61話
「早速押していくわよ、上木!」
「了解! 堂次郎も!」
「ああ!」
そこから三人での攻撃が始まる。まず動いたのは高原さんだ。
「ふっ!」
「ぬっ!?」
高原さんが走りながら腕を振り上げると胡桃の足が持ち上がる。体勢を崩した胡桃はその場でお尻から倒れる、かと思いきや片足だけでバランスを保ち、攻撃を仕掛けてきた僕に対応してくる。
「っふ!」
走った勢いを消さずに仕掛けた拳はいとも簡単に片手で受け止められてしまう。何とも恐ろしい身体能力。でもこれはチャンスだ。僕は殴りかかった方とは逆の手で、僕の拳を受け止めている胡桃の腕を抑える。これで片手と片足を封じることができた。
「堂次郎!」
「任せろ!」
堂次郎は走っている勢いを消さずにそのままがら空きの胡桃にタックルを仕掛けるーーー!
「は?」
「ぅえ?」
「うおおおおおーーー! ......なにっ?」
が、胡桃に堂次郎のタックルは当たらなかった。というのも堂次郎が転んだとかタックルだから前が見え辛くて変なところに行ってしまったとかではない。胡桃が消えたのだ。堂次郎は大分離れた場所で異変に気が付いたようでこちらに振り返る。
「ちょ、ちょっと。これどういうこと?」
慌てている高原さんをよそに僕は考え始める。この能力、僕は見覚えがある。杏と闘った時もあった『突然消える』能力。杏も出来て胡桃も使える能力。しかも別の能力も持っていて。こんなことは百パーセントありえない。そもそも能力者が使える能力の数は1つだけ。これは絶対に絶対だ。
そこから考えると、この近くにはもう一人能力者がいる。
「堂次郎! 能力を使って!」
「もう使って胡桃を探している!」
「違うよ! 他の人がいないか気配を探って!」
「は、はあ? それより消えた胡桃の居場所を「いいから! 僕たち以外に誰かがいるはずだから!」
僕はあえて大きな声で少し離れた場所にいる堂次郎に能力を使わせる。するとわけが分からなそうにしながらもその場で目を閉じる堂次郎。それと同時に僕は駆け出す。理由は簡単、目を閉じてほかの人間を探すことに集中した堂次郎は隙だらけ。攻撃するには絶好のチャンスだからだ。
「そして狙うなら絶対に堂次郎の後ろだ......!」
呟きながら拳を構え始める僕。堂次郎は今能力を使って感覚を鋭敏にさせている。つまり、誰かが突然現れたら瞬時に反応され、攻撃を避けられてしまう。だったらできる限り反応が遅れそうな背後から攻撃を仕掛けるというのは当然のはず。
そういうわけで堂次郎に手が届く範囲に到達した僕の目の前に予想通り胡桃が現れる。ただ、堂次郎の真後ろではなく、
「喰らえーーーってそっち!?」
「む!」
なんと、胡桃は堂次郎の正面の方に現れたのだ。慌てて胡桃が現れた方へ攻撃を仕掛けようとするが、胡桃はその場から離れて体勢を整える。くっ、失敗してしまった。忍者というのは戦闘経験に長けているから、相手の考えは分かるということだろうか? それにしても、
「まさか読み負けるなんて」
「まさか現れるのが読まれていたとは」
僕と胡桃は同時に口から読みあいに負けた悔しさをこぼす。......。
「「......ん?」」
なんで胡桃が悔しがっているんだ?
一瞬の思考停止。この機会を逃さないのは高原さんだ。
「喰らいなさい!」
高原さんがまるで紐を引っ張るように腕を引くと、胡桃の足が高原さんの方へ引っ張られる。これで間違いない、高原さんの能力は『目に見えない糸を巻き付けることができる』という能力だろう。
そんな能力の考察をしながらも僕の体は勝手に動き出し、拳を構えて胡桃に襲い掛かる。一方で高原さんはモデルのように長い足を胡桃の足に向かって振るっていた。これは命中するはず......いや、それともまた姿を消すか?
そんな僕の忙しい心中を掻き分ける声が聞こえてくる。
「蔵介! いるぞ!」
「「!!」」
僕と胡桃の体が反射的にピタッと止まる。やっぱり僕の考えは間違っていなかった!
「堂次郎、そいつはどこにーーー「うらあああ!」
僕が堂次郎の方へ振り替えろとすると、目の前で胡桃が高原さんの蹴りを顔から受け止めて倒れる姿が目に入った。す、すさまじい気迫だ。
「ふふん! こんなものかしら!」
得意げに手をパンパンと払いながら倒れた胡桃を見下ろす高原さん。というか、なんで胡桃は今の攻撃を躱さなかったのだろうか。
その場でうつぶせに倒れたままになっている胡桃。とりあえず。
「胡桃を拘束しようかな。それと堂次郎、さっき言ってた別の人がいたっていうのは」
「高原が胡桃を攻撃してから気配がなくなったな。少しの間建物の2階から気配を感じたんだが」
堂次郎が指さした建物に顔を向けるけれど、人の姿は見えない。まあそれはそうだよね。
「容姿とかみてない、よね」
僕は胡桃の腕を後ろ手に組ませて、グッと力を入れられるようにする。もし余計な動きを見せたらこのまま体重を掛けて腕を折る。相手は能力者なんだ、そのぐらいの心持ちで胡桃を拘束しないと。
「流石にな。ちらっと人影は見たが、誰かさんが胡桃を吹き飛ばしたから意識がそっちにいっちまって」
「.......まさか私のせいって言いたいの?」
むっとした表情になる高原さん。これはまずい雰囲気。
「いやいや、高原さんが来てくれなかったら僕も堂次郎もどうなってたかわからないから。感謝してるよ」
「そうだな。それは間違いない」
堂次郎もさすがに棘が有る発言をしてしまったと反省したのか、申し訳なさそうに高原さんに頭を下げる。
「ならいいのよ」
「「......扱いやすい」」
「何か言った!?」
「「なんでもないです!」」
高原さんの怒号に背筋を伸ばして返事をする僕と堂次郎。なんだかんだ、高原さんはとても話しやすい女性だ。今回の闘いに限らず、これからものんびりと付き合っていきたい人だ。
「さて。この辺で無駄話は終わりにしようか。とりあえず胡桃を清木教授のところまで運びに行くこう。堂次郎はすぐに能力を使って周りに人がいないか確認して。それと、高原さんは絶対に僕の傍を離れないで」
気持ちを切り替えて僕は堂次郎と高原さんに指示を出す。堂次郎が「おう」と短い返事をして目を細めながら歩き始める一方で、高原さんの表情は険しい。
「あんたの傍なんてできれば歩きたくないんだけれど」
言いながらも若干僕の傍へ寄ってくれる高原さん。流石に理由位は話した方がいいだろう。
「えっとですね。このままだと、恐らく、たぶん、絶対に胡桃は別の能力者の存在によってまた姿を消されると思うのさ。そこでそのまま離れていくとは思えないから」
「なるほど、もう一度現れたところを攻撃するっていうわけね」
「そういうこと」
なんだかんだ高原さんの頭の回転は速いようだ。これなら案外スムーズにいくかも。
そんなこんなで清木教授のもとへ歩き出して1分もしないうちに、胡桃を抑えている手ごたえがなくなる。当然、視界からも消える胡桃。これはやっぱり。
「二人とも、胡桃が消えた。ここからはこれ以上に慎重に「あれー、蔵介だー」
そこにひょっこりと顔を出してきたのは雪音だ。どうしてこんなところにいるのだろう?
「おお、白川。どうした?」
「いやいや、どうしたっていうか今は危ないから離れてーー」
瞬間、こちらに駆け寄ってくる雪音の背後に胡桃が現れる。あいつ!
「雪音、足を止めるな!」
逆に俺は上原さんの手を引いたまま雪音の傍へ駆け寄る。雪音とすれ違う寸前、俺は拳を胡桃にぶつける。が、これは躱されるだろう。それが分かっているから俺が繰り出した拳はほんの軽いジャブ。それは当然躱される。躱し方は、先ほどまでと同じように姿を消すというもの。
ここまで予想通り。そして次に現れる場所は恐らく高原の傍だ。理由は簡単で、能力を使っている状況の堂次郎と、雪音をかばうのに必死になっている俺と高原。誰を攻撃するかと言えば高原が妥当だろう。
「ふあ!?」
俺は高原の腰を抱き寄せて、代わりに拳を振るう。その拳は予想通り高原の傍に現れた胡桃の胸に当たった。
「ぐっ!」
すると、胡桃は膝をつく寸前に手の指を素早く動かしてから姿を消す。動きとしてはまるで忍術を使う前の印を組んだような感じだが.......?
「おい、蔵介。一瞬二人がどこかに集まってから気配が消えた。多分撤退したんじゃないか?」
「ーーーんぁ? あ、えっと。そっかそっか。まあ雪音も来てくれたわけだしーーー「いつまで私に触ってんのよ!」
ふっと意識が消えていたような、でも意識が消えている間の考えというか、経緯は分かって、僕の顔が思いっきり叩かれて。
「もう、よくわからないや」
僕は諦めた微笑みを浮かべながら、少しの涙を流した。
というか、堂次郎の能力便利だなあ。
※投稿の感覚が空いてしまい申し訳ございません。就職活動と、友人が病気になってしまい相談に乗っていたため遅れました。これからもちょっと頻度が遅れると思いますが許してください。




