組織がいるのは知っているでござるな?」
「うん。それはもちろん」
先日襲われた雪音がいい例だ。能力者という存在は決して多いわけではなく、殺傷能力が高い能力もある。悪事にしろなんにしろ、能力者というのは存在するのだとしたら手元に置いておきたいものだろう。
そして、この話が出たということは、
「もしかして、栞奈さんたちも?」
「うむ。狙われているのでござる」
予想通り。予想通りなんだけど、それと僕が狙われていたことが繋がらない。もしかして、
「僕がその組織だと思われていたり......」
「違うでござるよ」
「あはは。さっきは『事情があって襲ってきてるのは分かってた』って言ってたのに。もしかして、結構妄想癖があったり?」
「からかわないでくださいよ」
ここまで軽快に笑われちゃうと嫌な気分は一切しない。むしろ嬉しいぐらいだ。
「っと、また脱線しちゃったね。それで、組織に狙われていることと僕を襲うことの関係は?」
「それは清木教授に提示された条件が関係しているのでござるよ」
やっぱり能力者がらみの話になるとあの人が出てくるなあ。もうあの人が黒幕でいいんじゃないかな。
冗談はさておき。
「条件って?」
「『防人』のメンバーの中から一人を選出して、栞奈御庭番のうち誰かが上木殿を倒したらA大学で保護するっていう条件でござる」
「それで、僕が選ばれたってことかあ」
......うーん。正直、引っかかるポイントはある。あるけれど、考えるのが面倒くさいなあ。とりあえず、聞くだけ聞こうかな。
「えっとさ。そもそもなんで栞奈さんたちが組織に狙われているって知ってたの?」
「それは私たちが朝倉に教えたから。私たち忍者みたいなものだから、誰かが狙ってきていることは分かってたんだ」
忍者みたいなものだから、で狙われていることが分かるというのが凄いや。
「清木教授が栞奈さんを保護するのに条件を出した理由っていうのは、まあなんとなく分かるね」
朝倉君は強い能力者だから勧誘した。ただ、栞奈御庭番はそもそも数人いるので、一気に保護するとそれだけ費用がかかる。それに、全員の年齢が一緒というわけでもないかもしれないし、大学に入ったからには卒業してほしい等色々な思惑があるわけで。そうなると『ある程度強い』ではなく、『明確に強い』と証明してほしいわけで。僕は一応超能力者を狙う組織も退けたから、僕を倒せればある程度の強さは証明できるわけで......とまあこんなところだろうか。
「んあー」
「どうしたんでござるか? そんなに間抜けな声を挙げて」
「随分ひどいこと言うね」
とはいえ、自分でも間抜けな声を挙げているのは分かっている。でも、許してほしい。これだけだと、どうしても引っかかることがあるんだ。
それは昨日の夜、保健室で清木教授と話した時のことで。僕に隠していることを清木教授に尋ねると、
『それはね、上木君。明日朝倉君に聞いてみてほしい』
とだけしか答えてくれなかった。そして今朝倉君に聞いた情報を改めて考えてみると、別に清木教授の口から聞いても問題ないということが分かる。朝倉君の口からきくことのメリットを無理やり考えるなら、証人の栞奈さんを呼んでくれたことだろう。これによって僕はこの話を信じやすくなった。
ただ、逆に言えばそれだけ。それだけしかメリットがないのにこうして時間を取って朝倉君に説明させたこと......。理由は一つ。
「朝倉君が知っている以上の情報は与えたくない、か」
「ん? どしたの?」
「いやいや、なんでもないよ」
まあ正直考えるだけ無駄なことだし、流れに身を任せていればうまくいくのだろう。というか、今は考えるのが面倒くさい。本当に面倒くさい。
「それで、僕はこれからどうすればいいの?」
「どうすれば、というと?」
「だって、今まで僕は栞奈御庭番と闘うのが使命だったわけでしょ? で、それを知らせなかったのは栞奈御庭番に情を寄せて手加減させないため。なのに僕に事情を話したっていうことは何か考えがあるんでしょ?」
「......いや、特にないでござる」
「え」
「清木教授には事情だけ伝えてほしいとのことで」
ええー。ちょっとそれは困っちゃうなあ。これからどうするか考えるしかないか。......でも、いい案が浮かぶとも思えないし、適当にやろっかな。
そんなこんなで解散、となるかと思いきや。栞奈さんが挙手する。
「あ、それじゃあお願いしたいんだけど」
「? 僕に、ですか?」
「うん。私たちと一緒に、『殺し屋』、倒しちゃお?」
「「え”」」
僕と朝倉君の声がシンクロする。
「いや、無理して倒すような相手じゃないですし、ここは大人に任せましょう?」
「そうでござる。清木教授にも何か考えがあるはずでござろうし、無理して蔵介殿と栞奈殿が動く必要はないでござろう」
「うーん、そうは言っても私たちが狙われているわけだし、倒すっていうのは言い過ぎかもしれないけど、栞奈御庭番を守ってあげてほしいんだ」
ええ......なにこの状況。昨日まで闘っていた相手を今度は守らなくちゃいけないの?
「いや、僕の能力は『2重人格』ってだけなんで、守る相手としては頼りないですよ?」
「そんなの関係ないよ。ほら、初めて会った時言ったこと忘れちゃった?」
......? 初めて会った、時? .......!
「ああ! レポート提出数分前だったあの時!」
「え、私のこと初対面だと思ってたの?」
そうだそうだ。それで、あの時言われたことといえば......僕の胸が隙ってやつだ。まさかその情報と引き換えに友人を守らせるとは。栞奈さんのこと侮れないぞ。
「......まあ、いいでしょう。もし栞奈御庭番が襲撃されたら助けに行きます」
「ほんと? 助かるよ......っていうか、元からそうするつもりだったけど」
「それは心の中でだけ思っていてください」
こうして、僕を取り巻く環境が少し変わって。栞奈御庭番を守ることになった。
昨日の敵は今日の友ってやつなのかな?




