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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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136話

「楽しみじゃのう、上木蔵介と闘えるとは」

河内(こうち)さん。あんまりはしゃぎすぎて、上木の仲間以外を殺さないでくださいよ」

「善処はするつもりじゃ」

「善処じゃなくて確実にですよ」

「そもそも、塩見(しおみ)。おぬしがいる時点で他人が怪我をする可能性を考慮しなくても大丈夫じゃろう」

「他人に頼りすぎないでくださいよ。あと、油断もしないでくださいね」

「分かっておる分かっておる......。ところで、塩見」

「? どうしました?」

「昼飯はまだかのう?」

「............そんなに若いんですから、ボケた振りはやめてください」

「ほっほっほ、分かっておる。塀の向こうの師匠の真似をしてみただけじゃ」


「ーーー売店の補充も問題なしだ。お疲れ様」

「確認ありがとうございます」

 夕方から夜に変わっていく時間。チェックインしていくお客さんがついでに眺めていた売店の補充兼レジ打ちをしていたところ、スタッフの方に声を掛けられる。

 いやー、それにしても。犯罪歴がある能力者が襲い掛かってくる、なんていう間が悪い時にレジ打ち担当になってしまった。それのせいで普段より警戒心を高めていたので、非常に疲れてしまった。

「それじゃあ今日の最後の仕事は夕食の準備だな。あとは俺がやるから、いってきてくれ」

「はい。よろしくお願いします」

 さて、後は夕食の準備か。この様子だと襲われることはなさそうだけれど、念には念を入れておいた方がいいよね。特に、能力者なんて何をしてくるのか分かったものじゃないんだから。

「おう、蔵介。お前は大広間の担当だってよ」

 携帯電話を少しだけ捜査してから食堂へやってくると、食べ物が乗ったトレーを運び始めている堂次郎と鉢合わせた。

「ん、りょーかい」

 僕が返事をすると、そのままいそいそとテーブル席へ食事を運び始める堂次郎。

 軽く説明すると、この旅館にはテーブル席とは別に大広間が用意されている。社員旅行とか修学旅行などの大人数にも食事が提供できるようになっているのだ。

 そして本日は社員旅行に来た人たちが使用する。朝倉君の家族である猛さんが腰を痛めてしまったタイミングで社員さんが予約したため、急遽僕らに声がかかった。言ってしまえば、僕らがリゾートバイトが出来るのもこの人たちのおかげみたいなものだ。疲れた体にはもう少し頑張ってもらおう。

 食事を受け取って、大広間へと運んでいく。畳の床に少し白めの木目調の壁。窓はなく、入口の体格にはステージがある。昔はここで芸者さんが演奏したり簡単な芸を行ったりしていたそうだ。今でもたまーに使われるので機材はあるけれど、今日はステージ上を綺麗に片付けている。

 すでに座っている人の数は、ざっと見た感じは50人ほど。社員となると少ないと感じてしまうけれど、部署全体ならこんなものなのだろうか。社会人じゃないので分からないけれど。

 ざわつく会場内には、すでに固形燃料式の卓上鍋が用意してある。運んできた料理やお酒を配りながら、燃料に火をつけていると声を掛けられる。

「あの、すみません」

 声をかけてきたのは、初老の男性。白髪の髪の毛をおでこが見えるように綺麗に整えており、穏やかな目元が印象的だ。そして、他の人たちとは違って、この人だけ法被を羽織っている。えらい人なのかな?

「はい、どうされましたか?」

「えっと、今日ってステージを借りる手はずになっているんですけれど、マイクとかってありますか?」

 むむ。僕は聞いていなかったけれど、ステージ上の機材を使用する予定だったようだ。

「そうだったんですね。確認します、少々お待ちください」

 料理の準備をする手を一旦止めて、近くの従業員に声をかける。

「うーん、確か人数もそこまで多くないし、マイクはなくてもいいって言っていたんだけれどな......。まあ準備はすぐできるから、ステージの裏からマイクを持ってきてもらってもいい?」

 言われた通りマイクを一本持ってきて、先ほどマイクを要求してきた男性に渡す。

「ああ、ありがとう。もう機材の準備はできているのかな?」

「ああいえ、もう少し準備が必要です。料理の準備が出来たら改めてお声がけしますね」

 そこから急いで料理を準備し、ステージの裏手に向かう。

「ーーーよし、準備できた。料理は準備できた?」

「はい。それじゃあ声をかけてきますね」

「うん、お願いするよ。使い終わったら、機材の電源を切っておいて。ちょっと僕は持ち場を離れるから」

「わかりました」

 従業員の先輩と一緒に裏手から出た僕は、そのままマイクを初老の男性に渡す。

「えー、本日はツアー旅行にご参加いただきありがとうございます。本日は開発部の方のみと聞いておりますが、非常に活気にあふれており、私も少々驚いております」

 そんな一言で、参加している人たちから笑顔がこぼれる。

 どうやら法被姿の男性はこの会社の人ではなかったようだ。だから差別化のために法被を羽織っていたんだね。

「簡単ではございますが、食事中の演目も用意させていただいておりますので、お楽しみいただければと思います。それでは、部長の方に乾杯のご挨拶をいただきましょう」

 ん? この後演目も用意しているのか。聞いていないけれど、マイク一本あれば十分なのかな?

 そこから乾杯の挨拶が終わり、マイクを受け取ってステージの裏手に一旦しまう。そこからお酒を用意したり、追加の料理を運んだりしているうちに、時間がどんどん進んでいく。

「あー、そろそろいいかのう?」

 そんな騒がしい会場の中に、突然マイク越しの若い男性の声が響く。あれ、電源を切り忘れちゃったっけ?

 慌ててステージの裏手に向かう僕。それにしても誰かのいたずらだろうか、勝手にマイクを使わないでほしいんだけれど。

 薄暗い機材の準備場所へ向かうと、そこには和服の男性が立っていた。

 まっすぐに伸びた背筋。穏やかな印象を受ける細い目。天然パーマな短い茶髪に、和服から除く筋肉質な腕。そしてそれら全てがどうでもよくなるくらい異質な、剥き身の日本刀。

「待っておったぞ、上木蔵介」

「ーーー!」

 一気に全身を駆け巡る血と悪寒。何も考えずに床に伏せると、一瞬遅れて俺の頭の上を日本刀が横薙ぎに通過する。

「朝倉! 来たぞ!」

 俺が胸元でずっとつないでいた携帯電話に声をかける。ただ、朝倉が来るまでの間は時間稼ぎが必要だ。

 俺は伏せた状態から横に転がり、ステージへと身を晒す。一先ず能力者というのなら、無能力者に能力を見せることを嫌がるはず。

「まぁ、可能性は低そうだが......」

 そう呟くとほぼ同時に、ステージ上に和服の男が二人現れる。一人はたった今襲い掛かってきた若い男性。もう一人は、先ほど司会をしていた初老の男性だ。

「ッチ、最初から俺目当てか」

「言うておるだろう。さあ、拳を交えようぞ」

「そっちは刀を使ってるだろ、卑怯者」

 言いながらも拳を構える俺。朝倉、早く来てくれ......!

社員旅行中に巻き込まれるのは災難ですね。

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