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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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139話

「ーーー今日もお疲れ様でした、上木さん、高見さん」

「「お疲れ様です」」

 陽が落ち始めて空がオレンジ色になった頃。僕と堂次郎は退勤の時間になった。

 この旅館にアルバイトに来てから5日目。尾立さんと裏でコソコソとβ大学の襲撃を退けていたわけだけれど。

「今日は何もなかったな」

「ね。結構警戒していたんだけれど」

 二人で着替えるためにバックヤードへ向かいながら話をする。アルバイトが始まってから毎日能力者とあっているからね、流石に警戒して働いていたのだけれど、今日は能力者が現れなかった。

 バックヤードで着替えを終えて自室へ戻ろうとすると、エントランスにいる男性に声を掛けられる。

「上木君に高見君、お疲れ様」

「あれ、清木教授に立花学長」

「ん、二人ともお疲れ様」

「どもっす。それで、蔵介に何か用事が?」

「そうそう、ちょっと用事があってね。二人とも、今時間大丈夫?」

「あれ、俺もっすか?」

「ちょうどいいし、『防人』のみんなに聞いてもらおうかなって。どう?」

「お夕飯、ごちそうするよ?」

「そういうことなら」

「時間大丈夫っす」

「決まりだね、それじゃあ行こうか」

 先導する清木教授と立花学長に連れられて、旅館の外へ出る。空調の聞いた室内から出ると同時に、少し柔らかな熱気に身体を包み込まれる。

「アルバイトの調子はどう?」

「順調ですよ。皆さん優しくしてくれて」

「それならよかった。雪音も大丈夫そう?」

「中々緊張が取れないとは言ってましたけど、楽しそうでした」

「あとは襲撃が無かったら嬉しいんだけどな」

「文句はβ大学の人たちに言って」

「まあそれはそうですよね」

 わちゃわちゃと4人で話しているうちに、この町で有名な撮影スポットにやってきた。と言っても初めて来た場所ではなく、僕の腰くらいの高さの真っ白なヒスイの石とそれを筒状に囲むような灰色の岩が存在する崖だ。そろそろ空も黒に移り変わろうとしているのに、そこそこの人がいる。えっと。

「ここには何をしに?」

「ああ、灯軌......尾立くんと待ち合わせだよ」

「もう着いてるらしいけど......どこにいるかな......」

 辺りを探していると、背の高いビジネススーツの男性と、小柄な女性のペアを見つける。ちょうどヒスイの石の前で写真を撮ろうとしている。

「灯軌、お待たせ」

「ん? やあ清治。予想より早かったな」

「上木君がすぐに見つかってね」

「それでも寄り道して遅れてくるのがいつもの君なんだが」

「私の言うことは従順に聞いてくれるからね」

「やあ立花。清治のお守りも大変だね」

「ほんとに大変。萌音は尾立とうまくやれてる?」

「穂乃果は昔から心配性だねぇ。大丈夫だよ」

「面倒見がいいって言ってほしい」

「「............」」

 ヤバい、なんか大人たちのトークが始まっちゃった。僕と堂次郎は話に入ることも割り込むこともできず、なんとなく落ち着かなくなってしまう。

「折角だし、僕らは僕らで写真でも撮っておこうか」

「ああ、ちょっと暇だしな」

 そんな感じで白い石に触れたり写真を撮ったりしていると、大人たちに呼びかけられる。

「ごめんね、上木君たち。そろそろ移動しようか」

「「はーい」」

 そんな道中を挟んで、連れられてきたのは少し古風な建物の定食屋だ。気難しそうな店主さんに案内されて、個室に連れられてくる。

「さっきはごめんね、ちょっと込み入った話をしようと思っていたから、雑談はあそこでしか出来なくてさ」

「なんだ、元々能力者絡みの話をする予定だったんだな」

「うん。それじゃあ早速話を始めるね」

 清木教授がコホンと咳ばらいを一つしてから話を始める。

「まずβ大学の勧誘行為だけれど。これについては能力者全体としては一先ず黙認ということになった」

「そんな、あんなに堂々と能力を使われていたのに」

 能力の存在が無能力者に明かされると大きな混乱を招いてしまう。なので、現在は能力の存在を見せびらかすような行為は暗黙の了解で禁止されているのだ。

「禁止されているといっても、あくまで『暗黙』。まだ能力というものの扱いを定めた法律が存在しないのさ」

「まあ基本的に現在の法律で対応できるしな」

 堂次郎がボソリとつぶやく。確かに殺人や不法侵入、万引きはちゃんと法で裁かれる。現に昨日闘った河内だって法で裁かれた結果牢屋にいたしね。

「ただ、さすがに何らかのペナルティが必要だという意見もある。だから尾立君が抜擢されたんだ」

「というと?」

「『これ以上、やむをえない場合での無能力者の前での能力の使用が確認されたら、『守護者』での武力行為を実施する』と伝えたのさ」

 確か能力者と無能力者の間を取り持っている機関が『守護者』だっけ。

「それじゃあ尾立さんが最近僕と手を組んで行っていたのは」

「β大学の現状の戦力の確認と、勧誘の結果実際に相談に来た『能力者』の確認。そして総管理者への通達さ」

「それにしては時間がかかったようだな」

「勘弁してくれたまえ。彼らにただ武力行為を実施すると言っても効果はあまり見られないのさ。だから、『君たちのことは知り尽くしている。襲撃されたくなかったら大人しくしろ』。こういうためにも情報を集める必要があったのさ」

 確かに内情が知られている状態で闘いが始められたらかなり不利であることは間違いない。特に能力者同士の戦いなんて。

「それじゃあ、これで解決ってことですね」

「ああ。上木もよくやってくれた」

 いやーよかったよかった。そう考えていると、不思議そうな表情で堂次郎が口を開いた。

「......待ってくれ、それだけじゃ理解できないことが一つあるぜ。なんで清木教授がここにいるんだ?」

「どういうこと、堂次郎」

「尾立が『守護者』として動いていたのは分かった。β大学に対応したというのも別に疑っていない。ただ、清木教授は何でわざわざここまでやってきたんだ?」

「そう言われると確かに、今回の件はA大学としては特に動く必要はないよね。さすが堂次郎、鋭い」

「もっと褒めろ」

「もう褒め終わりだよ」

「それは、雪音が『超能力者』だから。尾立にはあなた達の引率も頼んでいたの」

 ここで話始めるのが立花学長。その言葉でふと思い出す。

「もしかして、雪音が今回アルバイト出来ているのは」

「そう、『守護者』の引率があるから。この間はお世話になったから」

 僕は2つのことに驚いている。1つは、『守護者』の影響力。彼らの内の一人がいれば超能力者の制限を取っ払える。ある程度自由にさせてあげられるのか。

 そしてもう一つは。

「大人って、嘘を吐いてばかりじゃないんですね」

「あはは、それってどういう意味?」

 萌音さんが警戒に笑いながら尋ねてくる。だって、

「最初の『β大学の雪音襲撃』から、『栞奈御庭番』や『隼人強化計画』まで全部何かしら僕に嘘を吐いていましたよね』

「そうなのかい、清治」

「失礼な、嘘は吐いてないよ」

「隠し事をしていただけ」

「同じようなもんだろ」

 清木教授と立花学長の息の合った弁解も、堂次郎の辛辣な一言でまとめられる。

「まあいいさ。大人なんて嘘を吐く前提の生き物さ。とりあえず、約束通り残りの2日間はβ大学が君たちを襲うことはないだろう。たくさん働いて、たくさん美味しいご飯を食べて、たくさん遊んで。良い思い出にしてくれたまえ」

 そんな風に尾立さんがまとめると、ちょうど料理が運び込まれてくる。

 そうだよね、尾立さんがいるおかげで雪音も普通の生活を楽しんでいるんだ。最後までこの遠出を楽しみ切ろう。

正直、大人4人に囲まれての食事は気を遣いそうですよね。

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