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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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140話

 

「蔵介、入れ替わっているな?」

 この旅館に来てから6日目。今日は早朝からアルバイトが始まり、特に能力者に襲われることなく昼休みとなった。

 今はバックヤードで堂次郎、正と一緒に3人で賄いを食べているところ。

 そして正の「入れ替わってるな?」というのは、俺が能力を使って、もう一つの人格になっているかを確認する言葉だ。

「ああ、入れ替わってる」

「それじゃあ、作戦を、話すとするか......」

「正、飯を食うか喋るかどっちかにしてくれ......」

 ガツガツとすごい勢いでご飯を食べる正に呆れながら、堂次郎もご飯を口に運ぶ。

「それにしても、昨日大人たちが話していた通り、今日はβ大学の襲撃がなかったな」

「なるほどな、それなら、作戦も結構できる、ってわけだ......ふぅ」

「早食いは体に悪いぜ、正......」

 すでに完食してお茶を啜っている正に呆れながら、話を進める。

「まず、雪音の業務時間は今日の夕飯の終わりまでだ」

「なるほどな。蔵介は夕飯前に退勤で、正も夕飯終わりまで業務だったな?」

「ああ。矢野と大野は昼から夜までみたいだ」

「高原は?」

「俺と蔵介と一緒で、夕飯前まで。まああいつは自由にしてるだろ」

「ってことは、夕飯終わりくらいに俺が白川を蔵介のところに誘導すればいいんだな?」

「頼む。場所は、夜の海が見えるバルコニーがいいな......どっかにあったよな?」

「確かあったな。誰でも使える場所だが、少しわかりづらい場所にあるし、夕飯後に誰かがいたらわざわざ入ってくるやつもいないだろ」

 こんな感じで、今日の夜に雪音と二人きりになる作戦を立てていく。当然だが、闇討ちしようってわけではない。

「それにしても、まさかそっちの人格の蔵介から、『リゾートバイトのどこかで雪音と二人きりになりたい』と頼まれるとはな......」

 まあ、そういうわけだ。俺はどうにかして元の人格の俺と雪音を良い雰囲気の中で二人きりにしてやりたいと感じている。

「一応、そっちの人格は『戦闘用』なんだよな?」

 堂次郎が味噌汁に口をつけながら尋ねてくる。全くもってその通りで、『俺』は戦闘用の人格だ。「ああ」と一言答える。

 俺は今こうしているときにも、ご飯の味よりも他のことに意識がいっている。例えば部屋の気温であったり、例えばドア越しの喧騒であったり。もうこれは癖みたいなもので、そういう状態が必要だからこそ、『俺』がいる。恋愛やら勉強の悩みやら人付き合いなんかは正直どうでもいい。

 そんな俺がなぜもう一つの人格と雪音を二人きりにしたがるか。

「......まあ、分からないけれど。なんとなくそうしたくなったんだ」

「おいおい、男同士で恋バナはきついぜ」

「そう言うなよ正。これもゲームの材料だ」

「お前こそ変な茶々入れるなって」

「で、蔵介。具体的にどういう目的なんだよ?」

 メモ帳を懐からスッと取り出した堂次郎。正もなんとなく興味がありそうな雰囲気を醸し出している。

 目的、目的か......。

「さっきも言った通り、なんとなくなんだよ」

 考えながらも、肩を竦めて答える。そんな俺の態度が面白くないのか、堂次郎に加えて正も追及してくる。

「『なんとなくそうしたい』ってだけで答えみたいなもんだろ?」

「全くだ。恋人になりたいって思うのなら、素直になるのが一番の近道だぞ」

「......そう思うよな? でも、素直なのってどっちかといえば元の人格じゃないか?」

「「......確かに」」

 もう一つの人格、というか本来の人格はかなり素直。だからこそ拗ねやすかったりするのだが、かなりの美点のはずだ。......自分で言っていて恥ずかしくなるかと思いきやそうでもねえな。やっぱりどこか他人事なんだろうな、俺は。

「クサい言い方をするが、わざわざ『俺』にやらせようって思ったんだよ、上木蔵介は」

「ってことは」

「戦闘絡みってことか?」

「恐らく」

 そう答えると同時に、その場の三人が腕を組んで唸りだす。自分で言っておいてなんだが、かなり可能性が低い話をしている。

「間違いなく雪音になんらかの感情があると思うんだがな」

「そりゃあ誰に対してだってあるだろ。ただまあ俺たちから見たお前は......なあ、正?」

「ああ、間違いなく恋してる」

「堂々と言うな、お前.....「誰が恋愛してるって話なの!?」

 うぉ、びっくりした。思わず人格を引っ込めてしまいーーー

「びっくりしたあ。高原さん、もう休憩?」

「いえ、まだよ」

「じゃあ働いて来いよ」

「サボるな」

「散々な言いようね......恋バナの気配がしたのだけれど......男三人集まってする話でもないだろうし」

 なんと、高原さんは恋バナを聞くのが好きみたいだ。ただまあ、僕の別人格も出ていたようだし、戦闘系の話をしていたに違いない。センサーはあまり高性能じゃないみたいだね。

「そうだ、高原」

「何よ」

「なんとなくその人と二人きりになりたいなと思っていたら、それって恋だと思うよな?」

 正が突然そんなことを言い出す。え、と。ほんとに恋バナしてたの?

「あんたら、ほんとに恋バナしてたの......?」

 高原さんも全く同じリアクションをしている。ただ質問には答えてくれるようで、人差し指を顎に当てて「うーん」と考えはじめる。なんていうか、こういう仕草も様になる人だ。美人は得だなあ。

「まあ、間違いなくその人のことが好きなんでしょうけれど。『なんとなく』っていうのは少し引っかかるわね」

「そうか? まだ恋愛感情か分からないってことは「ある? 高校生以降の男女にそんなこと」

「「......」」

 正と堂次郎が顔を合わせて、「ってことは......?」みたいな顔をしている。なんだなんだ、なんか物騒な話をしていたのかな?

「そういう意味で、純粋な恋愛感情ではないのかもしれないけれど......男目線の話なんて興味ないし。まあなんかあったら頼りなさいな」

「ああ、サンキュな、高原」

 仕事に戻っていく高原さんを見送る。というか、僕らのお昼休憩の時間も終わりが近づいてきている。ご飯を食べ終わらなければ。

 まだお皿に残っているご飯を急いで口に運ぶ。この二人、もしかしたら朝倉君も含まれるかもしれないけれど、防人のメンバーと二重人格の僕が何かを企んでいるようだ。

 そして、こういう状況になった時の僕の心構えは一つ。

「なるようになるでしょ」

 というわけで、ご飯を食べて午後の業務に備えるのだった。


「ふぅむ、勧誘活動の禁止.....めんどいっすね」

「流石に大人しくしておくのかのぅ?」

「......いや。そろそろ実行してもいいのかもしれないっすね」

「ということは、『守護神(ガーディアン)』との全面戦争ということかのぅ?」

「全面戦争だとまだ勝てないっすね。だから、これは個人的な闘いっす」

「保険ということか。ならば、今回はわしが持ってきた情報も意味はなさそうじゃのう」

「まあ、また別の機会に使わせてもらうっすよ。念のため移動系の能力者を用意......いや、確実な勝利なら......」

「あぁ、このモードに入られてしまったのぉ。水鏡、わしは先に帰るからのう」

「うぃっす..........」

「やれやれ。なんでか分からんが、こやつには逆らう気がおきんわ。そういう意味では、管理の役割も大変よのぅ、守護神よ」

どうやら、呑気な話になるわけではなさそうです。どちらも。

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