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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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47話

 僕の過去を改めて話し終えると、正は僕を怪しむことをやめてくれた。僕も嘘はついていないけれど、嘘をついていると思われなくてよかった、というのがとりあえずの感想だ。

「それでこれからどうするんだ?」

 とりあえず一息ついたところで正が尋ねてくる。時間は日付が変わって少し時間が経ったくらい。今から何かをするというのには遅すぎる時間だ。

 だけど、どうしてもやらなくてはいけないことがある。

「えっと、今から清木教授に電話するから、正はちょっと部屋の外にいてくれない?」

「? 今からか? というか、なんで俺が外に出る必要が?」

「ほんの少しだからさ。正がスパイかもしれないっていうのもあるし」

「むう。あんまり気分はよくないな。お前の気持ちが少しわかった」

 文句を言いながらも部屋の外に出てくれる正。なんだかんだ気遣いができる男で助かる。

「さて、と」

 僕はスマートフォンを取り出して電子電話帳から清木教授の番号を見つけて電話をかける。一応補足しておくと、普通の人はこの時間に電話をかけても無視されるか怒られるかだ。そもそも、清木教授の電話番号を知っているというのもおかしい。これらは僕が『防人』のリーダーだからというのが理由で許されている。もちろん、それでもこの時間に他愛のない電話を掛けたら怒られるというのも補足しておく。

 プルルル、とワンコールで清木教授に電話がつながる。

『はいもしもし。どうしたの?』

「夜遅くにすみません。上木です」

『ん、分かってるよ。緊急事態?』

「いや、緊急事態ではないんですけど、明日......今日の朝までにやっておいてほしいことがあって」

『内容によるね。なに?』

「実はーーー」

 僕は頭の中でまとまっているここ一週間のおかしかった出来事を簡潔に伝える。加えて、敵が何を考えているのかを推測してそれも伝える。

『---ふむ。大体、俺の考えと一緒だね。穂乃果、やっぱり明日は対策しておいたプランにしよう』

「ほ、穂乃果......って、もしかして、立花学長ですか?」

 聞き間違いだろうか、今までの真剣な思考が一瞬で切り替わってしまう。

『え、うん』

 当然のように肯定してくる清木教授。そりゃあ、立花学長の秘書のような立ち位置の清木教授だ。立花学長と一緒にいてもおかしいところは何もない。ないけれど、

「......あ、あの、結構夜遅いと思うんですけれど」

 おかしくはないんだけれど、この時間に男女でこの時間に同じ部屋でいるというのがどうにも引っかかってしまう。

『へ? それが何か?』

 しかし、どうにもそれをおかしいことと思っていないようで、気の抜けた返事をしてくる清木教授。大人ってそういうものなんだろうか。

 というか、今は大事な話をしている。なのにそういう変なことを考えてはいけないだろう。まったく。

「能力で封印しようかな......」

『? 能力?』

「ああいや、なにも」

 どうやら呟いてしまっていたようだ。まだ清木教授には話すときじゃないだろう。僕の能力を話すときには準備が必要なのだから。

 僕は咳ばらいを一つしてから話の続きを始める。

「それで、清木教授たちには明日は一切動かないでほしいんですよ」

『駄目だ。こればっかりは上木君の意見でも通せない』

 やはりこの意見は通らない。ただ、こちらとしても退くことはできない。

「でも清木教授、言わせてもらいますけど、敵は能力者です。なんの被害もなしに勝つことは難しいですよ」

『だから、俺たちが動く。君は防人としてよく働いてくれているけれども、あくまでA大学の生徒の中の一人。こちらが被害に遭う分にはいいけれども、君を危険に晒すわけにはいかない。君の考えもふくめると、どうやら敵の目的は学生の能力者みたいだし』

 このまま押し切られてしまうわけにはいかない。僕は少し声を荒げながらも清木教授を説得する。

「僕たち防人なら被害を出さずに何とかできます。僕が言った通り、清木教授は動かないでください。他の生徒たちにも同じように伝えますから」

『そこまで言われても駄目だよ。それと防人に命令。『明日1日は勝手な行動を一切許さない』......いいね?』

「なら僕は防人をやめます」

 僕の一言は怒鳴るように言ったわけではない。でもなぜか、今の一言はカラオケボックスの中で強く反響した。

『......わかったよ。上木蔵介、君を『防人』から外す。他のメンバーには明日伝えるから、勝手に行動して』

 呆れたような声色で若干投げやり気味に僕に防人からの解雇を告げる清木教授。ただ、これは僕が望んだとおりのことだ。

「はい」

 僕は返事をしてすぐに電話を切る。......これでうまくいく。

「......話は終わったようだな」

 僕がスマートフォンを耳から離したのを見計らって正が個室に入ってくる。ドアは曇りガラスだけど、携帯電話をしまう所作くらいは見えるみたいだ。呼びに行く手間が省けてよかった。

「それで、どういう風にまとまったんだ......って、俺が聞くわけにはいかないか」

「まあそうだね。でも大丈夫、とりあえず一通り終わったら話すよ」

 僕はスマートフォンを操作しながら返事をする。外の音も一切入ってこない静寂の空間に耐えられなかったのか正が話始める。

「あー......、結局今までの襲撃は何だったんだろうな」

「実を言うと、理由はもう分かってるけどね。それを今清木教授に話していたわけだし」

「なんだと?」

 驚いた様子の正。ただ、一瞬後には熱を冷まして椅子の背もたれに体重を預ける。、

「でもまあ、話すわけにはいかない、だろう?」

「ん、そうだね」

 さて、とりあえずやるべきことは終わった。僕は椅子の上に横になる。ちょっと堅めの冷たいソファ。これだと明日は体が凝っていそうだ。明日は動き回るのに、なんでこんなことに......って自業自得かな。

「それじゃあ、僕は寝るね」

「そうか。俺は歌っていたいんだが、構わないか?」

 まだ歌うつもりなんだ。僕の意識が戻るまでずっと歌っていたようだし、そんなに歌って喉はつぶれないのだろうか?

「構わないよ。......あ、それと。正はできれば先に大学に戻ってくれない?」

 僕は忘れかけていた頼みごとを思い出して正に頼む。一応、正に断られても大丈夫だけど、念のために正にも協力してほしいことだ。

 デンモクを弄っていた正が首をかしげながら尋ねてくる。

「? 先に、ってどのくらいだ?」

「始発の電車で。僕は7時くらいに大学に着くようにするから」

「何か意味があるか? それ」

 当然の疑問。というか、ちょっと端折って説明しちゃっていた。何をしてほしいか言わないと。

「意味っていうか、ちょっと朝倉君を手伝ってほしいんだよね」

「? 何か頼んでおいたのか?」

「うん。まあ詳しくは朝倉君に会って聞いてよ」

 これ以上詳しく話さないスタンスの僕を見て正はあきれながらも、

「はあ、分かった。早めにここを出て朝倉を手伝えばいいんだな?」

「よろしくね」

 これでやり残したことはもうない、と思う。というか、もうこれ以上やれることがない。理由はある可能性が考えられるから。その可能性というのは、盗聴器のことだ。

 僕が気絶してから正が僕を助けるまでに多少時間があったはずだ。その際に僕に盗聴器を仕込まれている可能性が考えられる。正直言って僕はもうほとんど正を疑っていないのだけれど、僕に盗聴器が仕込まれている可能性があるのなら話は変わってくる。僕は正がスパイであることを疑う。そうすれば盗聴器について触れずに重要な情報を共有しない理由付けができる。さらにダメ押しに、清木教授に大事な話をすることによって本当に盗聴器に気が付いていないようなふりもした。まあ、清木教授に頼んだことは僕が本当にしてほしいことだったんだけど。これでもしも僕に盗聴器が付けられていたとしても、こちらにとって不利益になることはない。むしろこんなことに気が付かなかったやつなんて油断してくれるかも。......我ながら、完璧な作戦だ。

「へ、へへ。えへへ」

「な、なんだなんだ気味が悪い」

 思わず笑ってしまっていた。僕は咳ばらいを一つしてから目を閉じる。もちろん、僕が対策しているのは『仮定』の盗聴器だ。そもそもつけられていなかったら無駄な努力だと言えるだろう。

 でも、やれることはやっておきたい......いや、やれることはやっておかなくちゃいけない。それくらいの相手が敵なのだから。

ここまで頭を回している蔵介が警戒する相手とは。

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