69話
僕が裏の事情について雪音から聞き出そうとすると、医務室に誰かが入ってくる。
「あら、目が覚めたんですね」
「やあ、上木君。体調は大丈夫?」
「先生と清木教授」
一人は白衣に身を包んだ黒髪の女性、もう一人はスーツ姿の金髪の男性だ。
ちょうどいい、今雪音から聞いたことを清木教授から聞いてみよう......って、ちょっと待った。医務室の先生は僕たちの事情について知っているのかな? 知らなかったとしたら結構まずいよね。
そんな僕の心配を吹き飛ばすように清木教授が話し出す。
「それで、殺し屋の能力に関してはどうだった?」
「えっと、それ、話しちゃっていいんですか?」
とはいえ、一応気を遣って尋ねる僕。そんな僕に答えるのは医務室の先生だ。
「大丈夫。流石に鉛玉を肩にぶち込まれた人間が一般人だとは思わないですよ。これも含めて、ね」
言いながら僕に投げ渡してきたのは銃弾だ。金色のボディと丸いけれど尖った先端が特徴的な、まさに弾丸。
ただ、気になるのが。
「柔らかい」
人差し指と親指で銃弾を挟むと、ふにふにと指が沈み込む。金属製のはずな弾丸が、まるでゴムでできているようだ。
「えっと、これは?」
「あなたの肩の傷、銃弾で撃たれたにしては結構浅いんです。これは間違いなく『能力』が関わっている、でしょう?」
「えっと、それじゃあ先生も能力者ってことですか?」
「そうです。なので、気兼ねなく清木教授と話してくださいね」
ニコリと微笑む先生。どこかやりづらさを感じるけれど、まあ取り合えず清木教授に着かえれたことに答えよう。
「殺し屋の能力は『地面の形状を変える』というもので間違いないと思います」
「ふむふむ。雪音ちゃんと塚波君に聞いた通りだね。外見についても聞いている。茶髪の女の子、っていうことでいいのかな?」
「はい」
ここまでは清木教授の質問に答えてばかりだけれど、僕からも聞きたいことがある。
そう考えて口を開こうとする僕よりも先に清木教授が話し始める。
「まず初めに、上木君。俺は君たちを叱らなくちゃいけないし、謝らなくちゃいけない」
「というと?」
「まず、今日の闘いで君たちは殺し屋を『拘束』しようとしていた。相手はただの学生じゃないんだから、まず何より命を第一に行動しなくちゃいけなかった。その点に関しては、君たちの身を守る人間として注意させてもらうよ。塚波君や、桃ちゃんにも言ったけれどね」
その言葉を聞いて、少し自分勝手だった自分を恥じる。桃に言われたのもあったけれど、僕は最初に殺し屋を退けようとしていた。闘って、勝利しようとしていた。そして雪音が現れてからは敵を拘束しようと考えた。
かろうじて、最初の退けようという考えは、身の安全を確保するためという言い訳ができる。ただ、拘束しようというのは身の安全を確保するという考えから一歩はみ出ている。
「そっか、判断ミスしちゃってたかあ......」
小声で自分の失敗を呟く。こういうのって、結構重たく心にのしかかってくるよね。
そんな僕の呟きを聞き逃さずにフォローしてくれる清木教授。
「一応、君の2重人格が出ていたことも聞いたよ。以前殺し屋に出会った時の2重人格の君は逃げることを第一に考えていたみたいだったし、命を大事にしようっていう気持ちはあったんだろうね。ただ、今回は味方が多くてちょっと油断した感じかな? 君の2重人格は好戦的みたいだし、闘うことを第一に考えちゃうのは仕方ないのかもしれない」
それでも、ちゃんと自分たちの命第一で動かなくちゃだめだよ。と付け加える清木教授。僕のことをフォローしつつしっかりと注意はする。しっかりと僕たちのことを第一に考えてくれているんだなあ。
「えっと、それで謝らなくちゃいけないことっていうのは?」
これに関しては少し予想が出来ている。というのは、さっき雪音が言っていた、僕が倒れる原因になった『疲れ』と、『私たちが隠していたこと』のどちらにも清木教授が関わっているからだ。恐らく、清木教授はこの二つのことについて謝ろうとしているのだろう。
「まず、今日の戦闘中に気絶したでしょ? あれは俺、というか天馬さんの能力が原因なんだ」
「? どういうことです?」
「天馬さんの能力で無理やり君の能力を引き出させる。これって結構君の体力を使うんだ」
これは体験したからこそ分かる。あの何とも言えない、意識が遠のいていくような感覚。終わった後には体の力が抜けて地面に座り込んでしまう。非常に体力を使うものだということは良く分かる。
「一回や二回あの能力を使われても、少し休めば元通りになる。でも、今回は気絶するまで君に能力を使い続けた。流石にそこまで能力を使っちゃうと、少し激しい運動とか頭を使っちゃうと倒れちゃうってわけ。さらに君は『2重人格』の能力者だからね。脳に影響する能力を使うわけだから、さらに疲労を加速させちゃったわけだ」
なるほど、これが清木教授のせいで疲れた状態になっていた、というわけか。理解した。
疲れについて分かったところでもう一つのことに言及してみる。
「それで、清木教授。さっき雪音が隠し事があるって言っていましたけれど」
「それはね、上木君ーーー」
翌日。決して万全とは言えない体調でキャンパス内を歩き回る。昨日降っていた雨は止んでいて、青空が広がっている。
「体、重い......」
ボソリと呟きながら目的地へと足を向ける。時刻はお昼過ぎ。昨日は二度も気絶をしたし、栞奈御庭番とも、殺し屋とも戦った。その疲労が残ったまま午前中の講義を受けてきたところ。体の重さに加えて頭も回らず、正直言ってコンディションは最悪だ。
ただ、それでも向かわなくちゃいけないところがある。それは、今回の騒動の全貌を知るために必要なことなのだ。
「えーっと、どこにいるかな」
やってきたのは、大学内にあるカフェテリア。少し説明させてもらおう。ここA大学には食堂や生協の他にカフェテリアと呼ばれるものが何か所か存在する。食堂や生協に比べて営業時間は短いけれど、カフェテリアでしか食べられないスイーツやコーヒーといったものが用意されている、まさに『カフェ』と呼ぶべき場所だ。
さらに話すべき特徴は、人の入りが少ないのだ。お腹を満たしたり友達と話すなら食堂や生協で十分事足りる。寮に入っている能力者や一部の人を除けば、わざわざ大学内でカフェテリアに足を運ぶ必要はない。
と、いうわけで、そんなカフェテリアにやってきたわけだけど。ここで待っている人がいるんだよね。
「あ、上木殿。こちらでござる」
特徴的な話し方が耳に入ってくる。声がした方へ目を向けると、朝倉君ともう一人、茶髪の女性が座っている席があった。店舗の奥かつ隅に位置している席だ。やっぱり、能力に関して話すんだったらこういう席を選ぶよね。
「ごめんごめん、お待たせ」
「講義があったのなら仕方がないでござる」
謝りながら席へと腰を落ち着ける僕。ここで、座っていた女性が口を開いた。
「どうも、上木蔵介君。これで会うのは二度目だね。私の名前は、栞奈。楠栞奈だよ」
真打登場、なのかな?




