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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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109話

「......彼らはその、無茶したがりなのかな?」

「はあ、あとで怒っておきます。......それで、雪音ちゃんはこんな病室の入り口で何をしているの?」

「んー、蔵介を止められなかったから、ちょっと落ち込んでた」

「その割には随分嬉しそうな表情だが」

「女の子には色々あるんです」

「そんなものか。それで、どうするんだ清治」

「それはもちろん、助けに行きますよ。上木君たちも、九条君もね」

「そうこなくてはな。では、手遅れになる前に」

「ええ。行きましょう」


「お、来た来た。随分遅かったけど」

「一進から許可はもらってるし、さっさと行くか」

「ね。九条君の方も予想より時間がかかりそうだし、出来る限り足止めしないと」

 タッタッタ...と二人分の足音が響く。そして、目的地の前で同時に足を止める。

「はあ、はあ、大分疲れちゃったよ......」

「まあ、ちょっと、遠かった、な......」

 『緑濃公園』。そう書かれた看板の前で、正と一緒に肩で息をする。流石に衝動的に動きすぎたかも。

「ちょっと考えなしだったかな......」

「まあ、清木教授と高戸さんがいたしな......振り切るためにはこれくらいしないとだったかもな......」

 時間にして大体20分くらいだろうか。大分スピードを出したし、汗も大分掻いてしまった。

「まあ、体は暖まったんじゃないか?」

「それはもちろん」

 苦しかった胸も落ち着き、呼吸もいつも通りになったところへ、乱入者が現れる。

「お、息も大分落ち着いたみたいだね」

 とん、と軽やかに目の前に現れたのは、二人の男。

 一人は、七緒だ。目元を茶髪の前髪で隠しながらも、口角が上がっていることははっきり分かる。相変わらず不気味な奴、気味が悪い。

 二人目はスキンヘッドの大柄な男。こいつとは闘っていなかったのもあって能力が分からない。大分ディスアドバンテージだ。

「さて、まずは自己紹介からかな」

 すっと身構えた僕と正に向かって両手を広げて語りかけてくる七緒。

「いや、いいでしょ。合コンじゃあるまいし」

「お互いを知るのは大事だよ?」

「そんなに長い付き合いにする気はないけどなあ」

「ああ、そうか。一瞬で俺に倒されちゃうもんね」

「不意打ちで勝った程度で勝ち誇られても。手助けなしじゃ勝てないかな?」

「おい、もうイチャイチャはその辺りにしておけ」

「まったくだ。めんどくせえ」

「「イチャイチャなんてしてない!」」

「「してんだよ!」」

 僕と七緒の声が重なりながら反論すれば、正とスキンヘッドの男の声が重なる。

 そのまま誰からともなくため息が漏れる。

「......はあ、まあどっちが強くてもいいだろ。さっさと九条のところまで行くぞ、蔵介」

「おおっと、それは流石に止めさせてもらうぜ。というか、『鬼神』。俺はお前とやってみたかったんだ」

「わあお、正。いきなり情熱的なアプローチをされてるねえ」

「男からのアプローチは勘弁なんだが」

「まあでも、断るわけにはいかないよね」

 どうせ目の前の二人を倒さない限りは、隼斗の元へいけないのだから。

「それじゃ、やるか」

 正が首を鳴らしながら拳を構える。当然、僕も同じように拳を構える。

「ん、さっさとぶっ倒しちゃおっか」

「おいおい、軽く言ってくれるな」

「また戦闘不能にしてあげるよ」

 誰から動き出したかは分からないけれど、スッと各々が動き出す。

「正、負けたら連絡頂戴」

「無茶言うな、先に九条のところへ行ってるぜ」

「おいおい、逃げるなって!」

 正が公園の奥へと走り出し、それを追いかける形でスキンヘッドの男が駆け出す。

 んー、一応人通りが少ないとはいえ、能力を見られるのはまずいよね。

 そう考えた僕が、正が走っていた方向とは別の方向へ向かって足を進める。当然、僕についてくる七緒。

 ある程度進んだところで、七緒が仕掛けてくる。

「『クラッシュ』」

 ドン、と少し強く地面に拳をぶつける七緒。それだけで、僕がいる位置までの地面が割れる。

「うわわ」

 ぴょん、と前に跳ぶ。先ほどまでいた場所とは違い、軽く整備された遊歩道になんとか足を落ち着ける。ここは崩れていなかったようで何とかなった。

「この公園は貸し切りになってる。ここまでくれば一般人はいないよ」

 振り向くと、手についた土を払いながら歩み寄ってくる七緒の姿が。

「へえ、他人の目を気にしているんだね」

 振り向いて、七緒に向き合い拳を構える。

「そりゃあ、もちろん。貸し切りにするくらいだし」

「随分照れ屋なんだね?」

「まあ、俺たちのボスがね。じゃあ、改めて」

 トン、と軽いステップで駆け寄ってくる七緒。僕も駆け寄り、お互いの間合いに入る。

「っふ!」

「ッ」

 まずは七緒の拳が僕の体めがけて飛んでくる。それを腕ではじき、一瞬のけ反った七緒に向かって拳を振るう。

「今度はーー!」

 こっちの番だ。その思いを込めた拳を邪魔したのは七緒の脚だ。ちょうど僕の頭めがけて足が振るわれる。

「くっ!」

 流石に頭で受け止めるわけにはいかない。僕は慌てて腕で七緒の脚を受け止める。

 なぜ体を硬化して受け止めなかったか。その答えを示すように七緒がつぶやく。

「『クラッシュ』」

 反射的に腕を離すけれど、遅い。硬化しているはずの僕の腕がぶしゅりと生々しい音と血を吐き出す。

「い、ッつう!」

「油断ならないなあ、脚の攻撃でも能力が使えるって気づいてたんだ?」

「まあ、勘だけどね」

 一旦距離を取り、血を吐き出した腕を抑える。ま、まあこれも作戦の一つ。ここをなんとかやり過ごさないと。

「それで、どうするのさ?」

「?」

 距離を詰めることをせず、余裕綽々な様子で僕に聞いてくる七緒。

 思わずきょとんとした表情をしているのが自分でもわかる。どうするって、なんのこと?

 そのまま聞き返してみれば、今度は七緒がきょとんとする。

「え、九条君と、......えーっと、正、塚波正だ。高馬と闘っている彼」

「そりゃあもちろん助けるけど」

「俺にも手こずっているのに?」

「それ、関係ある?」

「「......?」」

 よくわからない。お互いに顔を見合わせて首を傾げあう。

「だって、高馬強いよ?」

「へえ。でも、僕よりじゃないでしょ?」

「なんでそう思う?」

「高馬って人は七緒より強いの?」

「それは......まあ、同じくらいかな」

「じゃあ僕より弱いね。だって君は僕に負けるもん」

「......言ってくれるね」

 今までの余裕の表情を崩す七緒。僕の発言が挑発とか軽口ではないと理解しているのだろう。

 ただ僕も演技なんかしていない。僕は絶対に七緒に負けない。そう、本気で思っている。

 なら、七緒と同じ強さの高馬を僕は超えているわけで。

「だから、僕と同じくらいに強い正は絶対に負けない。その後隼斗をいじめている奴が誰だろうが、2対1なら僕らが勝つでしょ?」

「......随分おめでたい頭をしているね」

「そうかなあ」

「馬鹿だと言っているんだ、俺は」

「はい......」

 頭をポリポリと掻いて見せれば、呆れたようにため息を吐く七緒。軽い冗談じゃないか、そんなに呆れないでよ。思わずしゅんとしてしまう。

「まあいいか、それじゃあ続きだね」

「望むところ」

 少し緩んだ雰囲気を一瞬で引き締めるお互いの闘志。正の方はどうなっているかは一旦置いておいて、僕は僕で集中しないと。

 七緒と僕の間合いが、再び詰まっていくーーー。


「おいおい、こんなもんかよ塚波ぃ!」

「あー、うるせえなあ......」

 木の陰に隠れて呼吸を整える。ったく、何が悲しくてバケモンと闘わなくちゃいけないんだか。

「っと、それは決まってるな」

 九条とやらを助けるため、そんな当たり前のことを忘れちまうとは、確かにこれじゃあ超能力者は寂しいな。

「それにしても......」

 ちらりと気づかれないようにスキンヘッドの男を見る。男は全身を赤いオーラに包みながら辺りを徘徊している。

 そして何を思ったか、近くに生えている木の幹を殴る。すると幹がひしゃげて、木が自重でゆっくりと体を折り始めた。

「あー、力があふれてしょうがねえぜえ!」

 ゴリラかあいつは。いや、それはゴリラに失礼か。

 思わずまじまじと見つめていると、ぐりんとこちらに振り返った男と目が合う。

「げ」

 思わず口から洩れる声。男は嬉しそうにこちらに手を振りながら駆け寄ってくる。

「さー、闘おうぜー、つかなみー!」

 ーーーもう片方の手に、先ほど折られた木を携えながら。

 こんな奴と肉弾戦を仕掛けるなんて、冗談じゃねえ。冗談じゃねえが、

「時間をかけている場合でもないんだよな!」

 その場から逃げ出さず、拳を構えて男に向かい合う。そんな俺を見てさらに嬉しそうにする男が、感情のまま木を振るってくる。

「嬉しいぞ、塚波!」

「ーーー!」

 力のまま振るわれた木は、確実に俺に当てるために横一文字に迫ってくる。ただ、その攻撃が俺にあたることはない。

 ガッ! と激しい音がしたかと思えば、木の進行が止まる。

「そんな長いもん、邪魔なく振るうほうが難しいだろうが......!」

 他の木によって邪魔された攻撃。思わず止まってしまう男の隙を見逃さない。

「吹っ飛べ!」

 スピードと体重を乗せた拳を、男の腹に打ち込む。

「ーーー」

 一瞬、俺が殴った部分のオーラが霧散したかと思えば、また戻ってくる。

「こんな、もんかあ?」

「.......おいおい、ちょっと傷ついちゃうぜ」

 流石にノーダメージとは思ってもみなかった。冷汗が背中を伝う。

 ただ、戸惑っていられる時間は短いようだ。男が持っていた木を手放し、拳を握りこむ。

「今度はお前が、吹っ飛べ!」

 まずい、躱すか? 防ぐか? 木の幹を折れるほどの威力を防ぐわけにはいかねえ。ただ、この拳を振り切って整えられていない状態で、相手の攻撃を躱せるか?

 様々な思考がめぐるが、結局答えは決まっていたのかもしれない。考えているよりも先に、反射的に体が動く。

「『セカンドインパクト』!」

 能力を使い、かつ攻撃していないほうの手で、拳を受け止める。

 が、そんなものが無駄だったのではないかと思うほどに恐ろしい威力の拳が、俺の体を容易く吹き飛ばす。

「ぐああ!」

 軽く数メートルは吹っ飛ぶ。ろくな抵抗もできず、体を土と砂でコーティングしながら地面を転がる。

「は、は、は......ちっくしょう......」

 こいつ、攻撃を吸収するかつ攻撃の威力を増す、『オーラ』をまとってやがる。攻防一体の能力、一筋縄じゃ行かねえ......! っていうか、相性が最悪だ。

 地面に手を付いて、なんとか立ち上がる。想像以上に状況はまずい。

 ーーーが、勝算がないわけじゃねえ。やってやるか。

 

どっちも状況は良くなさそう。



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