4話
「君が隠された能力を見つける。これが今君に一番必要なことだ」
「勉強より必要ですか?」
「当たり前だ」
「教育者としての自覚が欠如していますね」
「当たり前だ」
「当たり前ではないですよね」
まあ、なんやかんやで僕の目標は決まった。
「とりあえず、土下座の練習から」
「話聞いてたか?」
田中教授が部屋から出て行って。僕はいくつかの助言をもらった。
『とりあえず、君の能力は炎を出すとか、念力といった自分の意志で何らかの現象を起こすものではない可能性が高い。自分のポテンシャルを高める何かをしてみてくれ』
ざっくりしすぎて動けないや。ジッとしていても仕方がない。とりあえず、挨拶。能力を見つけるのも大切だけど、それ以上に普段の生活が大切だ。隣の部屋の人に挨拶に行こう。
部屋を出てすぐに隣の部屋の人に会いに行く。僕が無能力者だということは知れ渡っているはず。なので僕への対応で関わるべき人物かが分かる。若干緊張しながら扉をノックする。
「うーっす。って、お前誰だ?」
「どうも、隣の部屋へやって来た上木蔵介です。とりあえず、挨拶でもと思って」
「あー、無能力者か。消え失せろ」
中指を立てられる。Oh......結構ショック。
「分かった、出直すよ」
「死ね」
こういう時って言い過ぎたことを謝るんじゃないかな。いや、知らないけど。
というか、早速15パーセントを引き当ててしまった。幸先悪いな。でも、ここで挫けるわけには行かない。大学生デビューを決めなければ。
「顔見せんな」
「地獄に落ちろ」
「ふぁっきゅう」
......。男女問わずにこの対応。涙が出そうだ。これはもう大学生デビューは無理か。
「おい、そこの無能力者」
「ん?」
振り返ると、黒い髪をオールバックにした男がいた。目は吊り上がっていて気が強そうだ。言ってしまえば、不良?
「なに? 悪いけど、罵倒なら僕のメンタルが回復してから......」
「違う違う。ここじゃなんだ、俺の部屋に案内しよう」
「どうだ、調子は?」
「倒置法を使ってくるねえ。知ってると思うけど、最悪だよ」
僕は招かれた部屋で溜息を一つ。男は顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。
「どしたの、えっと、」
「塚波正だ」
「じゃあ、正で。あ、僕は上木蔵介ね。話を戻すと、難しい顔してたけど、何かあったの?」
「実はな、蔵介の嫌われている理由に心当たりがあってな」
「え、何々? 口臭? 体臭?」
「臭いに自信がないようで」
正は携帯電話を操作した後、僕に画面を見せてくる。そこにはLAINというSNSアプリの画面が表示されていた。そこで正が指さしたメッセージは、えーっと、何々......
「『全員、上木蔵介に冷たく当たること』......既に名前を知られているほどの知名度、大学デビューも夢じゃないなあ」
「ポジティブ過ぎる」
冗談はさておき。
「うーん、滅茶苦茶迷惑だなあと言いたいところだけど。正直、この発言をしている人......『工藤』って書いてあるけど、気持ちは分かる」
「ほう。どういうことだ」
「いや、この嫌い具合からしてよっぽど嫌な扱いを受けたんでしょう? 僕も人を嫌いになることは少ないけど、一度嫌いになったらどこまでも嫌うからね。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつで」
「なるほど、そういうことか。だが、彼が憎むのはともかく、ほかの人間が憎む理由が分からないだろう?」
「まあ、確かに」
この文言を受け取っても、僕なら無視するだろう。だが、みんな彼の言うとおりにしているようだ。
「この発言をした人って有名な人なの?」
「いや、普通の能力者だ。まあ、昔何かあったのだろうが」
「正は他の人が嫌っている理由が分かるの?」
「心当たりがある。ほら、こっちの会話を見てみろ」
どうやらこれはグループ会話というもので、大勢の人が参加していて、自由に発言できるシステムだ。他の人が、『別に気にしなくていいんじゃない?』と発言しているのに対し、工藤は『あいつは俺の部屋に挨拶に来て、いきなり暴言を吐いた』と発言している。
「僕、暴言なんか吐いてないけど」
「まあ、情報操作、ってやつだろうな」
「みたいだね」
ふーむ。ただ、ここで僕が正にグループに招待してもらって発言しても効果がないような気もするし、なにより正にも迷惑が掛かってしまう。
「うーん、わかった、ありがとう正」
「? グループに入らなくていいのか?」
「うん。とりあえず、一週間くらい過ごしてみる。ありがとね」
僕は正に手を振って部屋から出て行った。
時間が解決してくれるだろう。
※明けましておめでとうございます! 昨年の不甲斐なさを取り戻すので、応援お願いします。