9話
「まあ元々期待していなかったし、次の案を考えようか」
「結構自信満々な様子でしたけど」
「それじゃあ俺はこれで」
「これで、って最後まで見ていかないんですか?」
逃げようとしていたことには触れずに尋ねる。すると清木教授が苦笑いを返してくる。
「俺も最後まで見たいんだけどね。色々雑務があるから、決勝戦と、最後にある優勝者と雪音ちゃんの勝負だけ見るよ」
「そうですか。頑張ってください」
「それじゃあね。君も折角だから色々な人と親睦を深めるんだよ」
「善処します」
今度こそ歩き去っていく清木教授。さて、僕はどうしようかな......。
正直な話、僕はここにいる人間と仲良くなろうとはあまり思っていない。理由は二つ。一つは、すでに無能力者の友達がいるから。一応能力者の枠組みの中にいるものの無能力者の僕。能力者の友達は正がいれば十分で、無理をして作るものでもないだろう。
もう一つの理由は、能力者が僕と仲良くなろうとしていないから。正は僕に接してくれるが、ほかの能力者は他人からの情報(工藤君がLAINで流した嘘情報)を信じて僕に冷たく接した。ならば、僕から彼らに歩み寄る必要など微塵もない。むしろ僕から距離を置こうと思っているくらいだ。まあ、向こうから接してくるなら考えるけどさ。
などと一人でふてくされていると、声をかけてくる人間が。知り合いではないけど。
「よう、ふてくされてんなあ、無能力者」
「はあ......何の用事?」
挑発的に声をかけてきたのは身長が少し低い男子学生。髪の毛は金髪でショートカット、少し太っているが、それ以上に顔が整っている。
「まあまあ、これでも飲めよ」
「え? あ、ありがとう」
僕に自動販売機で買ったと思われる飲み物を投げてくる。この親睦会、時間がかかることが予想されているので、お菓子と飲み物が用意されている。お菓子はチョコレートからしょっぱいスナックまで用意されているけれど、飲み物がお茶だけなのだ。もちろんお茶もおいしいけれど、甘い飲み物もほしい。そう思っている人は多いみたいで、自分用の飲み物を手に持っている人がほとんどだ。
というわけで、彼が渡してくれた飲み物は意外と嬉しい。早速ふたを開けて一口頂く。中身はミルクティー。運動した後に、と思うかもしれないが、別に激しく動き回ったわけでもないし、こういう甘さがうれしい。
「どうだよ、能力者っていうのは」
「質問の意味は分からないけど、凄いなあとしか言えないよ」
「そんなもんか。ああ、紹介が遅れた。俺は『高見堂次郎』。工学部の情報学科に所属している」
「ふーん。話しかけてきたくらいだから知ってると思うけど、僕の名前は上木蔵介。工学部の機械工学科に所属してるよ。ところで、僕に何の用事?」
「いやなに、実はな。俺の将来の夢はゲームを作ることなんだよ」
「へえ。ってことは、プログラマー?」
「ちょっと違う。俺は一人でゲームのすべてを作りたいんだよ。プログラミングは勿論、音楽、シナリオ、デザイン......とにかく、ゲームを作るのに必要なものすべてだ」
「それは、大変そうだね」
「そう思われて当然だろうが、実は、シナリオ以外はすべてできる。実際に一個ゲームを作ったことがある」
「へえ! それはすごいなあ」
「だろう? そして、インターネット上に公開した。その評価がこれだ」
「見ていいの?」
「もちろん」
「それじゃあ遠慮なく......何々、平均評価が☆3、満点が☆5。まあ、こんなものじゃない? 一人で作ったならむしろ凄いや」
「その調子で感想のところも読んでくれ」
「どれどれ......『シナリオがありきたり』『ゲームシステムが奥深くて良いけど、シナリオがありきたり』『音楽もカッコいいしキャラクターデザインも可愛いけど、シナリオがありきたり』......これ、書いているの全部同じ人じゃない?」
「いや、何人か同じコメントをしていたとしても、全員が同じというわけではないはず。ほら、そう評価数が3桁を超えているだろう」
「本当だ。さすがにこれで全員同じなわけないか」
「その通り。そこで、俺の悩みが出てくる」
「そこでも何も、堂次郎が悩んでいるって情報が初出なんだけど」
「俺はシナリオがどうしても書けない。シナリオを上手く書くためにいろいろなアニメ、漫画、ライトノベル、小説、映画、ドラマを網羅した。俺が追いつけない話題はないといっても過言ではない」
「すごい熱意」
「そう。ここまでしても書けない! 俺は悔しい!」
「は、はあ」
「そんなところに! 蔵介、お前がいる!」
「え、ええ?」
「お前はアニメの主人公を体現しているようなシチュエーションにいることを理解しているか?」
「いや、してないけど」
「しろ!」
「そんな無茶苦茶な」
「そして、お前が感じていることを全て教えてくれ!」
「どういうことさ」
「俺は次にこんなシナリオを書こうとしている。いや、書いている。『虐げられている無能力者の僕が能力者たちに戦いを挑む』」
「いやいや、僕は能力者たちに戦いを挑むつもりはないよ!?」
「挑め!」
「いやだよ!」
というか、虐げられてもいない!
「どうしたどうした、蔵介」
さすがに声が大きくなってしまった。離れたところにいた正がやって来る。近くにいる人も何事かと僕たちの方を向いている。
「お前はなんだ!?」
「な、なんだこの熱意の塊みたいなやつは」
「えっと、彼は高見堂次郎っていって、ゲームを作っていて、シナリオがうまく書けないことを悩んでいて「待て待て、情報量が多すぎる」
『えー、続きまして、高見堂次郎さんと朝倉幸助さんは下に来てください」
「ッチ、呼ばれちまった。とにかく、考えておいてくれよ、蔵介」
「どの話を?」
「全部だ」
「欲張りだなあ」
堂次郎は絶対に成功する人種だ。