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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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114話(第3部最終話)

「えー、それでは皆様。こんな形にはなってしまいましたが......」

 隼斗と喧嘩した後。そもそも僕は血やら砂やらでボロボロだし正もなかなか汚れていたので、お店に行くのはナシになった。

 代わりに、僕ら能力者が住んでいる寮の食堂にてご飯を食べることにした。

 目の前の机には定食と、軽いサイドメニュー、そして自動販売機で買ってきた炭酸飲料。

 疲労感が溜まり切ったところに、シャワーを浴びたばかりの体がポカポカとした心地よさと空腹を訴える。

 そんな僕と同じようなコンディションなのだろう、続きを話そうとした僕に呆れながら机の上の炭酸飲料に手をかける。

「前置きいらねえよ。さっさと喰おうぜ」

「もう、こういうのは雰囲気が大事なのに」

 まったく、風情というのが分かっていないやつだ。

 ただ、気持ちはわかるし、僕もなんとなくやりたかっただけだから、適当に飲み物を手に取る。

「まあいいや。それじゃ、お疲れ様ー」

「「おつかれー」」

 この場にいる3人で飲み物を突き合わせ、ゴクゴクと喉を鳴らす。っくう! 疲れた体に染みる!

「ふふ、蔵介、おじさんみたい」

「はは、大人になったらこれがお酒に変わるのかな?」

「どうだろう、(もぐもぐ)...な...(ゴクゴク)」

「いや、喋るか食べるかどっちかにしなよ。行儀悪いなあ」

 先に食べ物に手を付けていた正がガツガツとご飯を口に運ぶ。でも気持ちはすごく分かる。ほんと、今日最後にご飯を食べたのはいつだっけ......?

 ま、そんなこと考えるのはあとでいいや。

「それじゃあ僕も、いただきまーす」

 冷静ぶっているけれど、空腹はもう誤魔化せそうにない。目の前の食べ物に箸を伸ばして口に運んでいく。

 うーん、美味しい! 思わず無心で食べ物を口に運んでしまう。

「それにしても、今回は災難だったな」

 こちらは先ほどまで食べていたカツ丼を平らげた正のセリフ。話の内容より、食べる速さが気になっちゃうよ。

「うーん。そうだね、もう喧嘩はこりごりだよ」

「っていうか蔵介、変な施設に誘拐されてなかった?」

「あー、あれね。あれはなんて言うか......」

 僕自身もわかっていないんだけれど、どう答えようか......。悩みながらも食べ物を口に運んで時間を稼いでいると。

「うぐぐ......なんも思い浮かばねえ......って、蔵介達じゃねえか。戻ってたのか」

「あ、堂次郎」

 助け舟とでも言うべきか、苦しそうな表情の堂次郎が食堂にひょっこり顔を出した。この調子だと、またゲーム制作について悩んでいるのかな?

 なんにせよこれで僕が誘拐された話からは逸れそうなーーー

「誘拐されていたって聞いていたが?」

「情報の拡散が速いなあ」

 僕はため息を吐いてから観念して話し始める。僕が何か悪いことをしたわけではないんだけれど、なんか話しづらい。

「えーっと、事の発端は、清木教授に呼び出されたところからなんだよね」

「また清木教授が関わってくるのか」

 口ではそういいながらもなんとなくわかっていたらしい正が頼んでいたポテトフライを口に運ぶ。

「掴みどころがない人だからね、何か隠しているのは間違いないと思うけど」

「うーん、ちょっと今度聞いてみようかな。それで、どうなったの?」

「呼び出された後に隼斗が来て、なんか『普通の生活』を教えてあげてほしいって」

「あー、あれは清木教授に頼まれたことだったんだな」

 こちらは飲み物を片手にメモ帳を取り出した堂次郎のセリフ。うん、いつかネタ提供料金を取ろう。

「なんだ、堂次郎も関わってたのか?」

「ほんの少しだけな」

「そうそう。というか、僕の無能力者の友達も関わってるよ」

「っていうか普通の生活って何? 九条君ってそんなにお金持ちなの?」

「んー、詳しくは知らない」

 『坊ちゃん』とか呼ばれていたから多分相当なお金持ちなんだろうけど。

「それで隼斗の側近? と闘ってたら、施設に誘拐されたってわけ」

「いや、話が飛躍しすぎだろ」

 思わず突っ込みを入れてくる正。そう言われてもなあ。

「正直、そこの記憶がなくて」

「あ、私知ってるよ。なんか蔵介が寝ていて、そこを拉致されてた」

「あ、そうなんだ」

「えぇ、なんだその薄いリアクション......」

 堂次郎が奇妙なものを見るような目でこちらを見てくる。た、確かに拉致されて冷静でいるのは変かも。

「と、ところで僕が誰に連れていかれたのかわかる?」

「あ、うん。......あれ、よく考えたらあれって、柳瀬君だったのかな?」

「柳瀬......って、白髪で背が高い?」

「そうそう。ちょっと変だよね?」

「ああ、あいつら、というか高戸さんは清木教授の知り合いみたいで、どっちかと言えば味方みたいだぞ?」

「「ええ!?」」

 そういえば正、病院で高戸と話したみたいなこと言ってたね......。なんだかくらくらしてきた。

「おいおいおいおい、何がどうなってるか、一から説明しろよ」

「あーもう、僕も整理できてないのに。正、任せた」

「お、どこ行くんだ?」

「追加の飲み物を買いに。ついでに、ちょっと頭冷やしてくる」

「いってらっしゃーい」

 雪音に手を振られて、堂次郎の声が響く食堂を後にする。一応ほかの能力者もいるから気を遣ってほしいところだけどね。

 食堂からほんの少し離れたところにある自動販売機にお金を入れて、ボタンを押す。

 そのまま寮から出て、壁に寄りかかりながらクルクルとペットボトルのふたを回す。うーん、流石にもう涼しいとは言えない時期になってきたなあ......。

「............ん」

 ぼーっと夜空を眺めながらペットボトルに口をつけていると、誰かがやってくるのが見える。外出していた能力者かな?

 特に気にも留めずボーっとやってくる人を眺めていると。そいつが見知った人であることが分かった。

「............よぉ」

 随分弱弱しい声。背が小さいながらも堂々としていた態度は鳴りを潜めている。先ほどまでの真っ黒な体ではなく、人間の姿。小柄な体格も相まって随分小さく見える。

「............何の用事? 隼斗」

 やってきたのは先ほどまで拳を交えていた超能力者。都合がいいと言うべきか、周りには誰もいない。それこそ、今から拳が交じり合っても危ない目に遭う人はいないだろう。

 寄りかかっていた壁から背を離して、ペットボトルのキャップを閉める。

 少しの間の沈黙。お互いの拳が交わる距離まで隼斗が近づいてくる。そして、何やら逡巡している様子が窺える。

「............俺、ここを離れることになった」

 絞りだしたような言葉は、それだけ。また沈黙が訪れる。

「............ふーん。まあ、頑張ってきなよ。どこに行くかは知らないけど」

 流石に何も返事をしないのは薄情かな。そんな風に考えて棘のある言葉をぶつける。悪いところだとは自分でも分かっているけれど、一度拗ねたらなかなか元には戻らないぞ。

「ただそれは、上木、別にお前のことが憎いからじゃない」

「へえ」

「やるべきことを思い出した。だから、行ってくる」

 隼斗らしくもない、要領を得ない喋り方だ。

 でも、結論をせかさない。何かを伝えようとしているのはわかるから、その言葉を待つ。

「行ってらっしゃい、でいいのかな?」

「......どうだろうな」

「「............」」

 いや、気まずいな。どうすればいいんだ、僕は。

 そんな風に変な汗を搔き始めた僕に向かって、勢いよく頭を下げてくる隼斗。

「わ、びっくりした」

「......すまなかった。その、突然殴ったこともそうだが、色々迷惑をかけてしまった」

「............ほんとにね」

 震えている声で隼斗が謝ってくる。......まあ、僕もここまでされて許さないほど鬼じゃない。

「まあ、気にしてないわけじゃないけど、もう気にしないでいいよ」

「......ありがとな、『蔵介』」

 ここにきての名前呼び。むう、気恥ずかしい。

「許してもらって、ってこと?」

「それもないわけではないが。お前のおかげで色々と気づくことが出来た。だから感謝している」

 思わず茶化した僕に、真面目に返答してくる隼斗。

「ん、もっと感謝しなくちゃ」

「......調子に乗りやすい奴だ」

 ふ、とここでようやくいつも通りの隼斗の表情に戻る。こっちの方がらしくていいね。

「それじゃあ、あんまり時間もない」

「あ、そうなんだ」

「結構急に決まった話だからな。それじゃあ、蔵介」

 そう言って手を差し出してくる隼斗。やりたいことはわかる。僕も同じように手を差し出して、しっかりと握る。

「短い間だったが、本当に世話になった。いつか必ず恩返しをする」

「律儀だね。よくわからないけれど、頑張ってね」

 お互いに微笑みあって、手を離す。

 それじゃあ。

「行ってらっしゃい、だね」

「ああ。行ってくる」

 フッと隼斗の姿が先刻闘ったときの真っ黒な体になったかと思えば、一瞬で目の前から消える。おお、もう完全に使いこなしているようだ。

「......次は僕より強いかも、なんて」

 少しだけセンチメンタルな気持ちを残して、食堂へ戻る。

 そこでは、堂次郎が相変わらず騒いでいて、正が厄介そうな表情で説明をし、雪音が微笑んでいる。

 ......うん、隼斗が何をしに行ったのかは分からないけれど。この空間に負けないぐらい居心地の良い場所を見つけてくれればいいな。

 なんて、柄にもないことを考えていると、食堂に甚兵衛姿の朝倉くんがやってきた。

「おー、皆さん勢ぞろいでござるね。ちょうどよかったでござる」

「あ、酔ってる」

 日本酒の瓶を片手に食堂にやってきた朝倉君が、紙切れを片手によろよろと近づいてくる。だ、大丈夫なのかな?

「ちょっと水でも飲んで落ち着いてーーー「それには及ばないでござる」

 少し心配になった僕が自販機に翻して、適当な飲み物を買ってこようとすると、朝倉君に肩を抑えられる。

 そして手に持っている紙を僕に見せながら、宣言する。

「蔵介殿、海に行くでござるよ!」

「............えぇ?」

 また新しいイベントが始まるようだ。


落ち着く暇なく、時間は流れて。


※ここからは部終わりの作者の感想コーナーです。

 まとめると、下のようになります。

・明らかに執筆ペースが落ちています。

・忙しくても続けるほど、書くのも読むのも好きです。

・第3部の感想

・読んでくださりありがとうございます。次もドシドシ執筆していきます。


 というわけで、お忙しい方はここでお別れです。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 次回、第4部をお楽しみにしていただければと思います。




 さて、今回も長話に付き合っていただこうと思います。紅茶(牛乳味)です、よろしくお願いします。


 うーん......なんだか......。想像力がなくなってきているのを実感しています。

 ちょっとしたことを考えるのにも、エネルギーが必要な気がします。

 そして、その理由はなんとなくわかっています。仕事のせいです。

 なんていうか、『物語』を考えている途中で『現実』が邪魔をしに来るんですよね。例えば、明日やらなくちゃいけないことやら残業確定やらといった暗い話が,.....。

 それを押しのけて物語を書くのは、少し骨が折れます。あくまで僕の話はフィクションなので、現実は『説得力がある範囲を除いて』省きたいんですよね。

 にも拘わらず、「言い回しが多すぎると良くないって、上司に怒られたよな」とか、「一個一個理論立てて物語を進めていかないとリアリティがない」とか。なんか、執筆中にもう一人の自分に怒られるんですよね。

 言い回しが多いって、決して悪い側面だけじゃないと思います。『わかりづらくなる』リスクを背負って、『その状況を色々な言い回しで想像させる』という役割があると、勝手に考えています。

 その物語を読んでいるときに話の流れを考えること。場面を想像させること。心情を一致させること。これらは、物語に引きずり込むのにすごく重要だと思っています。

 理論立てて行動するキャラだけだと、深みがないですよね。それこそ、現実味がないかもしれません。

 そういう言い返しをもう一人の自分にぶつけながら執筆している。最近はそんな風に感じています。

 あとは純粋に忙しいので、土日以外執筆できていないのもありますが。

 何はともあれ、無理やりにでも執筆ペースを上げていかないと、死ぬまで完結しない作品が何個もできてしまいます。それだけは避けたいのですが、上手くはいかないですね。

 一先ず、あまり期待せず、のんびり見守ってください。2週に1回の更新が今の目安です。


 まあそんな風に色々と執筆ペースが落ちていることに言及しましたが。

 執筆をやめる可能性は今のところ限りなくゼロに近いです。それこそ、私が事故にでも遭わない限り。

 理由は単純で、私が物語や小説が大好きだからですね。

 最近、久しぶりに小説を買って読みました。ライトノベルではないですが、面白くて、徹夜して一気に読み切りました。

 その後、自分の作品をいくつか読み返しました。面白くて、「なんで続きがないんだ」と思いました。

 正直、売られている本と自分の本を比べて、落ち込む。そんなリスクある行動だったと思います。

 しかし結果は、『どっちも面白い!』でした。我ながら単純ですね。

 例えば、同じテーマで本を作ったら、『私の作品は面白くない』となっていたかもしれません。

 でも、全く同じテーマで本を作ることはないでしょうし、キャラクター、世界観、コンセプト......すべてが完全に一致することもまずないでしょう。

 だから、自分が好きなように小説を書く。それが一番楽しい。これを改めて心に刻みました。

 正直私は多趣味なのですが。小説執筆はかなり上位に来る趣味ですね。それこそ、時間がなくて諦めている趣味もいくつかありますので......

 

 と、身の上話が過ぎました。では、小説の感想をば。

 

 まずは、ちょっとオチがぶれましたね。隼斗との闘いまでは、結構イメージしていた通りでした。ただ、その後隼斗をどうしようかには少し悩みましたが......蔵介が知らないところで頑張ってもらうということで(もちろん、私は把握しています)。

 そして何やら因縁の相手、『七瀬一進』の登場。他にも『サーカス』が現れたり、私が出したかった相手は出せましたね。そこは良かったです。

 反省点は、長引かせたことによる迷走ですね。闘う相手はなんとなく決まっていましたが、蔵介、正、雪音、堂次郎、幸助(朝倉君です)。彼らをどう突き合わせていくかに少し苦労しました。結局幸助は最後にしか出せなかったし、堂次郎もいなかったようなものですね。

 言いわけをするなら、場がごちゃつくのを避けたわけですが......はい、言い訳です。

 他にも登場人物のキャラが被り始めたことやら、なんだかんだ蔵介のキャラと掛け合いは気に入っていたりやら感想がたくさんありますが。

 今回はこの辺りで締めようと思います。


 それでは最後に感謝と次回予告を。

 

 ここまで読んでくださった方。いつも物語に付き合っていただきありがとうございます。

 相変わらず人に読んでもらうことのモチベーションはとんでもないですね。ちょっと他人事のように感心すると同時に、次の話を執筆するエネルギーをいただいています。

 これからもガシガシ執筆していくので、牛歩のような進みですがお付き合いいただければ幸いです。


 次回は、現実ともシンクロした夏編ですね。期末考査を乗り越え(られるのか?)、なんとなく能力者たちに慣れてきた蔵介。そこで幸助に誘われて海に向かえば、何やらトラブルが。っていうか、お前もしかしてあの時のーーー?

 という感じです。まああんまり引っ張りすぎるのもあれなので、今回はこの辺りで。

 それでは、また次のお話でお会いしましょう。

 

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