26話
早速堂次郎が女に命令する。
「さあ、ゾンビ化した奴らをもとに戻せ」
「......それはできない」
「「え?」」
僕も堂次郎も素っ頓狂な声を上げる。も、もう元に戻せないの?
「さあ、こいつらを仕留めて」
「おい、ゾンビを動かすな! 首を絞めるぞ!?」
「構わない」
「......ッチ! くそ、分からねえ!」
堂次郎が何やらうめいている。何が分からないのだろうか? 気になるところだけれど、そんな疑問を解決する前に今はこの状況を何とかしないと!
本体の傍にいたゾンビが堂次郎に手を伸ばす。ここまでか......!
「あー、お腹すいた。あれ、なにこの状況?」
「清木さん、少し離れてください」
「上木、これは?」
そんな緊張した空間にすっと入ってきたのは清木教授と二人の巨漢だ。巨漢のうちの一人が僕に尋ねてくる。だけど、清木教授はすでに状況を理解したようだ。
「早速防人が活躍したみたいだね。波川君たち、ちょっと手伝ってくれる?」
「もちろんです。おい、学」
「もうやっているぞ始」
「ならいい」
なにやら状況が一気に動き始める。堂次郎に手を伸ばしていたゾンビが突然膝をついた。
その場で戦っていた人たち、もちろん僕を含めて何が起きたのか理解できない。
「ありがとね、上木君。あとはちょっとこっちで何とかするよ」
「上木、俺にこいつの能力を教えろ」
学、と呼ばれた方の巨漢に聞かれる。こんな足首をつかまれた状況で、とは思ったけれど、いつの間にかゾンビが掴んでいたはずの足首が自由になっている。ほ、本当になんだろう。
とりあえず立ち上がって、包み隠さず能力を話す。学さんは頷いて清木教授のもとへ戻っていく。
「蔵介殿、なにが?」
「俺にも説明してくれよ」
朝倉君と堂次郎が寄ってくる。女は堂次郎から巨漢に身を拘束されて、清木教授の前で座らされている。
「そんなこと言われても、僕にもさっぱり......それより、堂次郎こそ何をしていたのさ」
「ああ。俺の能力は五感を一気に強化するんだ。だから、あいつの視線を避けて気づかれないように接近していた。できれば一人で処理しようとしていただが、その機会が生まれなくてな」
「なるほどね。さっき言ってた『分からない』っていうのは?」
「五感を強化したら体温の上昇とか鼓動の速さとかで嘘をついているか分かると思ったんだが、あれが嘘をついているから鼓動を早くしたのか、首を絞められることに体温を上昇させたのかが分からなくてーー「いやああああああああああああ!!!!」
「「「!?」」」
三人で身を竦ませる。な、なんだ今の絶叫は?
「さて、ゾンビを元に戻そうか?」
「......う、うぅ」
「それじゃあ、もう少し強く」
「待って、まってまってまってまってまってーーいやああああああああああああああああああ!!!!」
あんなに大人しかった女の人が、聞いたことがないくらいに叫んでいる。
「戻す! 戻しますから! それやめて!!! あああああああああああ!!」
「戻したらやめるよ」
「この状況じゃ戻せない! 一瞬、一瞬でいいからああああああ!」
「しょうがないなあ」
女の子の絶叫が一瞬やんだと思えば、周りにいたゾンビが姿を変える。女の子とまったく同じだった姿からもとの姿へ戻っていく。というか、こうしてみると身長や性別まで変えてゾンビ化されるのか......
。改めて恐ろしい能力だ。
元に戻った人たちのなかには意識を失くした人と意識がある人の両方がいる。意識がある人は当然戸惑っている。
「とりあえずこの場は我々が何とかしよう。上木、ご苦労だった」
「え、だ、大丈夫なんですか?」
「ああ。早くいけ」
波川と呼ばれていた巨漢に言われた通りカフェから離れる。これが防人の役目なのか。正直、結構危ない使命だ。
僕と堂次郎と朝倉君は言われた通りカフェから出ていき、寮へ戻る。道中、朝倉君が尋ねてくる。
「そういえば、『防人』ってなんのことでござるか?」
「ああ、それは僕たち能力者が別の組織に狙われているから、その組織から能力者を守るために発足されたサークルのことだよ。よかったら入らない? さすがに僕と堂次郎だけじゃ厳しくて」
「それは是非に入りたいでござる。拙者としても実戦での経験を学びたいでござるから」
朝倉君からの快い返事。これはすごく助かる。これで防人の戦力が一気に強くなった。
「ありがとね」
「礼には及ばぬでござる」
「......ところで、お前ら。何か忘れていないか?」
「「?」」
突然堂次郎が聞いてくる。忘れていること?
「ほら、朝倉がパフェを食べたいって」
「「あ」」
完全に忘れていた。僕と朝倉君で顔を見合わせる。
「......ファミレスでも行こうか」
僕たちは寮からファミレスへと目的地を変えたのだった。
大人って怖い。




