10話
堂次郎が下に行ったのを確認してから、あいつの能力が気になるので闘っている場所が見える場所に移動する。あとは試合が始まるのは待つだけというところで正に堂次郎についての情報を教える。
「ーーーっていう奴なんだ」
「なるほどな。能力者じゃなくても成功しそうな奴だな」
「まあ、成功するかどうかは知らないけど、熱意はあるよね」
決して憎むことができない奴だ。そんな堂次郎の能力はなんだろうか?
『それでは試合を始め「ちょっと待ってくれ」
ナレーションを遮ったのは堂次郎。当然、その場にいる全員の視線が彼に集まる。
「この試合、俺が相手から5分間、一撃も喰らわなかったら俺の勝ちにしてくれないか?」
『それは......』
立花学長の困ったような声。それはそうだ、今まで通りのルールでやらなければ負けた人にとって理不尽だろう。
「俺の能力は攻撃するようなものではない。だけど、『学習型』のような能力でもない。それはそちらも把握していることだと思う。だけど、攻撃はできない。これでは少々理不尽ではないだろうか?」
ここで、少し解説をしようと思う。まずは『学習型』について。学習型の能力とは瞬間記憶能力、純粋な計算能力、語学能力の向上など。難しい言葉を使っているが、適当な桁数の数をちらっと見ただけで完全に記憶することが出来たり、数十桁の掛け算を瞬時に行えたり、生まれた時からバイリンガルだったり......このように僕たちが『学習』をしなければ手に入れられない能力のことだ。もちろん、そこそこでは能力とは認められない。無能力者の中でもトップレベルに才能があって、その人が努力をしてなお届くかどうかといったほど高い能力であるときに『能力者』として認められる。
そして、こういう人たちはこのトーナメントには参加していない。特に別枠でトーナメント表が作られているわけではないし、何かを貰っているわけでもない。強いて言うなら、親睦会をトーナメントに呼び出されて邪魔されないといった程度の恩恵だ。
ただ、堂次郎の能力は分からないが、学習型の人間が能力者であるにも関わらずイベントに参加できないというのはあまりに不憫。そういうわけで、学習型に近い能力でありながらトーナメントに参加したのだろう。その意志を『学習型なら不戦敗』とするのはあまりに理不尽だろう。
学長もそう思ったようで、少し間を開けてから
『対戦相手が許可するなら』
とだけ返答した。それに対して対戦相手の男は。
「構わないでござるよ~」
と赤い顔で返事をしている。もしかして、対戦相手の朝倉、酔っているんだろうか? 顔は真っ赤で、足元はふらふらとしている。というか、彼が手に持っている缶ってお酒ではないだろうか? さすがにラベルの文字までは読めないけど。
『......では、双方問題がないということで。もし今後も申し出がある生徒がいたら遠慮せずに言ってください。それでは、改めまして試合開始!』
「始まったようでござるねえ。それでは、行くでごわす!」
なんだ、あの古風なキャラは。服装も甚兵衛だし、履物は草履だし、腰には木刀がぶら下がっているし。ここまで来たらひょうたんからお酒を飲んでいてほしいなあ。残念ながらひょうたんは持ち合わせていないようだけど。
学習型とは。