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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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118話

 トクトクトク......ボディーソープの詰め替えを行い、クルクルっと蓋を閉める。詰めなおすだけの作業でも結構疲れるなあ。

 詰め替え終わったボディーソープやらシャンプーやらを定位置に置いていく。そして、備品が全て揃っているかをチェックリストで確認していく。......うん、問題ないかな。

「これでよしっと。堂次郎、そっちは?」

 手元の紙から顔を上げて、浴槽内を掃除している堂次郎に声をかける。

「ああ、こっちももう終わりだ」

 額の汗を腕で拭いながら返事をしてくる堂次郎。堂次郎は正と一緒に移動してきたようで、今日顔を合わせるのはこれで二回目だ。

「なあ蔵介、次のゲームは浴槽を掃除するゲームにしないか!?」

 それにしても随分元気だなあ、堂次郎。なんというか、生き生きしている。

 堂次郎は趣味......というには熱が入りすぎなくらいなのだけれど、一応趣味ということでゲーム制作に没頭してる。

 正直に言うと、薄暗い部屋でパソコンをカタカタ叩いて、ジュースを飲みながら頭を掻く。部屋そのものはそうとして、デスク回りやら汚れているイメージなのだけれど。

「やっぱり掃除はいいな!」

 随分と嬉しそうな表情だ。頭の中がゴちゃついている人とかは現実で整理整頓するとすっきりするときがあるらしいし、堂次郎もその類なのかな?

「それだけのゲームも面白そうだけど、なんかのゲームの息抜きとして入れてもいいかもね」

「ミニゲームってことか。じゃあ作ってる途中のアレにいれてもいいな......!」

 言いながら、胸元からメモ帳とペンを取り出してサラサラと書き込んでいく堂次郎。いや、水仕事にメモ帳持っていける精神力よ。

 ちょっと脱線したけど、とりあえず仕事はそろそろ終わりそうってことで。報告に行こうかな......って。

「あ、まずい。脱衣所の備品チェックが抜けてた。ちょっとそっち行ってくるから仕上げといて」

「あいよー」

 えーっと、化粧水の予備は......出入り口の収納にあったはず。少し急ぎ足で入口に向かうと、

「「うわ!」」

 誰かにぶつかってしまう。いてて......って、しまった! 相手はお客さんの可能性が高い!

 慌てて立ち上がろうとすると、手を差し伸べられる。

「連れがすみません。大丈夫ですか?」

 ぶつかった場所を抑えながら立ち上がる男と、手を差し伸べてくる男。どうやら相手は二人組だったようだ。

 少し顔をしかめながら立ち上がる男は、半そで姿かつやや細身。穏やかそうな目元と、ツンツンと尖らせた真っ赤な短髪が特徴的だ。

 僕に手を差し伸べてくる男は、手足と身長がすらりと長い男。少し長めの下ろした黒い前髪からちらちらと覗く細い目が特徴的なのだけれど、さらに目を引くのが服装だ。夏だというのに長袖長ズボン、手袋。生地は薄いかもしれないけれど暑そうだ。

「あ、ありがとうございます。こちらこそ申し訳ございません。お怪我などありませんか?」

 長身の男が差し伸べてきた手を掴み、立ち上がる。そのままゆっくりと起き上がった男性に声をかける。粗相をした時のマニュアル、軽く眺めておいてよかった。

(5......4......もう少しだな......)

「......ん?」

 慌てていて気が付かなかったけれど、差し伸べられた手がずっと握られている。......厚意だろうけれど、あんまりいい気分じゃない。

「あのー、手......」

「......手......? (3......2......1......よし)あ、ああ。すみません! ちょっと相方の様子に気を取られてました!」

 慌てた様子でパッと手を離す長身の男性。......うーん、考えすぎかな。なんか、触った感覚もちょっとゴツゴツしていて変だったし......。

「おい、もういいか? (きょう)

「ああ、『開始』だ」

 二人の間でそんな会話がなされた直後。赤い髪の男が拳を前に突き出すと、僕の体がぐわんと大きく後ろに引っ張られる。

「!? ーーーうぁ!」

 ドン! と重たい音を立てて脱衣用のかごが置かれている棚にぶつかる。いてて......一体何が.....?

「悪いな、上木」

「まあ運が悪かったと思ってくれや」

 ズカズカと土足で上がってくる......かと思いきや、ちゃんと靴を脱いで上がってくる男たち。あ、そういうところは配慮できてるんだ。

 座り込んだ体勢から立ち上がる。特に動きが制限されているわけではなさそうだ。

 というか、なんで僕の体は棚に引っ張られたんだ? ......いやいや、能力でしょ?

「? えーっと、能力って......?」

「あ?」

「......(あお)、何か様子がおかしいけれど、気にするなよ」

「わかってるよ」

 ーーーッチ、よくわからんが、これ以上『普段の人格』に任せるわけにはいかねえな。

「堂次郎! 敵襲だ!」

「ほらな、油断させる演技だったんだよ」

「そもそも『二重人格』の能力者だしな......増援が来る前に戦闘不能にするぞ!」

「やってみろや!」

 相手の発言にイラっとしたわけではない、戦闘用の人格に切り替わったことで非常に好戦的になっているのだ。

 ただ、冷静さも兼ね備えている。駆け出した俺が考えるのは、能力への対処法。予備動作は間違いなく赤い髪の男の拳を突き出す動作。次は能力が解除される瞬間、さらには能力の持続時間......知りたいことが多すぎる。

 そして知るために必要なのは、こちらからアクションを起こし続けること。まずは拳を振りかぶって蒼と呼ばれた赤髪の男へ攻撃をしかける。

「ーーー右脚、頭狙い」

「おう」

 振り上げた拳はフェイク。右足を振り上げて蒼の頭を蹴り抜くように振り切るが、蒼が軽く身をかがめる。

「ッチ!」

 結果は空振り。こればっかりはしょうがねえ、畳みかけてーー

「そのまま、右拳」

 ぼそりと黒髪の男が呟くと、

「了解」

 赤髪の男が体を右にずらして俺の拳を避けて、

「喰らえ!」

「ーーーぐぁ!」

 俺の腹に拳をめり込ませる。そのまま能力も使ったのだろう、あり得ない速度で壁に向かって吹っ飛んでいく。

 背中から壁にぶつかり、そのまま前のめりに倒れる。そんな俺の元へやってきた堂次郎。

「おいおい、こいつはどうなってやがる?」

「ゲホッ、おせえよ堂次郎」

「わりいな。それで、あいつらか?」

 コクリと頷くと、軽く袖を捲る堂次郎。決して戦闘向きの能力ではないものの頼りになるやつだ。

 一方で相手の能力について考え始める。まずは黒髪の鏡とかいう男。どういう能力かは分からんが、あいつが俺の動きを読み切っていると考えていいだろう。

 もう一方の赤髪の蒼とかいう男。あいつは、『相手を吹き飛ばす』能力か? 拳を突き出す動作が前提条件だと思うが、突き出し続けたら俺は動けなくなるのか?

 勝利するためにはまだ情報が必要だが、分かっている範囲だけでも簡単に堂次郎に伝える。

「いや、そういう情報もいいんだけどよ、何が起きてんだ?」

「......わかんない。が、降りかかる火の粉は払わないとな」

「ふ、それもそう「ちょっとー? 上木ー、高見ー、いつまで時間かけてんのよ」

 改めてお互いの能力がぶつかり合う。そんな空間に突然やってきたのは、吊り上がった目元と腰まで下ろした紫色の髪が特徴的なスタイルのいい女性......高原さんが現れた。

いつだかと同じように、助っ人が。

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