46話
『もしもし、白川のママさん?』
『あら、蔵介君。どうしたの?』
『えっと、雪音なんだけど、すごい人気者だよ。みんなで一緒に下校してた』
『そう。なら、良かったわ。蔵介君も遅くならないうちに帰ってきなさい』
『えー? 雪音と遊んじゃダメなの?』
『そうねえ。できればおばさんも遊んでほしいんだけど、ダメなのよ。我慢してくれる?』
『......うーん。分かった、我慢するよ』
『ありがとね、蔵介君』
『もしもし雪音のお父さんですか?』
『おう、蔵介君か。いつもありがとうな。もう中学生で部活も忙しいだろう?』
『いえ、大丈夫ですよ。結構暇な部活ですし。それで雪音なんですけど、この学校でも元気にやってました。今は一人で下校しているところでーー『おい、あれが噂の白川雪音だ! 捕まえろ!』』
『蔵介君? 今の声は?』
『ーーー駄目だ、このままじゃ雪音が。雪音が危ない!!』
『蔵介君! とりあえず一旦その場から離れるんだ! 蔵介君!!』
『あなた、声を荒げてどうしたの?』
『まずい、蔵介君が......!』
『へへへ、しっかり眠らせたおかげで問題なく運べたぜ。これで俺たちは大金持ちだな! ......それで、こいつはどうする?』
『んー! んー!』
『それだけ血を流しておきながら元気だな......友人か何かだろうか? ......ん、この校章、随分遠くの中学校だな』
『もしかして、以前の中学校で恋でもしてたのか? はははは! 残念だったな、小僧! この子は今から人を殺す機械に代わるんだよ!』
『ん!?』
『ふん、短い恋だったな少年』
『......』
『なんだあ、黙っちまった』
『ショックで黙ったんだろう。この年だ、放心もするだろう。まあ関係なくこいつも殺すが』
『......誰を、殺すって?』
『『!!!』』
『許さねえ。なんで雪音がお前らみたいなカスに危ない目にあわされなくちゃいけないんだよ......! ふざけんじゃねえよ! そんなに殺してほしけりゃ殺してやる!!』
『お前、どうやって、縄で縛られてた、血も流してるのに』
『落ち着いて麻酔銃を打て!』
『お前らみたいなゴミども死んじまえ! 死ね! 死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね!! う”お”あ”あああああああああああ!!!!』
『目撃者によりますと、女子中学生1名と男子中学生が1名誘拐されたようです。今は二人とも解放されていて、二人が捕らわれていた倉庫には二人の男性が死亡していました。どちらも何か鋭いもので斬りつけられたような傷があり、警察は誰かが助けに来たが誘拐犯を殺してしまい自分も罪に問われることを危惧して逃げたという方向で捜査を進めているようです』
『蔵介君! 良かった、意識が戻ったのね!』
『あ、えっと、どちら様ですか?』
『え、......く、蔵介君? 私たちよ? 雪音のお母さんとお父さん』
『ゆき、ね? それって僕の友達ですか?』
『...........か、上木さん。私たち、どうお詫びすれば』
『本当に申し訳ございませんでした! 私たちの満足のために蔵介君を危険に晒してしまい......!』
『ああ、いえ。我々としては命が助かったのなら言うことはないですから。そもそも勝手にこいつが無茶をしただけで』
『それに、この病室に運ばれるまでにも、意識が戻るまでにも何度も謝っていただきましたし、頭を上げてください』
『し、しかし!』
『蔵介君は記憶喪失に......!』
『えっと、お父さん、お母さん、『大丈夫』?』
『......そうねえ。今は事情を話した方がいいわよねえ』
『ああ。蔵介、『大丈夫』だ』
『---どうも、雪音のお父さんお母さん。ご心配おかけしました。雪音の小学校のころからの友達、上木蔵介です』
『おい、お前』
『へ? ぼ、僕ですか?』
『とぼけてんじゃねえぞ。お前、『白川雪音』のこと知っているだろう?』
『ゆ、雪音は僕の小学校の頃の友達ですけど』
『......お前、なぜか白川がどこにいるか分かるらしいな? ちょっと捕まってもらうぜ』
『や、やめてください! 誰か!』
『こんな人通りのないところ誰も来ねえよ。おら、縄で縛るから腕を出せ!』
『グハッ! わ、分かりました! 分かりましたから殴らないで!』
『よおし、分かればいいんだよ。......っと、これで完璧だ。おら、着いてこい』
『......』
『おい、返事を......し、......ろ......』
『こんなもんで俺を縛ろうとしやがって』
『な、なんで縄がちぎれて......ま、まさか、お前、最近暴れている......』
『雪音に手ェ出そうとしてんじゃねえぞ』
『ひっ......つ、強がってんじゃねえぞ!!』
『殺してやる』
『ねえ、雪音ちゃんしってる?』
『んー? どうしたの?』
『なんかね、このあたりで暴れている人がいるんだって! ほら、今日のニュースもそれで持ちっきりだよ!』
『ん、知ってる。なんか私の転校した高校の周辺ばっかりこうなるんだよね』
『えー? もしかして、雪音ちゃんがなんかやってる?』
『あはは、それなら夜道も気を付けなくて済むね』
『んふふー、言ってみただけ。あ、そうだ。今日帰りに映画見に行かない? 今なら雪音ちゃんを守る騎士も付いちゃうよ!』
『いいね。見に行こっか』
「~~♪」
「......う、ん?」
聞こえてくる心地よい歌声で目が覚める。目を開けると薄暗い空間の中でクリーム色の天井が目に入ってくる。ここは、カラオケ店、かな?
体を起こして辺りを見回すと、僕の推理が当たっていたことを裏付けるようにマイクや機材、大きいスクリーンと歌っている正の姿が目に映る。っていうか......
「この歌声、正!?」
「お、目が覚めたか。とりあえず歌い切らせてくれ」
僕に声をかけてくる正の声は普段の正の声だ。ただ、歌うのを再開した途端に心地よい美声が部屋に響き始める。ほ、本当に正の歌声だったんだ。歌を歌うことが趣味とは言っていたけど、ここまでとは。スクリーンに映っている歌手は女性なのに、しっかりと音程に合わせて歌うことができている。な、なんだこいつ。
思わず聞き惚れてしまっていると、曲が終わる。点数は98点。これに何が足りなかったか教えてほしい。
「さて、歌い終わったところで。お前に聞きたいことがある」
正が詰め寄ってくる。僕は少し考えてから応える。
「......ん。もう全部話すよ。ただ飲み物を取ってきてもいい?」
「ああ、俺も取りに行こう」
これは逃げ出すことを警戒されているようだ。ただ、僕はもう逃げるつもりはない。知っていることはすべて話すつもりだ。
飲み物を取ってくるときに時間を確認。時間はまだ日付が回っていないくらい。随分長い時間僕は倒れていたようだ。
さて、改めて部屋に戻ってきて口を開く。
「えーっと......まずは、何から聞きたい?」
「そうだな......じゃあ、お前の能力から」
「あ、それは駄目」
「なに?」
正が目つきを鋭くする。しかし、凄まれても、まだこれを答えるわけにはいかない。
と、いうわけで。
「それが説明できない理由も含めて話を始めるね」
「......まあ、話してくれ」
なんとか納得してくれた様子の正が話を促してくる。
「えっと、僕の能力を答えられないって言ったけど、僕の過去とかは隠さずに話すよ。まず、僕の第2人格なんだけど、これは『第2人格』じゃないんだ」
「......? なら、今のお前は」
「ん、僕は僕。本物っていうか普段の僕、正が知っている僕だよ。ただ、人を襲うのに邪魔なものってあるじゃない? 逆に、人を襲うときに必要なものもあるじゃない? それをうまくコントロールしてるんだよ。無意識に」
「............?」
「分かんないよね。まあ、これは理解できていなくても大丈夫な話。話を続けるね」
僕は一旦飲み物を口に含んでから話を再開する。
「昔雪音と仲が良かったのは話したよね?」
「ああ。その後白川が転校したこともな」
「その後雪音に会っていない。大学に入って再会。これも正しい」
「ふむ?」
僕の含みのある言い方に正は怪訝そうな表情をする。
「なんで改めてそんなことを」
「ここからが正とかみんなが知りたがっていたこと。実は、僕は雪音がどこに転校したかとか知っていたんだ」
「......??」
「手段は雪音の親から聞いたんだ。雪音の親と雪音は『絶縁』したことになっているけれど、雪音の親には雪音がどこにいるか報告が来るんだってさ」
「????」
さすがに正が混乱しすぎているようだ。ここらで質疑応答といこう。
「何が分からない?」
「.....お前の能力は、記憶を操れるのか?」
「んー......まあ自分のだけはって感じかなあ。他のことは一切答えられないけどね」
「理由は?」
「後でわかるよ」
「あと、白川と親は絶縁状態ということだが」
「まあ、理由はこっち側の人なら知っているでしょ。雪音の居場所を聞いてくる輩がいる。それだけ」
「それで『絶縁』か」
正の表情が一気に重くなる。先ほどまでは僕を警戒していたような表情だったが、今は聞いてはいけない話を聞いているような気分なのだろう、非常に表情が苦々しい。
「あと聞きたいことは?」
「話の続きになるだろうが、お前はどうして雪音の居場所を教えられていたんだ?」
「ん、話の続きだね」
僕はまた飲み物を口に含んで話を再開する。
「実は、僕から聞いたわけじゃないんだよ。ただ、雪音の親から言われたんだ。『雪音は特別な人間に生まれてしまった。浮いていないか、いじめられていないか、変な場所へ誘拐されていたりしないか確認してほしい』ってね」
「なんで白川の親ご本人がやらなかったんだ?」
「それは表向きは『絶縁』状態だからだよ。雪音の親が見に行ったら雪音も無視はできないだろうし、何度も雪音に近づいたら絶縁状態じゃないって気づかれて雪音の親まで被害に遭っちゃうからね」
「......そうか。続きを頼む」
正は飲み物を飲みながら話を聞いている。僕はとりあえず話を続ける。
「ただ、僕が何度も雪音に会いに行っていると、さすがに怪しまれちゃうわけ。雪音を狙う奴らが僕を狙ってきたのさ。まったく、男同士なのに勘弁してほしいよ」
「もしかして、お前の『暴れていた』、って」
「ん、考えてる通りだよ。僕を狙ってきたやつ、もしくは雪音を狙っている奴をボコボコにしてやっていたんだ」
「......はあああーーー」
「な、なにさ」
正が大きく息を吐いた。どことなく、安心しているような表情だ。
「予想以上にしょうもなくてよかったと思ったんだ」
「失礼な」
いつもの言い合いをしながらも僕にはわかっている。きっと正は僕が悪者じゃなかったことに安心したのだろう。まあ、その気持ちには感謝しておこう。
「さて、ここからは......えっと、何を話そう。僕の過去『悲しみの能力者~雪音を守りたい~』はこれで終わりなんだよね」
「汚いサブタイトルをつけるな。それじゃあさっきの青髪を襲った理由を聞こうか」
「お、いいところ付いてくるねえ。えーっと、あいつの名前は伊達純二っていうんだけど、実はーーーっていう経緯があったんだ」
ここで僕は伊達について話す。さん付けする必要はない。あいつは雪音を傷つけることに加担していたことが発覚したのだから。
「ふむ......? それだと、お前はなんでやられたんだ?」
「そう、そこが味噌と醤油、砂糖に塩、酢なんだよ」
「料理のさしすせそを完成させるな。それで、どういうことなんだ?」
「きっと、もう一人の能力者がいたんだろうね。そいつが僕を倒したみたいだけど、もう能力の目星はついてるよ。というか、正も目星はついてるでしょ?」
「まあ、なんとなくは」
「あ、それとさっきから正に僕の能力を話さない理由もそいつが理由なんだ」
「というと?」
「僕たちが考えている通りの能力者だとしたら今も情報を聞かれているかもしれないし、そもそもそいつから僕を抱えて逃げ切ること難しいだろうし」
「そいつから逃げきれた理由が知りたい、と」
「そんな感じ。その辺話してもらってもいい?」
「構わないが」
ここで僕は正がどうやって僕を抱えながら逃げ出したのか聞く。正の能力を駆使して逃げ出して、すぐに一番人目に付かなさそうなカラオケ店に入ってきた、と。場所はこのあたりのカラオケ店なら暗記しているようだ。趣味ってこんなに詳しくなれるものなんだなあ。
「ここは意外と穴場だぞ。人が少ないからいつだって予約なしで入れるし、機種も豊富。店員もいい感じで落ち着いていて、マイクもいつだって清潔。たばこの匂いとかも残っていないし、トイレも洋式。さらに「いや、もういいよ......」
どれだけ語れるのだろうと少し様子を見ていたけれど、予想以上に語られてしまった。時間がかかりそうだしこの辺で一旦ストップしてもらおう。というか、随分楽しそうに語るなあ。
「それで、俺に能力を話さない理由っていうのは?」
「簡単な話だよ。正が敵のスパイで、僕から情報を聞き出そうとしている可能性があるから。それなら敵が見逃した理由もちゃんとつながっているんだ」
「むう。スパイ扱いは気分が良くないな」
「さっきまで僕をスパイ扱いしていたくせに」
「俺はしていないぞ」
コホンと咳払いをしてからグラスに少しだけ残った飲み物を飲み干してまとめに入る。
「とりあえず、僕は今まで雪音を守るために色々な場所で暴れていたんだ。で、この能力で記憶を制御していたんだけど、今は全部解放している。戦闘の時とか必要な時は記憶に制御をかけるんだ。だから今まで記憶がおかしくなっていた。例えば、雪音のことは覚えていたし雪音が能力でいじめられていたことも知っていた。でも『能力』という存在は知らなかった。こういう矛盾に気が付かないように制御されていたんだよ」
「ふーむ。なるほどな」
思えば、どこもかしこもおかしかった。




