38話
「は、春奈さん!」
そこにいたのは意外にも(失礼だけど)好青年だった。短い青い髪の毛を立てていて、半そでのシャツから見える腕と、ひざ下までのショートパンツから見える足にしっかり筋肉がついていることから、スポーツをやっている人だとうかがえる。
「え、えっと。自己紹介してもらってもいい?」
そう尋ねるのは古木さんだ。僕には見せない少しおびえた表情を見せている。やはり自分を幻覚に連れ込んでいる人間が出てきて怖いというのもあるのだろう。ここは僕が間を取り持ったほうがいいだろう。
そんなこちらの感情は気にしていない様子で男が話し始める。
「失礼しました。俺は大学2年の『伊達純二』です。サッカーサークルに入っていて、見ての通り幻覚に相手を取り込むことができる能力の持ち主です」
ハキハキと自分のことを話す伊達君......いや、年上だから伊達さん、か。まあそんなことはどうでもいいや。
「とりあえず、目的を聞いてもいいですか?」
「俺は春奈さんと話したいんだが」
「いや、その、古木さんって男性になれてないんですよ。なので代わりに僕が聞いているわけです」
「......まあ、腑に落ちないけど春奈さんがそうしたいと言うなら」
あまりそこには深くは言及しないで、伊達さんが咳ばらいを一つしてから話し始める。
「俺の目的は、時、う、えーっと、春奈さんに男として認めてもらうことだ」
じ? 一瞬何故か苦しそうな表情をしたけれど、すぐに表情を戻したのであんまり言及はしないでおこうか。
「というと?」
「俺って爽やかだろう?」
「まあ、それはそうですね。古木さんは?」
「さ、爽やかだと思うよ」
性格面がまだ見えないけれど、外見だけでいえばかなりさっぱりしていて爽やかだ。
「春奈さん......!」
「感動しているところ悪いけれど、もう少し詳しく話してくださいよ」
「ッチ」
僕が水を差すと、古木さんに爽やかだと言ってもらえた時のきらきらとした表情を一変させてこちらを睨みつけてきた。人によって態度を変えすぎじゃないかなあ。
そんな態度をしながらも話は進めてくれるようだ、伊達さんが話を続ける。
「そういった俺の爽やかとか、力強さとかを春奈さんに認めてもらいたい」
「じゃあ認めちゃいましょうか、古木さん」
「うん。男前だよ、伊達純二くん」
「へ、へへ。ありがとうございますーーって、違う違う!」
さすがにこれで幻覚を解除してくれるほど甘くはないか。僕は心の中で舌打ちをしながら話の続きを促す。
「そ、そのためには男の誰かに勝って男前だと思われたい。そこで、お前!」
「は、はい?」
僕にビシっと指をさしてくる伊達さん。やけに張り切っているなあ。
「俺と勝負をしろ」
突然のご指名と宣言だけれど、これは予想ができた話だ。他の男より男らしいと認めてもらうためには、ほかの男と男らしさを競ってどちらがより男らしいかーーー......男男言いすぎてゲシュタルト崩壊しそうだ。まあ、予想できた展開だということで。
「えっと、具体的には?」
「男に必要な条件を競い合うゲームを3つ用意する。それをお互いに競い合うというわけだ。最終的にはどちらが男らしかったかを春奈さんに判断してもらう。いいですか?」
古木さんに確認を取る伊達さん。この感じからして自分が幻覚に連れ込んだのに古木さんに逆らうようなことはしない様子だ。
「いいけれど、男らしさっていうのはゲームの勝敗だけで決めるの?」
「いや、正直男らしければ勝敗はどうでもいいです」
古木さんの質問にとんでもない返答をする伊達さん。うーん。
「これ、ゲーム形式にする意味あったかなあ?」
「細かいことを気にするな、男らしくないぞ」
「あ、なるほど」
こういったゲーム外のところも見られているようだ。気を付けないと。
早速ゲームに入ろうとすると、古木さんが質問をする。
「えっと、結局私はどうやったら幻覚から解放してもらえるの?」
「あ、それはそうですね。これで伊達さんの方が男らしくなかったら解除しないってなったら」
「それは大丈夫だ。この幻覚は強力だが欠点もある。その欠点の一つが時間制限で、勝手に幻覚が解除されるんだ。具体的には、......まあ、2時間くらいかな」
「......痛っ」
『俺』の頭が一瞬痛む。なにか、なにか忘れていないか? 何かが変だぞ。
「? どうしたの?」
「......いや、なんでもないです」
心配そうに僕の顔を覗き込んでくる古木さん。とりあえず、『僕』は思考を一旦やめて、伊達さんとのゲームに集中するべきだろう。
「というか、僕に勝っても古木さんに何かを強要しないでくださいね?」
「......まあ、男らしいことが分かってもらえたらハグぐらいは......」
さっぱりした外見に対して、何を怖いこと言っているんだこの人は。これはちょっと頑張らないと。
僕がそんな決心をしていると、古木さんが尋ねてくる。
「えーっと、上木君は勝ったら何かしてほしい?」
「いや、いらないですよ。一応これが役割なんで」
というか、本心では雪音以外の人から何かしてもらおうとは思わない。......あれ、僕も結構危ない発想をしているんじゃ......。
「......ふーん」
古木さんは僕の返事を聞いてから顎に手を当てて考え事を始めた様子。どうしたんだろう。
「あの、何か気になることでも?」
「えっと、このゲームやるひつよ「それでは一つ目のゲーム!!」
古木さんのセリフを遮って叫ぶ伊達さん。古木さんの表情は不服そうだ。というか、女の子のムスッとした表情ってかわいいなあ。もう少し見ていたい気も
「それじゃあ、こっちにこい、上木とやら!」
「あ、はい」
僕が古木さんの表情に注目していると、伊達さんに呼ばれる。ステージ上に仁王立ちしている伊達さんの傍には四角い机が鎮座している。
「あれ、こんなのありましたっけ?」
「一応俺の幻覚内だからな、大体のものを持ってくることができる。さて、1つ目のゲームは腕相撲だ!」
元気よく宣言する伊達さん。まあ、男らしさの一番の要素はずばり、強さだろう。筋力があるとやっぱり頼りある男性、ずばり男らしい男性だと思われるだろう。
「とりあえず、意気込みをお互いに言おうか。上木は自信があるのか?」
「いや、正直自信はないですね」
一応高校生の頃にバスケットボール部に入ってはいたけれど、別に強豪校であったわけでもない。そして今は(というか昔からだけど)ゲーム好きのインドア学生だ。特に運動を心掛けているわけでもない。
対して伊達君は。
「俺は自信がある。サッカーは小学生のころから続けているしな」
「まあそうですよね」
サッカーは下半身が重要なのは間違いないだろうけれど、体がぶつかり合うところもテレビとかでよく見るので上半身も鍛えているのだろう。これは勝つのは難しい戦いだろう。
ただ、今回の目的は男らしさをアピールすることであって勝敗は関係ない。そこを意識して頑張ろう。
「それじゃあ、二人とも手の力を抜いてね」
僕と伊達さんが姿勢を低くして、肘を机についてお互いの手を握り合う。......こんな広いステージの真ん中で随分と小さい戦いだなあ。
「それにしても、二人ともやっぱり筋肉があるね」
「あ、ありがとうございます」
古木さんが僕と伊達さんの腕を見て褒めてくれる。なんだろう、女の人に褒められるのって凄く嬉しい。
僕がお礼を言った一方、伊達さんは難しい顔で一言。
「これくらい、当たり前だけどな」
! な、なるほど。自分の男らしさは別に特別なものではないと。これは男らしい。
「そっか。褒めたりしてごめんね」
「いや、すみません。正直すごく嬉しかったです」
古木さんが申し訳なさそうに謝ると、伊達君がすぐに本心をばらす。か、かっこわるい。
「それじゃあ、おしゃべりはこの辺にして......レディ、ゴー!」
「「ふぬぬぬぬ!」」
古木さんのかわいらしい掛け声と同時にお互いに力を一気に籠める。あれ、意外といい勝負ができているなあ......!
しばらく硬直していると、徐々に僕が勝ち始める。これなら勝てる......!
「うおおおおお!」
僕は叫びながら伊達君の手の甲を机に押し付ける。や、やった、勝った!
「ま、マジかよ」
どうにも伊達さんは大きなショックを受けている様子だ。ただ、すぐに立ち上がって握手を求めてくる。
「......今回は俺の負けだ。また今度リベンジさせてくれ」
潔く自分に負けを認めつつ、成長してリベンジをしようという心意気。すごい、男らしい。男ながら惚れてしまいそうだ。
......ん? よく見ると、伊達さんの唇から血が流れている。この人、実際はめちゃくちゃ悔しそうだ。となるとこれは、古木さんに認めてもらうための演技か! 一瞬でも惚れかけた僕に謝ってほしい。
そういうことなら、僕も負けていられない。僕も男らしく返事をしないと。
「ええ。僕もあなたのリベンジマッチを楽しみにしています。そして、そのリベンジマッチも勝って見せますよ」
(なるほど、先ほどの闘いが圧倒的なものではなかった、自分も余裕がなかったことを認めつつ今以上に成長をしておこうという男らしさ、俺じゃなかったら食事に誘っていた)
「ああ、そうでなくちゃ困るな」
闘い自体を楽しんでいる男らしさで攻めてきた。これ以上強くなられたら困るというそぶりを一切見せずにさらなる高みへ行こうとするその男らしさ、僕じゃなかったらホテルにさそって
「なんなのさ、この馬鹿らしい闘いは。試合時間より感想の方が長いし」
僕たちがお互いに探りあっている様子を見て、古木さんがため息を吐いていた。
男らしさってなんでしょうね。
あと、ヒロインが雪音から春奈に代わってしまっている気がします。雪音は7日目にいっぱい出番があるからもう少し待ってほしいです。




