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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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50話

「えっと、確かこのあたりだったと思うけど......。もしかして、ここかな?」

 僕はスマートフォンを片手にSOSがあった場所までやってきた。大学の隅に位置する石造りの小屋。なんでこんなところで転校手続きが行われていたのだろうか? 

「まあ、行ってみればわかるか」

 早速金属製の扉を押して中に入ろうとする......が、何かが扉の前に置かれているのか、ほんの少ししか扉を開けることができない。どうしようか。

「とはいえ、時間がない......!」

 僕は力の限り扉を押す。ほんの少し扉が開いたということは、つっかえ棒のように完全に開けられなくなっているわけではないはず。 

 グーっと力をかけていると、扉の前に置かれているものが動く。そして、ほんの少し開いた扉の隙間から僕の目に入ってきたのは、......手だ。間違いなく、人の手。

 誰かが扉の前で倒れている。もしかして、雪音ーーー?

「ーーー」

 それを確認した瞬間、俺は『能力』を使った。扉を力の限り引っ張ると、メギャンという金属特有の響く低音と共に扉が引き裂かれながら外れる。これで問題なく小屋の中に入れる。

「大丈夫か?」

 早速扉をふさいでいた人の頬を叩きながら声をかける。倒れていたのは雪音ではなく男だ。この人は、誰だろうか? 肩から血を流していて、大分重症に見える。流石に清木教授に報告しないといけないか。そう思いスマートフォンを手にもつと、部屋の隅から声をかけられる。

「......上木、そいつは警備員。大丈夫、こちらで回収する」

「え、立花学長?」

 部屋の隅にいたのは、立花学長だ。壁にもたれかかって座り、どうにもつらそうな表情を見せている。

「どうしてそこに」

「雪音にここまで運んでもらったんだけど、扉に頭をぶつけられちゃって、ちょっと立てなくなっちゃったから、なんとか壁際まで......ってそれはどうでもいい」

 脳震盪という奴だろうか。本人はどうでもいいとは言っているが、流石にそれはまずいのでは。そう思い肩を貸そうとする俺を手で制してくる立花学長。

「私より、早く雪音を助けに行って」

「でも、さすがに」

 もちろん僕だって雪音をすぐに助けに行きたい。でもすぐにそうしないのは、敵がまだこの先にいるからだ。どうやら見た感じ、この小屋は地下への階段とつながっていて、出入り口は僕が今壊した扉しかない。要するに、敵を逃すことはないということだ。

(助けられない可能性を怖がって、言い訳するなよ。早く雪音を助けに行くぞ)

 さらに言えば、今雪音は恐らく戦闘不能にされているのだろう。雪音、というか超能力者が戦闘不能にされるほどの敵がいる。ならば増援を待ってもいい。

(そうしている間に雪音は何をされているんだ? 能力さえあればいいと考えられているなら、腕や足を切り落とされているかもしれないんだぞ)

 そんなこと言われても、僕一人で何とかできる相手なのだろうか? もう敵の予測はついている。そのうえ、敵は一人じゃなくて複数人ーー

 複数人だったら、なんだ?

 自分でいろいろと考えている間に、痛いほど強く拳が握られていた。そうだよ、だったらなんだよ。

 敵が強いなら、そんな強い奴の前に雪音がいるんだ。

 敵が複数人いるなら、敵に囲まれている状態で雪音がいるんだ。

 僕は清木教授に電話をかけて、通話が繋がる前に立花学長にスマートフォンを預ける。

「ーーー分かりました。電話は立花学長に預けます。これで清木教授に連絡してください」

「気を付けて。......本来私はあなたを止めなくちゃいけないんだろうけど。でも、あなた以上に雪音を何とかしたい」

「分かっています。僕だって、僕なんかより雪音を優先してほしい」

「そう言ってくれると思った。雪音にあなたみたいな人がいてよかった。頑張ってね」

「はい」

 そこから通話を始める立花学長。あとは、僕が何とかするんだ。まあ、何とかなるんだけどね。

 立ち上がりながら早速能力を使う。ここから邪魔になってくるのは、先ほどのような僕の『理性』。合理的な判断、危機管理能力、臆病さ、警戒心、優先順位の選定......全部いらない。

 今からやることはただ1つ。雪音を助ける。それだけだ。

 歩き始めながら能力を使って、軽く体を『危機状態』にする。こうやって無理やりアドレナリンを出すのは慣れている。これで痛みを感じにくく、かつ身体パフォーマンスは最高に。

 俺は階段を下りながら能力を使う。これでもう、誰にも負けない。俺は絶対に負けない。

 なぜかかなり崩れている階段を下りて白いコンクリートが支配する空間へ身を投げる。まず目に入ったのは、2人の男と2人の女だ。どちらも見覚えがある。一人は、康太。『スプリット』という能力を使役する。もう一人は泰三。引き寄せる能力を使役する。そして残りの二人はどちらもまったく同じ容姿だ。これは『ゾンビ化』させる能力者の女で、もう片方が雪音なのだろう。なるほど、ゾンビ化させれば体格や能力を無視してゾンビにできる。超能力者をとらえるには賢いやり方だ。

「おっと、真打登場か。盗聴器が付いているのに気がついていたかい? 君が一人で来ることは分かっていたよ」

 そんな声がどこからか聞こえてくる。これは昨日の夜俺を気絶させた奴だ。俺は肩をすくませながら余裕綽々で答える。現にこいつら相手ならかなりの余裕がある。

「まったく予想通りの面子だ。どいつから殺されたい?」

「状況が分かっていないのかい? ああ、自己紹介が遅れたよ。昨日は無様な姿をどうも。『超能力者』の水見琴葉みずみことはだ」

「俺が余裕だと言っているのに、丁寧な自己紹介どうも」

 一歩前へ出ると、視界に映っている三人が身構える。ただ、三人とも精神的な余裕があるようで、表情は柔らかい。

「さて、君も私たちの仲間に入れたいんだよ。昔暴れていた、上木蔵介君」

「意外と有名人なんだな」

 声がコンクリートに反響して、どこに琴葉がいるのか分からない。声の高さから予想するに女だろうが、それくらいの情報しか得られない。

「君の能力はなんとなく予想しているよ。『二重人格』......じゃないよね。本当は、『刃物を作り出す能力』......だったり? まあなんにせよ、刃物はかかわってくるよね。今までの穏やかな君は演技ということで話はついている。人格の演技ならいくらでも誤魔化せるけど、能力はごまかせないんだから」

「その能力の予想の仕方は、俺が昔人を刺し殺したのを知っているということか」

「ご明察」

 そう、俺が中学生のころに雪音が初めて攫われる現場を目撃したとき。誘拐犯に拘束された俺は能力を使って誘拐犯を刺し殺した。その後特に罪を問われなかったのは正当防衛と、能力者を一般人に教えないためだ。

「で、俺が殺人犯だって知ってるのに雪音をさらったということは......殺される覚悟はあるんだよな?」

 俺はもう一度一歩前へ出る。もうおふざけは一切なしだ。余裕な態度を潜めて、怒りを......『殺意』を体から噴出させる。

 そんな俺の様子を見て顔を引きつらせる三人。だが、超能力者の琴葉はどうにも余裕な態度だ。

「殺される覚悟はないよ。君を殺す覚悟ならあるけどね!」

 足音は一切なかった。ただ、ヒュン! という風を切る音が耳に入った。その一瞬後に、俺の首に衝撃が来る。

「......あれ?」

「こんなもんか?」

 が、特にダメージはない。俺は攻撃された方向に拳を振るう。まあ敵の姿が見えないので当たるとも思っていない。そんな予想通り拳は虚しく空を切った。

「ど、どういう?」

 困惑した呟きが耳に入るが、それを無視して俺は視界に映っている奴らに向かって進む。

「まずはお前だ」

 俺は一歩力強く踏み込んで、康太に向かって拳を振るう......寸前、横から引き寄せられてバランスを崩す。

「今だ!」

 そんな泰三の声を引き金に、俺に向かってナイフが3本飛んでくる。一直線に飛んでくるもの、俺の両脇から攻撃するもの、といったところだろうか。俺はそれを無視して泰三を殴り飛ばす。

「ぐえ!」

 当たったのは胸の辺り。バランスを崩した一発だが、泰三が倒れる。もちろん、ナイフの処理をしていなかったので俺に向かってナイフが飛んでくるが、やはりダメージはない。

「やあ!」

 そんな俺の頬に何か衝撃が加わる。が、ダメージはない。

「......どういう、こと?」

 俺のすぐそばで呟きが聞こえる。何とはなしに声がした方へ蹴りを繰り出してみるが、やはり空を切る。まあいいや。

 俺は俺に当たってその場に転がったナイフを拾い上げる。......ん?

「これ、プラスチック製か」

 ぺちぺちと刃の側面を手の上で躍らせながら呟く。もしかして、金属探知機か何かが配備されていて、それの対策でプラスチック製のナイフにしたということだろうか。丁寧に金属のナイフに見えるように色が塗られている。ということは、雪音に向かってこれを投げて当たってしまったときに、万が一雪音に怪我をさせても命までは取らないように設計されているということだろうか。で、金属製に見せかけているということは、雪音に脅威だと思ってもらいたい、つまりナイフに意識を向けたいということか。

 さらに言えば、今俺に向かってナイフを投げたのも、効果がないということは分かっているが、注意をナイフに向けて、琴葉に俺を攻撃させることが目的、ということか。

「なるほど」

 よく考えられているなあ。俺は勝手に納得しながらナイフを構えて倒れている泰三に近づく。

「な、なにを」

 ナイフがプラスチック製だと分かっているからか、泰三には余裕がある。立ち上がって俺と対峙する。

「こ、来いよ!」

 何とか虚勢を張っている様子だ。まあ琴葉や康太がいて数的有利があるからな。

「行くぞ」

 俺は一切躊躇せずにナイフを振るう。避けるのがギリギリという泰三の肩にナイフの刃が当たる。すると、

「......え、......え?」

 ナイフが泰三の肩に食い込む。そこから鎖骨までナイフが突き進む。

 事態をほとんど理解できていない様子だった泰三。真ん丸に丸めた目から、徐々に自分の体に気が付いたのか、ポロポロと涙がこぼれ始める。

「う、うわあああああ!」

 と同時に絶叫。だが、言ったはずだ。

「殺される覚悟はあるんだよな」

「あ、ああああ! ああああああああ!」

 俺は一旦ナイフを泰三の体から引き抜いて、再びナイフを振るう......寸前、俺の利き腕が何者かにつかまれる。というか、『透明化』の超能力を持つ琴葉だろう。

仁美ひとみ! こいつを無力化するんだ!」

「--ふ!」

 俺は短く息を吐きながらもう片方の肘で、俺の利き腕をつかんでいる見えない何かを攻撃する。

 ゴキリ、と鈍い感触が肘から伝わってくる。

「ぐ、ああああああああ!」

 耳元で叫ぶ琴葉。俺は続いて拳を振るうが、当たらない。攻撃を食らって怯んでいても簡単にいく相手ではないということか。

 ちらりとゾンビ化させる能力の持ち主......恐らく今呼ばれた仁美という名前だろう。その仁美に目を向ける。こちらを襲ってくるかと思いきや、予想以上に早く琴葉を対処されて動けていない様子だ。俺が拘束されるまではこちらを襲ってくることはないだろう。

 俺は改めて肩から血を流しながら地面を転がっている泰三に向かってナイフを構える。すると、後ろから誰かが飛び蹴りを仕掛けてくる。

「やめろ!」

「うおっ!」

 当然意識していなかった方から攻撃を繰り出されて、避けることもできずに背中で受け止める。が、特にダメージはない。それどころか、一切体勢を崩さない。

「な、なんでだよ!」

 焦ったような康太の声。俺は一旦攻撃目標を康太に変更する。

「なあ、お前と泰三が最初に俺たちを襲った理由って、2つあるよな」

 俺は語りながら、後ずさりする康太に向かって歩を進める。

「1つは、飯野がスパイであるということを認識させないことだ。敵は『外部から能力者を襲いに来る』っていう概念を俺たちの頭に刷り込ませること、だよな?」

「だったら、なんだっていうんだよ!」

 ナイフや人間の打撃ではびくともしないと考えたらしい康太は、階段が砕けた際にできたであろう石をいくつかこちらに向かって投げてくる。そしてそれを、

「スプリット!」

 一気に分裂させて全方位から俺に向かって攻撃する。が、どれも無駄だ。俺に当たる石はどれも破砕音を立てながら砕けていく。もちろん、俺には傷一つついていない。

「そん、な」

 俺は戦意を失いつつある康太に握っていたナイフを投げる。それを慌てて避ける康太に一息で近づいて、『能力を使った』拳を振るう。

「吹っ飛べ!」

 ゴキャ! という砕ける感触が拳に伝わる。俺の拳は康太の鼻に正面から命中した。

「ぶッーーー」

 そんな口の中の唾を吐き出すような音と一緒に康太が吹き飛んだ。そのまま白いコンクリートの上に大の字に仰向けで倒れて、ピクピクと痙攣することしかできなくなる。

 そんな康太に背を向けて俺は大分息を落ち着けた泰三に向かって歩き出す。

「もう1つは、襲う対象の能力者は誰でもいいという概念を刷り込ませるため。正はともかく、無能力者と調べがついている俺ですら襲ってきた。ほとんど無能力者な俺を狙ったというのが肝だな。相手には戦力がなくて誰でもいいから欲しがっているという必死さ、余裕のなさも勝手に刷り込ませられるんだから」

 俺はぶつぶつと話しながら泰三に拳が届く範囲に入る。

「や、やるのか!?」

「ここまで来てやらないわけないだろ」

 若干あきれたように呟きながら、俺は足を踏み込む。が、その攻撃はうまくいかない。

「い、今だ!」

「うわっと」

 グン、と今までよりも強く体が引き寄せられる。攻撃するときの踏ん張りが崩されるだけでなく、そのまま泰三に向かって倒れこむような強さだ。

 そして、そんな俺を見逃すはずもない。泰三が倒れこむ俺の顔に膝蹴りを当ててくる。

「グっ!」

 さすがに今のはぐらッと来た。だが、逆にこの倒れこむ推進力を利用して......!

「ッラああ!」

 俺は泰三の顔面をつかんで、後頭部を地面にたたきつける。ゴチン! という鈍い音と赤い血を後頭部から出しながら泰三も仰向けで動かなくなった。

「っふう。こいつらが最初に俺たちを襲った2つ目の理由で、清木教授たちは俺たちに人員を割く必要がある。だから、お前らの本当の目的も達成しやすくなる......はずだったんだが、予想していなかったことが起きた。だよな、仁美?」

「......なんのこと?」

 とぼけた返事をする仁美。ゾンビに変えた雪音をこちらに攻撃させて来るかと思いきや、自分の傍らに待機させて一切動かさない。なんというか、変だなあ。

 違和感を感じながらも俺は話を続ける。

「『防人』の誕生が飯野から伝えられたんだろう? 障害になる人員を割くどころか、障害が増えてしまった。だから、お前が俺たちを襲いに来たんだ」

 俺は言いながらじりじりと仁美との間合いを計る。康太や泰三とは違って、たった一度首の後ろに触れられただけで俺は無力化されてしまう。

「ふう」

 俺は息を吐きながら上着の一部を破く。上着は紙のように簡単に破くことができた。もちろん、俺の能力だ。

「仁美が俺を襲いに来た時点で『防人』に入っていたのは俺だけ。加えて、俺はあくまで『学生』。俺がほかの生徒を守る前に攫われたりしたら流石に防人という組織を解体せざるを得ない。だから俺がほかの能力者をメンバーに誘う前に俺を襲いたかった。これが康太の襲撃の翌日に俺を襲いに来た理由だ。康太が退けられたばかりだというのに襲撃が連続した理由、だな」

「.......」

 仁美は肯定も否定もせずにこちらの出方を伺っている。そろそろ動きだすか。急いでいるわけではないが、あまり戦闘を長引かせたくないというのが本音だ。

 お互いの手が決して届かない距離から間合いを詰めていく。俺が仁美に向かって拳を振り上げると、ゾンビ化した雪音が立ちはだかる。姿は仁美だが、雪音を攻撃することは俺にはできない。俺は一旦拳を下ろして一歩下がる。

「.......(クスリ)」

 仁美が微笑む。どうやら、無敵の武器を手に入れたと考えているようだ。先ほどまでのおびえた態度から一転して、雪音を俺にけしかけてくる。

「くっ」

 俺は唸りながら少し下がる。それを追って雪音が攻撃を仕掛けてくる。

「雪音に殴られるなら本望なんだが......!」

 俺は雪音の懐に入り、襟元をつかんで柔道よろしく地面にたたきつける。もちろん、ある程度手加減はしたが、手加減しすぎるとそもそも投げられない。

 心を痛めながらもこの隙を逃さずに仁美に接近して、まずは一発殴り飛ばす。

「うぐっ......!」

「さあ、雪音を元に戻せ」

 無駄だとは思うが、一応雪音を元に戻すよう命じる。そんな俺に口の中から血を流しながらも、余裕を見せる仁美。

「......やだ。あいつはあなたに対して良い盾になる」

「そっか」

 まあそう簡単に戻してもらえると思っていない。俺は先ほど破いた上着の一部で、仁美の両手の親指同士を巻き付けて能力を使う。これでこいつはこれ以上ゾンビ化させられないはずだ。

「さて。俺は今からお前を殺す」

「......は?」

 きょとんとする仁美。言葉を理解できていないようだ。

 早速まずは一発、顔面を思いきり殴り飛ばす。

「......え、え?」

 鼻の骨が折れたのだろう、鼻から血を流し、目からは涙をポロポロと零しながら静かに状況を理解していく仁美。その場に倒れこむ仁美を、俺は無理やり胸元をつかんで立たせる。

「能力の『糸』っていうのはそいつの意識があるうちは機能するけど、意識がなくなると糸もなくなるんだってさ。お前が雪音を元に戻そうがどうしようが関係ない。お前が死んだら雪音は元に戻る」

 俺は淡々と説明しながら、次はお腹に拳を叩き込む。

「げぇっ! お、おぇ! や、やめて......」

「いや、だからお前を殺すんだって」

 俺は能力を使っているから特に良心が痛んだり罪悪感があったりしない。というか、それ以上に怒っている。

「雪音を攫おうとしたんだろ? 雪音を危険な目に遭わせようとしたんだろ? なんでのうのうと許してもらえると思ったんだ?」

 言いながらさらに怒りが湧き上がってきて、仁美を殴る拳に力が入ってくる。

「も、もどじだ......。もう、戻したから......」

 ちらりと後ろに目を向けると、先ほどまで仁美の姿だった雪音が元通りの姿で横たわっている。だけど、関係ない。

「いや、戻さなくてもよかったんだぜ? 結果は同じだから」

「も、ゆるし、いやだ......あ」

 能力を解除しても殺されるまでこの暴力が終わらないと理解した瞬間に、仁美の全身から力が抜ける。どうやら、気を失ったようだ。

「......ッチ、許してやるか」

 俺はその場に仁美を放り投げる。あと少しやることがあるからな。

「さて、あとは琴葉、お前と......もう一人、いるんだよな?」

「そうだね、鞭の能力を持っている男がいるよ」

 返事をしてくる琴葉。声に余裕はないものの、焦りなどもない。

 それと、鞭使いがいるなどと言っているが、

「いや、いるのはそいつじゃないだろ」

 鞭の能力。神様を進行していると思わしき男のことだ。こいつは解散させられなかった防人の時間帯による人員についての調査を行った。雪音の転校手続きがあるのは朝。そのことの調べはついていたのだろう。だからあの時もスパイの飯野を利用して朝の時間帯に襲撃してきたのだ。

 っとまあ、それはどうでもよくて。

「まあ、誰がいるかはわかっているんだが。お前を殺せばそれも分かる」

「......私の能力を完全に見抜いているようだね」

「古木さんを襲撃してくれたおかげでな」

 そう、琴葉の能力は『インビジブル』という透明化。一応超能力に分類されているようだが、能力の内容は『本人の』透明化ではない。本人と、もう一人の人間程度のものを透明化できるというものだ。

「古木さんという目立つ存在を呼んだのは清木教授の案。清木教授はお前らの本当の目的が『雪音を奪う』という可能性を考えたからだ。だから、古木さんという『護衛するべき対象』を増やしても雪音の警備は手薄にならない、つまり襲撃してきても雪音を奪うことはできないということをお前らに教えたかったんだな」

 いいながら俺は適当に辺りをぶらぶらと歩き回る。相手が見えない限りこちらから攻撃することはできない。相手からの攻撃を待っている状態だ。

「ただ、お前らはそれを逆手に取ったわけだ。古木さんの護衛の人数は雪音に比べてどうしても少なくなってしまう。さらに古木さんの護衛には俺たち防人が含まれている。防人の俺たちは学生だ、長い時間拘束はしないでおこうという清木教授たちの気遣いもあるだろう、古木さんがA大学から離れる前に俺たちは古木さんの護衛から外される。そこが古木さんを襲うタイミングだ。そして、古木さんが実際に誘拐される、と」

 俺の声が空しくコンクリートに反射していく。できる限り一度歩いた場所は歩かないように気を付けながら話を続ける。

「護衛もあっていつも以上にたくさんの人に囲まれていた古木さんは気疲れしたんだろう、人目に付かない大学の休憩所に足を運んだ。そんな古木さんを尾行していた伊達の能力で古木さんを幻覚内に取り込んだ。そして古木さんのスマートフォンのインターネット機能を切る。こんなの飛行機モードにするだけだからセキュリティ解除は必要ない」

 俺はジグザグに歩きながら部屋の壁際まで歩いていく。

「後は古木さんのライブ中に下見をしておいた人目に付かない場所、シアター室へと運ぶ。とりあえず、古木さんの捜索で雪音の護衛が少なくなったところを襲う間だけでも見つからないような場所だ。ただ、ここでおかしいのは意識を失くした古木さんをどうやってシアター室へ運んだのかっていうところだ。幻覚に取り込まれた人に触れると触れた人も幻覚に取り込まれる。それは超能力者でも同じだ。だから、古木さんは休憩所の時点では麻酔銃か何かで眠らされただけ。そしてシアター室まで運んで改めて伊達の能力で幻覚に取り込んだ。念には念をかけて、周りの音や気配に気づかれないように袋をかぶせて。で、伊達は幻覚をかけている本人だから、触れても問題なし、と」

 壁際まで歩ききり、壁に背を預けて、ただっぴろい空間全体が視界に入るように顔を上げる。

「最後に。ここでおかしいのは運んでいる間の琴葉は怪しまれないのかということだ。普通の人をおぶっているだけなら目立つくらいで済むかもしれないが、抱えているのはアイドルの古木さんだ。流石に人目についてしまう。だから、お前の能力は『自分と、人一人くらいのサイズのものを透明化できる能力』なんだ。そう考えれば、眠った古木さんを透明化させてシアター室まで運ぶ。この間は伊達も透明化せずに一緒についていくだけでいい。そして幻覚の能力を使った伊達を抱えて、休憩所のところで寝かせておけばいい。この間手は不自然に見えるかもしれないが、それだけで済む。流石に歩いている人の手をそこまで気に留めるやつもいないしな。で、早速雪音を襲おうと思ったら、あまり護衛が減っていなくてやむなく帰還したということだ。これは防人がお前らの予想以上に早く古木さんを見つけて保護したからだ」

 あの時清木教授がすごく喜んでいたのも、雪音の護衛を古木さんに回す前に俺たちが古木さんを保護できたから。つまり、雪音を危険に晒さずに古木さんを奪還できたのが嬉しかったというわけだ。

 俺は拳を構えて琴葉の動きを待つ。もしくは、もう片方のやつが動くか......? なんにせよ、い亜mは待つしかない。やれることはやった。

 全神経を視界の中の情報に集中させる。すると、視界の端で地面がほんの少し崩れる。

「っ!?」

「そこだ!」

 俺は一気に地面が崩れた場所へ駆けだす。当然、琴葉は避けようと足を動かすが、動かした先の地面が次々に崩れていく。

「何が起きて......!」

「っらあ!」

 俺は気合を込めた一発を空中に向かって繰り出す。すると、確かな手ごたえが返ってきた。

「ぐあ!」

「このまま......!」

 俺は横蹴りを繰り出し、琴葉の体勢を崩させる。ここしかない!

「うおおおおおお!」

 俺は能力を使って拳の『硬度』を上げる。金属に負けないほどの硬さの拳でとにかく、とにかく殴り続ける。

 どこに命中しているかも分からない。ただ、がむしゃらに拳を当て続ける。そしてついに、

「う......あ......」

 何もない場所から背が高く、短い黒髪の女が現れ、その場に倒れた。腕や破けた服の辺り、お腹や顔に至るまで怪我をしている。あざがあったり、内出血を起こしていたり、血を流していたり。泰三をナイフで刺そうとした俺を止めた時に食らった腕への攻撃のせいで、腕が使えなくなってしまったのだろう。なのでほとんど抵抗できずに攻撃を食らい続けたのだろう。それにしても、ようやく気絶してくれた。

「......ふう。これで、他の大学からの刺客は終わった、よね」

 僕は能力を解除していく。先ほどまでは血の硬度を変えて、脳に届く血の量を減らしていた。これによって強制的に体が危険状態に陥ってアドレナリンが出るようになる。また、記憶や感情というのは脳にある。そこに流れる血の硬度を変えて、強制的に記憶を封印する。これが僕の『二重人格』の仕組みだ。実際は記憶を司る脳の海馬のどこを止めて......などとは考えていない。指を動かすときにどの筋肉を動かしているかを考えていないのと一緒だ。ただ感覚的に記憶がある場所の血を制御して記憶を混同させていたのだ。だから昔の記憶を思い出すとき、二重人格が出るときに血が一気に流れ込むので頭が痛くなっていたのだ。

 僕の能力は、『自分と、触れたものの硬度を変える能力』だ。

「俺がいるのに、気を抜いていいのかい?」

 そんな風に、今の自分に理解させるように能力を頭の中で確認していると、聞いたことがある男の声が聞こえる。最初にスパイである飯野君が目を付けた、やけに僕と雪音を敵視する男。挨拶に行った僕が罵倒したという嘘の発言を飯野君の『発言したこと、書いたことを本当だと思い込ませる能力』で本当にしてもらった男。僕が無能力者の友達とご飯を食べているときに琴葉の所属する大学からスカウトを受けていた男だ。

「君だから気を抜くんだよ。僕がなんで敵が計画していたことを話していたと思う? あれは無意味なことじゃなくて、相手の襲撃の考えを聞いて君が改心してくれることを期待したからだよ、工藤君」

 そこには僕をトーナメントで負かした、眼鏡をかけた黒髪の男......工藤君がいた。


さあ、本命登場だ。

※すごく長くなってしまいました。ただ、こういうおふざけがない話は1話にまとめてしまいたかったのです。

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