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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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58話

 とある竹林の中に堂々と建っている白と黒を基調とした屋敷。この屋敷にたどり着くためには、広い竹林の中にある複数の獣道から正しい道を歩き続けなければいけない。ここで育った人間か、道を教えてもらった者しか入ることはできない、ある種隔離された場所に屋敷は立っていた。

 その屋敷の広い庭。整えられた盆栽や池などが特徴的なそこでは、蔵介と闘っていた杏が修業を行っていた。そんな杏に声をかける者が現れる。

「杏、どうだった?」

「栞奈様。それが、あまりいい報告はできそうになく......」

「ふーん」

 近くの木に体を預けながら、一見どうでもよさそうに呟く『栞奈』と呼ばれた者。ただ、栞奈はその場から離れようとせず、その場で話の続きを聞き出す。

「なんで勝てなかったんだと思う?」

「それはもちろん、白川雪音が近くにいたことですね。彼女はあまり闘いたくないと思っていたし、上木も白川を逃がすと思っていたので、正直その辺りが誤算でした」

「ふむ」

 素振りをしながらも冷静に返事をする杏。栞奈は質問を続ける。

「それじゃあ上木蔵介はどうだった?」

「そうですね......」

 そこで素振りを止めて顎に手を当てて考え始める杏。どう表現すればよいのかを考えているようだ。

 杏は今までも栞奈のために動いたことがあった。そのときに目立つような失敗はしたことがないので、淡々と報告を済ませていた。今回の蔵介との闘いも例にもれず、成功ではないものの失敗でもないはずだ。だが、こうして杏は言葉を探している。

 そんな杏を見て興味深そうに口を開く栞奈。

「すごく強かったとか?」

「いえ、決してそんなことはありません。身体能力は普通。放った毒針も2発目で気が付いたというところで、まあ人より敏感といったところでしょうか」

「へえ。あの毒針を2発目で......感覚は鋭いのかもね」

「かもしれませんが、特別強いというわけではなかったです」

「じゃあ何に頭を悩ませているの?」

 当然の疑問。杏は言葉をまとめてから口を開く。

「闘い慣れしているというか、対応力があった気がします」

「気がする?」

「はい。まだ1度しか闘っていないのではっきりと言い切れませんが」

「ふむふむ。ちなみに、どういうところが?」

「白川が強いのはそうなんですけれど、白川に攻撃の『仕方』を指示していたのが上木なのです」

「ふうん。場数はこなしているみたいだね」

「そのようです」

 そこまで報告してから改めて素振りを再開する杏。これ以上報告することはない彼なりのという意思表示だ。

「して、次はどのように?」

「うーん。......胡桃くるみに動いてもらおうかな。もし会ったらそう伝えておいてくれる?」

「かしこまりました」

 会話が終わると、栞奈は普段の表情のまま、のんびりとした足取りでその場から離れていく。

(これはちょっと難航しそうな話だな)

 のんびりとした足取りは余裕の表れだろうか。それとも不安によって足取りが重くなったのだろうか。今は分からない。


「あー疲れた」

 僕は寮の自室に戻って椅子にどっかりと腰を下ろした。いやはや、まさか早速襲撃に遭うなんて。

 あれから体の痺れがなくなってから雪音と二人で漫画を買いに行き、その後雪音と別れて講義を受けにいった。清木教授には直接報告しようと思ったけれど、清木教授から折り返しの連絡もないことから、何かしらの用事で手が離せないと考えた僕は、杏と闘ったことをメールで報告しておいた。

 窓の外はオレンジ色に染まっている。これから何をしようか。夕ご飯を食べるには早い時間だし......

 そんな風に持て余している時間の潰し方を考えていると、扉がノックされる。

「蔵介、今大丈夫か?」

 この声は堂次郎かな。もちろん時間は持て余している。

「全然大丈夫。入っていいよ」

「それじゃあお邪魔してっと」

 ガチャリと開いた扉の先には予想通り堂次郎がいた。小脇には紙と筆記用具を抱えている。なるほど、用事が分かった。

「今日も新しいシナリオ?」

「ああ。添削頼むぜ」

「僕も別にシナリオが得意とかじゃないんだけどね。何回も言っているけど」

 ーーーそんな会話をしたのが丁度1時間ほど前。僕たちは薄暗いキャンパス内を走っていた。まさかもう現れるなんて......!

「はあ、はあ、はあ」

「ゴホ、ごっほ! おえええ!」

「馬鹿、堂次郎。大きい声出しちゃだめだよ......!」

「す、すまない」

 ひゅーひゅーと苦しそうな音を喉から立てる堂次郎。

 とりあえず今は適当な物陰に隠れて相手の出方を伺っているところだ。何とかやり過ごせればいいんだけど。

「あ、あいつは何なんだ?」

「そんなの僕が知りたいよ......。確か胡桃、だっけ? 栞奈御庭番とかそんなのを名乗っていたけど」

「あと、顔まで隠れる装束に身を包んでいたな。色はなぜか緑色だったが」

 僕たちが逃げている相手はずばり、杏も所属している『栞奈御庭番』の一人、胡桃という奴だ。なぜかみんな名乗っていくので名前という重要な情報は簡単に手に入る。

 ただ、ここで疑問が生まれるはずだ。敵は一人しかいないのに、なんで逃げているの? と。もったいぶらずに話そう、今回の相手は僕たちに対して分が悪すぎる。

「どこに行ったのでしょうか? 上木蔵介君」

「「ーー!!」」

 背筋が勝手に伸びるような底冷えする声がすぐ近くから聞こえる。僕と堂次郎はほぼ同時に物陰から飛び出して再びキャンパス内を走り始める。

「見つけましたよ」

「堂次郎、とりあえず中に入るよ!」

「ああ!」

 聞こえてくるのは僕と堂次郎の足音だけ。流石忍者、足音を消して走るのなんて造作もないということか。

 講義が終わる時間を過ぎたキャンパス内にはほとんど人が歩いていない。誰かがいることを願いながら適当な建物内に飛び込む。

 そしてすぐに辺りを見回す。するとラッキーなことにまだ明かりがついている部屋がある。とりあえずその周辺にいれば敵は襲ってこない......と思う。

「堂次郎、とりあえずあの講義室の前で話そう」

 返事をする元気もないようで、黙って頷いて足を動かす堂次郎。うーん、やっぱりある程度運動はしないと日常生活に支障が出るんだなあ。そんな生暖かい視線で堂次郎を見ると、堂次郎が睨んでくる。

「忍者から追われることを日常生活というか?」

「勝手に心を読まないでよ」

 まあとりあえず、ここからは対策について話し合おう。堂次郎もすぐに頭を切り替えてくれる。

どんな奴が相手なんだろうか。

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