44話
『蔵介、この間言ってた話』
『うん? 何の話だっけ?』
『ほら、気が付いたら夜中の路上にたまにいることがあるって言ってたろ?』
『ああ、あの話ね。なんかあったの?』
『それがさ、お前のことを見たやつがいるんだってよ。それも深夜に』
『ほんとに? 僕は何してたの?』
『聞いて驚くなよ。お前が火を噴いている男に襲い掛かってたんだってさ』
『......? えっと?』
『いや、そうなるのも分かるが本当に何も覚えていないのか? とんでもないことが起きているぞ』
『う、うーん。それ、本当に僕? また別の事件の匂いがするけど』
『それが、ほら。今どきはスマートフォンがあるからすぐに証拠を撮れるんだよ。そして、これがその証拠だ』
『うわ、本当に僕じゃないか。というか、地面もボコボコだし、壁もなんかえぐられてない? これ、CGじゃないの?』
『いや、実は』
『いやー、僕はフリー素材じゃないんだけどなあ。悪い気はしないなあ。もしかして、映画監督がスターを探してたりしてるのかなあ。あ、僕を見た人ってハリウッド関係者?』
『自己評価の高さと前向きな思考は認めるが、これは俺と同じ部活の友達だ。クラスは違うがな。それで話を戻すが、お前が写真を撮られた場所って『緑濃高校』の近辺で、今朝登校した生徒がその場所を見たんだってさ。あんまり人目に付かないところだから見た生徒は少ないがな』
『ってことは、今もそこは』
『ああ、地面がデコボコだし、壁は抉られたようになくなっている。周りには灰があったりしたらしいぞ』
『うーん、灰ってことは僕が襲い掛かってる相手の能力の炎が原因でしょ。で、ほかの二つは別の能力っぽいから僕が数人相手に闘っているのかなあ』
『かなあ、ってお前のことだぞ。それに『能力』って。アニメじゃないんだからありえないだろう』
『わかってるよ、ちょっとふざけちゃった。ただその写真はたまたま僕っぽい人ってだけだと思うなあ。だってもし写真が本物なら僕は変な能力を使う奴らと闘っているわけでしょ? しかも数人と。そんなの何の特技もない僕じゃ無理だもん。むしろ元々地面がデコボコだったりした場所で写真を撮ってCGを使ったっていう方が信憑性があるよ。事件現場を目撃した情報があるっていうのは、元々人目に付かない場所だし、そんなにじっくり見ていなかったのがたまたま目に留まっただけだったのかも』
『まあ言われてみればな。そっちの方がしっくりくるな』
『でしょ? で、僕に似ている人が深夜に徘徊しているっていう偶然は考えられない。つまり......』
『つまり?』
『この写真は加工されていて、誰かが役者の顔に僕の顔を当てはめたんだよ。僕がイケメンだから!』
『......』
『な、なにさ』
『お前って、ほんとに気楽な奴だよな』
『ほ、本気では言ってないよ?』
『お前の顔で本気で言っていたら噴飯物だ』
『うるさい』
ガタンガタン、ガタンガタンと一定のリズムを刻む電車に揺られる。窓の外は月明かりに照らされていて、電車の中では乗客でいっぱいとまで言わないもののそこそこの人数が乗っている。A大学の隣の駅までは5分ほどかかるので、その間に隣駅についてからの行動を軽くまとめる。
まず一番可能性が高いのは、隣駅に一番近いホテルだ。そこで俺が見たことあるやつが現れてくれればいいんだが......。まあ、絶対に現れるんだがな。人がいる中でつぶやくわけにもいかないので心の中でぽそりと呟く。
そんなことを考えている間に隣駅に着いた。電車を降りていく人の波に乗ってそのまま改札を抜ける。目的ははっきりしている。それを証明するように迷いない足取りでここから一番近いホテルへ向かう。
駅前のロータリーを抜けて、人通りが多い大通りから逸れた道を少し歩く。一気に人通りが少なくなった道を歩いていると、少し先に見たことがある人物を見つけた。
「ビンゴだ」
思わず口の端を持ち上げてしまう。俺は青い髪を逆立てている男に近づく。
「おい」
俺が声をかけながら駆け寄ると、振り向いた男の顔が引きつる。
「お前、なんでここに」
「っらあ!」
迷いない拳が伊達の頬にぶつける。顎を狙ったのだがとっさによけられた。多少は戦闘の心得があるらしい。幻術の使い手なので見くびってしまっていたがここからは本気でやらないといけなさそうだ。
口の中が切れたらしい伊達が口の端から血を流しながら話し始める。
「それがお前の能力か」
「ん、まあな」
「おかしいと思ったんだよ。幻術の中での体は現実の体を丁寧に再現する。運動をしていないと言っていたお前の体が筋肉質なのはおかしいと思っていたんだが......って、うお!」
「ッチ、あんまり動くなよ」
もう一度振りかぶった拳はよけられた。だが、すぐに繰り出した横蹴りは伊達の腹部にヒットした。
「ッグ!」
「お前、時間稼ごうとしてただろう? だって、クールタイムの関係で幻覚の能力が使えないんだもんな」
言いながら攻撃を繰り出す手を止めない。攻撃をするときに足は踏み込みすぎない。ボクシングのように軽いフットワークで、攻撃をするときだけ一気に踏み込む。力に頼った踏み込みではなく、スピードに任せた踏み込みを心掛けて、伊達からの反撃をなんなくやり過ごしながらも隙を見逃さずに攻撃を繰り返す。
そんな風に余裕を持った戦闘をしているから伊達の一瞬の行動を観察できる余裕がある。胸元に手を入れて何かを操作した。これはスプリットの能力を持っている康太がやった行動と同じだ。恐らく、あそこに通信機か何かが入っているのだろう。俺たちが持っている防犯ブザーのように。今逃げずに戦っているのは救援が来ることを確信しているからだろう。
そういった理由であまり長引かせたくないのだが、能力を観察されている可能性もある。奥の手は取っておかなければいけない。まあ、この調子なら問題なく伊達を捕獲できるだろう。
そうして追い詰めていると、伊達が一気にバランスを崩す。思わず俺でも大ぶりの攻撃をしてしまうようなバランスの崩し方。先ほどまでのステップを変えて、一気に力強く踏み込んで拳を繰り出してーー考える。
伊達はとっさに顎への攻撃を避けられる程度に体術ができている。そんな奴が時間稼ぎの最中にこんなミスをするか? もしかして、通信機で呼んだ奴が来たという知らせがあいつにだけ分かるように来たんじゃないか? 襲ってきている奴が思わず隙を見せるようなバランスの崩し方がマニュアルとして敵の組織にあったとしたら? そして今それを実践しているとしたら?
「まずい!」
思わずそんな言葉が口から出た瞬間、顎に強烈な一撃を食らってしまう。
クソ、こんなところで......! そんなことを考える間もなく、意識が暗闇に飲まれた。
本当にとんでもない頭の回転の速さだ。




