表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
130/144

127話

 翌日の朝。僕はバックヤードで少し早めのお昼ご飯を食べていた。今日は中途半端な時間から仕事が始まるので、早めに食事をとっておこうというわけだ。

 そして僕と一緒にご飯を食べているのは、綺麗な白髪を肩くらいまで下ろした可愛い女の子。目つきも緩く、ふわふわとした穏やかな雰囲気を持つ......勿体ぶってもしょうがない、雪音だ。

 昨日は仕事を始めるタイミングが違くて、すれ違ったときに挨拶する程度だったけれど、今日は始まるタイミングから終わるタイミングまで一緒だ。

 そんな雪音と一緒に食べているのは、朝食バイキングの余りもの。見た目が不揃いなものあるけれど、これまたとんでもなく美味しい。

「うわ、ほんとに美味しい」

 一口ご飯を口に運んだ雪音が、目を開いて驚く。

「そうでしょ」

「うん。別に疑ってたわけじゃないけど......なんかテレビとか見てても、大げさだなあって思うときあるからね」

「......たまに思うけど、雪音って時々すごい冷めてるよね」

「そんなことないと思うけどなあ」

「そんなところも魅力的だけどね」

「もう、口説かないでよ」

 あははと笑いあいながらご飯を食べる。なんて幸せな時間だろうか。

 雪音は『超能力者』。普通の能力者とは一線を画す強さを持った存在。そんな特別な存在だからこそ、幼少期から普通の人や能力者とは違う道を歩かされてきた。

 そんな雪音が目の前でにこやかに笑いながらご飯を食べている。しかもバイト前の時間で。そんな普通な姿を見ているだけで、なんだかこっちまで嬉しくなってきちゃう。

「......あー、いちゃついてるところ悪いが、ちょっといいか」

「ダメ」

 ここに水を差してくるのが、正だ。正も僕らと一緒のタイミングで働き始めるので一緒にご飯を食べていたのだけれど、口を開くタイミングがなかったようだ。ずっとなくてもよかったけどね。

「ダメもへったくれもあるか。ほれ、お前の電話だ」

 正が指さすのは、机の上に置いてある僕のスマホ。もちろんスリープ状態だったのだけれど、勝手に画面が光っている。手に取って画面を見てみると......ああ、電話が来ていたのか。ただ、バイト中に音が鳴ったりしたら困るからサイレントモード、要するに着信音とかバイブレーションとかが出ないようにしていたんだった。

 そして着信の相手は,,,,,,不明、か。

「詐欺の可能性があるからあんまり出たくないんだけれど」

 応答ボタンをタップして、スマートフォンを耳に添える。よいこのみんなは、覚えのない電話に出ちゃダメだよ。

『やあ、上木。お疲れ様』

 電話越しに聞こえてくる声は、尾立さんのものだった。電話番号を教えた覚えはないけれど、驚かずに話を聞く。

「お疲れ様です。何の用事です?」

『その前に、知らない人からの電話に簡単に出るのは感心しないな』

「どの口が......もう注釈済みですよ」

『ならいい』

 え、この流れで「注釈って何のこと?」ってならないんだ。実は天然かもしれないぞ、尾立さん。

『そんなに時間がないのでね、早速だが要件を伝えるよ』

「お願いします」

『そちらに敵が向かった。君が働いているどこかのタイミングで襲い掛かってくるだろう』

 むむ。内容はうれしくないけれど、この情報を早くつかめたのは嬉しい。

「了解です、僕は適当に闘っていればいいんですよね?」

『そうだね、それだけで十分だ。ああ、くれぐれも怪我には気を付けて。それじゃあ」

「あ、そっちも気を付けてください......切れちゃったよ」

 やれやれ、大人って忙しいんだなあ。そんなことを考えながらスマートフォンを机の上に置きなおす。

「あ、正。今日の掃除の順番だけど......って、ふ、二人とも、どうしたの?」

 改めて顔を上げると、随分神妙そうな面持ちで雪音と正がこちらを見ていたのだった。

「蔵介、今の電話の相手は誰だ?」

「ただの知り合いだよ」

「ただの知り合いとの会話で、『闘う』なんて単語が出てくるんだね?」

「えっと、それはそういう人というか、なんというか」

「「答えになってない(ぞ)」」

 二人が詰め寄ってくる。どうしようかな、正直、あんまりみんなを巻き込みたくないんだけれど......。

「......うん、分かった。説明するよ」

 少し考えてから、観念したふりをして口を開く。実際は、ここで二人に詰め寄られて尾立さんとのやり取りすべてを聞き出されないためだ。

 さて、適当に話して納得してもらおう。

「えーっと、今の電話は尾立さんっていう人からで」

「尾立......? 誰だ......?」

 ふふん、予想通りだ。正が怪訝そうな顔で考え込み始める。

 実は正と堂次郎、僕は夏休みに入る直前に大学のカフェテリアで尾立さんのことを見ている。

 ただ、それが尾立さんだということは分からないはず。いわゆる、顔はわかるけれど名前は分からないというやつだ。名前も聞こえてはいたけれど、まあ覚えていないだろう。

 適当なことを話すコツは、嘘と真実を混ぜて話すことさ。全部嘘だと自分も緊張しちゃって変な話し方になると気があるけれど、真実を混ぜることで本当のことを話しているテンションで嘘がつける。信憑性が当社比5割増しだ。

 後は尾立さんという人間を適当な人に見立てる。そうだな、高校時代の先輩とでも言っておけばもうなんとでもーーー

「尾立さん......って、清木さんのお友達の?」

 ............。そっか、雪音は尾立さんのことをなんとなく知っているんだ......。

 人って予想外な出来事が起こると、脳がフリーズするんだね。頭が真っ白になっちゃった......。

「なんだ、清木教授が絡んでいるのか。ってことは、また能力者関係だな?」

「........はい」

「会話のラリー一回でウソがバレるのは珍しいね......」

 もう誤魔化すのは無理だ。そう考えた僕が項垂れたように首を縦に振る。

「......はぁ、もう、蔵介も良くないよ? そんな簡単に人の頼み事聞いちゃってさ」

「それはそれとしても、清木教授もタチが悪いな。『防人』のリーダーだからって仕事を押し付け続けて」

「ああいや、今回は清木教授は悪くないんだよ。尾立さんが協力してほしいって願い出てきて」

「知らない人の頼みは」

「聞くんじゃねえよ」

「おっしゃる通りです、はい」

 もはや楽しいご飯の時間が懐かしく感じるほど詰問の時間が長く感じる。

「それで、お前は何を頼まれてーーー「ふいー、疲れたぜ!」

 首にかけているタオルで額の汗を拭きながらバックヤードに入ってきたのは、堂次郎だ。

「いやー、館内は空調が効いてても、動き回れば汗を掻くもんだな」

「まあ夏だしね。外に出ることもあるし」

「それもそうだな......って、なんか変な空気だな。なんかあったか?」

「暑い?」

「いや、室温の話じゃないが」

 く、堂次郎を誤魔化すのは難しいか。さすが感覚を鋭くできる能力者。

 ん、というか堂次郎がバックヤードにやってきたってことは。

「まずい。もうそろそろ仕事の時間か」

「......あー。俺も賄い貰ってくる。お前らも早く仕事の準備しろよ」

 気を利かせたのか、後でゆっくり聞けばいいと考えたのかは分からないけれど、そのまま部屋を出ていく堂次郎。

 残された僕らものんびりしていられないので、途中だった食事を再開し、少しペースを速めて食べ物を口に運ぶ。

 そんな中、一足先にご飯を食べ終えた雪音が立ち上がって僕に話しかけてくる。

「......いい、蔵介? もう仕事まで時間がないから尋問はしないけれど」

「尋問て」

「俺もそこまでするつもりはなかったぞ」

「危ないことは絶対にしちゃダメだからね?」

 雪音は注意とか怒るというよりも、心配そうな瞳で僕を見つめてくる。

「......うん、気を付けるよ」

 能力者が襲ってくるんだから、危険は避けて通れない。そんな言葉を呑み込んで僕は微笑む。

「ならよし」

 に、と微笑んで雪音が空になった食器を片手に部屋を後にする。

 この一瞬だけでも雪音を安心させられたらいい。そんな思いが勝手に口を動かしていたんだけれど。

「ずるいよねぇ」

 あの笑顔が見られるなら、なんでもやろうって思えちゃうんだもん。

その一瞬だけで、自分が動きキッカケを作られちゃうんですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ