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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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120話

「蒼、邪魔をさせるな!」

「知らないやつだぞ、無茶言うなって! そっちこそ早く止めをさせ!」

 ピクリと耳が動く。蒼とやらの言葉の意味に頭を巡らせようとすると、遠くから声が聞こえてくる。

「えー、出発前にお風呂ー?」

「ああ、ここのお風呂はいくつかあるからさ。そろそろ切り替えの時間のはずだし」

 少し距離があるところからだけど、そんな男女の話が聞こえてくる。まずい、もうそろそろ一般人が入れるようになる時間か。

「面倒だし、また今度にしょうよー」

「ちなみに、切り替わった後の女湯は美肌効果えぐいらしいぞ」

「入ろう。早く」

「いや、まだ切り替わり時間じゃないから......」

 ......女の人って、ここまで美肌効果に敏感なんだ。ちょっとびっくり。

 ま、まあそれはともかくだ。もうこの闘いを終わらせなくてはいけないな。

「堂次郎、高原さん。そいつ任せたわ」

 俺は足元に転がっているシャンプー容器を拾い上げる。クルクルと親指と人差し指で蓋を開けて、キャップを取り外す。

「......能力がバレたってことか。じゃあもう手加減はいらないな」

 一方、鏡はポケットからヘッドバンドを取り出し、前髪を上げて固定する。やはり長かった前髪はブラフだったようだ。

「来いよ、上木」

「ん」

 別に黒髪の男の声が合図となったわけでもないが、一気に間合いを詰める。

 拳を振るう距離。俺は男に向かって、片手に握っている容器の中身を飛ばす。

「見えてるぜ!」

 当然のように躱す男。その先に拳を振るえば、それも躱されるーーーので、蹴飛ばす。

「ぅぐ」

 呻く男の顔に向かって液体状態のシャンプーを飛ばす。当然のようにそれは躱される、ので拳を振るう。

「クソったれ!」

 防戦一方ではいけないと思ったのだろう、俺の胸に拳を飛ばしてくる。顔や腹を狙わなかったのは、俺が防ぐ未来でも見えたのか? 

 ドン、と体全体に響く振動。肺の空気を無理やり外に吐き出させられながらも、攻撃を仕掛ける。

 腹に向かって前蹴りを繰り出せば、大きく後ろに後退される。もどかしいところではあるが、新しい情報を手に入れた。

 スゥ、と大きく息を吸って、再び男に接近する。もう本当に時間がない。そろそろ終わらせるか。

 殴りかかる、よけられる。ケリを繰り出す、避けられる。対応されていると感じた俺はもう少しスピードを上げる。

 別に威力がある必要はない。こいつの『1秒くらい後の動作を予知できる』能力を振りまくことが出来れば。

 男からの反撃。喰らいながら顔に殴りかかる。重点的に攻撃するべきは顔だ。予知している動作は、『目で見る相手の動作』。つまり、一秒後に目を閉じてしまっていたら動作を読む時間が短くなってしまう。

 それを避けるために顔への攻撃にだけは過敏に反応していたことは知っている。ので、そこを狙っていく。

「ーーーッ!」

 顔に向かって拳を、シャンプーの中身をとにかく振りまき続ける。合間にフェイントを挟みながらも攻撃の手は緩めない。

「ッチ、マジで読めなくなるーーー、!」

 畳みかけるようにシャンプー容器を振るえば、中身が出ない。新品とはいえ、そろそろ中身が消える頃だろう。

 このチャンスを逃すまいと体が先に動いたのだろう、鏡が拳を振りかざして迫ってきて、

「ーーー!?」

 ビクン、と体を急停止させる。どうやら、『自分の視界が全く見えなくなる未来』を見たようだ。

 その攻撃をやめた男の腹を蹴り飛ばす。そして、その顔に向かって、片手に持っている容器の中身を振りかける。

「うぁ!」

 種は単純で、先ほど容器を振った時は指で出口をふさいでいた。攻撃を畳みかけるタイミングでそんなことをするわけがないと思っていたのだろう、目つぶしする手段を完全に意識の外に追いやった。

 そこで俺が目つぶしを行おうとする。すると、攻撃に転じてようがなんだろうが、一瞬視界が見えなくなる瞬間があるはずだ。そしてその原因は、俺ではなく他人だと考える。先ほど高原さんの攻撃を予知できなかったように、『数秒間触れ合った人間』以外の未来は見えない。

「あとはそこを狙うだけ」

 ぼそっと口の中で呟き、拳を強く握る。もはやいらなくなったシャンプー容器を放り投げ、黒髪の男を殴り飛ばす。

「ぐぁ!」

「鏡!」

「堂次郎、高原さん、絶対に逃がしちゃダメだ!」

「言われなくても!」

「わかってるっての!」

 ここまで赤髪の男を封じていてくれた二人も、止めをさそうと動き出す。

「ックソ、一か八かだ!」

 赤髪の男が、腕を前に突き出す。

「『キックアウト』!」

 瞬間吹き飛ばされるのは、俺の攻撃を喰らって悶えている黒髪の男。脱衣所の奥へ吹き飛ばされる。な、何をしているんだ?

「もう一発!」

 続いて狙われたのは、黒髪の男の傍にいた俺。道を譲るように、大きく横に吹き飛ばされる。連発もいけんのかよ!

「逃げるぞ!」

「逃がさないわよ!」

 赤髪の男が脱衣所の奥へと行き、浴場へ向かう。高原さんは能力で捕まえようとしたものの、

「ッく、物が多すぎるわね......!」

 捕えることには成功しなかったようだ。ただ、袋のネズミの状況は変わらないはず。

「蔵介、早く立て! 露天風呂から逃げられる!」

「! そういうことかよ!」

 クソ、一瞬何とかなると思っちまった。体勢を立て直した俺よりも先に堂次郎が浴場へ突撃する。が、

「.......ダメだ、逃げられちまった」

「こればっかりは、どうしようもないものね......」

 高原さんと堂次郎が肩を落として戻ってくる。どうやら逃がしてしまったようだ。

「......まあ、肩を落としていても仕方がない。蔵介、床を拭いておけ。高原は備品の補充を、俺はぐちゃぐちゃになった籠とかをもとの場所に戻す」

 堂次郎の冷静さに助けられる。確かに今はバイト中、このまま深く考えている余裕もないよね。

「「了解」」

仕事中に迷惑な奴らですね。

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