19話
「正、これはまずい! いったん逃げよう!」
「いや、必要ない。もう勝ってるからなーーおい、康太。本当に降伏しないんだな?」
「しつこいな。ーーおっと、更に悪いニュースだ。応援が来たぞ」
顎を動かして僕たちの後ろを示す。ちらりと横目で正のほうを見ると、正はブラフの可能性を考えているようで康太から目を逸らさないので、代わりに僕が後ろを振り返る。
「おう、君たちが能力者か」
現れたのは金色の髪を肩まで伸ばした男。細身で、耳には大量のピアス。服装も立ち姿もどことなく浮ついている。
「片方は無能力者だ。それにしても遅いぞ、泰三。まあ、もう少し遅くても大丈夫だったが。ーーさて、お前らこそ降伏するか?」
「いいや、やっぱり降伏するのはお前らだ。あいつを頼んだぞ、蔵介!」
「そんな無茶な!?」
正が走り出したのは康太のほうだ。つまり、応援としてやってきた男(泰三と呼ばれていた人)は僕がやらないといけないみたいだ。
「来いよ、無能力者」
「わかってるなら見逃してほしいんだけどね」
とりあえず、泰三と対峙。泰三はそわそわとした様子で視線をいろいろな場所へ飛ばしている。この浮ついた余裕のある雰囲気は、どうにも強敵な予感だ。
「来ないなら、こっちから行くぜ。くらえ!」
「うわっと!?」
泰三が掛け声を発すると、僕の体が勝手に泰三の方へ引き寄せられる。これが泰三の能力か!
足が勝手に動くというよりは、おなかのあたりからグイっと体を引っ張られる感じだ。これは、流れに逆らわないで足を動かすのが吉だろう。そう考えた僕は引っ張る力に抵抗しないで、むしろそれを推進力にして泰三に接近し、頬めがけて拳をぶつける。
「うわあ!」
情けない声を出しながらかがんで僕のこぶしをやり過ごす泰三。こぶしを振り切って無防備な僕に攻撃せずに両手で頭を覆っている。
「何やってんだ、泰三!」
こちらは正とぎりぎりの戦いをしている康太の声。康太が投げたナイフは正の腕の届く範囲に入ったところで、正の腕によって無理やり軌道を変えられていた。とはいえ、正も無敵ではない、腕や足、頬にも切り傷が目立つ。
「やっぱり僕には無理だ!」
「うるさい、いいからやれ!」
「それじゃあ、康太、せめて協力しようぜ!」
「ったく、しょうがない!」
康太はナイフを数本、こちらに向かって投げてくる。一本は早速分裂して正の背後へ向かう。これがもう一回分裂したら正を刺せるというわけか。
ただ、警告をしている暇はない。とりあえずナイフの軌道から避けようと体を横にずらすと、康太が投げた残りのナイフは素早く2回分裂してやっぱり僕の方へ向かってきた。当然それをよけようとするが、
「うわ!」
ナイフが、加速した。慌てて避けるが、何本かが僕の体を掠っていく。体に奔る鋭い痛みに顔を歪めながら考える。これは当然、康太のナイフを泰三が引き寄せて加速させたのだろう。
それからは不定期にナイフが飛んできて、所有権を奪おうと腕を振るえば、ナイフが加速してどうしてもタイミングがずれる。調子づいたのか泰三まで攻撃に参加している。わざわざ近づいてくるので何発か蹴りを腹に入れるけど、確かに泰三に意識が集中しちゃってナイフを避けるのが難しい。これは意外と厄介なコンビかもしれない。
「正、早くなんとかして!」
「なんだ、しょうがないな」
言うが早いか、正は弾いて落ちているナイフを広い上げるとナイフの柄尻を力強く叩いた。
「それじゃあ、『セカンドインパクト』」
「グハア!?」
そういうと、突然康太の体が吹き飛ぶ。そして地面に倒れたところで、こちらで戦っている泰三に向かってナイフを投げた。元々かなりはやいスピードだが、
「『セカンドインパクト』」
正がそう呟くと、ナイフが加速する。ナイフは狙ったのだろうか、泰三の太ももに命中した。
「いてええ!」
「蔵介、そっちを頼む」
「オッケー」
言葉の意図を理解して、僕は泰三の腕をがっちり掴んだ。そして倒れている康太の腕を拘束して正がやってくる。
「とりあえず、こいつらを清木に渡すか」
「そうだね」
「その前にっと」
それぞれの腹に蹴りを入れる正。二人は苦しそうに悶えている。
「それじゃあ、行くぞ」
「うん」
そのあと、康太と泰三は清木教授の近くにいつもいる二人の巨漢に引き渡して話が終わった。一体何だったんだろうか。
「まあ、清木教授に聞けばわかるか」
「だな」
僕たちは改めて清木教授のもとへ向かった。
正の能力、かっこいい。




