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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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48話

『ねー、雪音ちゃんって好きな人とかいないの?』

『いきなりだね。なんで?』

『この間恋愛映画見たときに思ったの。雪音ちゃんって誰かを好きになるのかなって』

『んー、......特に、好きな人はいないかな。そっちは?』

『私はバスケ部の部長さん! かっこいいよね!』

『確かに。余裕があってすごくかっこいいよね』

『あ、倍率増やしちゃったかな?』

『安心して、好きにはなっていないから』

『それはそれでちょっと不満......』

『なにそれ』

『......雪音ちゃんのその笑顔、男の人なら放っておかないと思うけどなあ』

『な、なにそれ』

『その照れたような笑顔も。目線ちょうだーい!』

『怒るよ』

『ごめんごめん』


 ーーーちょっと前の記憶。高校時代に友達とそんな話をしたのを覚えている。私に好きな人はいない。それは今も変わらず。勘違いされているかもしれないけれど、蔵介も友人という目で見ている。特に恋愛感情は持っていない。

「恋愛、か」

 次の大学では私より強い能力者がいるかな? いてくれるといいな。もしもその人が男の人なら恋愛対象になるんだろうか? 全然想像もつかない。

「......はあ」

 口から漏れるため息。勉強道具が広げられている机から目を背けて、スマートフォンを弄って音楽を流す。勉強は常にしておかないと困ってしまう。先生によって教え方が、学校によって教える範囲が少し違うから、今いる学校での勉強に手は抜けない。そのせいで特待生になれるほどの成績になってしまった。まあ、超能力者だから元々学費が多少免除されているけれど。

 ふと空気を入れ替えたくなって窓を開ける。涼しい夜の風は部屋の空気を入れ替えてくれるけれど、私の心の中までは換気してくれない。なーんて詩人ぶっちゃったりもする。

 明日はいよいよ転校。大学生活始まって最初の学校は『ハズレ』だ。......ハズレ、のはずなんだけど。

「なんで」

 そんな言葉が口から漏れる。なんで少し、残念なんだろう。

 この大学には清木さんに立花学長という少し前から知っている人がいるからだろうか? 蔵介という幼馴染がいるからだろうか? でも、私より強い人がいないとそこには留まりたくないというのは私の意思のはずだ。いくら知っている人がいるからって、自分の信念を曲げてまで一緒にいようとするのは今までの努力をすべて否定する行為だ。決してそんなことをしちゃいけない。

 いけないのに。

「......ふう」

 部屋に入ってくる風がふわりと髪を持ち上げる。なんだか、難しい話になってきちゃったな。

 簡単な話のはずだった。『私を守ってくれる人を探す』。これだけ。決して間違ってはいなかった。自信を持って言える。

でも、時間が経つにつれてその考えが私を縛っていった......のだろうか? 自分でも分からない。でも、そうなんだと思う。

 居心地がいい空間を見つけても、そこに私を守ってくれる人がいなかったらそこから離れる。そんなことを繰り返すたびに、時間が過ぎていくたびに、引き返しづらくなってくる。

「......贅沢だなあ、私」

 ぽつりと呟く。今更考えを変えるわけにはいかない。『今までの努力と時間、居心地が良かった場所を捨てたんだ、それらを無駄にするつもりか!』。過去の自分が心の中で叫んでいる。他の誰にも言われたことがない正論だ。『悲しい正論』。それが四六時中心の内から私を責め立ててくる。居心地の空間にいても、私が私を責め立ててくる。

「......」

 つーっと、自分の頬を涙が伝っているのが分かる。でも、ぬぐう気になれない。なんだか、今は泣きたい気分だ。

 私、何がしたいんだろう。

 しばらくの間、綺麗に輝く月を見つめながら涙を流した。




「はあ、はあ、はあ」

 僕は息を切らしながらキャンパス内を走っている。灰色の空からサラサラと落ちてくる小粒の雨を体に浴びながら目指しているのは、能力者専用の寮だ。

 時刻は朝の7時。始発よりも少し遅れて学校へ戻る理由は、襲撃する人がこの時間から来ていたら先に倒すため。雪音の転校手続きが朝早くから行われるのなら、わざわざ大学内にとどまっているよりも雪音の転校手続きが始まってから襲撃した方がリスクは少ないと考えている可能性がある。これもやっぱり僕が考えすぎている可能性だけど、潰せるなら潰しておきたい可能性だ。

 そうは言っても、こうして遅れている間にほかの能力者が危険な目に合わせられるかもしれないと考えるだろう。それに関してはもう対策がしてある。カラオケボックスの中でスマートフォンを弄っていたのは、朝倉君に連絡しておいて、寮の外へ誰にも出ないように連絡するため。朝倉君は毎朝木刀の素振りをしているらしいので、彼に言っておけばとりあえず誰かが寮の外へ出ることはないだろう。......おそらく、あの二人を除いて。

「はあ、はあ、はあ......つ、着いた......!」

 大分時間がかかってしまったが、ようやく寮にたどり着いた。今からみんなに連絡をしておかなくては。

 軽く息を整えてから寮に入って、待機してもらっている食堂の扉を押す。中ではみんながご飯を食べながら待っていた。

「お、上木だ」「おい、これはどういうことだよ!」「そうだそうだ! 午前中にバイトがあるんだぞ!」「俺なんか彼女とデートがあるんだぜ!」「お前彼女いたのかよ?」「ちょっと話でもしねえか? おい」

「み、みんなごめん。今からちゃんと説明するね。.......っと、その前に。朝倉君」

「なんでござるか?」

 僕はあることが確認したくて、食堂の隅にいた朝倉君に声をかけた。

「とりあえず、みんなを集めてくれてありがとね」

「礼には及ばぬ。正殿にも手伝ってもらった故。して、拙者に何か話が?」

「うん。えっと、寮の中でここに集まっていない人はいる?」

「それなら、白川殿がいないでござるね。転校手続きがあるんでござろうな。あとは」

「ん、もう一人は分かってるから大丈夫。それじゃあみんなにささっと説明しちゃうね」

 そう、僕が予想していた寮に集まっていないある二人のうち一人は雪音のことだ。雪音が行う転校手続きは、出来る限り人目につかない場所で行われるらしい。理由としては単純に、雪音の転校先を誰にも知られないようにするためだ。超能力者が転校するとなったら、超能力者目的で学校に先回りされたり......まあ、いろいろ悪い要素が考えられるので秘密裏に行われるのだ。

 そしてもう一人は分かっているけれど、みんなへの説明が先だろう。

「おい蔵介、そろそろ説明しろ」

 話を頭の中でまとめている僕に急かして話をさせようとするのは、この間から僕を敵視している堂次郎のセリフだ。今日も僕を鋭い目つきで威圧してくる。この様子を見るに、どうにも僕への誤解は解けていないようだ。

「ごめん、少し確認したいことがあってね。それじゃあみんなを集めた理由を説明するね。えっとーー」

 僕が詳しく説明しようとした瞬間、ポケットの携帯電話が音を立てながら震える。この音、は。

 痛いくらいに跳ね回る心臓を抑えながら僕は携帯電話に表示されている文字を確認する。そこにはたった三文字が表示されていた。

『SOS』

「く、蔵介殿?」

 自分でもひどい顔をしているのが分かる。僕は今、怒っている。ただそれだけではなく、焦燥感や緊張感も持っていて、それらの感情が綯い交ぜになって表情になっているのだ。

 僕は強く唇を噛みながら頭の中でザっと発言をまとめて顔を上げる。みんなは先ほどまでの賑やかさと打って変わって、不安そうにこちらを見つめてきている。

「......いま朝倉君にはここに誰がいるのかを確認してもらっていた。なんで無理やりみんなを集めたかって言うと、ある事態が起きることが考えられたから。その事態っていうのが今通知が来た『SOS』。これは雪音からのSOSなんだ。雪音っていうのは白川雪音のことで、超能力者ね。その雪音が今SOSを出してる。それくらいの事態が起きているから、みんなは安全が確認できるまでここから出ないでほしい。そう思ってみんなを無理やり集めたんだ」

 かなり大雑把な説明。でも、みんなは僕の行動を認めてくれたようだ。緊張しつつも納得したような面持ちでこちらを見つめてきている。

「蔵介はどうするんだ?」

 そう尋ねてくるのは正だ。こちらは緊張というより、少し心配そうに僕を見つめている。

「僕はもちろん、雪音を助けに行く。これ以上質問がないなら助けに行くね」

「ちょ、ちょっと待って!」

 すぐにでも飛び出しそうな僕を誰かが止める。立ち上がって話を始めるのは、飯野君だ。

「なに? 手短にお願いね」

「君は防人でしょ? 白川さんがSOSを出すほどの事態なんだから、白川さんは教授に任せて俺たちを守ってよ。っていうか、君が行ってもしょうがないよね?」

 その発言に周りのみんなも『確かに』と納得した表情を見せる。えっと、どう説明しようかな。

「まずね、敵の正体を僕は知っているから僕が行くのが一番良い。あと、雪音ほどの能力者が襲われている事態なんだから、教授たちは僕たち一般能力者を守った方がいい。これは雪音を見捨てろっていうことじゃなくて、守るべき人間の数の問題だよ。僕がいること前提だけどね」

「君がいなかったらどうなっていたの? SOSを出している方にも助けに行って、俺たちの護衛もする。それが教授たちがやることじゃないの?」

 みんなの様子を見るに、飯野君の意見を支持する人が多い。一部の人は『それはそうだよな。防人が超能力者をひいきしているみたいだぜ』などと言っている。僕はみんなの安全を優先したという話なのに、どこかおかしいとは思わないのだろうか? って、思わないか。話しているのは『飯野君』なんだし。

 でもまあ、確かに飯野君の意見は筋が通っている。それが本人も分かっているからか、得意気に話を続ける。

「この事態を君が知っていたとしたら、もう教授たちには伝えてあるんだろう?」

「うん。昨日の夜にね」

「だったら教授たちも対策をしているはず。僕たちは大人しくここで「でもね、飯野君。君がいるからその作戦が使えなかったんだ」

「「「......?」」」

 飯野君も含めた、みんなの目が点になる。えーっと、説明すると長くなっちゃうから手短に。

「君、今襲撃してきている組織のスパイでしょ?」

「そ、そんなわけないじゃないか! どういうことか説明してーー「ここに上木君はいるかい!?」

 そんな飯野君の発言を遮ってやってきたのは清木教授と数人の大人だ。息を切らしている様子から走ってここまでやってきたようだ。実はこれは予想通り。

 僕が防人を抜けると言って襲撃者のところへ行こうとするのを、電話では好きにしろと言っていたけれど、なんだかんだで止めに来ると思っていた。一応責任者だしね。

 そして、この人が来るまでの繋ぎでわざと飯野君の質問に答えていた。SOSが出た時点で飛び出すこともできたのに、わざわざみんなに説明をしていた。これらは清木教授が来るまでの時間稼ぎだ。

「はい、ここにいます」

「よかった。いいかい、君は今から勝手な行動をしちゃだめだよ」

 僕が返事をするとやはり教授として、生徒の安全を守る発言をする。すごく教授として頼りになるんだけど、今は他にやってほしいことがある。

「その前に、清木教授。ちょっと飯野君のスマートフォンの電話、メール、SNS全部を調べてください。能力を使って吐かせてでも」

「......どういうことだい?」

 唐突な僕の要求に対して当然の返事。周りの大人も困惑している。

「彼はスパイの可能性があります。あるというか、間違いなく」

「上木、勝手な発言は控えろ。あとお前はこれから動くな」

 そう僕を止めてくるのはスーツ姿の巨漢のうちの一人だ。でも、あなたにもやってもらうことがあるんです。

「えっと、数人の大人がいますね。半分はここにいる能力者を守ってください。もう半分は、次にくる『SOS』のところへ行ってください」

「上木、今からお前を動けなくしてもいいんだぞ」

 殺気立つ巨漢。周りの大人も怪訝そうにこちらを見ている。自分でも信頼が得られないような発言の仕方をしているのは分かっている。でも、時間がない。時間がないんだ......!

「えっと、説明している時間がなくて......えっと、えっと」

 テンパってしまう。何から説明をするべきかわからない。焦るな、ここで話すべきは......!

「清木教授、飯野の能力を教えてくれないか?」

 そういって立ち上がったのは堂次郎だ。突然の質問に僕も含めて全員がキョトンとする。どういうことだろう? ............あ、そういうことか!

「飯野君の能力はたしか、『不安や緊張を感じない』っていう能力だよ。だよね?」

 答えながらも確認のために飯野君に確認を取る清木教授。飯野君も黙って頷いた。

 そんな清木教授にさらに質問を重ねる

「それはどうやって確認したんだ?」

「どうって、別に......何をしたわけでもないよ。能力者のテストで能力があることは分かっていたからそういう能力なんだね、で終わり」

 これは特におかしい話ではないだろう。僕だって能力があるか分からないときに能力者専用の寮へ入れられているのだから、能力者のテストというのが優先されるのはそういうものなのだろう。

 ただ、以上のやり取りでおかしいのは、飯野君の能力が僕たちの考えているものと違うということだ。そして、その矛盾もすでに理解できている。いるけれど、もうこれ以上は本当に時間を潰せない。

「堂次郎、もう理由は分かっているんだよね? 任せてもいい?」

「ああ。......悪かったな、今まで疑っていて」

 バツが悪そうに謝ってくる堂次郎。正直気分が良い話ではなかったけれど、堂次郎の考えも理解できるし、何よりこうして謝ってくれた上に助けてくれている。僕はもう一切怒っていない。

「気にしてないよ。そういえば今度新しいゲーム機がでるよね」

「遠回しにねだってくるな。早くいけ」

「ん」

 軽いやり取りをしてから僕は一つ頷いて、雨脚が強まった外へと駆け出していく。大人たちは戸惑いながらも僕を止めなかった。


目まぐるしく変わっていく状況。


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