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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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116話

「ふう。これで最後か」

 期末考査から一週間後。手元に戻ってきた解答用紙をまとめてから、スマートフォンで成績を確認する。......うん、低い成績のものはあれど、落とした単位はなしだ。

 単位を落とす、通称『落単』。これをすると、来期もしくは翌年に再受講が必要になる。もしも必要数の単位が取れていないと、大学を卒業できない。所謂留年だ。これだけはなんとしても避けないとね。

 中間考査で痛い目を見た分、ちゃんと取り返した。えらいぞ、僕。

 そんな風に生協前で一人、うんうんと頷いていると、朝倉君がやってくる。

「蔵介殿。一人でござるか?」

「あ、朝倉君」

 相変わらず、紺色の甚兵衛を纏った朝倉君がやってきて体面に座る。今日はお酒を飲んでいないようだ。いや、お昼だから当たり前と言えば当たり前なんだけど。

「うん、今は一人。二人は別の講義の結果を取りに行ってるよ」

「なるほど、そうなんでござるね」

 相槌を打ちながら、僕の対面の席に座る朝倉君。手元には、なにやらパンフレットを握っている。

「この間はあまり詳細を離せなかったでござるから」

「ああ、あの件ね」

 隼斗ーーー超能力者とのゴタゴタがあった後。寮の食堂で打ち上げをしているときに朝倉君が持ってきた話。

 もったいぶっても仕方がないのでさっさと説明すると、いわゆる『リゾートバイト』のお誘いだ。

 僕は今スーパーマーケットでアルバイトをしているけれど、リゾートバイトは少し毛色が違う。

 夏なら海や山、冬ならゲレンデなど、季節によって特徴的なイベントのお手伝いをするのがリゾートバイトだ。期間は一週間から二,三か月とまばらだけれど、泊まり込みなのは共通している......気がする。

 といのも、僕も朝倉君に言われてから慌てて調べだしたから、詳しくは知らないんだよね。

「それで、どうでござろうか?」

「えっと、一週間の間、海の近くの旅館に泊まりこみでお手伝い、だよね?」

 頷く朝倉君。今話したのが朝倉君が言っていたバイトの条件。なんでも、

「いやー、祖父が経営している旅館なんでござるが、祖父が腰をやってしまったようで.....拙者が手伝いところなんでござるが、門下生の面倒も見たく......」

 ということらしい。苦笑いしながら頬を掻く朝倉君は大分困っている様子。

 うーん、あんまり乗り気じゃないのは確かなんだけれど。

「お金も欲しいしね。いいよ、僕は参加ってことで伝えてよ」

 お金はいくらあっても困らないし、海も行きたかったからちょうどよかった。

「恩に着るでござるよ......!」

「いいってことだよ。あの二人はなんて答えるかなーーー」

「お、蔵介じゃねえか」

「なになに、なんの話?」

 そこにひょっこりとやってきたのは、僕の友達二人組だ。片方は小柄な体格と短い青髪、かけている黒縁の眼鏡が特徴的。もう片方は、少し太った体形と穏やかそうな目元、短い黒髪が特徴だ。

「や、やあ、信之(のぶゆき)直紀(なおき)......」

 少し引きつった表情をしているのが自分でもわかる。そんな僕を当然怪しむ二人。

「なんか挙動不審だね」

 こちらは小柄な体格の直紀のセリフ。

「な。聞かれちゃまずい話だったか?」

 そしてこっちは、太った体形の信之のセリフだ。

「そういうわけじゃないんだけど......」

 というのも、僕らとは事情が少し違くて、『無能力者』の友達だ。

 『能力者』。物理法則を無視した現象を発生させることが出来る『能力』を持つ者のこと。僕もそうだし、朝倉君も、正や堂次郎もそうだ。

 でも、ここにいる二人は違う。無能力者なのだ。

 朝倉君が、僕に無能力者の友達がいることは知らないはず。わざわざそんなこと教える必要もないしね。

 無能力者は能力者の存在を知らない。そんな前提のもと、無能力者と能力者はどんな話を展開するのかーーー

「あ、どうもでござる」

「(ござる......?)あ、初めまして。えーっと、大野直紀です......」

「(ござる......?)ども。矢野信之だ......」

「あ、名前を言ってなかったでござるね。朝倉幸助でごわす」

「「(ごわす......!?)よ、よろしく」」

 ............うん。そもそも、初対面の会話を心配するべきだったね。

 そう考えた僕は、ほっと安心しながら仲裁を試みるのだった。


「あー、あんたが『A大学の侍』か!」

「有名で照れるでござる」

「お酒飲めてうらやましいなあ。おすすめのお酒は何ですか?」

「黒霧島」

「あー、父ちゃんがよく飲んでるわ」

「何でおすすめなんですか? やっぱり味? のど越し?」

「値段でござる」

「随分ドライな侍だな......」

「いや、逆に江戸っ子感があるかも......?」

 ほんの数分後。三人とも意気投合したらしく、和気あいあいと話をしている。おお、みんな社交性が高いというかなんというか......。朝倉君の有名っぷりも一役買っているのだろう、大分打ち解けたようで一安心だ。

「ところで、蔵介。何の話をしていたの?」

「ああ、邪魔しちまってないか?」

「ん? ああ、大丈夫。夏のリゾートバイトに誘われただけ」

 特に隠すこともない。素直に朝倉君と話していたことを伝える。

「へー、リゾートバイト。いいねぇ」

「俺らも金がないって話をしていたんだ。朝倉さん、定員はどれくらいだ?」

「特に決めてないでござるよ。大人数にならないくらいで......」

「あ、それなら!」

「ああ、是非紹介してくれ!」

 もはや決まり切っていたといわんばかりの話の流れ。朝倉君もいつ誘うかを迷っていたといわんばかりに、大きくうなずく。

「立候補助かるでござるよ。それでは、連絡先の交換と日にちが書かれたこれを渡しておくでござる」

 体調不良等でいけなくなってしまったら連絡してほしい、そう結んで朝倉君が連絡先を表示した携帯電話と、パンフレットを二人に手渡す。

「助かります。よかったね、信之」

「ああ、一安心だ」

「あれ? 信之はどっかでアルバイトしてなかったっけ?」

「本屋でアルバイトしてるんだが、それだけだと心もとないのと、急に金が必要になってな」

「へえ、大変そう」

「他人事だな......っと、悪い。俺たち次講義があるんだ」

「ん。試験の結果返却でしょ?」

「そうそう。次がラストなんだ。それじゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃーい」

 朝倉さんもありがとうございました、とペコリと頭を下げてから去っていく二人。

「......なんで敬語なんだろうね」

「それは、拙者がそなたたちよりも一つ年上だからでは?」

「......知ってたよ」

「どうでござろうかねぇ」

 なんか、時間の流れがゆっくりになったような感覚。長期休み前のふわふわした雰囲気を味わいながらまったりしていると、堂次郎と正がやってくる。

「お、二人とも来たね」

「ん? なんだなんだ?」

「面白い話か!?」

「それは人によるかな。ほら、朝倉君」

「うむ。この間話した件についてでござるよ。二人とも、リゾートバイトに興味はーーー」

 僕は正と堂次郎が二つ返事で承諾するのを横耳に、まったりと過ぎる時間を楽しむ。

 さて、海に行くなら色々と準備しなくちゃね。蓋つき紙コップに入ったミルクティーを少し口に付kンで、そんなことに思いを巡らすのだった。




『それじゃあ、準備を始めるわよ!』

『リーダー、元気すぎっす』

『うるっさいわ!』

『絶対リーダーの方がうるさいですって』

『もう、ああいえばForYou!』

『何をくれるんですか。語呂だけで喋らないでください』

『それじゃあ、小うるさい(さとる)はおいておいて。また新しい能力者を勧誘しに行くわよ!』

『リーダー。この間大きな戦力を失ったこともあって、勧誘するための戦力不足っす』

『だ・か・ら! 行くんでしょうが!』

『......えー、リーダーはこんなことを言っていますが、適当に楽しんで帰ってきましょう。周辺の地図をグループチャットに貼ったので、確認を。あとは、俺とリーダーの連絡先を登録しておいて『なんで仕切ってるのよ! というか適当にって、そんなのでいいわけないじゃな『『『うおーーー!』』』もう、みんなうるさーい!』

浮足立つ、とはまさにこのことでしょうか。

もしくは、夏の魔法?

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