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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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133話

 翌朝。リゾートバイトが始まってから3日目の仕事が始まった。

 軽い朝礼が終わって、すぐに仕事に取り掛かる。うん、仕事にも大分慣れてきた。疲れは残っているけれど、仕事に支障はない。

 それよりも。今は能力者が襲ってくる可能性に備えなければならない。って言っても能力者に対して備えることなんてほとんどできないんだけれどね。

 とはいえ。昨日の怪物を出した女のように、こちらが先に能力者を見つけることが出来る可能性はあるはず。仕事にはもちろん集中しながら、怪しい人がいないかを探す。やれやれ、今日も大分疲れる一日になりそうだよ.....。

 

「ーーーはい、それでは本日もお疲れさまでした。上木さんの明日のシフトは、お昼前から夕食の終わりまでですね。明日もよろしくお願いします」

「あ、はい。お疲れ様です......」

「? 体調が悪いですか?」

「ああいえ、そういうわけではないです。また明日もよろしくお願いします」

 旅館のスタッフさんから明日の勤務時間について連絡を受けてから、部屋へと戻っていく。なんと、誰にも襲われずに終わった。身構えていた分拍子抜けだけれど、もちろん襲われたかったわけではないので一安心だ。

 部屋に戻ってから作務衣を脱いで、動きやすい服装に着替える。夜ご飯を食べるには早い時間だけれど、甘いものが食べたくなっちゃった。

「ふんふーん」

 鼻歌を歌いながら、財布と携帯電話をもって旅館から出ていく。道中忙しそうに働いている堂次郎と正に手を振りながら、調べておいたお店へ向かう。

 歩いて10分もしないうちにたどり着いたお店でソフトクリームを買い、近くのベンチに腰掛ける。じっとりと汗ばんでいる身体で、想像以上の速度で落ちていく夕陽とそれに合わせて色を変えていく海を眺めながら、口の中に広がる甘さと冷たさを楽しむ。

「夏だなあ......」

 夕方になって落ち着いてきた喧騒を聞きながら、ふと自分の境遇について考える。

 元々僕は無能力者だと思って生きてきた。それがA大学に入って、能力者であることを告げられて、さらには『防人』なんていう能力者のグループのリーダーをやって。

「.........もし、本当に無能力者だったら」

 正直、命の危険がある今の状況に身を投じる必要もなかったはず。その時僕は何をしていたんだろうか。

 といってもまあ、

「そんなことを考えていても仕方がないよね」

 少しセンチメンタルな気分になってしまっていた。ソフトクリームのコーン部分をかじりながら別のことを考え始めようとすると。

「ーーーあれ、蔵介」

「あ、雪音」

 白い髪の可愛い女の子がやってきた。どうやら雪音も同じ時間にバイトが終わって、散歩しに来ていたらしい。片手には飲み物を、耳にはワイヤレスイヤホンを装着している。

「どしたの、少し落ち込んでる?」

 耳からイヤホンを取り、ケースにしまいながら僕の隣に腰かける雪音。

「ああいや、そういうわけじゃないよ。心配かけてごめんね」

「ならいいんだけど。何かあったの?」

「いやいや、何もないよ」

「ふうん......」

 少しジトっとした目で雪音に見られる。う、結構罪悪感がある。でも、ここで『なんで今日は敵が襲ってこなかったかを考えようとしていた』なんて言えるわけがない。

 雪音は優しい。『超能力者』なんていう大仰な肩書を持っていながらも、誰とでも分け隔てなく接する。一方で少しドライだから、一切関わらない人とは仲良くなろうとしないけれど。 

 そんな雪音の前で、結構危ない状況を何度もわたってきてしまった。これ以上彼女の前で危ない目に遭うのは良くないだろう。

「ところで、初めての仕事はどんな感じ?」

 話を変えるためにも、気になっていたことを聞いてみる。

「んー、結構しんどいなあって感じ。あとはずっと緊張しちゃってる」

「へえ。緊張した雪音って想像できないなあ」

「蔵介は緊張してないの?」

「緊張というか、疲れだよね。やっぱり慣れない環境で働くっていうのは大変だね。まあみんながいるおかげで頑張れてる、って感じかな」

「あ、その感覚わかるかも。高原さんとかと仕事中のトラブルを愚痴っていると気が楽になるもん」

「へぇ、高原さんと......。仲良くなれそう?」

「うん。っていうか、もうだいぶ仲いいよ」

 初めて高原さんと会ったときは、『白川をどうにかして超えたい!』って息巻いてたのに。随分仲良くなれたものだ

 そんなこんなで二人で話し続けていると、大分辺りが暗くなってきた。

「お腹も空いてきたし、そろそろ旅館に戻ろうか」

「ん、そうだね」

 二人で立ち上がり、旅館へ戻ろうとする。すると、明らかに様子がおかしい人が歩いてくる。

「はあ、上手くやれるかなあ。そもそもこんな勧誘のしかたってダメだよね。ほかの大学の人に迷惑をかけてさあ、さらにおいしいところ持っていこうとするなんて、絶対バチが当たるくよ。というか、この間の期末試験の結果もよくなくて単位いくつか落としたし、そういうところの優遇はないのかな。ないんだよね、いくら能力者でも。というか、なんで私の番の時に限って旅館の中にいないのさ。ああ、運が悪いし、全部がやだなあ」

 な、なんかすごい勢いで愚痴っている女性がいる。というか、夜とはいえ大分暑いここで、フード付きの長袖を着ているよ。下は短パンだけれど、大分汗ばむでしょ。

「それにしても暑いなあ。これも運が悪いんだ」

 いや、それは服選びが悪いと思う。

 そんなことを心の中で突っ込んでいると、女性が僕に気が付いたようだ。そして、表情を綻ばせる。

「えっと、上木さん! 上木さんですよね!」

「は、はぁ」

 返事をすると、一気に近寄ってきて、僕の両手を取ってくる。こうして顔を見ると、目の下のクマが濃いけれど、かなり可愛い顔をしている。目の下のクマがすごいけれど。

 フードに抑えられている髪の毛は金色で、ツインテールにしている。身長が低いのも庇護欲を高めて、かなり男性人気がすごそうな子だ。目の下のクマがすごいけれど。

「よかったぁ! あのあの、聞きたいことがあって!」

 それにしても可愛い子だなあ。なんかこういう一つ一つのリアクションが大きい子って、見てて癒されるんだよねぇ。......いや、目の下のクマはすごいんだけれどね。

「はい、なんでしょ「何の用事ですか?」

 僕が返事をしようとすると、隣の雪音が僕の肩を掴んで、女性と距離を取らせるようにグイッと引っ張る。

「あ、えーっと、どちら様でしょうか?」

 ん? 雪音のことを知らない? 僕の名前を知っていたしいきなり近寄ってきたから、能力者だと思っていたのだけれど、予想を外したのだろうか?

「蔵介の友達の白川です」

「あー、そうなんですね、初めまして。月見渚(つきみなぎさ)って言います」

「いや、僕も初めましてだけれどね」

「それで、なんの用事ですか?」

 雪音が凄むと、女性がたじろきながら僕に尋ねてくる。

「実は私、男性の心理を勉強していまして。ちょっとしたアンケートに答えてほしいんですけれど」

 へぇ。大学の専攻みたいな感じなのかな? まあ、アンケートって言うなら別に危ないこともないだろう。

「どのくらいかかります?」

「えっと、7問用意しました。そんなに時間はかからないと思うんですけれど」

「雪音、いい?」

「......いいけど。あんまりデレデレしないでね?」

「で、デレデレって......アンケートに答えるのに?」

「なんでも」

「なんでもかぁ」

 僕らの話を聞いて、とりあえず合意は取れたと思ったようだ、女性が手元から紙とペンを取り出す。

「それじゃあ、アンケートを始めますね」

これまた、変な人がやってきましたね。

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