27話
「それで、ここか? 蔵介」
「うん。一応インターネット上にもあるみたいだけれど、ほら、僕たちは少し特別だから」
「まあ妥当だな。それじゃあ早速入るか」
カフェでの襲撃を乗り越えた翌日。授業が終わってから正と一緒に1号館にやってきている。前も少し説明したと思うけれど、僕の大学の1号館には講義の休講情報が表示されたりと教務関係の情報が集まる。ただそれだけではなく、学生証を忘れたときに仮発行してもらえたり学生の進路相談室があったりと、健全で安全な学生生活を支えることが行われる場所でもあるのだ。まあ休講情報の確認はみんな携帯電話でなんとかするしね。
そして、今日ここに来た理由は学生生活を支えてもらおうとここにやってきた。まあもったいぶるような話でもないのでさっさと話すけれど、僕たちはアルバイトを探しにここへやってきた。
一応どこの大学でも学生生活を優先してくれるアルバイト先をいろいろな手段で紹介しているようだけれど、僕たちは能力者ということもあってちょっと事情が違う。能力者の存在を知ったうえで受け入れてくれるという希少なアルバイト先を見つけなくてはいけない。あまり大っぴらに言えないけれど、能力者であることを隠してなんの事情も知らない職場で働いている人もいるみたいだけれど、僕は防人のリーダーということもあってそういった行動が許されないと勝手に考えている。......なるほど、僕には多少の責任感はあるみたいだ。
さて、僕たちがやってきたのは学生生活関係の窓口。窓口の奥では何人かが座ってパソコンで何やら作業している。ただ余裕がないとか急いでいるという状況には見えない。とりあえず忙しい時期がひと段落したからだろうか? まあそのあたりは全く分からないけれど。
「どのようなご用件ですか?」
「えっと、アルバイトの紹介をしてもらいたくて。清木教授からここに行けと言われたので」
「? 少々お待ちください」
受付の人が明らかに困惑した様子で窓口の奥へと消えていく。それもそうだ、アルバイトの紹介をしてほしいならそこらに張ってある学生アルバイトの求人を見ればいいのだし、気が付かなかった様子なら案内すればいい。ただ、『清木』という名前を出したということは何やら特別な事情があるわけだ。でも特別な事情といってもアルバイトの紹介だけなのに......とまあ、こんな感じでこんがらがっているのだろう。
「蔵介、この様子だと」
「うん。能力者を知らない人みたいだね」
一応大学の中でも能力者を知っている人と知らない人がいるようだ。いやまあ、当たり前だけど。
待つこと数分、小さな部屋に案内された。僕の実家は2階建ての一軒家だけれど、僕が使っていた子供部屋と同じくらいの広さだ。そこから机と椅子、適当な書類を除いて全てどかして壁を真っ白にした感じ。といっても、子供部屋の広さなんて人によって違いがあるだろうから何とも言えないけれど。
「おう、来たか」
「はい。上木蔵介です」
「塚本正だ」
「あいよ。俺は真中だ。とりあえず座れや」
随分言葉使いが荒い人だ。ただ外見は普通だ。僕たちと同じくらいの身長、座高にショートカットの黒髪、目つきは吊り上がっているわけでも垂れているわけでもない。少し鼻が高く感じるのと赤縁の四角い眼鏡のレンズ越しに見える瞳の色が真っ青なことくらいが特徴だ。まああくまで外見だけでの特徴だけれど。
僕たちが椅子に腰を落ち着けるのとほぼ同時に口を開く真中さん。
「ええっと、希望の職種とかはあるか?」
普通の面接のように話を始める真中さん。ちなみに僕はこの方アルバイトをやったことはないし、正も働いたことはないらしい。
「そうですね、僕は飲食店とかで働いてみたいです。賄いとか食べたいですし」
「俺はカラオケとかがいいな。社割でお得にカラオケに行けるなら嬉しい」
「なんだ、どっちも仕事内容より報酬派か。ちょっと待ってろ」
苦笑しながら真中さんがすらすらと紙に何かを書き、机の上に置いてあったノートパソコンを弄り始める。
「正はカラオケ好きだったんだね」
「気分が良くなるからな。そっちは飲食か」
「うん。実はアルバイトしようと思ったのも昨日ファミレスに行ったときに見かけたチラシがきっかけだったんだよね。お金も欲しいけど、おいしいご飯も食べたいし」
「飽きないといいがな」
「それはまあ、期間限定メニューとかあるし。それに仕事がある日は必ず食べるってわけでもないしね」
「っと、お二人さん。楽しそうに話しているが残念ながらどっちの仕事もだめだ」
「「え?」」
だ、だめ? どういうことだろう。
「だって、お前さんたち『防人』だろう? だからわざわざここまで来たようだしな」
そう、能力者とはいえアルバイトがしたいからとわざわざ1号館に来なくていいように寮に求人の張り紙が張ってある。そこからアルバイト先を選んでいるところに清木教授が現れて、『申し訳ないけれど、防人ならアルバイトをするにしても制限があるんだ。ちょっと1号館に行ってきてほしい』と言われたのだ。なのでこうして真中さんのところまで来たわけだけれど、本当に制限があるとは思ってなかった。
「ど、どうしてですか?」
「そうだな。防人は今防犯ブザーを配っているだろう?」
防犯ブザー。今僕たち能力者は別の組織から狙われているので、その組織から能力者を守るために防人というサークルが発足されたのだけれど、さすがに防人も誰がどこで襲われているかまでは分からない。そこでGPS付きの発信器である防犯ブザーが役に立つ。黒い長方形の真ん中にあるボタンを押せば襲われている能力者の場所が防人のメンバーのスマートフォンにアラーム音を出しながら表示されるのだ。ちなみにマナーモードにしていてもこのアラームは鳴る。
「はい、配ってますよ。もう寮にいる人全員が持っているはずです」
一応任意で防犯ブザーを受け取れるのだけれど、自分が狙われていると考えれば持った方がいいと考えたのか、ほとんどの人が受け取ってくれた。寮の人数分用意されていた防犯ブザーはあっという間になくなった。
「それが問題なんだよ。飲食店はキッチンにいようとウエイトレス、まあ配膳とかホールと呼ばれる仕事の人たちもスマートフォンを持ちながら仕事をすることを許可してくれない」
「ま、まあ確かに」
スマートフォンは雑菌だらけらしいし、アルバイトテロなんていうのもあった。確かに厳しいかもしれない。
「そうなると、カラオケは大丈夫じゃないか?」
「ところがそうでもない。もちろん食事を運んだりするからというのもあるが、カラオケ内の個室内に食事を運んだ時などは音楽の音に邪魔されてアラーム音が聞こえない可能性がある」
「ぐ、まあ、一理ある」
アラーム音がどれほどの長さで鳴るのかもどれほどの大きさで鳴るのかも分からないけれど、人によってはかなり大きな音で歌っている人もいる。アラーム音がかき消される可能性もあるのだろう。
「まあ、そもそも前提としてお前らは呼び出されたらすぐに駆け付ける必要があるわけだ。もちろんこの曜日は誰が担当するとかで対処できるのかもしれないが、そいつらが体調を崩したり、複数人が同時に襲われたりしたら誰かがフォローに行かないといけない」
「「う」」
な、なるほど。言葉遣いは荒いけれど、しっかりと考えてくれているようだ。
「となると、いつ抜け出されてもいいように人手に余裕があるところがいいな。まあこればっかりは職種は関係ないが。そして重要な、常にスマートフォンを持っていても平気な場所......ふむ、スーパーマーケットはどうだ?」
「まあ」
「それで」
「決まりだな。ほら、このグッドマーケットにこの曜日に面接に行ってこい。それじゃあ今日はここまでだ」
「「ありがとうございました......」」
まあ、防人ならしょうがないよね。学費の免除までしてもらっているわけだから。
僕たちは肩を落としながら1号館を後にした。
確かに能力者は優遇する必要があるみたいだ。




