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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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49話

 ーーーすこし前。大学の隅の方にある汚れた石造りの小屋。小屋の外壁には『火気厳禁』とだけ書かれている。はたから見ればこれはただの燃料置き場だろう。でも実はこの小屋には広い地下室がある。何に使われていたかは分からないけれど、せっかくだからということで私の転校手続きをここで行うことにした、らしい。地下室へ続く階段の前に設置して、そこの傍に護衛の能力者を一人立たせている。

「それじゃあ最終確認だけど、本当に転校する?」

 木の机に向かい合わせで座っている立花学長が少し寂しそうに尋ねてくる。この人の傍にいれば、ある程度の危機からは免れることができる。『ある程度の危機』から、は。

「うん。今までそうしてきたし」

 地下室の割に綺麗な白を主張しているコンクリート製の壁に私の返事が静かに反響する。

 今までそうしてきた。だから、『今までで』一番いい環境であるここを捨てて、『考えうる中で』一番いい環境を探す。他の人から見たらなんて立派な向上心だろう。私から見たら、どこまで自分を縛っているのだろう。

 ごちゃ混ぜになって、吐き出すこともできない感情を心の中で集めていく。そんな感情を持ちながらも歩みを止めるわけにはいかない。

「分かった、それじゃあ手続きを始める」

 私の意思を感じ取ってか、立花学長が説明を始めてくれる。

「聞き飽きていると思うけど説明させてもらうね。この転校は雪音が超能力者であるという理由でのもので、国からも認められている。他の人はめったにできない芸当でーー」

 今まで通り聞き飽きた説明を受けながら手続きを済ませていく。しばらく時間が経ったころ、ドサリと階段の方で重たいものが地面に落ちたような音がする。

「......! 糸!」

「--ふっ!」

 立花学長の切羽詰まったような声。それを聞いた瞬間私は階段に向けて能力を使っていた。例えるなら電柱のように太くて硬く、長いものを鞭のようにしならせて振るわれたような、大きな衝撃が階段にぶつかる。もちろん、私の能力だ。

 パラパラと砕けたコンクリートがあたりに飛び散る。何かに当たったような感覚はない。私は立花学長をかばうように立ち上がる。

「これ、まずい」

 私の背に隠れている立花学長が呟く。どういうことだろう。

「なにがまずいの?」

「雪音、防犯ブザーは持っている?」

 私の質問には答えずに質問を重ねてくる立花学長。持っているけれど......

「これって蔵介に連絡が行くんでしょ?」

 念のためにいつも持ち歩いている小さな機械をポケットから取り出して立花学長に見せる。

「蔵介をよんで何とかなる?」

「いいから押して」

 一切反論を感じさせないような声色。でも、そんな簡単に押してしまっていいのだろうか? 立花学長がこれを押せと言っているということは、この状況に助けが欲しいということ、つまり私では何とかできなさそうな敵がいるということだ。そんな敵と蔵介を戦わせるというのはどうも気が引ける。

 そんな風になかなか防犯ブザーを押さない私を見て焦れったくなったのか、私から奪うように防犯ブザーを取り上げて迷いなくスイッチを押す立花学長。

「く、蔵介が危ない目に遭っちゃうよ?」

 少し戸惑っているのが自分でも分かる。蔵介が危ない目に遭うというのが自分の今置かれている状況よりも怖いと思っているのだろうか? 

 そんな不安を抱えている私に立花学長が言う。

「大丈夫。これはきっと上木が望んていることだって......清治が言ってたから」

 どういうことだろう。その質問を投げかける前に立花学長が声を張り上げる。

「糸が来た!」

「--やぁ!」

 私は声を上げながらやはり階段に向かって能力をぶつける。先ほどと同じように感じられない手応え。ただ、今回はそれに加えて私の体に異変が起きる。

「体が......!」

 グッとどこかに向かって引き寄せられる。お腹の辺りからグイっと引っ張られるような感覚。当然お腹を見ても何かが巻き付いているわけではない。

「これ、もしかしてあいつの能力......ってことは、やっぱり」

 ちらりと立花学長の表情を見るとかなり青ざめている。この能力を知っているのだろう。そして、青ざめているということはかなり危険な状況ということ。......これは、まずいみたい。

 私は引っ張られる場所に向かって大きく能力を使う。

「『サイコキネシス』!!」

 目の前が歪むほど大きな衝撃。階段から部屋への入口付近の天井、壁、床をえぐり取っていく。階段はもう元の形を成していない。そんなことは気にせずとにかく引き寄せられている方向へ力を行使する。ただしこれは牽制だ。とにかく超能力を印象付けるための牽制。

 天井をえぐり、壁をえぐり、階段を壊し......そうしていると、引き寄せられる力がなくなった。視界は粉々になったコンクリートの砂埃で見えづらくなっている。今しかない。

「え? 雪音!?」

「先に逃げて!」

 私は超能力を使って立花学長を持ち上げて、出口に向かって運び始める。この視界の悪さだ、何かが飛んで来たら敵はよけることに専念するだろう。その考えがあったのか、体を引っ張る能力がなくなった。

 大体の感覚で小屋の外まで立花学長を運ぶ。感覚というのはここに入るまでにどのような道をたどったのかを思い出してできる限り早く外へ運び出す......目を閉じたままやるイライラ棒とでもいえばわかりやすいだろうか? まあ距離もそんなになかったし運ぶのは難しくない。

 問題はこれから立花学長が青ざめるほどの敵を相手にしなくちゃいけないっていうことなんだけど......。

「やれる、はず」

 私は誰に言うでもなく呟く。やらなくちゃ。だって私は、『超能力者』なんだから。

 そんな風に全神経を入り口に集中させていると、何かが飛んでくる。当然能力で弾く、が、弾かれた何かが視界の端で妙な動きを見せる。

「!」

 ピッと私の顔を通り抜ける何か。カラン、カランと力なく床に落ちたそれらに視線を飛ばす。私に向けて飛ばされていたものは、ナイフだった。それが、2つ。

「......」

 どっと汗が噴き出すのが自分でも分かった。もちろんナイフが飛んできたこと、つまりは命が狙われているということに汗が噴き出したのもあるけれど、それだけじゃない。

 先ほど視界の端で動いたのは間違いなくナイフだろう。ただ、飛んできたナイフは1本だった。それが分裂して私を襲ってきた。これはもう間違いなく『能力』だ。

 ただ、私はこのナイフに襲われる前に何かに引き寄せられていた。これも『能力』。人間は必ず1つしか能力を持てない。つまり、能力者が2人いる。これを理解した瞬間に冷や汗が噴き出したのだ。

 でも、やられっぱなしでいるわけにはいかない。敵の姿が今見えないのは出入り口が小さいから。階段の上の方にいればこちらから敵の姿は見えない。ただ、逆に言えばここを守っていれば敵がこちらに接触することはない。時間を稼ぐことはできる。

 そうと決まれば。私は出入り口から飛んでくるナイフにだけ集中して能力を使う。飛んでくるナイフは階段の上から飛んできて分裂する。これで出入り口から私に向かって飛んでくるナイフが完成する。さっきはこれを弾いたことで分裂してきてしまった。なので、次は能力で『つかむ』。空中でぴたりと一切動かなくなったナイフ。それをゆっくりと地面に下ろしても、特に分裂はしない。これなら問題なく対処できそうだ。

 その後も何本も飛んでくるナイフ。そのすべてが無意味に地面に転がる。一本ずつではなく数本まとめてこちらに投げられても問題ない。まとめて能力でつかむことだって難しくはない。もう飛んでくるナイフは脅威じゃない。

 そうして対処法を見つけたところで、先ほどまでなかった体を引っ張る力が再びお腹に掛かってくる。正直、踏ん張ればその場で止まっていることはできる。できるけれど、ナイフの能力の対処法が分かった。体を引っ張る能力も、言ってしまえばそこまでだろう。

「なら!」

 私はあえて体を引っ張る方向へ足を進める。今まで出入り口の小ささで見えなかった階段の上の方、まだ私の能力を受けていない場所がだんだん見えてくる。誰か人がいた瞬間に全員倒す。

 ドクン、ドクンと心臓がうるさい。大丈夫、私の方が早く攻撃できる。今も飛んできているナイフを止めることができている。大丈夫。

 視界は狭まり、呼吸は浅くなってしまう。頭がボーっとするような熱を感じながら、歩みを進める。普通に歩くより速度が大きいはずなのに、やけにゆっくりに感じられる。

 ......足元が見えた。やっぱり予想通り二人......じゃない。『三人目』がいる! 早く最高火力を叩き込まないと!

「ーーーサイコキ「隙だらけ」

 私の声に被せるような呟きは、私の背後から聞こえた。

「ふぇ?」

 そんな間抜けな自分の呟きが自分の耳に届く前に、意識が落ちた。

良くない状況。

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