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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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43話

「ふー」

 息を吐きながら寮の自分の部屋へ戻ってくる。窓から見える外の景色はもう暗い青に支配されている。月明かりが目立つほどの時間ではないけれど、もう夜が始まったんだ、と思わせる時間だ。

「さて、と」

 僕はカバンを床に下ろして椅子に座る。とりあえず、一人きりになることができた。ここからに二重人格の僕は何をするのだろうか。

「......」

 しばらくその場で身構えていたけれど、特に何も起きない。うーん、まだ完全な夜じゃないから動かない、とかかな?

 それならばと考えて、スマートフォンを取り出す。今はギリギリ夕方だと判断しているようだし、適当に暇をつぶそう。とりあえず、音楽でもかけようかな。

「えーっと、このあたりのホテルホテルっと、......ん?」

 ほ、ホテル? 僕はなんでそんなものを探しているんだ? いや、今更驚くまでもないか。何か調べたいことがあるなら勝手に調べてもらおう。

 しばらく忙しなく動いている指を見ていると、少し悔しくなってくる。2重人格の僕が気が付いていることを気が付けていないというのは、なんというか、2重人格の方が優秀だと見せつけられている気がするからだ。

「はあ」

 ため息を一つこぼしてから気合を入れなおす。こんな考えじゃだめだ。どうせならじっくり敵の考えを推理しよう。

 そう思った瞬間、意識がなくなる。

 ーーいや、なくなったっていうか入れ替わったんだけどな。

「俺の方が優秀なのは当たり前だ。優秀な部分を『2重人格』に設定しているわけだからな」

 誰に言うでもなく呟く。そう、普段の俺が気に病む必要はない。俺がそういう風に『能力』を使っているだけなのだから。

(その割には、雪音と通話しているときに煽ってきたよね)

 そんな考えが頭に浮かぶ。しっかり言い返してくる元気はあるようで安心した。

「さて、行くか」

 俺は自分の部屋を後にした。

 

「お、蔵介」

「......正。なんか久しぶりだね」

「なんだ今の間は」

 寮から出ていこうとするとちょうど自動販売機で飲み物を買っていた正と鉢合わせてしまう。しょうがない、俺は一旦引っ込もうか。

 ーーあ、あれ。ここは、寮の自動販売機前? なんで僕はこんなところに、っていうかなんで正と話しているんだ?

「? どうした蔵介」

「う、うーん。なんか奇怪なことが......ま、いっか」

「よくわからんが」

 どうせ二重人格の僕が勝手に動いているんだろう。そんなことより僕も喉が渇いた。自動販売機に小銭を入れて適当な飲み物を買う。

「ところで、堂次郎の様子は?」

 人通りはそこそこ。今は夕食の時間だから食堂にたくさんの人が集まっていて、たまに飲み物を買いに来る人もいる。邪魔にならないように自動販売機から数歩離れて立ったまま正と話を始める。

「ん、相変わらずお前、っていうかお前の能力の方を疑っている」

「うーん。できれば早く誤解が解けてほしいんだけれど」

「あいつもお前が憎くて疑っているわけじゃないみたいだがな」

「というと?」

「なんか、辻褄がだいたい合うんだとさ」

「それは、僕がスパイだとしたらってこと?」

「ああ」

「まあでも僕はスパイじゃないからその合わせた辻褄は無駄だけどね」

「手厳しいな」

 苦笑いしながら正が話を続ける。

「ほら、この1週間お前への襲撃が連続していただろう?」

「まあそうだね」

 雪音がいなくなると言ってからの一週間を改めて振り返ってみる。雪音が来た翌日、つまり1日目はトーナメントが行われた。2日目、1度目の襲撃だ。スプリットを使う能力者と、引き寄せを使う能力者と闘った。3日目、2度目の襲撃。食堂でゾンビ化させる能力者と闘った。4日目、アルバイト関係とレポート。5日目、3度目の襲撃。ここでは神様が何だとか言っていた鞭を操る能力者と闘った。6日目、つまり今日だけど、幻覚を使う能力者と闘った(?)。

 こうして振り返ってみると、3度も襲撃を受けていることになる。今日は古木さんを狙っての襲撃だったのでカウントしなかったとしても、一週間でこの回数は異常だ。

「こうして考えると、確かに襲撃される回数は多いね。堂次郎が疑う理由も分かるよ」

「なんで上から目線なんだ」

「だって。僕スパイじゃないもん」

「男のくせに唇を尖らせるな。可愛くない」

 とりあえず、僕が多く襲撃されていることは改めて理解した。さらに、堂次郎が疑う理由も。

「それで疑う理由だが、もう理解したんだろ?」

「『防人』について敵に教えている可能性があるってことでしょ?」

「お、ご名答だ。俺はすぐには気が付かなかったが」

 要するに、敵に『防人』という能力者を守る秘密のサークルの存在を作ったことを教えたとしたら、という話だ。『防人』に入ってくるメンバーの能力とそもそもの戦闘能力を測るためには実際に戦うのが一番だ。そこで、僕が防人に能力者を勧誘して、入ってくれたメンバーと闘わせることで『防人』の脅威の度合いが簡単に測れるだろう。

 ただ、この考えには欠点がある。

「でも、その考えだと僕が1度目の襲撃で正を襲わなかった理由が説明できないよね」

「ああ。それ以外にも襲ってきた能力者を清木教授に引き渡しているだろう? つまり清木教授もスパイじゃなきゃおかしいんだが」

「清木教授自体が『防人』を発足したからその可能性は低い、って感じ?」

「ああ、そんな感じだ。頭の回転が速いな」

「ふふん。もっと褒めてよ」

「この間の英語のクラス分けテストでは俺の方が上のクラスだったな」

「ここは褒めてほしかったよ」

 そもそも僕が敵じゃないなんていうことは僕自身が分かっていることだ。だけど、逆に言えば僕以外は確実にスパイじゃないと言い切れない。だから堂次郎は自分の考えに多少の矛盾を感じながらもこれ以上自分の能力を敵に漏らさせないように『防人』を休んでいるのだろう。それに追随して正も休止したことは、堂次郎にとって思わぬラッキーだったというわけだ。

 そんな風に話をまとめると、ふと頭に引っかかったことが口に出る。

「というかさ、よく敵もそれだけ襲撃を重ねるよね」

「うん? ......ああ、そういうことか。戦力面的な話のことだろう?」

「そうそう」

 そもそも『防人』が発足された理由は能力者が攫われたりすることを防ぐこと。言い換えれば、敵にこちらの能力者を渡さないことだ。

 何が言いたいのかというと、こちらの能力者を襲ってくるということは敵の組織にいる能力者が少ないからこちらの能力者を奪って戦力を増やしたいということだろう。でも、2日目に襲撃が失敗しているのに翌日に襲撃を行っているのがおかしい。

「敵も意外と能力者に余裕があるよね」

「そうだな。もしかしたら襲撃用と自衛用みたいにグループ分けされていたりしてな」

「まるで戦争だね」

「だな」

 二人で笑いあう。......あれ、意外とこれって核心を突いているんじゃないか?

 正もそう思っているようで、だんだん笑いに力がなくなってくる。僕もだんだん笑いから苦笑いへと変化していく。

「まあ、深く考えてもしょうがないよな。正直、俺たちは一般学生なのにここまで考えさせられていたら溜まったものじゃない」

「それは言えてるかも」

「こういう時は飯を食って寝る。これに尽きる。というわけで一緒に食堂に行かないか?」

 大分話し込んでいる間に食堂にいた人は大分少なくなってきている。正はお腹が空いているようだし、僕もお腹が空いているんだけれど。

「ごめん。ちょっと今から用事があるんだ」

「こんな夜からか?」

「大した用事じゃないんだけどね。すぐに帰ってくると思う」

「そうか。それじゃあ先に食ってくるぞ」

「うん。それじゃあね」

 話している間に飲み終わっていた飲み物をごみ箱に捨てて正と別れる。結構話しちゃったなあ。

 ......あれ。敵がもし襲撃用と自衛用みたいにグループ分けできているとしたら、なおさら僕みたいな無能力者に近い能力者を襲ったのって謎じゃないかな。だって、戦力の『数』は足りているんだから。

 そう考えると、もしかして、敵の考えって

 --っと、意外と頭の回転が速いな。まあ気が付かれても問題じゃないんだが、それよりも先にやることがあるんでな。ちょっと体を借りるぜ......っていうのもおかしいか。俺の体でもあるんだからな。

「行くか」

 改めて俺は寮の外へと足を向けた。


もしかして、っていう考えの辻褄があっているか。意外とそれが推理の基本なのかもしれない。推理について学んだことなんてないけれど。

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