13話
工藤君たちは。そこには一人の女性がいた。紫色の髪を腰までストレートに伸ばしている美女。身長が高く、ウエストも細く、顔はモデル顔負けといってもいいくらい整っている。可愛いというよりはとにかく美しいという感想だ。
僕は少しドキドキしながら返事をする。
「そうだけど、何か用事?」
「いや、大したことじゃないのよ。ただ、あんた、白川と知り合いみたいじゃない」
「ああ......まあ、そうだけど」
僕は一気にテンションが落ちる。はあ、僕に興味があるというわけじゃないのか。
そんな僕とは対極的に笑顔になって寄ってくる女性。えっと、
「とりあえず、名前、聞いても大丈夫?」
「ああ、忘れてたわ。高原涼子。率直に言うわ、あいつの弱点を教えなさい!」
「ええ......」
とりあえず、興奮しすぎているようだ、僕はどうどうとなだめながら理由を尋ねる。
「だって、悔しいじゃない!」
「悔しい?」
「ええ。あなたは無能力者だから分からないだろうけれど、自分の能力を知ってから私は選ばれた存在だと思って生きてきた。そんな私の何倍も凄い奴がいるなんて、聞いていないわよ!」
「聞いていないって言われても」
「そんなあいつを私がけちょんけちょんに出来れば、みんな私を崇めるでしょう?」
「いや、崇めはしないと思うけど。ただまあ、見直しはするかもしれないね」
「でしょう? だから、あいつの弱点で知っていること全部教えなさいよ」
「うーん、そう言われても。僕が雪音と再会したのはつい昨日だし、再会する前に話した記憶があるのも僕が小学生のころ。正直、弱点と言われても」
「そう言わずに。教えないなら、ここで殺すわよ」
「そんな無茶苦茶な。......あ、そうだ。じゃあ、高原さんがなにか得意なことを教えてよ。それが雪音に勝ってるかどうか判断するから」
保証はしないけれど。僕は心の中で一言付け足す。
僕の言葉に「確かに」と頷いて考えだす。
「そうね、容姿になら自信があるわ」
「確かに女優さんくらい美人だと思うけれど、雪音は可愛いからなあ」
「......あんた、美人と可愛い人だったらどっちが好き?」
「可愛い人」
「じゃああんたの主観じゃない!」
「いて!」
思いっきりビンタされた。ひどい。
「主観が入らないようなのがいいわね」
「そう思います」
「なんで敬語なのよ。あ、それじゃあ勉強とかはどう? 私こう見えて特待生なのよ」
「へえ、そう見えて」
「......」
「痛い! 叩かないで!」
「まあ、特待生って言ってもトップとかじゃなくて、学費が少し安くなる特待生。入学試験の結果が良い人ならもらえる称号よ」
「それでも凄いなあ。僕はそんな通知なかったし」
「でしょうね」
「頭よさそうには見えないかあ」
「当たり前でしょう。それで、どうなのよ、白川には勝っていそう?」
「うーん、学力辺りは何とも言えないなあ。さっきも言ったけれど、僕が雪音と再会したのは昨日だし、小学校の頃の成績なんて覚えていないし、覚えていたとしても、あんまり頼りにならないんじゃない?」
「それもそうね。はあ、あんた使えないわねえ」
「ひどい」
「それじゃあ、なにか白川の苦手なものってないの? 怖いものでもいいけど」
「うーーん。......ないなあ」
「あいつ完璧すぎじゃない!?」
「いや、欠点を言えって言われても言えないし。正直、完璧だよね」
「きぃぃ! 腹立たしいやつね!」
「可愛いし、超能力者だし。なんか雰囲気が穏やかだし。側にいるだけでいい香りがしそうだし」
「聞いてないことベラベラ喋るんじゃないわよ! なによ、あんたが白川にべた惚れなだけじゃない!」
「否定はしない」
「あんたも腹立つ! 相談相手間違えたわ!」
「何の話?」
「ちょっと聞いてよ、こいつ白川にべた惚れーーって白川じゃない!」
「あ、雪音だ」
気づくと、側に雪音がいた。そういえば、トイレに行くって言ってたっけ。そりゃトイレから出てきたところで自分の話をされていたら何を話しているか聞きたくなるよね。
雪音はすごい。