59話
ーーー今から1時間ほど前の出来事。僕はある考えが浮かんだ。
「堂次郎はさ、どんなゲームを作りたいっていうのはあるの?」
「ふむ......。実は、ちゃんとした目標はないんだよな」
少し考えてから言い辛そうに口を開く。そこで思いついた僕の考えを言う前にさらに別の考えが浮かんで口に出す。
「じゃあなんでゲームを作っているの?」
「うーん......まあ恩師がいるから、だな。その恩師にお礼がしたくて」
本当に言葉を探しながら、ゆっくりと言葉にしていく堂次郎。これはあんまり触れてほしくない話題のようだ。
適当に納得したような相槌を打ちながら最初に思いついた考えを口にする。
「えっとさ。シナリオが書けないなら、シナリオがないゲームを作ればいいんじゃない?」
「どういうことだ?」
興味津々な様子で僕の話に耳を傾ける堂次郎。
堂次郎の作ったゲームはすでにインターネット上に公開されていて、グラフィックやゲーム性、音楽などシナリオ以外はかなりの高評価をもらっている。ならばシナリオがないゲームを作ればいいのでは、という考えはおかしくないはず。そのことを堂次郎に伝える。
「ふむ、シナリオがないゲーム」
「そうそう。まあシナリオがないっていうか最低限でいいゲーム。リズムゲームなんかはシナリオがいらないし、スポーツゲームは大体が大会の優勝が目標でしょ? もう決められた道筋があるならシナリオとか書きやすいんじゃないかと思って」
「ふーむ」
まあもちろんそういったゲームも良いシナリオがあるとほかの作品より頭1つ抜け出るけれど、とりあえずそういった最低限のシナリオを書くゲームを作ればよいのではないだろうか。
「例えば、スポーツゲームならどうなる?」
「トーナメント形式にして、昔からのライバルを2回戦ぐらいで負けさせたり、勝ち上がりそうなキャラを負けさせたりしよう」
「そうなってくると登場人物のキャラクター性が重要か」
「そうだね。濃いキャラクターをたくさん用意しないと」
そんな風に話を続けていくと、お互いのお腹が鳴る。大分時間が経っていたようだ。
「そろそろ飯にするか」
「だね。その前に飲み物買ってくるね」
「ああ、先に食堂で待ってるぞ」
「ん」
そんな会話をして食堂前の自動販売機にやってきた。どうでもいいんだけど、ここは意外と人通りが少ない。まあ飲み物を買うだけの場所だしね。一応椅子はあるんだけど、ここでまったりするなら部屋か食堂にいた方がいいし。
そんなことを考えながら飲み物を購入する。ガコンと落ちてきた飲み物を取りだすために身をかがめると、誰かの声が聞こえてくる。
「上木蔵介君、ですよね?」
「へ?」
間抜けな声を出しながら振り向くと、緑色の装束に身を包んだ忍者がいた。顔まで隠れた服装からでも体格の良さが分かるのは肩幅の広さのせいか、高い身長のせいか。
「どうも。私、『栞奈御庭番』の一人、胡桃でございます」
丁寧にお辞儀をしてくる胡桃。杏と同じ組織に所属しているにもかかわらず、杏の時とは全く対応が違う。これは闘わなくても良さそうな雰囲気。
「どうも、上木蔵介です。えっと、今回はどういった「ところで、上木君。君は『知識』をどう思いますか?」
僕の質問に被せて質問してくる胡桃。え、えっと?
「知識は人々を豊かにしてきました。そして、これからも豊かにしていくでしょう」
「はあ」
「例えば、プリンに醤油をかけるとウニのような味になります」
「それって関係あります?」
「聖書の中で人を殺しているのは悪魔よりも神が多いです」
「それって関係あります?」
「上木蔵介はすき焼きが好物」
「それって関係あります?」
なんで僕の好物を認知しているのだろうか。まあその話は一旦置いておいて。
「それって知識というよりも豆知識ですよね。最後のは豆知識というか情報というかなんというか」
「ですが知識には違いありません。知識というのは人を豊かにするのです」
「まあ例が悪いですけれど、同意見ですよ」
「そこで、ですね。上木君、君の能力を教えてください」
僕は一歩後ろに下がって胡桃の出方を伺う。やっぱりこの人も敵みたいだ。
「嫌だ。......ていうのも、目的が分からないんだよ。君が僕の能力を知りたいように、僕も栞奈御庭番の目的が知りたい」
「なるほど。知識には価値がありますから。等価交換ということですね。ちなみに経済学者のカール・ポランニーは非市場経済において等価は市場メカニズムでなく慣習または法によって決められると論じていました」
「いや、その知識はどうでもいいけど」
知識が豊富なことをアピールしたいのかな? なんというか、色々とつかみにくい人だ。
そんなことを話していると、堂次郎がひょっこりと顔を出してくる。
「おーい、蔵介。何やって......誰だ、コイツ?」
「あ、堂次郎」
「どうも。栞奈御庭番の一人、胡桃です」
胡桃がぺこりと堂次郎に頭を下げる。堂次郎も「お、おう」などと言いながら頭を下げる。僕はそんなやり取りがどこかおかしいと思いながらも、胡桃に話を戻される。
「さて、上木君の能力は何ですか......っていうのは等価交換ですよね。私たち栞奈御庭番の目的は、栞奈様の幸せです」
「いや、そんな曖昧なことじゃなくてさ。それがなんで僕の能力を知ることと関係しているのさ」
「それは上木君の返事次第です」
......うーん。一応、栞奈御庭番は僕の命を狙っていない。ただ、僕の何かを狙っている。僕の能力という情報を渡してもいいのだろうか?
少し悩んでから口を開く。
「僕の能力は『2重人格』。君が目的をそれ以上詳しく話さないなら僕もこれ以上話さない」
「ふむ......まあ、一歩前進できたのでよしとしましょう。それでは、闘いましょうか」
「はぇ? ーーーうわあ!?」
ビ! っと空気を切り裂きながら僕の頭の横を通り過ぎる胡桃の拳。よ、よく反応できたね、僕。
そんな風に自分を褒めながら身構える。
「な、なんで闘う必要があるのさ! 情報の交換が終わったんだから帰ってよ!」
「そういうルールだからですよ」
「ルールって何さ!」
「知識不足なのが悪いです」
「僕が悪いの!?」
理不尽すぎる! そんな風に言い合いをしていると、胡桃が再び攻撃を仕掛けてくる。足払いだ。高い身長ゆえの長い脚が予想以上に早く僕の足を払う。
「うわ!」
「すぐに終わらせます」
胡桃は足払いの勢いを殺さずにその場で回転して、とんでもない速さの回し蹴りを繰り出してくる。これは、避けられない!
倒れてゆく僕の顔と胡桃の足が接触する、寸前。胡桃の足が視界から消える。
「ぐえ」
僕はその場にうつぶせに倒れながら状況を確認する。すると、体勢を崩した胡桃と、足払いを仕掛けた堂次郎が視界に入った。
「お前が蔵介を狙っているということは、防人を狙っているようだな。つまりは、防人のリーダーを倒すことが栞奈とやらの幸せにつながるようだ」
堂次郎がそんなことを言っている間に胡桃は体勢を立て直して拳を構える。
「あなたたちの頭の回転の速さは羨ましいですね。頭脳勝負も悪くないのですが......力でねじ伏せましょう」
「うっそ。あんなに知識の大切さを語っていたのに?」
あんまりにも驚いて茶々を入れてしまう。
「私の能力は身体能力の大幅な向上です。具体的には筋力を5倍程度に増加させます」
「もう知的キャラなのか筋肉キャラなのか判断できないよ」
まあ能力をすぐに教えてくれたということは残念ながらそこまで知的なキャラではないようだ。
「さあ、戦いを始めましょうか」
ジリ、と間合いを詰めてくる胡桃。この人の頭の良さはあんまりみたいだけど、能力が事実なら正面から闘うのは厳しいのでは......?
ちらりと堂次郎の方を見ると、堂次郎も同じ考えのようだ。お互いにアイコンタクトを飛ばしあってから、身構えて、駆け出すーーー
「さあ、かかってきな、......さい......」
ーーー出口に向かって。これは僕の能力と堂次郎の能力だけでは何とかできない。ここはいったん逃げてどうにか突破口を見つけ出さなきゃ。
「堂次郎!」
「ああ、おんなじことを考えているはずだ!」
「それじゃあ「ああ。次の作品は鬼ごっこのホラーゲームだな!」全然僕と違うこと考えてるじゃないか!」
そんなこんなで僕と堂次郎は暗くなった大学のキャンパスの適当な物陰に隠れたのだった。
重要なような、そうでもないような回想。




