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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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137話

 頭の中に浮かべる勝利条件は2段階。まずは朝倉との合流、そしてこの二人を撃退する。

 ただ、これを達成するにあたって1つ条件がある。それは、俺の能力を見せてはいけないということ。

 今回限りならまだしも、今後闘っていくであろう組織に対して能力を見せるというのは今後に大きく影響してしまう。出来る限りは能力を使いたくないのが本音だ。

「行くぞ」

 茶髪の男が鞘に納められている日本刀の柄に手を掛ける。

「......ん? うぉっと!?」

 少し違和感を感じたかと思えば、鈍色の刀が襲い掛かってくる。まるでフルスピードのバイクが突っ込んでくるような錯覚を受ける。

 現状でそれを受け止めることは難しい。俺は転がって対処する。

『おぉー』『今のどうやったんですかね?』『分からないねえ。今の技術の進歩は凄いからねえ』

 そんな呑気な声が聞こえてくる。俺が刃物で襲われているというのに呑気なものだ......と言いたいところだけれど、これは間違いなく能力によってそういう意識になっているのだろう。

 特攻してくる男にほかの人間の意識を変える能力。......決めた、まずは幻覚系の能力者を倒しに行く。

 俺は両手を地面についた姿勢から少し離れた位置にいる初老の男に向かって駆け出す。

「つれないのぉ」

 後ろから迫りくる脅威を感じながらも初老の男に対峙する。命が懸かった一瞬、俺は素早く拳を振り上げてーー

「喰らえ!」

 それをフェイントに頭を蹴り抜くように足を振り上げる。素早い攻防が求められるからこその大胆なフェイントだったが、

「ーーー、っふ!」

 初老の男がクロスした腕に阻まれてしまった。

「マジかっ」

 驚きながらも防がれた方の足を地面に踏み下ろして、それを軸にしながら後ろ蹴りを仕掛ける。

「っ、ふむ!」

 俺の背中を狙っていた茶髪の男に足が命中する。男が襲い掛かってくる速度も中々、ダメージは与えただろうが、こちらもよろけてしまう。

 その隙を見逃さないのが初老の男。

「お返しだ」

 年齢を感じさせないような素早い蹴りが俺の腹に命中する。

「ぐぉ.....!」

 腹の中を掻きまわされるような気持ち悪さ。このままだと満足に闘えない。

 無理やりアドレナリンを分泌させて、腹の間隔を消す。これも能力の応用だ。

「油断するでないぞ、塩見」

「こっちを気にせず集中してください、河内さん」

 そう言いながら斬りかかってくるのが河内と呼ばれた茶髪の男。日本刀を振り上げて、そのまま振り下ろしてくる。

 中々綺麗なフォームだが、振り下ろすまでの予備動作が長い。なんなく避けてやろう、そう考えた俺の脚を払ってくるのが塩見と呼ばれた初老の男だ。

 態勢を崩した俺。そこに向かって振り下ろされる刀。さすがにヤバい、能力を使うしかねえ!

 俺は体を硬化させながら態勢を整える。まずは低い体勢を活かした足払いから再開だ。狙うのはもちろん河内とかいう男ーーー

「『かまいたち』」

「ぐぁ! ......『武者』が来たか」

 紺色の甚兵衛姿の男が、木刀を片手にステージへ歩み寄ってくる。肩に届く程度の黒髪をストレートに下ろしていながらも、前髪は目が隠れない程度の長さで、穏やかな目つきがしっかりと見える」

『お? 真打の登場か?』『これまた和風な子だな』

 周りの無能力者も新しい登場人物に沸き立っている。一方、朝倉君が入ってきた入口付近にいる旅館のスタッフさんは少し戸惑った様子だ。

 能力が発動した時点でこの大広間にいた人間以外は、この状況に違和感を覚えている。あたらあしい情報を素早く結論付けながら、心強い加勢に一先ず安心する俺。

「その呼び名は光栄でござるねぇ」

 迷いない足取りでこちらへ歩み寄ってくる朝倉。ステージの床は大広間の畳から脛の高さ分だけ高い。そのステージに朝倉の足がかかると同時に。

「「ーーーっふ!」」

 木刀と真剣が交差する。木刀は少し削れるけれど、折れはしない。鍔迫り合いへと持ち込めている。

「押し切るかのぉ」

「!」

 ぼそりと河内が呟いたかと思えば、朝倉の木刀に一気に負担がかかったのが分かる。ステージの上から斬りかかっている河内が体を浮かせて体重をかけたのだ。

「よっと」

 流石に木刀では分が悪いと考えたのか、朝倉がそれをいなす。すると当然、河内の体がステージの下に落ちていく......

「止めでござ、「まだ終わってないぞ?」

 一歩ステージに上がった朝倉が振り向きながら河内の背中に向かって木刀を振り下ろす。その木刀が、河内の真剣によって逸らされる。

 そして、ステージの下で態勢を整えた河内がその場で飛び上がり、朝倉に向かって切りかかる。

 ただ力任せに斬りかかるだけでは説明がつかない推進力で朝倉に凶刃が襲い掛かる。やはり鍔迫り合いは不利と考えたであろう朝倉はそれを躱すことで対処する。

「ふむ、なかなかの手練れでござるね」

「こちらのセリフじゃよ」

 木刀と真剣が、拳と拳が間合いを測りあう。俺と朝倉は背中合わせで、お互いの相手と睨みあう。

 これでこの場にいる全員の能力が発覚した。獲物を振るった軌道にかまいたちが飛んでいく朝倉の能力、大広間にいる人間の認識を変える塩見の能力、推進力を得ることが出来る河内の能力、そして俺の二重人格。

 全員の能力が判明したのなら、そこまで難しい闘いではない。ただ気になるのは、河内が犯罪者であるということだ。

 刃物による殺害を行った河内。タダの決闘ではなく、純粋に殺意があるということ。俺たちが無意識のうちにかけている心のブレーキがすでに外れているのだ。

 嫌な汗を誤魔化すように拳を握りなおす。この闘い、長引かせたくはねえな......。


『殺害』の経験をした瞬間。間違いなく人は変わると思います。

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