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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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57話

 体から力が抜けていく感覚の中、僕は結構冷静だった。理由は簡単で、恐らくだけど杏は『殺し屋』ではないからだ。

 今の場面でどうやって僕に毒の塗られた針を飛ばしてきたのかは分からない。だけど、杏の口ぶりから察するに致死性のある毒もあるのだろう。なのにあえて致死性がない麻酔を使ってきた。動けなくしてから僕に確実に止めを刺すというのは雪音に押さえつけられているので難しいはず。そもそも、殺すことが目的なら時間がかかろうが確実に殺せる毒を選ぶべきだ。

 という以上の考察より、杏は僕の命を狙っている殺し屋とは別ということが推察できる。ここで雪音に運んでもらってどこかへ行くのもありだ。ありなんだけど、それだと疑問と不安が残る。

 杏は殺し屋ではない。ならなんで僕のことを襲ってきたのか。また杏は『栞奈御庭番』とやらのメンバーでもあるらしい。つまり、今回は僕の能力や強さを測りに来ただけで、他の御庭番とやらが僕を殺しに来るかもしれないとも考えられる。

 そもそも、いきなり殺し屋の話題が出た翌日にこうして襲われているというのがおかしい。なんでわざわざ警告された翌日、まだその話題を鮮明に覚えていて警戒しているときに襲ってきているのか。杏が殺し屋であるか否かは確定的ではないけれど、殺し屋と関係している可能性は高い。

......ちょっと悩ましいけれど、ここは相手の顔を拝見して情報を得よう。髪の色でもなんでもいいから情報を手に入れたい。ただ、僕は今動けないので雪音に頼むことにしよう。

「ゆ......ね」

「? なに?」

 あ、あれ。口がうまく動かない。......って、麻痺しているんだからそれもそうか。でも何とか口を動かしてこちらの意思を伝えないと。

「あ、...ふ、......ぬ、,,,,,せ、て」

 『杏の服を脱がせてほしい』というだけなのにすごく時間がかかる。それでもなんとか口を動かす。

「ふ、く......」

「服? どうしたいの?」

「ぬ、...が、て」

「服、脱がせて、でいいの?」

 ようやくお願いが伝わった。僕は大きくうなずく。一方、雪音は顔を赤める。? どうしたんだろう。

「春奈さんが言ってたけど、蔵介って結構筋肉が付いてるんだよね。確かに見てみたかったけど......本人が言ってるんだし脱がせて大丈夫だよね」

 なにやらボソボソと呟いている雪音。本当にどうしたんだろう。

 僕が声をかけようとすると、雪音が能力を使い始める。

「そ、それじゃあ行くね。えい!」

「え?」

 突然膝を着いている体勢だった僕の体が押さえつけられて、無理やり両腕を上げられる。そのまま服が脱がされて行って......

「ちょ、,,,ストップ......ゆ、雪音」

 僕が止めようとするも、その間にするすると服を脱がされて行ってしまう。これ、人が集まってきたらまずいのは僕も同じなんじゃないかな。

「こ、これでいい?」

 少し時間が経つと、上裸になった僕が現れた。これでよくはないです。

「え、えっとね......って、あれ。喋れる......?」

 僕がどうにか短い言葉で意思を伝えようと口を動かすと、自分の口がうまく動くことに気が付く。体は相変わらずうまく動かせないけれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。

「雪音、脱がしてほしいのは僕の服じゃなくて杏の服。あいつの顔が見えるようにしてくれない?」

「あ、脱がせてほしいってそういうことだったんだ。ごめん、すぐにやるね」

 顔を赤くしながら僕の体を見ている雪音が能力を使う。すると、ブチ! っという布がちぎれる音が杏のいる場所から聞こえてくる。いや、破かなくてもよかったんだけどね。

「さあお顔を見せてもらおうかな......って、これは」

 顔を上げて杏の素顔をみると、杏の顔には顔のパーツがなかった。これはまるで、

「人形の素体みたいだね」

「え? あ、うん。杏の素顔の話ね」

 ようやく自分で破いた杏の服の下に目を向けたようだ。なんだろう、雪音がふわふわしている。いや、いつも雰囲気がふわふわしているんだけど。

 それはさておき、これは大きな前進だ。これで雪音が能力で攻撃しても、ダメージがないように見えていた理由が判明した。あとはこの人形がどうやって動いているのかを見分ければほとんどこちらの勝ちだ。

 というわけで、またまた雪音にお願いする。

「雪音、杏の服を全部剝いじゃって」

「はいはーい」

 軽い調子で返事をした雪音の声色からは想像できないくらいブチブチと千切れていく杏の服。相変わらず雪音の能力は凄いなあ。

 そんな風に感嘆している間に杏の......いや、正確には杏が操る人形の素体があらわになる。肌色一色の素体。筋肉の盛り上がりなどは最低限しか表現されていなくて、関節部分には球体がはめ込まれている。うん、どこからどう見ても人形だ。

「......あれ?」

「どうしたの、蔵介」

「銃とか、筒は?」

「??」

 雪音が頭に?を浮かべているのが分かる。ただ、これはおかしい。僕は針で刺されて、体がうまく動かせなくなっている。なら、その針を飛ばすための道具が何かないとおかしい。なのに、いまその場にあるのは雪音が破いた服と人形の素体。あとは斬りかかってきたときの小刀が地面に横たわっているだけ。

 いや、そもそも。杏の能力が『自分で動くことができる人形を生み出す』というものだったとしよう。その人形を雪音が雪音が押さえつけている。この状況で人形が動くことができるようにするためには、一旦人形を消してもう1度出現させる。そして、雪音に押さえつけられているふりをしながら攻撃をするというのが現実的だ。ただ、これは考えにくい。1つは雪音が『手応え』を感じることができるということ。1度消えたのなら手ごたえがなくなったことを僕に報告してくれるだろう。もう1つは僕に針を刺すのに不必要な小刀が消えていないということ。凶器も人形の1部として出現させることができるという風に仮定したとしても、小刀を出現させる必要はないはずだ。なので、1度人形を消した時に小刀も消えていないとおかしいのだけれど、実際は小刀が転がっている。.......いや、こう考えさせるためのブラフだろうか? でもそうだとしたら、人形と一緒に出現させる凶器は人形が握っていなくてもいいということになる。ならば最初から人形を出すと同時に毒薬を僕に浴びせればよかったんじゃ......いやでも、杏は僕を殺そうとしているわけではないという推測もあるし......

「うーん、うーん」

 僕が悩みこんでいると、ふっと何かが人形の傍に現れる。

「ふむ、そろそろ人が来てしまうな」

「! 雪音!」

「サイコキネシス!」

 僕が雪音に声をかけるのとほぼ同時に雪音が超能力を使う。人形自体は雪音が押さえつけているようで、そこに超能力が直撃して、人形の頭部が耐えきれずにはじけ飛ぶ。そして本命の杏には、攻撃が当たらなかった。躱したとかそういう次元の話ではない。一瞬杏の姿が完全に消えたのだ。そして次の瞬間には杏が現れる。な、なにが起きているんだ?

「これ以上は能力が悟られてしまうな」

 本物と思わしき杏は、人形と同じように赤装束で身を包んでいる。ただ、人形とは違って、腰に刀と袋を提げている。そこから考えるとやっぱり凶器は人形に入らないみたいだ。

 他にもっと情報をもらいたい。そんな僕の期待通りにはいかず、杏が小刀を拾うと同時に姿を消す。

「次に会うときは、上木蔵介。貴様の真の力を見せてもらうぞ。それでは、な」

 一方的にそんな言葉を残していく杏。瞬きの間に人形も消えてしまった。う、うーん。いろいろ考えることが増えたけど、今一番にやらなくちゃいけないことは。

「雪音、どこか人目に付かないところに運んでくれない? 麻痺が解けるまで服が着られないんだ」

「わ、分かった。ごめんね、勘違いで脱がせちゃって」

 上裸の僕を誰にも見られないようにすることだろう。

雪音がいれば大抵は何とかなりそう。

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