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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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126話

 空は完全に暗くなり、景観のためか電灯もかなり抑え目な海辺。それでも月明りやらホテルから漏れる明かりやらのおかげで、動き回るのに苦労はない。

 能力者たちに襲われた場所とは違う、少しこじんまりとした高台。砂浜に向かって左右に階段が伸びており、夜でも特に立ち入りを禁止されていない。そんな高台に置いてあるこじんまりとしたベンチに僕は腰かけている。周りを軽く見回せば、砂浜でいくつかのグループが花火を楽しんでいる。うーん、夏休みって感じだ、僕も花火したいなあ。

「さて、話をしようか」

 微かに聞こえてくる喧騒と波の音をBGMに、僕と一緒にベンチに腰かけている男性が話し出す。

「えっと。改めて自己紹介とか」

「しておくかい。俺は尾立灯軌。この間会ったから知っていると思うが、清木清治の友達さ」

 フッと微笑みかけてくる尾立さん。ビジネスショートに整えられた黒髪に鋭い目つきを際立たせるような赤いスクエアタイプの眼鏡。一度宿に戻って着替えたであろう浴衣もかなり似合っている。やはり元の体格の良さが存分に発揮されているね。

「旅行は趣味の一つでね。旅先の環境に身を任せるのも好きさ。中々訪れない場所なんだ、こういう服装とかも全力で楽しまないと。そう思わないかい?」

「そ、そうですね」

 話しづらい。なんか、就職して上司と話したら、こんな感じなんだろうなと思った。こう、上品な話題しか選べないような雰囲気。くだらないことばかり考えている僕には中々居心地が悪いものがある。

「何を硬くなっているんだ。ほら、君の番だ」

「えっと、上木蔵介です」

「知っている」

「......ゲーム大好きです」

「知っている」

「............最近追いかけていたミュージシャンが休止して、少し寂しいです」

「知っている」

「いやそれは怖いですよ!」

 思わず立ち上がって声を上げると、余裕そうな表情が返ってくる。

「冗談だ」

 腹立つ。シンプルに。

 はあ、とため息を吐きながら先ほどより少し距離を取って座りなおす。

「それで。僕を呼んだ理由は何ですか? 僕もう眠いんですけど」

 そう、別に僕が好きでこの人を呼んだわけではない。この人が僕の止まっている部屋までやってきて、外に連れ出したのだ。

 僕はリゾートバイトの初日が終わったばかり。慣れない環境やら仕事でかなり眠いし、夜ごはんも食べたばかり。明日も仕事があるので早めに寝ようとしていたところを呼び出されて......正直に言うとかなり迷惑だ。

「少し深刻な話さ。先に話しておこうと思ってね」

「それって、夕方襲ってきた能力者の話ですか?」

「ああ。君も気づいているだろう?」

 どうやら本当に真剣な話になりそうだ。僕は頷いて、

「もちろんです。今襲ってきている奴らがーーーちょっと待った!」

「うぉっと。何か粗相をしてしまったかな?」

 俺は意識を切り替える。あぶねえあぶねえ、このまま話を続けると面倒なことになるとこだった。

 改めて目の前の尾立に向かって指を突き出す。

「オマエ、ぶっ飛ばすぞ?」

「おお、これが戦闘用の人格か。実に興味深いし、心強いな」

 アドレナリンをガンガンに体中に巡らせながら、尾立に詰め寄る。

「その深刻な話、俺にしてどうするつもりだ?」

「もちろん、協力してもらおうと思ってね。なに、悪い話じゃないだろう?」

「いーや、悪い話だ。ただ働きなんて「いや、タダじゃないよ」

 喰い気味に俺のセリフを潰してくる尾立。

「なら、金でもくれるってのか? 生憎、金については「清治......清木に止められてる、か」

 こいつと清木教授は親しいようだし、知っていてもおかしくはない。そう、俺たち『防人』のメンバーは、能力を使用して誰かを助けることでお金を貰うことを禁止されている。もちろんアルバイトとかは別だ。能力を利用されて金儲けをされた場合、とんでもない重罪人になってしまう。そのリスクは必ず避けなくてはいけないのだ。

「それが分かってるなら、何をくれるって言う「安全だよ」

 真剣な表情で言い切る尾立。『安全』が報酬だと? これまた曖昧なものを提示して来やがる。

「君、バイト最終日の前日、白川と二人きりになろうとしているだろう?」

「俺のストーカーか? 気色悪いな」

 思わず口を突いて出る言葉。まあ図星だ。

「生憎、妻子持ちなんでね。君を口説きはしないよ。どうだい? そこで君と白川を狙う......ん、少し順番が違うか」

 改めて、咳ばらいを一つしてから口を開く尾立。

「少し話は変わるが、『守護神(ガーディアン)』の一員なんだ」

「あー、俺は『魔王の(サタン・グングニル)』の一員だぜ」

「雑にイタい設定を合わせないでくれたまえ。聞いたことはないだろうが、『守護神』は能力者と無能力者の間を取り持つ、精鋭部隊なんだ」

「『魔王の槍』はこことは違う裏の世界を力で支配する奴らの精鋭部隊「話を戻させてくれたまえ」

 俺の中学生時代の妄想披露もここまでか。真面目な話に戻ろう。

「その『守護神』とかいう神様が一般人の俺になんの用事だ?」

「『防人』のリーダーでも神には手が届かないからな」

「お前が真面目な話に戻ろうって言ったんだぞ?」

「冗談だ。防人にはこのまま『目立っていて』欲しい」

「......はあ?」

 このまま? 目立つ? どっちも訳が分かんねえぜ。

「1から10まで説明するつもりはない。今回の仕事に関して、君が知らなさそうな情報だけ渡していこう」

「わかりやすく頼むぜ」

「前提として、今回の敵はお気づきの通り、過去に白川を誘拐しようとしたヤツらだ」

「あー、やっぱりか」

 先ほど朝倉と闘っていた能力者。忘れるわけもない、神へ信心深い鞭使いの男だ。

 そいつが誰かと一緒に動いているということは、本体の組織も当然絡んでいるというわけだ。

 そしてその組織が

「β大学。それが君たちの『敵』だよ」

「β大学......受験時代の俺のすべり止めか」

「なんて言い方をするんだ君は」

 ちなみに偏差値はほとんど一緒だ。俺がいるA大学もβ大学も私立ということ以外は変わらない。偏差値も別にそこまで高くない。低くもないが.....っと、大学談義はここまでで話を戻そう。

「β大学の目的は、メンバーの拡充だ」

「メンバーって.....おいおい、それは難しくないか?」

 大学という組織に加入するむずかしさ......これはまあ、理事長やら能力者やらが絡んでいればそこまで難しい話ではないだろう。

 問題は、この世界にはそもそも『能力者』が少ないということ。さらに、もしも能力者がいたとしても判断できないということだ。

「それが出来るヤツが向こうの組織にいるんだ。さすがに誰かまでは判明していないのだが」

「.........なるほど、立花学長のような存在がいるってことか......」

 立花学長はA大学の学長で、『能力者の糸を見ることが出来る』能力。要するに能力者かどうかわかるというものなのだが、それと似たような能力者がいるらしい。いや、まったく同じものの可能性もあるのか。別に能力は被らないわけじゃないからな。

 適当に納得しながら続きを話してもらう。

「そして君たちはすでに、そのβ大学のやつらに目をつけられている」

「......っていうのは、勧誘じゃなくて、ちょっかいを出されるってことか?」

「間違いなくね。何もしていなくても、数人の能力者が襲ってくるだろう。その間にメンバーを拡充する。それが奴らの目的だ」

「なるほど、それができるくらいの組織ではあるってことか」

「ああ、そのようだ。そして君たちは、『それに対処するのに手いっぱい』。......そう見せかけてほしい」

「ちょっと話が見えなくなったな。その間お前は何をしてくれるんだ?」

「もちろん、組織の弱体化だよ。そうだな、6日目の夜くらいからは安全になる見込みだ」

「それが、『安全』ってやつか」

「ああ。タダ働きは誰だって嫌だろうからね」

 ふうむ。確かにこれは悪い話ではない。というのも、バイト最終日の前日、つまりバイト6日目の夜に俺が雪音と二人きりになれるよう、正や朝倉、堂次郎に協力してもらいながら動いているのだ。普段の俺には秘密で。

 動いている理由は、まあ............自分でもよく分からん。考えないでいいだろう、戦闘に関連したものでもあるまいしな。

 そういうわけで、6日目の夜には能力者に絡まれない状態でいたい。そこにこの話は、渡りに船というやつかもな。どうやっても邪魔してくるようだし。

「決まったようだな。それじゃあ、お互いにビジネスパートナーとして、全力を尽くそう」

「ああ。よろしく頼む」

 俺は尾立と握手をしてから、元の人格に戻す。

「............あれ、もう話はおしまいですか?」

「ああ。もう宿に戻っていいぞ」

 言いながら去っていく尾立さん。......うーん?

「なんか、中学生時代の妄想を話したような、恥ずかしい感覚はあるんだけど......」

 腑に落ちない頭を捻りながら、僕も宿へと足を向けるのだった。

一応ですが、灯軌は僕の上司がモチーフなわけではないです。

なんとなく、仕事が出来そうなサラリーマン、って感じをイメージしました。


※3/21 23:40追記

 分かりにくかったので、尾立のセリフをほんの一部編集。

 設定や話の流れに差分なし

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