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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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16話

「少し動かないで」

「は、はあ」

 さんさんと太陽が日光を降り注ぎ、少し涼しい風が吹きつける中、僕はおじいさんに人差し指で額を突かれています。自分でも何を言っているか分からないけれど、今はジッとしているしかない。

「......ぅ」

 少し、変な気分だ。汗がじっとりと首元を濡らして、吹き付ける風が冷やしてくれる。

 吐き気がするとかではない。頭痛がするとかではない。お腹の中をぐるぐるとかき混ぜられているような感覚、いや、かき混ぜられているというよりは勝手に混ざっていくような......

「......あ、ちょっと、これ以上は」

 僕はすごく嫌な感じがして一歩下がろうとするが、おじいさんが許可してくれない。

「駄目だ、もう少し我慢しろ」

 命令調で言われて思わず言うとおりにしてしまうが、これ以上は駄目だ。

「す、ずみません、ご、れいじょ、は、あ、あ、ああ、は、うぐ、おえ、」

 何か言葉にしようとするが、出てこない。吐き気とか、痛みとかはない。ただ、変な気分なんだ。変な気分なんだ。

 そして、頭の中に何かが溶け出す感覚。それを感じた瞬間、俺の意識が切り替わった。

「おい、いつまで触ってんだ......」

「! ほう、君の能力は......」

 俺は額に突き付けられている手を跳ねのける。気分が悪い。

「---あ、あえ? 俺、あれ、僕?」

 な、なんだなんだ? なんか、一瞬意識が飛んだぞ? 白昼夢って奴か?

「な、何するんですか!」

 僕は意識を飛ばした原因であろうおじいさんから離れる。その拍子に、つまずいて転んでしまう。恥ずかしさを感じながらも起き上がろうとするが、どうにも力が入らない。うまく立てない。

「いや、すまない。少し人を呼んでくるから。あとでゆっくり事情を話すよ」

「は、はあ?」

 本当に、良く分からない。僕はただ、清木教授に会いに行こうとしただけなのに。

 ボーッとその場に腰を付いていると、誰かがやって来る。

「もう、何やってるの、蔵介」

「あ、雪音」

 おじいさんが連れてきたのは雪音だった。普通医務室の先生とか呼んでくるものではないだろうか?

「すまないが、医務室に運んでくれるかな?」

「はーい。暴れないでね、蔵介」

「え? う、うわ!」

 体を支えていた腕から突然重みが消えて思わず手をじたばたさせてしまう。雪音が僕をお姫様抱っこしている、ように見えるのだけれど、実際は少しだけ雪音の体から離れている。

 雪音は少し呆れた表情で歩き始める。

「それじゃあ、連れて行きますね」

「お願いするよ。私は清木教授に報告してくる」

 おじいさんが清木教授がいるであろう1号館に歩いていく。ああ、僕も清木教授に用事があったのに。

 運んでもらいながら黙っているととても恥ずかしいのでとにかく話しかける。

「雪音は今までどこにいたの?」

「んー、色々なところ。北は北海道、南は沖縄まで日本中を行脚しました」

 少し得意げな表情で語る雪音。胸を反らした拍子に甘い香りが漂って顔を真っ赤にしてしまう。それを誤魔化すようにたたみかけるように質問する。

「それってなんで? 雪音は強い能力者だって分かるけれど、そんなに日本中が雪音にしてもらいことなんてあるかな」

「えっとね、私は別に誰かを殺すために日本中を移動していたわけじゃないの。もちろん、誰かを暗殺してくれなんて言われたこともあったけど」

「それじゃあなんで?」

「私はね、他の組織から逃げてたの。でも次は私の意志で、私のことを守ってくれる人を探しに日本中、いや世界中を回ろうかなって」

「......そっか」

 もう僕としては止める理由はない。この後の決勝戦で雪音がこの学校に価値を見出せなかったらほかの学校へ行ってしまうのだろう。まあ、このトーナメントが終わってから雪音がいなくなってしまうまで6日ほど猶予はあるけれど。それでも、雪音の件に関して僕が関与するつもりはもうない。

 そのあとは適当な雑談をして、医務室まで運んでもらい、ベッドに横にしてもらう。

「ありがとね、雪音。怪我だけしないように決勝戦頑張って」

「はいはーい。それじゃあ、行ってくる」

 医務室から出ていく雪音の背中は、僕が今まで知っていた雪音の背中と比べて、大きく変わっていた。


幼馴染だとかはもう関係ないみたい。

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