32話
「やったみたいだな! おら、財布返せ泥棒!」
「......」
男は黙って黒い長財布を差し出してくる。飯野君には申し訳ないが、一応財布の中から学生証を探して本人のものか確認する。......どうやら、本人の財布のようだ。
「正、これは飯野君の財布みたいだよ」
「そうか。おい、お前は誰に頼まれてここに来たんだ?」
「......ふん、簡単に口を割るような奴が神に認められるとでも?」
「まあそれはそうだ。蔵介、清木教授のところへ連れていくぞ」
「オッケー。まあ三人もいたら抵抗しないでしょ」
「......その前に、蔵介。少し話したいんだが」
ここで、ずっと黙っていた堂次郎が声をかけてくる。どうしたんだろう?
「お前、変だぞ。さっきと違いすぎないか?」
「さっき? 別に、普通に一緒に戦って、一緒にこの人を捕まえたじゃないか」
「......正、どう思う?」
「いやまあ、確かに少し変だった気はするが......」
な、なんだろう。堂次郎の僕を見る目が少し険しい。何かを疑われているのかな?
僕が少し戸惑っていると、正がフォローをしてくれる。
「ただ、堂次郎。俺たちはさっきの様子が変だった蔵介に助けられているんだ。その時に蔵介が俺たちを襲ったのならともかく、そこまで目の敵にする必要があるか?」
「確かに考えすぎなのかもしれないが、俺たちの敵がはっきりしていないんだ。考えすぎて損することはないだろう」
「俺たちの敵は他の大学にいるんじゃないのか?」
「......おかしいんだよ。どう考えてもな。......おい、蔵介。お前は過去に何度能力者と戦った?」
「そ、そんなの分からない」
「分からないわけがないだろ!」
堂次郎が僕の胸倉をつかんでくる。え、え、え!?
さすがに正も黙っていられないようで、堂次郎の肩をつかむ。
「そこまでにしておけ、堂次郎!」
正の声が9号館に響く。コンクリートでできている校舎が正の声を反響させる。黙ったまま僕の胸元から手を放して舌打ちをしながら僕を睨んでくる堂次郎。
「......俺は少し防人を休む。確かに頭が熱くなってる。ただ、頭が冷えても蔵介が信じられなかったら俺は防人を抜ける」
今度は敵意ではなく、僕を防人のリーダーとして認識し、許可を得ようとするように力強く見つめてくる。
「......僕は元々お願いして入ってもらった。堂次郎の意思でやめてもらっても構わないよ」
「そうか」
確認することはした、という雰囲気を出しながら僕から顔をそむける堂次郎。一体、何があったのだろうか?
「......あ! おい、蔵介、堂次郎! 男が!」
「「!」」
このごたごたを見逃さず、男がいなくなっていた。くそ、やられた!
でも、財布は取り返せているし、なにより堂次郎としても僕から早く離れたいだろう。
「僕は清木教授に報告してくる。先に財布を返しに行ってもらっていい?」
「ああ、オッケーだ」
正が財布を受け取って堂次郎と一緒に4号館へと向かっていく。
「ふう」
二人の姿が見えなくなってから、僕は一息つく。堂次郎はどうしちゃったんだろうか。僕が何かおかしいことをしたのだろうか?
「......変、かあ」
何度も言われたセリフを自分で口にする。その言葉は誰にも届かず空へと消えていった。
「おい、堂次郎。流石に熱くなりすぎじゃないか?」
「......確かに熱くなっていたが、少し引っかかるんだ。今他大学が俺たち能力者を狙っているっていう状況だろ?」
「ああ、そうみたいだな」
「少しだけ話したが、相手が俺たちを襲うペースが速すぎると思ってな。蔵介は今日を除いて2回ほど能力者と闘っている。ほんの数日でこれだけの襲撃があるのもおかしいし、返り討ちに遭っているのにわざわざ襲ってくるのも分からない。さらに言えば、これだけのペースで襲ってきているということはそれだけ能力者がいるということでもあるだろう。それならわざわざ能力者を取り入れようとするメリットもないはずだ」
「......まあ、相手が急いでいる気がするし、急いでいたとしてその理由が分からないというのも分かった。ただ、なんで蔵介を疑っているんだ?」
「あいつが怪しいんじゃなくて、あいつの2重人格が怪しい。今日襲ってきた男が変だという話はしただろう?」
「ああ、あまり理解できなかったがな」
「財布が目当てならわざわざ待っているなんて言わなくていいわけだ。だが、飯野に書置きを残して、防人を呼ばせた可能性がある。さらに、蔵介は今日遅れてきた」
「まとめてくれ」
「要するに、『防人のメンバーがどの時間帯でもSOSにいつでも集合できるか』を確認したんだろう。実際に、朝倉は寝ているか知らんが来なかった」
「それだって毎回ではないだろう? それにこれからはどの曜日のどの時間帯なら対応できないか聞けばいいだけだ。堂次郎、それはいくら何でもこじつけだぞ」
「こじつけでもしないと敵の実態が分からないんだ。まあ、俺も完ぺきに蔵介が怪しいとは思っていない。だが、不安要素は消しておかなくてはいけない」
「じゃあ、早い話蔵介の過去を知っている奴に会いにいかないか?」
「......ふむ。そうなると、蔵介の過去を知っている奴というのは」
「白川だ。どうだ?」
「行ってみるか」
まあ、確かにいきなり2重人格目が出てきたら怪しいよね。




