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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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54話

「おい、蔵介! このままだと......!」

「分かってるよ! それにしたって今は走るしかないでしょ!」

「まったく、なんでこんなことになってるんだろうな!」

 大分暖かくなってきて、風が涼しい時もあれば生暖かい時もある。そんな春と夏の中間の季節を感じるA大学のキャンパス内を走っている僕と正。どちらも小脇には書類が入る程度のカバンを抱えている。

 先日の雪音防衛線が終わり、ようやく普通の大学生としての生活が始まった防人のメンバー。あれからしばらく時間が過ぎて、大分大学生活に慣れてきて余裕が出てきた僕と正は大分気が緩んでいた。もちろん授業には参加しているし、課題も提出していた。

 そういう余裕がある生活をしていると、「この課題は後回しにしても大丈夫かな」、とか。「新しいゲームが発売したしやろう」、とか。甘い誘惑に対しての抵抗はほとんどなくなっていた。

 そしてつい昨日。ゲームをしていた僕と正から、今週提出していない課題がないかという話題が浮き上がってきた。そこで僕と正は気が付いた。今日の正午までに提出しなければいけない実験レポートがあると。

 実験は毎週行われて、それに対しての『レポート』というものの提出を求められる。実験という科目にはテストがない分、このレポートというものだけで成績を付けられるので、1度でも提出を忘れると痛い目を見てしまう。

 レポートの存在に気が付いてから僕と正は徹夜でレポートを完成させて、そして今、提出場所へと走っている。時刻は11時50分くらい。走れば間に合わなくない。もちろん遅刻でも未提出よりかはマシだけれど、どうせ期限内に完成させたのなら期限内に提出したい。

「あ、いたいた。蔵介ー」

「正! 今何時!?」

「52分だ! 間に合うぞ!」

「オッケー!」

「......ちょっと止まって」

「ぐぇえ!」

 そんな風に息を切らせて走っていると、突然体が押さえつけられる。な、なんだなんだ?

「し、白川。何か用事か?」

 体を押さえつけられた反動による体の痛みで用事を聞けない僕の代わりに正が雪音に用事を聞いてくれる。

「私じゃなくて、この人が用事あるんだって」

「どうも。初めまして、上木蔵介君」

「うぅ......ど、どうも」

 うめきながら顔を上げると、女の子が二人いた。一人は、僕の幼稚園、小学校時代の幼馴染の白川雪音。少し垂れた目つきと常に上がっている口角から感じ取れるふわふわとした穏やかな雰囲気と、肩にかかる程度のさらっとした白髪が特徴的だ。

 そしてもう一人は初めて会う女性だ。雪音とは対照的に吊り上がった目つき。ただ常に余裕があるように笑っていて、非常に明るい雰囲気を感じる。茶髪のショートカットと、動きやすそうな服装から、全体的にボーイッシュだという印象を感じる。

 こんな女の子2人と話せるなんて非常に嬉しい......んだけど、今は状況が状況なだけに、あまり長話はしたくない。

「えっと、出来れば手短に話してもらえますか? それかまた後回しにしていただければ」

 そわそわとしながら女性に向き合う。すると女性は苦笑いをしながら返事をする。

「そんな長い話じゃないから。えっとね」

 一瞬間を開けてから、女性が僕の胸を指さしながら、自信たっぷりな表情で口を開く。

「君のことが好きなんだ」

 .......え? えっと、僕のここ(胸)が隙? 忠告ということだろうか? そうとしか考えられないよね。うん、そういうことだろう。

「分かりました。これから気を付けます。ありがとうございました。それでは! 雪音もまたね」

「え? あ、うん。またね......?」

 さっと早口で返事をして走り出す。が、どうにも正はその場でもたもたしている。

「ん? ...あ? ......え、んぁ?」

「何やってるのさ、正! 行くよ!」

「あ、......あ、ああ」

「単位落としちゃうよ!?」

「今すぐ行くぞ!」

 ようやく全速力で走り出した正と一緒にレポートの提出場所へ向かう。この程度のタイムロスなら、提出時間には間に合う......!

新たな火種が。


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