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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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108話

「それじゃあ、早速話始めようか。今は防人のリーダー代理として塚波くんに参加してもらう感じで」

「はあ、構わないっすけど」

 そう返事をしながらも、横目でチラリと助手席の男を見る。......考えても仕方ねえ、聞いてみるか。

「あの、この人は?」

「ん? 自己紹介は済んでるでしょ?」

「いや、名前は分かったけど、俺たちとの関係が分からないっす」

 俺がそう言うと、清木教授が何かを言うよりも先に高戸が口を開く。

「私と清治は旧知の仲さ。なあ、清治」

「まあ、そうですね」

「否定はしないんだな?」

「仲がいいって言われたら否定していたけどね」

「これは手厳しいな」

 苦笑いをバックミラー越しに見せてくる高戸。

 清治というのは清木教授の下の名前だろう。清木教授もこう言っているし、短くない仲なのは分かった。

 ただ、結局どういう関係なのかは分かっていない。そんな俺の表情を読み取ったのか、清木教授が続きを話す。

「高戸さんは、俺が昔いた研究室の教授だよ」

「そういうことだ、よろしく」

「清木教授の教授......今もどこかの大学で教えているんですか?」

 清木教授の教授、なんとも驚く関係の人が現れたものだ。思わず敬語になってしまう。

「いいや、今はどの大学にも所属していない。ただ、教え子はいるけれどね」

「教え子?」

 どこの大学にも所属していないが、人に教えはしている.......クイズかなにかか?

「塾とか、家庭教師とかですか?」

「いいや、個人的に教えているのさ。君も出会っただろう?」

「......あの施設内にいた能力者っすか?」

「正解だ。花丸をあげよう」

「ども」

 ぺこ、と軽く頭を下げる。なんかやりづれえなあ。

 何とはなしに、もぞもぞとポケットに手を突っ込んで座りなおす。高戸さんは清木教授の教授。そして、今はあの施設にいた能力者たちに何かを教えていた。そして、それは『戦闘訓練』である可能性が高い。俺が倒した男が話していた内容だ。

 じゃあなんのための『戦闘訓練』だ? そんなものが必要になる機会があるというのか?

「それにしても、本当に七瀬はやるつもりなんだな」

「ですねえ」

「......あの。俺を置いてかないでもらえると助かるんすけど」

「ああ、ごめんごめん。仲間外れにするつもりはなかったんだけど。......うん、この際だから話しちゃおっか」

「というか、まだ話していなかったのか?」

「ええ。若者が余計なことを知る必要はないでしょう」

「それで危険な目に遭わせていたら仕様がないだろう」

「もう、こんなときまで説教しないでくださいよ。あのね、塚波くん。『能力者』って今後どういう扱いを受けるべきだと思う?」

「はあ、急に言われても......今とおんなじでいいと思いますけど」

「というのは、君みたいに?」

「ああ、そうです」

 大学に通って、講義を受けて勉強をしながらも蔵介とか友達と一緒に遊んで、バイトでお金を稼いで好きなものを買って......。まさに『普通』の生活。これが続くこと以上のことは望んでいない。

「ただ、それは『塚波正』だからそう言える。ほかの能力者がまったく同じとは限らないでしょ」

「......というと?」

「無能力者は能力者より立場が低いべき。言ってしまえば、奴隷であるべきっていう意見もあるんだ」

「はあ、まあ考え方はそれぞれっすから。それが今の状況とどうつながるんすか?」

「状況というか、それが俺と高戸さんの関係につながるんだ。高戸さんは能力者研究の第一人者だったり」

「ほう。すごい人なんすね」

「能力者でここまで淡白な人は初めてかもしれないな。興味はないのか? 自分の能力がなんなのかとか」

「知れたらいい、って感じっす。それで?」

「その能力者研究をしていた研究室にいたのが俺なんだけど、もう三人所属していたんだ」

「へえ。この話の流れからすると、その三人のうち一人が」

「そう、七瀬一進。そいつの考えている今後の能力者への扱いっていうのが、『無能力者は能力者に怯えるべき』っていう考えなのさ」

「......怯えるべき、ってちょっと回りくどいっすね」

「そうだね。別に無能力者をこき使いたいわけでもないし、何を考えているのやら」

「それで、高戸さんが今ここにいるのは」

「ああ、高戸さんと俺は今でも連絡を取り合っていてね。情報共有やらなにやらしているんだ」

「今回は上木君にお世話になったからね、ちょっと挨拶にいこうと思って」

 ふうむ。濁されているような気がしないでもないが......そもそも、高戸さんは敵じゃねえのか? 蔵介は『防犯ブザー』と柳瀬を使って助けを呼んだ。つまりは、あの施設内にいることは危険だったってことだ。

 何が原因で蔵介と九条があそこにいたのかは分からないが、穏やかではない理由のはず。

「はあ。あいつは一応けが人なんですけど......ん」

 考え事をしながら手遊び程度にポケットの中を弄っていると、あるものに気が付く。

「そういえば......」

 七緒に投げられた紙だ。雑に丸められている紙を広げる。

 ちらちらと街灯が車内を照らす光を頼りにしながら軽く目を通す。

「これは......領収書か?」

「うん? どうしたの、塚波くん」

「いや、なんでも」

 ちらりと見えた紙は、領収書だった。何かの使用料のようだったが、すぐにポケットにしまい込む。

「? まあいいけど......っと、着いたよ。上木くんが運ばれた病院だ」

 なんとなく領収書のことは隠したせいで怪しまれるかと思ったが、うまい具合に話が逸れてくれた。

「一先ず、無事ならいいんだが......」

 車が停止するまでの時間が、やけに長く感じた。


「............う、......ぅ」

 目が覚めて一番に入ってくる情報は、全身の痛み。次に、見知らぬ天井。その次に、

「おはよう、蔵介。大丈夫? ......なわけないよね、ごめん」

 少し寂しそうに笑う雪音の姿だ。相変わらず天使と見間違えるほどかわいい女の子だ。

「まあまあ、大丈夫だよ......っと」

「あ、体起こしていいの?」

「うん、それくらいは平気っぽい」

 上体を起こして、雪音に向き合う。いつまでもぐったりしていられない、さっさと動かないと。

 周りを見回すと、ベッドは僕が使用しているものが一つだけ。こじんまりとした病室だった。ベッドが一つしかない病室に運び込まれてきた僕。もちろん、能力者の対応になるから、無能力者の目につかないようにするためだろう。

「えーっと、状況はどんな感じ?」

 辺りを見回しながらベッドの端に腰かけて、床に足を着ける。雪音が一人でここにいるということは、僕が運び込まれてからもずっと一緒にいてくれた。つまり、色々と状況を知っていそうだから声をかけたのだけれど。

「......」

「ゆ、雪音?」

 ジト、っとした視線を向けられる。な、何か変なことを言ってしまっただろうか。

「今日はもう動いちゃダメ、蔵介」

 僕の手を握りながら、目を見つめてくる雪音。能力を使っているわけではないけれど、能力を使われるよりもガッチリと僕をその場に縛り付ける。

 でも、

「そういうわけにはいかないよ。隼斗がどこかに連れていかれたんだ、助けにいかないと」

「いいからジッとしてて。本当に、死んじゃうよ......?」

「死んじゃうかもしれないのはここでジッとしている僕じゃなくて、隼斗なんだ。なんでもいい、情報を持っていない?」

「......知っているとも知らないとも言わない。だって、そっちの方が時間を稼げるでしょ?」

「雪音、わがまま言っている場合じゃ......!」

「......特に仲良くない他人な九条くんと、幼馴染の蔵介。蔵介の方が大切で、辛い目に遭ってほしくないのって、ただの『わがまま』?」

 少し吊り上がった雪音の眉根。珍しく少し怒っているようだ。

 ただ、こちらも退くわけにはいかない。僕の手に覆いかぶさっている雪音の手を、もう片方の手で優しくどける。

「雪音の気持ちはすごくうれしい。......でも、ごめん」

「......」

 少しの間、病室内を沈黙が支配する。そんな空間に入ってくる男が。

「おっす、蔵介。起きてたか」

「正」

 黒髪、オールバック、高身長、目つきが悪い。もう散々見慣れた顔だ。

「あーあ、塚波君も来ちゃったか」

 あきらめたように席を立つ雪音。そして、僕に背を向けて出口へと歩き出す。

「......? 俺が来ちゃ、ダメか?」

「ううん。ダメじゃないけど。でも、塚波君も蔵介と一緒に出ていくでしょ?」

「? なんのことやら......」

「蔵介から聞いて。それじゃあね。............本当に、本当に気を付けてね、蔵介」

 最後の言葉は聞こえなかったけれど、随分怒らせてしまったようだ。

 トコトコと少し足早に去っていく雪音。扉を開けたまま部屋を出て行きすぐに足音が聞こえなくなる。

「はあ、やっちゃったぁ......」

 ぐったりと上体を前に倒して俯く。もちろん雪音の気持ちが迷惑というわけでは決してないのだけれど、退くわけにもいかないよねえ......。

 僕が雪音を怒らせてしまったことが気になるようで、正が僕に詰め寄ってくる。

「おいおい、何やったんだ、蔵介。女と喧嘩なんてするもんじゃねえぞ?」

「......実は、こういう事情でね」

 別に同情してほしいわけではないけれど、雪音としていたやりとりを正に話す。

「あー、まあなあ......」

「なにさ、思うところでもある?」

 雪音と喧嘩したというのもあって、若干棘を出しながら正に尋ねる。

 そんな僕の態度など全く意に介していない様子で聞き返してくる。

「というか、白川の言うことは正しいぜ。お前のやってることは下手したら大人たちに迷惑だ」

「......まあ、ね」

 一瞬、ムッと口を尖らせてしまう。ただ、言っていることは正論だし、別にあおるような言い方をされたわけでもない。すぐに頭を冷やす。

 先ほどまで雪音が座っていた椅子にどっかりと腰をかけて、正が僕に説明を求めてくる。

「なあ、『防人』のリーダーとしては白川を狙うやつを退けた時点で十分仕事をした。金とかについて責任を感じる必要はないだろ」

「そうだね」

「じゃあなんで九条を助けに行こうとしているんだ?」

「......んー、そうだなあ......」

 理由、理由ねえ......隠すようなことでもなければ難しいことでもない。当然のことを口にする。

「だって、寂しいじゃん」

「......はあ?」

 呆れたように僕を見つめて、一瞬後に笑い出す正。

「っぷ、ははははは! なんだそらあ!」

「でも、そうじゃない?」

 僕も正の笑いに釣られて笑いをこぼしながら話す。

「超能力者なんて、誰も手が出せない存在に手を出してくる輩がいる。自分をなんとかできるように作戦を立てているやつらが襲ってくる。めっちゃ怖いよねえ」

「そりゃあなあ。俺たちだってヤンキーに絡まれたら怖えよな」

「正もヤンキーみたいなもんだけどね」

「否定はしねえ」

「されたら困るよ。でも、超能力者はヤンキーなんかよりももっと怖い連中が絡んでくる。......例えるなら、僕たちの場合はヤンキーたちがバットとか木片で襲ってくる」

「超能力者の場合は、ヤクザが拳銃で襲ってくる、って感じか?」

「そうじゃないかなあ。もちろん、本人にとんでもない力があるんだけど」

「襲われてる奴は、マシンガンでも持ってたりしてな?」

「感覚的には、バズーガかもよ? ......まあなんにせよ、そんな強力な武器を持っている自分を襲ってくるんだ、怖いよねえ」

「ん? 『怖い』ってことだと、『寂しい』って感覚からはずれねえか?」

「うーん。多分、超能力者が襲われたらさ。別の組織の人間が守りに来てくれると思うんだ」

「それはそうだろうな。子供の超能力者もいれば大人の超能力者もいる。感覚的に大人が助けに来るっていうよりは」

「そうそう。別の組織の人間っていうほうが正しいかなって。で、別の組織の人間が助けに来る理由っていえば......」

「金か、仕事か、あるいは保身か」

「自分を守ってくれた人間だって思ってもらうためだったり、敵対して自分が標的にならないためだったり。純粋に仕事だったりね」

「......ふうむ。まあ、それは確かに......」

「ね? なんか寂しいでしょ? もちろん打算とかなしで助けに来てくれる人がいるかもしれないけど、超能力者を襲えるほどの実力者を退けられるくらい強くないとそんなことできないよね。で、そんな人は

「いない、と」

「そそ。だったらさ、頼りになる僕が代わりに助けに行ってあげようってわけ」

「まあ、お前みたいな能天気な奴が来たら」

「安心するでしょ?」

「気が抜けるな」

「全部につっかかってこないでよ」

 はあ、と僕がため息を吐くと、正がポケットに手を突っ込み何かを探し出す。

「まったく、どこまで本気なんだか」

「む、失敬な。全部本気だよ。だって」

「だって?」

「これは、雪音がくれた力だからね」

「......? 良く分からんが」

「分かんなくていいよ」

「まあ拗ねるなって。ほれ」

「え? ーーーわっとと」

 くしゃくしゃに丸められた紙を投げ渡してくる正。

「なにこれ」

 丸められた紙を開きながら尋ねる。

「七緒って呼ばれていた奴に渡された奴だ。お前に渡せってさ」

「......とりあえず、人から渡されたものをくしゃくしゃにするのはどうかと......」

「違う、最初から丸められていたんだ」

「そりゃまたなんで......って、なるほどね」

 広げてみると、使い終わった申請書だ。

 申請書の内容は、僕も知っている少し広めの公園を数時間程度貸切るというもの。使用開始時間は......

「もう過ぎてる!?」

「うお、びっくりした」

 時計を思わず二度見してしまった。ガバっと布団から飛び跳ねて、身支度を整える。

「なんで教えてくれなかったのさ!?」

「いや、人に渡すものを勝手に見るわけにはいかんだろ」

「くう、正論......!」

(まあほんとは危ないもんが包まれていないか確認のためにちらっと見ちまったが......まあ誤差だろ、誤差)

 正に文句を言いながら身支度を整えた僕は、早速病室から出ようとするけれど......

「げ、まずい! 誰か来た!」

 廊下から聞こえてくる二つの足音と話し声。声の高さ的に二人とも男のようだけれど.......

「おそらく清木教授と高戸さんだな」

「高戸!? あの!?」

「ああ。どうやらあの人は清木教授の教授らしくてな」

「ええ!? もう、いきなり情報を叩き込みすぎだよ......!」

 ただ、今はっきりとしていることは、清木教授に見つかったら隼斗がいるかもしれない公園に行けない。

 ......うん、立ち止まるわけにはいかないよね。

「ごめん、正。行ってくるね」

「はあ? どこに逃げるつもりーーー」

 僕は病室の窓に手をかけて、外へ飛び出す。うわっと、流石に高いなあ。

 病院の外壁に指を突き立てながら能力を使う。すると、指が壁にめり込んでいく。足もつま先を壁に埋め込ませる。そして、壁から指を離して腰辺りの位置に突き立てる。足も壁から外して、低い位置へめり込ませる。

 これを繰り返せば簡単に降りられるってわけ。

「......ひええ」

 そうは言っても高いなあ。まあさっさと降りちゃおう。

 周りを見回すと、少し遠くに駅が見える。うん、大学からは離れているけれど知っている駅だ。そして、使用申請書が出された公園の場所もわかる。

 よし、何とかなりそうだ。さっさと降りないとーーー

「おい、蔵介!」

「ぅえ!? 正!?」

 なんと、正も一緒に降りてきていた。こいつは窓から飛び出して、排水パイプにつかまって降りてきたようだ。

「なにやってんのさ!?」

「え? ああいや、俺も一緒に行こうかと思ってな」

「来るのはいいけれど、そんな危ない降り方しなくてもいいじゃん! 僕を止めに行くとか言って飛び出してくれば!」

「それもそうか。まあ足並みそろえた方がいいだろ」

「足並みそろえるより、命を大事にした方がいいと思うけどね」

 ため息を吐きながらなんとか地面に足を着ける。とんとん、と軽くつま先で地面を小突く。うん、調子は悪くなさそうだ。

「それじゃあまあ」

「行くか」

「うん」

 僕と正は真っ暗な病院の外へと駆け出した。


なんだか変な気遣いをしているような。

でも、想いはまっすぐ。

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