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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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60話

と、そんなこんながあって、今は講義中の教室の傍で堂次郎と一緒に息を整えている。そんな僕たちのもとへ胡桃がやってくる気配はない。やっぱり一般人に見られるのは避けているみたいだ。

 ただ、このままでは相手からの出方を伺うことになってしまい、後手後手の対応になってしまう。それはなんとかして避けたい。

「堂次郎、能力を使って胡桃の気配を探れたりしない?」

「おう、ちょっとやってみる」

 『感覚の強化』という堂次郎の能力。これによって触覚やら嗅覚やらをとんでもなく強化できるらしい。これで何とか胡桃の居場所を確認したい。

「......」

 眼を閉じて随分集中している様子だ。誰かを探し出すというのはそれほど難しいのだろうか。確かにどの器官を強化すればどこに人がいるのか分かるのかを説明しろと言われたらそれは難しい。ただ、人の気配とかは僕でもなんとなく感じることができる。それは人が立てたかすかな物音が聞こえているのか何なのか原理は分からないけれど、とにかく人の気配というのは感じられる。その感覚をかなり強化すれば人がいるのかどうか分かると思ったのだけれど.......。

 集中を途切れさせるようで申し訳ないけれど、適当な時間が過ぎたところで堂次郎に話しかける。

「どう?」

「......だめだ、良く分からねえな」

「そっか。ちなみに普通だったら分かるものなの?」

「ああ、普通だったら分かるはずだ」

「はず、ってことはやっぱりわかりにくいんだ」

「そうだな。今は壁一枚隔てた向こうで人が喋っているし、数十人が呼吸をしている。もちろん胡桃がいる方向を意識はしているが、やはり忍者ということもあってか難しい。それに、胡桃がさっき俺たちが逃げてきた方にずっといるのかと言われればそうとは限らないだろうからな。他に人がいなかったら分かると思うが」

「なるほどね」

 とりあえず、堂次郎の能力で相手の居場所は分からなくても、今胡桃に襲われることはない。今のうちに作戦を練らないと。

「まず、胡桃の能力は身体能力の向上、って言ってたね」

「ああ。具体的には『筋力』の向上、っていうのがミソだな」

 堂次郎の言わんとしていることは分かる。『筋力』ということは筋肉が使われる力全てが強くなるということ。『腕力』だけが強くなるわけでも、『脚力』だけが強くなるわけでもない。もったいぶらずに言うと、胡桃の攻撃は全て強化されているというわけだ。

「でもさ、筋力が向上しても防御の面ではあんまり関係ないよね?」

「ふむ。まああの肉体だ、筋肉の硬さは鍛えた分だけあるのだろうが、やはり人間の範囲の防御力だろうな」

 僕の考えに賛同してくれる堂次郎。ただ、それを確認したからと言って状況が好転するわけではない。

「堂次郎なら胡桃の攻撃を避けられ続ける?」

「......いや、厳しいだろうな。完全に集中している状態なら1回は絶対に避けられる。ただ、次に来る攻撃を避けるのが難しい」

 ということは、堂次郎に囮になってもらっても1発で胡桃をダウンさせられるような攻撃をしなくてはいけないということ。これは難しい話だ。

「......えー、以上で説明会を終わります」

 そんな声が聞こえてきたと思えば、ざわざわと喧騒が生まれる。どうやら講義か何かが終わったようだ。ガチャリと扉が開いて次々に人が部屋から出ていく。これはまずい。

「どうしよう堂次郎」

「ああ、かなりまずいな」

 まだ人が周辺にいるということもあって胡桃が襲ってくる気配はない。でも、段々人の数が減っていき、再び僕と堂次郎だけになったら胡桃がやってくるだろう。そして今の僕たちには胡桃を撃退する力がない。ど、どうしよう。

「ーーーあら、上木じゃない。何しているのよ」

 と、困り果てている僕と堂次郎のもとに紫色の髪を腰までストレートに下ろしているスタイルのいい女性がいた。えっと、

「高原さん、だっけ?」

「そうよ。そっちは、誰かしら?」

「あ、ああ。高見だ。高見堂次郎」

「そうだったわね。防人っていうのは知っていたんだけど」

 そんな感じで軽く顔合わせを終えて本題に入る。

「それで、何しているの?」

「ちょっと変な奴に絡まれていてね」

「鏡はあるかしら」

「僕たちのことじゃないよ」

「ああ、お前だけのことだ」

「自分一人だけ逃げないでよ」

「冗談よ。それで、そいつは今どこにいるのよ」

「それが近くにいるってことしかわからないんだよね」

「そいつを撃退してくれないようじゃ防人の信頼がなくなっちゃうんじゃない?」

「う」

 随分痛いところを突かれてしまった。ま、まあ別に防人の信頼とか僕には関係ないし......。

「と、とにかくそんな感じで今危ないところなんだ。高原さんも危ない目に遭っちゃうから離れた方がいいよ」

 さて、改めて胡桃対策はどうしようか。それを堂次郎と話そうとすると、高原さんがなんとこんなことを申し出てくれる。

「あら、それならちゃちゃっと手伝ってあげてもいいわよ」

「え”」

 しまった、おもわず変な声が出てしまった。当然それを聞き逃さない高原さんが目を吊り上げて問いただしてくる。

「なによその顔」

「いや、だって」

 不意打ちとかで僕を攻撃してきそう、という本音はぐっとこらえて。

「お、女の子をこういう戦いに巻き込むのは気が引けて」

「あら、そういう心配なら大丈夫よ。ほら、そいつはどこにいるの......って居場所が分からないんだったかしら?」

「う、うん。でも周りから人がいなくなったら胡桃も襲い掛かってくると思う」

「ならさっさと人気のないところに行きましょう。ほらほら」

 そういって僕たちを先導しながら人がいなさそうな場所へと歩き出す高原さん。随分自信たっぷり見たいだ。

「おい。高原とやらに任せて大丈夫なのか?」

「うーん、ちょっと心配だよね」

 堂次郎と顔を合わせてこそこそと話し合う。とりあえず、能力だけでも聞いておこうか。そんな結論を出して前を歩く高原さんに声をかける。

「あのさ、高原さんってどんな能力なの?」

「そうねえ......相手を絡めとる能力みたいな感じかしら」

「? あの、それだと曖昧過ぎるから「! 蔵介、高原、来るぞ!」

 僕が詳細を聞こうとすると、堂次郎が声を挙げる。そんなに歩いたわけではないけれど、大学の出口とは反対方向に歩いたからすぐに人気が無くなった。ただそれでも人がいる可能性はあると思うのだけれど襲い掛かってきたということは、胡桃は意外と焦っているのかもしれない。まあ何に焦っているのかは分からないけれど。

「ふむ、出来れば上木君と1対1で戦いたいんですけどね」

「あら、折角現れたレディに気が利いたことも言えないのかしら」

 そんな余裕を見せながら拳を構える高原さん。や、やれるのかな?

 真っ暗になったキャンバス内の建物と建物の間。僕たち以外に誰かが来るような気配もない暗い空間を、屋外灯が石造りの道と僕たちを照らしている。

 じりじりとお互いに間合いを詰めあぐねている中動いたのは胡桃だ。身体能力の向上という能力を最大限発揮した動きで高原さんの後ろにいた僕に向かって拳を繰り出してくる。

 避けられるのか? いや、1発目は何とか躱せるはずだから2発目を攻撃されないように躱してすぐに蹴りを繰り出そう。そんな僕の考えは甘すぎた。

「! はやっーー」

 拳の軌道が見えない。聞こえてくるのはヒュン! という風を切る音だけ。これは避けられない!

「......!」

 僕はとっさに腕をクロスして衝撃に耐えようとする......が、予想している衝撃が来ない。

「蔵介! 今の内だ!」

「......え?」

 恐る恐る腕を顔からどけると、振るおうとしていた拳が空中で制止している胡桃の姿が目に入った。状況はよくわからないけど、どうやらチャンスみたいだ。

「なら......喰らえ!」

「!」

 僕が繰り出した前蹴りは胡桃の制止させられていない方の手で受け止められる。そっちの手は動くのか。

 ただこのチャンスは逃したくない。そんな僕の考えに応じてか体が勝手に動いて、もう片方の足で胡桃の顎を蹴り上げようとする。しかし、胡桃が受け止めた僕の足を弾いたことによってその攻撃を繰り出すことはできなかった。その場に尻もちをついてしまう。

「いてて......」

「ふむ、随分厄介な能力者を連れてきたようですね」

「あら、女性に対して厄介だなんて失礼じゃない?」

 不敵に微笑む高原さん。ただ、高原さんの能力は相手の動きを止める系のものらしい。つまり、攻撃の一手がないということに間違いはない。

 でもその能力はかなり僕たちを助けてくれる要因になる。ようやくこれで胡桃と5分の勝負ができそうだ。


3対1でようやく5分5分の闘いだ。

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