表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
4/137

1話

「ねえ、私、すごいんだよ」

「いきなりどうしたの、雪音ゆきね」

「ほら、私のランドセル。誰も触ってないのに浮いてるでしょ?」

「ほんとだ! 凄いね! ......あ、俺これ知ってる! アニメで見たよ!」

「それ、本当? 教えてよ蔵介くらすけ」

「えっと......確か、『超能力』っていうらしいよ!」




「ふ、ふ、ふ」

 春の空気を感じる『A大学』のキャンパス内を小走りで駆け抜けていく。まだ講義は始まっていないのだけれど、事前呼び出しを受けた。良く分からないが、その良く分からない部分を説明されるそうなので、今はどうでもいい。

 とにかく僕は今浮かれている。長くつらい受験期を乗り越え、大学生になることができたのだからーー!

 っと、ここかな? 出来立てらしく、真っ白で綺麗な10号館。うん、間違いなさそうだ。僕は事前呼び出しの紙を片手に10号館に入っていく。小走りの成果もあってか、遅刻ギリギリで間に合いそうだ。早速扉を開いて中に入ると、スーツ姿の巨漢が二人待ち構えていた。えっと?

「おい、貴様の名前は?」

 一人が口を開く。受付みたいなものかな? 隠さずに話す。

「上木蔵介かみきくらすけです。えっと、この紙に書いてあるのでここに来たんですけど」

「嘘は言っていないようだな。説明があるのはこの先の部屋だ。入り口に事前説明会会場とかいてある。参加者は貴様が最後だ。もう大学生なんだ、余裕をもって行動するように」

「すみません」

「行って来い」

 軽い説教をされてから、二人の男の横を通り抜けて教えてもらった部屋に向かう。大学生なんだからと怒られた後だが、僕は落ち着かずそわそわしてしまう。これからどんな生活が待っているのだろうか。

 教えてもらった部屋の前で深呼吸。まあ、自己紹介とかがあるわけではないだろうし、時間には間に合っている。僕が最後ということだが、そんなに悪い印象は与えないだろう。堂々と行こうか。

 ドアノブをひねり、扉を押す。1人の男性が教壇に立ち、20名ほどの人間が座っていた。

「君が最後の人だな」

「あ、はい」

 教壇に立っていた男性(恐らく教授だろう)に声を掛けられる。

「なるほど。それでは適当な席に座ってくれ、説明を始める」

 言われた通り適当な席で腰を落ち着け、ドキドキしながらかばんを肩から下ろす。

「それでは、まず初めに入学おめでとう。私はこの『A大学』の理学部に所属している田中春斗たなかはるとだ。ここではこの学校についてと、きみたちのこれからの学生生活について説明させてもらう。まず初めにーー」

 堅苦しい話に耳を傾けていると、落ち着かない気持ちが落ち着いてくる。ふう、さっきまで浮足立ちすぎていた。冷静にいかないと。

「--と。大体はこんなところだが、わたしばかり話しても仕方がないし退屈だろう。というわけで、君たちには自己紹介をしてもらおう。今年は......20人か。例年通りの人数だな。それでは、最後に入ってきた君から話してもらおう」

「あ、はい」

 指名されて立ち上がる僕。まさか説明会で自己紹介があるとは。少し恥ずかしいが、自己紹介を始める。

「えーっと。上木蔵介です。実家はこの近くです。えーっと、ほかに何話せばいいですか?」

「とりあえず、実家の立地条件よりさきに趣味とか話すと思っていたのだが。そうだな、話す内容はこちらで指定しよう。名前、学部と学科、趣味か特技、過去にやっていたスポーツ、それと、自分の『能力』についてだ」

「へ?」

 のうりょく?

「それでは、改めて頼む」

 目をまん丸にしている僕に改めて自己紹介を促す田中先生......ああ、大学では教授だっけ。そんなことより。

「えーっと、改めて、上木蔵介です。工学部機械工学科に所属しています。趣味は音楽を聴くこと、ですかね。過去にはバスケットボールをやっていました。それと、えーっと、の、能力? は下唇をかんだまま喋れます」

「......? 実践してみてくれないか?」

「ふぐぐふぐふ」

「できてないじゃないか」

「すみません、今はこれ以外思いつきません」

「ん? ......もしかして、『能力者』ではない?」

「えっと、多分」

「「「......」」」

「え?」

 次は田中教授と周りの人たちの目がまん丸になった。そして、田中教授が胸元からスマートフォンを取り出す。

「すまない、少々時間を貰う」

「はあ」

「もしもし......」

 ぼそぼそと田中教授が話し始める。あまりいい予感はしないが。

 その場で立ち尽くしていると、ポンと肩を叩かれる。ん? 振り返ると、受付の巨漢がいた。なんだろう、僕に何か問題が

「表に出ろ」

「......はい」

 あったようだ。

二人の巨漢に挟まれて10号館を出て、1号館に連れて行かれる。1号館は主に教務関係の情報が集まる館だ。休講情報なんかもここで集まる......らしい。何分入学試験を含めてここに来るのは2回目だ。詳しくないのも当然だろう。

 その1号館の奥へ進んでいくと、理事長室と無機質に書かれた部屋があった。僕の華々しいキャンパスライフが終わりを告げてしまうのか?

 巨漢の片割れが真っ白な扉をノックすると中から「どうぞ」と返事が返って来る。

「失礼します」

 巨漢に連れられて中に入れられる俺。そこは簡素な部屋だった。小さな本棚に、小さな机。机の前には向かい合うようにソファが置かれている。そのソファに腰を掛けている金色の髪の男性が立ち上がる。

「おや、早速暴れた能力者が?」

「いえ、その逆です」

「逆? 落ち着いた能力者?」

「違います。そもそも能力者ではないのです」

「ふむ。立ち話もなんだし、とりあえず座ってもらおうか。名前は?」

「上木蔵介です」

 僕は男性の対面に座る。僕の背後には二人の巨漢が立っている。落ち着かないなあ。

 僕の名前を聞いた男性が机の上に開かれているファイルに目を落とす。

「丁度俺も君たちの情報を見ていたんだよ。ああ、俺の名前は清木清治すみききよはる。この学校の学長みたいなものだと思ってもらえれば」

「みたいというか、そうなんでしょう?」

「んー、ちょっと違うんだ。まあ、俺の話はいいや。上木蔵介。君は間違いなく能力者だよ。保証する」

 ファイルに目を通しながら話していた清木教授が顔を上げる。常に微笑んでいて、どこかつかみどころのない人だなあ。それはさておき、

「えっと、僕、能力なんてあると思ったこと無いですよ」

「うーん? 変だなあ、この歳で自覚なしか......?」

 唸っている清木教授に声をかける巨漢のうちの一人。

「失礼ですが、清木さん。彼は本当に能力がないのでは? もう一度検査をやり直すのも一つの手かと」

「いや、ありえない。あの検査で能力者かどうかは必ず分かる」

「ですが現にーー」

「あと、お金がかかる」

 それだけ言うと、巨漢は黙った。なんだなんだ、良く分からないな。

「まあ、一番考えられるのは、常に発動している能力だってことかな。......うーん、身体能力も普通、入学テストの順位も中間程度、性格テストもいたって普通。なんだこれ」

 困った表情を見せる清木教授。人の情報をなんだこれ扱いはあんまりだ。それでも僕の処遇を待つしかない。

「......うん。とりあえず、君には能力者として能力者専用の寮に住んでもらうよ」

「へ、寮? 僕の実家ここから近いんですけど」

「まあ、親御さんに話は通しておくよ。別に休日は実家に戻ってもらっていいし。能力者は少し優遇する必要があるんだ。まあ、そういうのも後々話していくよ。説明会には今から戻ってもどうしようもないだろうし、先に部屋に案内しておくよ。そこの二人に案内してもらって」

「はあ」

「納得いかないのは分かるけど、君は間違いなく『能力者』だから。まあ、分かったらすぐに報告してよ。俺も気になる」

「分かりました」

 僕は一礼して巨漢の二人に付いて行く。これからどうなってしまうのだろう。


どうなっちゃうんだろうなあ。

※4日に1回更新します。次の更新予定は12月25日0時です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ