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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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51話

「......俺は君を、いやA大学を裏切って白川さんを危険に晒したんだよ? さっきみたいに殺す気で俺を襲わなくていいのかい?」

 少しふらつく頭を押さえながらそんな工藤君の言葉を聞く。まったくもってその通り、というか

「前提条件として僕は工藤君を許していないよ。雪音を危険に晒した奴ということで今すぐにでも殺してやりたい」

「じゃあなぜ」

「いや、僕は『防人』だから。この大学の生徒は守らなくちゃいけないんだよ」

 若干食い気味に答える。工藤君は驚いた表情で尋ねてくる。

「......盗聴器の情報だと、防人は昨日の夜に抜けたんじゃないのか?」

「ああ、あれは分かってた、っていうか予想できてたから、盗聴器のことを配慮しながら答えてたよ。清木教授とは打合せしてないけど、僕が今雪音をこうして助けられたってことは清木教授もなんとなく気づいてたのかも」

 そんな風に余裕綽々で答えていると、工藤君の僕を見る目が少し変わった。

「すごいよ、本当にすごい。ここ一週間の推理といい、そこまで頭が回るなんて」

「褒められても何も出ないよ。さ、清木教授のところに行って今後の待遇を決めてもらおう」

 特に僕は危害を加えられていないけど、防犯ブザーを敵組織に渡して、別の場所にもSOSがあるように見せかけて戦力を分散させる。これは今教授たちに対応してもらっているところだけど、こういう遠回しな邪魔ならやられている。さらに、こちらの機密情報なんかを敵に伝えているかもしれない。その辺りを想像するのには今持っている情報だけだと足りないのでちょっと分からないけど。

 まあとにかく、後始末は清木教授にということで。

「君ほど頭がいいなら俺の悩みに答えが出るかも......」

「そんなのカウンセリングの先生にでも聞いてよ。心理学の先生、美人らしいよ」

「それはそれで気になる情報だけど、今は君に答えてもらいたい」

 茶化すくらいの余裕がお互いにある。僕に余裕があるのはともかく、先ほどまでの攻防を見た工藤君に余裕があるのが妙だ。一応あれも牽制のつもりだったんだけど。

 そうなると、僕の能力は工藤君にバレている可能性が高い。加えて弱点も。そう考えると、僕一人でも勝てるとは思うけど、念のために援軍があった方がいい。なら時間稼ぎが必要かな。

「とりあえず、聞くだけ聞くよ。何?」

「君は、どうして白川さんにそこまで固執するんだい?」

 む。ちょっと予想していなかった質問だ。だけど、答えに悩む質問ではない。

「固執っていうかまあ、友達だしね。それに色々な奴に狙われていて大変そうだし」

 とりあえず正直に答える。固執とまではいかないけど、他の友達と比べて雪音に思い入れがあるのは、雪音が何回も危ない目に遭っているところを見ているからだと思う。

「ふむ。それじゃあもう一つ質問。白川さんが生まれつき病弱で能力者じゃなかったら、ここまで彼女に固執していたかい?」

「う、うーん」

 こちらは答えるのに困ってしまう質問だ。なんでいきなりそんなことを、と言いたい気持ちを抑えて、とりあえず質問に答える。

「多分、ここまで固執はしてなかったかなあ。もちろん、友達だから困ったときに助けるくらいはしただろうけど、病弱ならそこまで一緒に遊べていないだろうから友達になれたかも分かんないし」

 先ほどと同じように思ったことを素直に答える。工藤君の表情は真剣な顔つきに固定されている。

「最後の質問。もし病弱な人と凄い力を持っている人。どちらかと友達になれるならどっちとなる? ああ、人柄とか外見は全く同じだとして」

「それはまあ、力を持っている人かなあ」

 これも正直に答える。なんとなく、彼の悩みが見えてきた。本当になんとなくだけど。

「理由は?」

「いざって時に助けてくれそうだし」

「......ふう。やっぱり君もそんなものか」

 ため息を吐きながらそんな風に呟く工藤君。そんなものとはなんだ。

「俺は小学生のころ骨を折っちゃってね。ああ、能力とか関係なくだよ。ちょっと交通事故に遭っちゃったんだ」

 いきなり語りだす工藤君。時間稼ぎの意味も含めて、黙って話を聞く。

「入院した病室で一人の男の子と友達になったんだ。つばさっていう名前だ。想像がつくと思うけど、その子は病弱だった」

 ふむ。さっきから『病弱』という言葉に固執している気がしたのはこれか。そんなことを考えながら話の続きを促す。

「通っている小学校は同じ。身長が少し低かったかな。初めの頃は病弱って言ってもたまに病院に来ればいいっていうぐらいだった。そんな翼がね、いじめられ始めたんだよ。病弱で体が細いから女みたいだなんて言われてね」

 むう。小学生特有のよくわからないいじめ方だ。聞いていて気分がいいものではないなあ。

「そんな風に虐めてくる奴らだったけど、ある日転校性がやってきて少し環境が変わった。体が大きい男の子が転校してきたんだ。そいつは転校してからケンカは一切しなかったけど、腕っぷしが強いっていう噂が流れて、たちまちみんながそいつを慕うようになったんだ」

 少し寂しそうに話す工藤君。眼鏡越しの瞳を細めて、ゆっくりと話す。

「そんな体が大きい彼が転校してきたんだけど、翼へのいじめは終わらなかった。もちろん俺だって止めてたよ。でも多勢に無勢でいつも俺たちは怪我をしていた。そんなある日、いつも通り僕と翼が殴られているところに噂の転校性が通りかかった。俺は言ったよ。『腕っぷしが強いなら助けてくれ』ってね。でも、転校生は俺たちを見捨てて離れていったんだ」

「......」

「結局いじめられたことによるストレスやけがのせいか、他の要因のせいか分からないけど翼の体調は悪化。めったに学校に来なくなって、原因が今通っている小学校と判断したんだろう、翼は転校していった。俺は思ったよ。力があるやつは手を差し伸べてくれない癖に頼られるし、特に何もない奴は転校生を慕う一方、翼みたいなやつをいじめる。こいつらが俺から友達を奪ったんだ......!」

 途中からなんとなく言いたいことは分かった。初めはゆっくり話していた工藤君が最終的に声を荒げる。それに関しては同情する。同情するけど......

「言いたいことは分かったよ。君が雪音や、入学したての僕を嫌っていた理由もよく分かった。でもね、言わせてもらうと雪音は能力を持っていたせいでいじめられていたよ? 能力があるって判明してからね」

「だから力があるという理由だけで嫌うな、と?」

「うん」

 僕は素直にうなずく。工藤君は顔を強張らせて口を開く。

「それは無理な話だよ。正直、俺は白川さんがいじめられていたと聞いて気分がいいくらいだ」

「ひねくれてるなあ。......あのね、工藤君。そもそも僕は雪音が能力者になる前から友達だったんだよ」

「......」

「さらに言えばね、僕が雪音にここまで入れ込んでいるのは雪音の『超能力』が理由じゃない。超能力が原因で『雪音が危険な目に遭う』。これが僕が入れ込んでいる理由だよ」

「......ということは、なんだい。君は人を力で判断しないということか?」

「まあ、そうだね。少なくとも能力だけでは判断しないかな」

 若干戸惑っている様子の工藤君。というか、僕みたいな人珍しくないと思うけどね。

「それじゃあ、何が理由で白川さんと友達になったんだい?」

「えー......そんなの覚えてないよ。でも、話しやすかったっていうのはあるかな。雪音はいつも微笑んでいた気がするから、そういう雰囲気もすごく居心地が良かったし。ああ、もちろん今でもふわふわとした穏やかな雰囲気を持っていてすごく居心地がいいよ? 外見も相当可愛いよね。肩にかかるくらいのさらっとした白い髪に緩い目つき。なんていうか、天使? あとは「いや、もういいもういい」

 工藤君が呆れた表情で僕を止めてくる。うーん、もっと雪音の魅力を語りたいんだけど......

「まあ、まとめるとね」

「ふむ」

「いろいろな奴らに狙われて可哀想だから『守ってあげたい』。ずっと関係を持っていたいから『友達』。それだけだよ。君だって、翼君と友達になる時に『こいつは力を持っている』とか考えてなかったでしょ?」

「それは、そうだけど......」

 工藤君の悩みというのが何かは結局聞いていない。ただ、その悩みが原因でA大学を裏切ったり雪音を傷つける行為をしているとしたら、それは間違っている。

「......俺は、悩んでいる。というか、目を背けているんだ。」

 工藤君がぽつぽつと胸の内を吐露し始める。

「無能力者でも、超能力者に媚びずに対等に接している人がいる」

 決して大きくない声量なのに確かにコンクリートに反響する工藤君の声。気のせいか、気温が高くなってきたような気がする。

「能力者でも、他の人間に手を差し伸べる人がいる。そんな人がいるってことに」

 そこまで語って、ふーっと息を吐く工藤君。

「どちらも君のことだよ、上木蔵介君」

 そんな僕を褒めるような言動とは裏腹に、なぜか眉を吊り上げてこちらを睨んでくる工藤君。

「ただ、君を認めるわけにはいかない」

「いや、別に認めてもらわなくていいけど」

「君を認めるということは、俺の今までを否定するということになるんだ」

「? ちょっとよくわからないんだけど......」

 今までの自分を否定することになるってどういうこと? 僕はきょとんとしながら尋ねる。

「俺は翼が引っ越して以来友達を作ったことがない。人をいじめるような奴と一緒にいたくないから。人に手を差し伸べられない奴が許せないから。だけど、君と出会ってから、世の中そんなやつばかりじゃないのかもしれないと思っている」

「いや、実際にそんな奴ばっかりじゃないよ。いい人多いよ?」

 僕の茶化しにも反応せずに話を続ける。

「でもね、それを認めてしまうと、今までの自分が間違っていたってことになる。無駄に過ごしていたということになってしまう。今までの努力が、無駄になってしまうんだ」

 矢継ぎ早に語る工藤君。う、うーん......。

「いや、でももしその生き方を貫いちゃうと、ずっと正しい生き方ができなくなっちゃうよ? 工藤君の過去が無駄じゃなかったとは言わないし、無駄だったとも言わない。でも、もし間違っていたことを認めないなら、これから自分がしてみたい生き方は絶対にできない」

 確かに、今までの生き方を変えるというのは決して簡単ではない決断かもしれない。でも、これは絶対だ。

 というか、

「過去の自分と今の自分だったら僕は今の自分に従うね。今の自分は過去の自分の集大成。過去に経験した良いこと、悪いこと全部に適応させたのが今の自分だもん。誰と比べても絶対に正しいとは言えないけれど、過去の自分と比べたら今の自分がやりたいことをやるのが正しいと思うよ」

 僕の考えを聞いて工藤君は僕を睨んでいる表情を地面に向ける。何かを考えているようだ。

 しん、となんの音もしない空間が続く。僕が黙って工藤君を見つめていると、静寂を切り裂く音が入ってくる。

「おーい、上木君! 大丈夫かい?」

「あ、清木教授」

 静寂を破ったのは清木教授だ。正や朝倉君、堂次郎もいる。どうやら援軍が来たようだ。

「さ、工藤君。いこう」

「......上木君。君が認めさせてくれないか? こんな俺を」

 瞬間、ゴウ! と音が鳴る。あたりに視線を飛ばすと、雪音の周りにだけ高い炎の柱ができている。

「これはなんのつもり? 工藤君」

 自分でも声が冷たいのが分かる。ただ、そんな僕の声には一切動じない表情の工藤君がいる。

「黙らせてくれないか。こんな風に超能力者を、白川さんを危険な目に遭わせる俺を」

「......清木教授、襲撃してきた能力者を外に連れ出してください」

「おい蔵介。俺たちもこいつを倒すの手伝うぞ」

 正がそんな申し出をしてくれる。でも、助太刀はいらない。

「大丈夫。絶対に勝つから」

「いや、お前が負けたら白川が危ないだろ」

「うむ。元々蔵介殿についてはあまり心配していないでござる」

「いや、僕のことも心配してよ」

 冷静な堂次郎と朝倉君のツッコミ。もっと僕を大切にしてほしい。

 はあ、と僕はため息を吐きながら口を開く。

「とりあえず、大丈夫だよ。というか、同じ学校の生徒に手を出すなんてこと防人はしちゃいけないでしょ。清木教授たちだって手は出しにくいだろうし。そこで防人を脱退した僕の出番ってことだよ」

「......わかった、君に任せるよ」

「いいんすか? 清木教授」

「うん。工藤君の処遇についてはあとで決めるよ」

 言いながら倒れている襲撃者たちを回収していく清木教授と正たち。その間僕と工藤君は無言でにらみ合う。

 一通りの回収が終わり、清木教授たちが地下室から出ていく。それと同時に工藤君が口を開く。

「安心してよ。白川さんが熱さで死んでしまうことがないようにはしているから」

「もし雪音が熱さで死ぬことになっていたら、僕は一瞬で君を殺していたよ」

 メラメラと燃える炎はまるで、僕と工藤君の闘志を表しているようだ。地下室を照らしている白い蛍光灯よりも強く、強く僕たちを照らしている。

「君を全力で殺しに行く。だから、君も全力で殺してよ。『こんな考えを捨てられない』俺を」

 工藤君は過去の自分に決別を付けたいようだ。ただ、そんな彼の思惑はどうでもいい。そんな彼の決心はどうでもいい。

 俺は能力を使って戦闘態勢に入る。

「こんな回りくどいことしなくても殺してやるよ、工藤」

 静かに呟く。気づけば握られている拳に血が集まっていくような感覚が気持ちいい。

「お前がなにを考えていようが、何をしようが関係ねえけどよ」

 この口調は、相手に威圧を与えるために作られたもの。どうせ分泌されるアドレナリンを無理やり出しているのは、絶対に最高のコンディションでいるためのもの。

「雪音に手ぇだしてんじゃねえよ!」

 この『二重人格』は、雪音を守るためのものだ。


さあ、第1部のラスボス戦だ。

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