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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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131話

「ふ、ふ、ふ」

 何とか堂次郎がいるであろう場所周辺までやってこられた。あとは二人で女性の能力を止めさせれば一件落着だ。

「あ、堂次郎」

 少しだけ切らした息を整えながら、物陰に潜んでいる堂次郎に近づく。堂次郎は口に人差し指を当てるジェスチャーをしながら手招きをしてくる。『静かにこっちに来い』ということだろう。

 隣で身をかがめてから、チラリと女性の様子を見る。女性は本に集中して、こちらには一切気が付かない様子。むむ、活発そうな見た目とは裏腹に

「とりあえず、怪物の状況は?」

「今は正が相手にしてるはず。それじゃあ早速女性を止めようか」

「いやいや待て待て」

 僕が立ち上がろうとすると、堂次郎に作務衣の袖を掴まれる。

「どうしたのさ。急がないと無能力者に見られちゃうかもしれないし、何より仕事に充てる時間が短くなっちゃうよ」

「落ち着け。ここで飛び出して女を捕らえるところまでは簡単なはずだ」

「じゃあ「ただ、意識をなくすことが出来ない」

 そうか、あの女性の身動きを取れなくしたとしても、怪物を消すことが出来ないのか。

 能力者の能力は、その人の中にある『糸』によって発現する。その糸は能力者の意識がなくなるのと同時に消える。寝ているときとかは能力が発動しないというわけだ。

「とはいえ、放置もしておけないよね」

「まあ待て、考えがある」

 僕が堂次郎に詰め寄ると、堂次郎が考えを話し出す。

「まず、時間はある。というのは、怪物が無能力者に見られるのはご法度のはずだからだ」

「え、でも普通に客室に現れたし、今は正が闘ってるよ?」

「現れたのは別館だろう。まあ仮に怪物が無能力者の眼に入っても大丈夫なような対策がされているはずだ」

 その言葉で思い出すのは、先ほどの犬飼監督と水鏡の姿。なるほど、昨日と同じように映画の撮影ということで誤魔化そうとしているようだ。

「もう一つ。俺たちは勘違いをしている」

「勘違い......? もしかして、仕事中ではない.......?」

「馬鹿かお前」

「じゃあ、僕はモテないと思っているけれど、本当は......?」

「俺たちの目的は、女の意識を飛ばすことではないというわけだ」

 あ、無視された。

「というと?」

「怪物、紫香楽を倒すんだよ」

「んむぅ。それって可能なのかな......」

 ダメージを与えても黒い液体となるだけ。その後は床や壁の中で再生する。どうしたって『倒す』というのは難しそうだ。

「いや、そうとも言えない。あの女の能力は殺傷能力がある。それだけ強い能力だ、『超能力』でない限り何かしらの弱点がある。おそらくクールタイムがあるはずだ」

「クールタイム......つまり、連続して紫香楽みたいな怪物は出せないってことだね」

 頷く堂次郎。僕がここに合流するまでの間に大分考察を進めていてくれたようだ。

「そして、さっきバックヤードで話したのを覚えているか? 紫香楽は主人公たちの罠にはめられて倒れたって話」

「もちろん。......ああそっか、無敵なら罠にはめられたって倒されることはないのか」

「そういうことだ。そこで作戦があるんだが」

「待って。それ、時間がかからない? 仕事があるし、朝倉君のおうちに迷惑はかけたくないよ」

「言ってる場合か。正も危ないしな」

「それもそうだけど。......オッケー、どっちも何とかしようか」

「............(こいつ、初めて会ったときよりも大人になったよな。ここで仕事のことなんか考えられなかったぜ。ちょっと複雑だが、流石防人のリーダー。責任感が生まれてきてるんだな)」

「そんなに見つめちゃって。僕に惚れちゃった?」

「...........いや、頭のねじが飛んでるだけか」

「なんなのさ」

 その後に聞いた作戦は単純。紫香楽は『炎』が苦手らしい。というわけで、何とかして紫香楽を誘い出して炎を浴びせればいいらしい。

「適当に炎を準備してくる。あとは正の様子も見てえしな。蔵介は女から目を離さないでくれ」

「あ、ちょっと」

 作戦っていうか対策用のアイテムを揃えるようだ。その後はほとんどアドリブ、何とかなるかな?

 堂次郎が去った後、ちらりと女性の様子を伺う。一応僕はスタッフだから適当に掃除をしている振りでもしておけばいいんだけれど、どうにも女性に顔がバレてしまっているようだ。今は動かないのが吉ーーー

「! あぶね!」

 その場でごろんと転がる。すると、先ほどまで俺がいた場所を刃物が通り過ぎた。か、間一髪だぜ。

 なんで気が付けたかが自分でも不思議だ。一瞬鉄のようなにおいがした気が......

 改めて立ち上がり、俺を襲ってきた怪物に目を向ける。すると、持っている4つの凶器のうち、のこぎりに微かに血が付着しているのが見えた。

 まさか、正になにか。

「ーーークル、シメ......」

「てめえ、いい度胸じゃねえか」

 様子を見に行きたい気持ちを無理やり押さえつけて、ファイティングポーズをとる。攻撃するのは目の前の紫香楽、ではなく。

「ーーー!」

「え? ちょ、わ!」

 本を読んでいるのに集中していた女。襲い掛かる俺の姿に気が付いたようで、すぐに立ち上がる。

「安心しろ、一発で意識飛ばしてやる」

「な、なに? 官能小説の話?」

「黙ってろ!」

 拳を振り上げて、女のあごを狙う。すると、俺の後ろで何かが風を切る音が聞こえる。

 体を硬化させたまま攻撃するか? いや、この女に能力がバレるのはまずい。ただ、ここを逃すと1体2の構図になる、紫香楽の攻撃を避けながら女を捕らえようとしなくちゃいけない。いや、攻撃が届く前に気絶させれば能力がバレなくて済む。でも、万が一があったら.....

 一瞬で色々な思考が脳を通り過ぎ、出した結論は。

「ッチ!」

 その場から一旦離れる。攻撃はよけられたけど、あー、上手くいかねぇ!

 思わず地団太を踏みそうになっている俺に、懐で通話状態のままの携帯電話から悪いニュースが入ってくる。

「『おい蔵介! 売店の花火が売り切れてる!』」

「『あら、高見。バイト中に携帯はよしなさいよね』」

「『高原。これはただの業務連絡だ!』」

「『いや、花火買おうとしてたわよね......?』」

 なんてことだ。確かに夏場に火を手に入れる手段なんて中々ない。数少ない希望である対抗策もなくなった。

「『蔵介、目の前から怪物が消えた!』」

 あ、正の声だ。この声量から考えて特に大きなけがはしていないようだ。

「『ああ? じゃあ今はどうなっているんだ!?』」

「『知らん! 蔵介が襲われてるんじゃないか?』」

「『おいおい、すぐ戻りてぇが対策がねえ! 正! 火が出るものを探せ! なんでもいい!』」

「『それより加勢だろ! どこにいるんだ!』」

「『別館だが、まだ紫香楽対策が出来てない!』」

 ホッと一安心しながらも、どうでもいい話が流れ続けることによって、紫香楽が俺に向かって攻撃を続けてくる。ただ情報源である通話を切るわけにはいかない。

 ......いや、待て。そうだ、音だ。音がないと攻撃してこないはず。なのにさっきはなんで俺が攻撃された? しかも能力者本人も気が付いていなかったのに。

 これはつまり、

「能力の無意識の発動、みたいなやつか」

 無意識のうちに自分に敵意がありそうな相手を攻撃していたようだ。俺の顔も認知されていたようだし、視界の端に映ってしまった俺や堂次郎の姿を確認していたから、正よりも俺の排除を優先した結果、そこに紫香楽が召喚されたのだろう。

 ということは。俺の頭の中に一つのアイディアが浮かぶ。よし。

「さっさとぶっ飛ばしてやるよ!」

 俺は紫香楽はいったん無視して女に向かって攻撃を仕掛ける。

「簡単には捕まらないよ!」

 軽快な動きで走りだす女性。見た目通りというか、運動神経は悪くないようで、一気に距離を話される。

「逃がすか!」

「ーーーニガス、カ」

 逃げる女を追う俺を追う怪物。かなり変な構図な上別館とはいえ人通りがある。何人かの一般人には目撃されている。

「ねえ、あれ」

「ああ、オーディション中なんだっけ?」

「特殊メイクってすごいのねぇ」

 ただ、実害は少なさそうだ。どうやら向こうの能力者たちがすでに対策を始めているらしい。

 このチャンス、逃すまい。俺はさらに速度を上げていく。よし、頭の中の地図通り進んでいる。この先は行き止まりになっている。そしてそこには窓がある。追い詰められた女は間違いなくそこから飛び出す。そうすれば紫香楽もついてくるだろう。

 そう、作戦は日光で紫香楽の追跡を逃れるというもの。炎に弱いのなら、日光にも弱いはず。紫香楽が追ってくることはないはずだ。その隙に、女を捕らえる。

 考えている間に件の場所までたどり着いた。そして、当然のように窓に手をかけた女が、外へと飛び出す。一応ここは1階。飛び出しても大けがはしないだろう。

 当然俺も飛び出す。一気に切り替わった温度。熱気を感じながら、目の前で息を切らしている女を睨みつける。

「ふふ、キミの作戦はお見通し。お天道様の下なら紫香楽が来ないと思ってるでしょ」

「いや、太陽のことをお天道様っていうんだなって思ってる」

「......後ろ、見てみなよ」

 はぐらかすように俺の背後を指さす女。すると、壁に黒い染みが浮かび上がり、そこから怪物が現れる。おいおい、マジかよ。

 人気のない場所だからこそ、助っ人が来ないことも分かっている。先ほどまでの一直線の道が続く廊下でもない。

 ......口惜しいが、一旦退くしかねえな。

「ふふ、そうだよね。紫香楽には誰も勝てないもんね」

 余裕の表情はムカつくが、今はどうしようもない。

「......ッチ、今度会ったときはぶっ飛ばしてやっからな」

「ああ怖い。まあ、会う機会があればいいけどーーー「かまいたち」うぁ」

 目の前で余裕の表情で笑っていた女が、突然倒れる。それと同時に、後ろの大きな気配が消える。

「はあ、はあ......どうやら、間に合ったでようでござるね」

「朝倉!」

 やってきたのは、甚兵衛姿で片手に木刀を携えた男だ。かなり急いでやってきてくれたようだ。

 そうか、通話がつながっていたから、朝倉には全ての情報が共有されていたのか!

 もう俺はお役御免だな。意識をもとの人格に戻す。

「助かったよ!」

「なんのなんの。蔵介殿も無事でよかったでござる」

 こうして何とか怪物の対処を終えた僕らは、女の身柄を確保して旅館の中に戻っていく。病人が倒れていたとかいえば何とかなるでしょ。

怪物撃退......撃退ではないですね。

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